Fate/Grand Order IF 星詠みの皇女   作:ていえむ

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永続狂気帝国セプテム 第6節

どこまでも続く平原を、2つの巨躯が疾駆する。

1人は傷だらけの英雄。自由を求め、圧制への抵抗を志したスパルタクス。

1人は半人半機の英雄。主を持たず、数多の戦場を駆け抜けた呂布奉先。

彼らが目指すのは連合ローマ帝国が首都。

そこに巣くう仇敵を討つため、2人の狂戦士は昼夜を問わず、疾走を続けていた。

 

「ふはははははっ!! アイッ! アイッ!」

 

「■■■■■、■■■■■■■!!」

 

「きゃっ!? ちょっと、あぶなっ―――」

 

スパルタクスの腕の中で、必死に振り落とされないようしがみ付きながらアナスタシアは抗議する。しかし、スパルタクスは聞く耳を持たず、寧ろ更に駆ける速度を速めていった。

 

「ハーハッハッ! さあ急ぐのだ、圧制は待ってくれない! そう、時間とは圧制! 圧制への叛逆こそ我が生きがい! もっと速く、もっとだ!」

 

恐らくはこのローマで最大の圧制者を目前に控え、精神が最高潮に達したスパルタクスは意味不明な言葉をまくし立てながら丘を越え、木々をかき分けて連合首都を目指す。

実際、彼が言うように急がねばならないのは事実だ。

カルデアからの通信では、既にネロ達はブーディカを救い出して首都へ向かったらしい。

障害など物ともせず、一直線に最短距離を走っているとはいえ、開戦にはギリギリ間に合うかどうかといったところだった。

 

「カドック、もっとこっちに。そこだと落ちるかもしれません」

 

「あ、ああ」

 

アナスタシアに引っ張られ、姿勢を正す。

結果的に、彼女と密着する形となってしまい、鼓動が跳ね上がるのを禁じ得なかった。

今までも散々、手を繋いだり抱き合ったりする場面はあったが、そういえばこんなに長い時間、顔を近づけていたことはなかった。

どこか憂いを帯びた瞳も白い肌も、普段から見慣れているはずなのに、今日はいつもと違って見える。

自分にまだ、こんな少年染みた初心さが残っていたことが意外であった。

 

(―――じゃなくて)

 

明後日の方向に走り出した思考回路を切り替え、隣の彼女を務めて意識しないようにしながら現状を整理する。

ブーディカをさらったアレキサンダー大王と諸葛孔明は、マシュ達によって倒されたらしい。

彼らは連合のサーヴァントではあったが、首都の防衛やローマへの侵攻には手を貸さず、ネロ帝を見極めるという独自の理由で行動していたとの事だ。

結果的に足止めを受けたこと、仲間や軍団に被害が出た事もあってネロは敵対する道を選んだが、場合によっては共に連合と戦うという選択肢も取れたかもしれない。

その点に関しては非常に残念であると思わざる得ない。

とにかく、アレキサンダーと孔明という二大巨雄を撃破した正統ローマ軍はそのまま連合首都へと進軍し、陣を敷いて開戦の準備を進めている。

一方、連合はここに至ってサーヴァントを差し向けることを止め、静観を貫いている。

ここまでで確認できたサーヴァントは、自分達が戦った独裁官カエサルとマシュ達が倒したカリギュラ帝。

荊軻が暗殺したという3人の皇帝。恐らくはアウグストゥス、ティベリウス、クラウディウス。

そして、前述したアレキサンダーと孔明、ダレイオス3世にレオニダス王。

ネロ帝以降の皇帝の存在が確認できず、ローマ皇帝以外の英霊を差し向けていることを考えると、

連合は皇帝サーヴァントを温存しているか召喚できていないかのどちらかであろう。

カドックとしては後者であることを望みたいが、それでも最低1人は確実に召喚されている。

カエサルが言っていた歴代皇帝が逆らうことができない存在。

偉大なる始まりの祖。

七つの丘に立った最初の王。

彼の偉大なる浪漫(ローマ)がそこにいるはずだ。

 

「見えたわ。もう始まっています!」

 

アナスタシアの言葉に、カドックも思考を切り上げて視力を強化する。

雄大な城壁の前で無数の深紅と黄金の集団がもつれ合い、鎬を削っている。

その最前列で声高に叫ぶのはネロだ。

数で劣る正統ローマ軍を奮い立たせ、一気呵成の勢いで城壁を破らんとしている。

 

「今こそ、余と余の兵たる貴様たちの力を集める時。この戦いを以てローマは再びひとつとなろう! 我が剣は原初の情熱(ほのお)にして、剣戟の音は(ソラ)巡る星の如く。聞き惚れよ。しかして称え、更に歓べ! 余の剣たちよ!」

 

熱狂が渦を巻いて戦場を包み込み、重装歩兵の一団がぶつかり合う。

まるで分厚い石の壁を素手で壊しているかのようだった。

連合ローマ帝国の軍団の壁は厚く、数で劣る正統ローマ軍がいくら攻撃しようとも揺らぐことはない。

それでもネロというカリスマが剣を執り、鼓舞する事で辛うじて踏み止まっていた。

 

「む、来たかカドック! して、首尾は!?」

 

「ははは。はははははははははははは」

 

「■■■■■■■!!」

 

こちらが答えるよりも早く、カドックとアナスタシアを降ろした2人の狂戦士が戦場へと転がり込む。

突然に割って現れた巨漢に連合の兵達は驚きを見せるが、すぐに敵の援軍だと気づいて攻撃を開始。

それを真正面から受け止めたスパルタクスは、満面の笑みを浮かべながら丸太の如き剛腕(ラリアット)で数人の敵兵を薙ぎ払った。

続けて左腕に群がる一団を十把一絡げに掴み取ると、まとめて脇固めを極めて腕を引き千切り、その血を浴びながら転がると器用に2人の兵士を肩に担いで脳天砕き(ブレーンバスター)を放つ。

その頭上を飛び越えて戦場の中心部へと降り立った呂布は、手にした方天画戟を振り回して数人の騎馬兵を薙ぎ払うと、ファランクス陣形を取った重装歩兵の群れを無慈悲にも踏み潰していく。

無数の矢が放たれるが堪える素振りもなく、命知らずの戦車兵が突撃したがそれを意にも介せず方天画戟で御者台ごと兵を打ち砕いていった。

 

「■■■■■■■■■―――!!」

 

「解放の時は来た。今、意思と肉体を以て圧制者に鉄槌を!」

 

正に無双、一騎当千。

これこそが叛逆、反骨と言わんばかりに2人は群がる敵兵を蹴散らし、膠着していた戦線に風穴を穿つ。

勢いに乗った正統ローマ軍は、2人に続けと喝采を上げて更に士気を高めていった。

 

「将軍たちが戻ってきたぞ! 我らに勝機あり、皇帝陛下に栄光あれ!」

 

ここに至って流れは完全にこちら側に傾いた。

如何に数が多かろうとただの人間にサーヴァントを止めることなどできない。

スパルタクスが先陣を切り、マシュとブーディカが味方への被害を最小限に留め、広域攻撃が可能な呂布とアナスタシアがそれぞれの宝具で側面を抑え込む。

更に指示を下す指揮官や伝令を荊軻が人知れず暗殺して回っており、連合は瓦解し始めた戦線を立て直すこともできず、少しずつ押し込まれていった。

 

「すごいな、カドックは!」

 

「はい。いったい、どのようにあのお二人を説得されたのでしょう?」

 

「それはね―――」

 

「キャスター! 今は戦いに集中しろ! そこの2人もだ!」

 

適当に拾った盾で敵兵の1人を殴り飛ばし、マシュに守られながらガントを放つ少年の後ろに滑り込む。

 

「無事みたいだな」

 

「何とかね。けど、あんまりいい状況じゃない。神祖(ローマ)がいた」

 

「やっぱりな」

 

神祖ロムルス。

軍神マルスの血を引いた、国造りの英雄。

七つの丘にローマの都を打ち立て、栄光の大帝国ローマの礎を築いた建国王にして神祖。生きながら神の席に祀られたモノ。

いわば、全てのローマの父。ローマそのものと言ってもいい。

ローマに連なる英雄にとっては正に神に等しき存在(ローマ)だ。

カエサルの言葉を聞いた時、薄々ではあるが予感がしていた。

歴代のローマ皇帝やカエサルをも従えるだけの力を有した者など、そうはいないからだ。

そんな偉大な存在と対峙したとなると、ネロの動揺は計り知れないであろう。

それを抑えて兵の士気をここまで高めたとなると、やはり彼女には皇帝と呼ぶに足る何かを持っているのだろう。

 

「すごく迷っていたけど、吹っ切れたみたいだ。連合の民は笑っていないって」

 

「そうか、それが彼女の思う美しいものか」

 

民が笑って暮らせる国。

ありきたりだが、悪くはない。

なら、自分達にできることはその国造りの妨げとなる、レフ・ライノールの目論見を少しでも早く取り除くことだ。

 

「藤丸、令呪は!?」

 

「後二画残っている!」

 

つまり、アレキサンダーと孔明を相手に、一画の令呪だけで勝利したということになる。

日頃からシミュレーターを周回しているだけあって、彼とマシュもかなりの力をつけてきているようだ。だが、一画とはいえ消耗していることに変わりはない。

 

「隙を見て呂布が宝具を撃つ。城壁に穴が空いたら突入するから、お前とキリエライトは僕達の援護だ」

 

勢いを奪い取ったとはいえ、ここが敵の本丸である以上、持久戦となればこちらが不利。

どこかで戦況を一気に捲りあげなければならない。

カドックはその一手を呂布に頼んでいた。

呂布の宝具、『軍神五兵』(ゴッド・フォース)は彼の意志で6つの形態に変形する事ができる。

残念ながら狂化の影響で使える形態は矛と砲の二形態のみだが、その最大出力は一撃で雌雄を決する対城宝具に分類されており、石で組み上げられた連合首都の城壁が如何ほどの神秘を帯びていたとしても打ち崩すことができるだろう。

反骨の祖故、細かな指示を下すことはできないのでタイミングは完全に呂布任せだが、彼とて三国志にて最強と持て囃された武将には違いない。

ここぞというタイミングで必ずや状況を打開してくれるはずだ。

 

「――――!!」

 

頭上から聞こえた咆哮に背筋がおぞけ、2人は目配せをした。

直後、マシュが己のマスターを、カドックがアナスタシアの手を引いて地面を蹴り、現れた異形に対して身構える。

それは獅子の頭を持っていた。だが、獅子ではない。

右半身の黄金色の毛並みに対して左半身は黒い毛皮に覆われており、肩からは大きな角を有した山羊の頭が生えて獅子の頭と並んでいる。

更に臀部からは固い鱗に覆われた太い蛇の体が尻尾のように生えており、こちらを威嚇するように耳障りな鳴き声を上げている。

ギリシャ神話に登場する魔獣、キメラだ。

 

「藤丸! キリエライト!?」

 

「こちらは大丈夫です、お二人は!?」

 

「無事よ、けれど・・・」

 

キメラの登場で、完全に分断されてしまった。

マシュ達は城壁側に、自分達はその反対に。

これではこの魔獣を倒さなければ首都に突入できない。

そう思った瞬間、魔力の奔流が彼方で巻き起こった。

呂布が宝具を発動したのだ。

大地すら抉り取る波動の嵐が分厚い連合首都の城壁に巨大な穴を穿ち、ネロの号令で多くのローマ兵が殺到していく。

それに気づいたキメラは蛇の尾を伸ばして手近なローマ兵を薙ぎ払い、踵を返して彼らを追わんとする。

 

「行かせるな、キャスター!」

 

「ええ!」

 

跳躍の寸前、キメラの四肢をアナスタシアが凍り付かせる。

すかさずマシュが加勢に走ろうとするが、カドックはそれを大声で制すると、城壁の穴へと殺到する正当ローマ軍を指差した。

 

「作戦変更だ、ここは僕とアナスタシアで抑える! お前たちはネロを守れ!」

 

「けど、カドック―――」

 

「お前たちならできる! 行くんだ!」

 

「行って、マシュ! あなたも!」

 

一瞬、不安と恐怖で顔を歪ませるが、少年はすぐに目尻を拭って荒野を駆ける。

その後ろを彼のサーヴァントであるマシュが大盾を担いで続き、飛びかかってくる敵兵を薙ぎ払う。

彼方に2人が消えていくのを見届けたカドックは、自分が柄にもないことを口走ったことに自嘲しつつ、異形の怪物に向き直った。

自分でもどうしてあの瞬間、あんな言葉が飛び出したのかがわからない。

改めて思い返すと苛立ちすら芽生えてきた。

その焦燥をこの怪物にぶつける。

今はそれに集中することで、胸の内の複雑な感情から目を逸らすことにした。

 

 

 

 

 

 

戦場は郊外から首都内へと移り、一進一退の様相を表してきた。

カドックとアナスタシアは、立ち塞がるキメラを打ち倒したものの、一足先に王城に向かったマシュ達の援護に回る事ができずにいた。

連合は兵士だけでなくゴーレムや魔獣を投入し、こちらの最大戦力である2人の狂戦士を抑え込みにきたのだ。

無論、雑兵である以上は2人の敵ではないが、群がる敵に足止めを受けて彼らは王城に辿り着くことができなかった。

長時間に及ぶ戦いは徐々にカルデアからの魔力供給だけでは追い付かなくなってきており、アナスタシアはカドック自身からも少しずつ魔力を吸い上げていっている。

励起した魔術回路が悲鳴を上げ始めているが、カドックはそれを無視して思考を巡らせた。

疲労に苦しむのは後だ。今は状況を把握し、少しでも最善の手を打たなければ。

 

(藤丸達は無事なのか? ロムルスはどうなった?)

 

数分前、確かにマシュ達はロムルスと対峙し戦っていた。

カルデアを通じて送られてくる情報は、神にも迫るかと言わんばかりのロムルスの力と、熾烈な戦いの様相を物語っていた。

だが、今は違う。

決定的な一撃が入ったと思われた直後、途方もなく凶悪な存在が姿を現したのだ。

それはある男の姿をしていた。

カルデアに爆弾を仕掛け、多くの犠牲者を出した仇にして連合ローマ帝国の宮廷魔術師。

レフ・ライノール・フラウロスと彼は名乗った。

自分達が探していたレフその人だ。

しかし、彼は自分達が知るレフとは大きく違っていた。

彼は全てを見下し、嘲り、怒りを露にしていた。

さっきまでレフだったものは、見た事もない醜悪な存在へと変貌していった。

 

『なんだあの怪物は! 醜い! この世のどんな怪物よりも醜いぞ、貴様!』

 

ネロはその姿に美を見出せず、憎しみにも似た嫌悪を露にした。

 

『この反応、この魔力・・・サーヴァントでもない、幻想種でもない! これは―――伝説上の、本当の「悪魔」の反応なのか!?』

 

ロマニはこの地で起きている在り得ない事態に通信の向こうで悲鳴を上げる。

 

『地に突き立つ、巨大な、肉の柱? それにここまでの大量の魔力は・・・』

 

マシュは相対したソレを前にしてどこまでも冷静に、機械的な反応を示す。

 

『――――――――――!!!』

 

藤丸立香は言葉を失っていた。無理もない。

 

『七十二柱の魔神が一柱! 魔神フラウロス――これが王の寵愛そのもの!』

 

そして、レフだったもの―――フラウロスは吠える。

カルデアも混乱しており、詳しい情報が送られてこない。

ただ、数値的な情報だけで判断する限り、確かにフラウロスはおぞましい力を秘めていることがわかる。

七十二柱の魔神。それは魔術王ソロモンが使役した使い魔の総称。

伝承においてはそれぞれが爵位と軍団を持つ悪魔達だが、実際にそのようなものは存在しない。

神霊が物質世界に干渉できないように、悪魔にとってもこの世界は小さくてその身を押し込めることができないのだ。

しかし、マシュ達が今、対峙しているソレは正に悪魔としか呼びようがないほどの規格外の魔力を有しており、伝承に恥じない強大な力で以て暴れ回っている。

その凄まじさたるや、アナスタシアが透視しようとすると逆に魔眼を封じる「視られる力」をぶつけてヴィイの魔眼を封じてくるほどだ。

 

『聖杯を回収し、特異点を修復し、人類を―――人理を守るぅ? バカめ、貴様達では既にどうにもならない。抵抗しても何の意味もない。結末は確定している』

 

王城から夥しい量の魔力が拡散し、通信越しにマシュ達の悲鳴が聞こえた。

心の弱い者はその衝撃を受けただけで発狂してしまうほどの尋常ならざる魔力の波だ。

藤丸立香は今、あんな恐ろしい敵と対峙しているというのか。

 

『貴様たちは無意味、無能! 凡百のサーヴァントを搔き集めた程度で、阻めると思ったか!?』

 

更なる衝撃が連合首都を襲い、大気が濁ったかのように淀みを増す。

最早、歴戦の猛者ですら立っていられないほどだ。理性を失ったバーサーカーですら混乱し、我を失っている。

ただの人間にこの狂気は重く、きつい枷となって正気を縛り付けるのだ。

もう誰もが抗うことに対して諦めを覚えている。

いっそ、この狂気に身を任せたいと。

カドックも例外ではない。なまじ知識がある分、狂気のふり幅は迷信深いこの時代の人間よりも大きいと言える。

だが、最後の崖っぷちで理性を手放すことを拒否する自分がいた。

それは仲間を傷つけられたことに対する怒りなのか、あの炎の街で交わした皇女との約束なのか、それとも理不尽に抗う数多の英霊達に魅せられたからなのか。

この特異点での最大の圧制(ピンチ)に対して、彼は叛逆した(諦めようとしなかった)

 

「まだだ藤丸、僕達が行くまで・・・」

 

『まだだカドック、みんなとカルデアに帰るまで・・・』

 

同じように、王城で戦う藤丸立香が前を向く。

何を考えているのかわからない、未熟者の少年。

そんな彼にも譲れないものがあるのだろう。

外と内、異なる戦場で2人は今、同じ答えに辿り着いた。

 

「諦めるな!!」/『諦めるな!!』

 

奮起したスパルタクスと呂布が重圧を振り払い、魔獣の群れを抑え込む。

アナスタシアの眼が壁となるゴーレムを穿ち、その隙間を縫うようにブーディカの戦車が駆け抜けていった。

通信の向こうでもマシュが宝具を発動してフラウロスの攻撃を受け止め、荊軻が暗殺の機会を伺う。

みんなの胸に意志の力が戻ってくる。

しかし、それでも足らない。

突然の反撃にフラウロスも驚きを見せるが、彼らの力だけでは自分を倒し得ないとタカをくくって嘲りの声すら漏らす始末だ。

 

『覚醒の時来れり―――焼却式』

 

無慈悲にも死刑宣告が下され、マシュと藤丸立香の悲鳴が通信から聞こえてきた。

その時、同じ場所から全く異なる魔力の波が迸り、禍々しいフラウロスの魔力を押し留めた。

 

『なにぃっ!?』

 

『あれは―――!?』

 

『おお、あれこそは正に・・・・』

 

いったい、何が起きているのかわからないが、フラウロスの驚愕とマシュ達の安堵が伝わってくる。

発せられたのはここからでもわかるくらい強く、黄金色に輝く魔力の光だ。

全てを包み込むかのように暖かく、それでいて強い熱量を併せ持った神々しい輝き。

それは人々の思いで編み上げられた幻想の結晶。

七つの丘に打ち立てられた建国の槍。

 

「ローマだわ―――」

 

魔眼の力を取り戻したアナスタシアが見たものは、溢れんばかりの神々しい輝きで醜悪な肉の柱を抑え込む建国の王の姿だった。

 

『すべて、すべて、我が槍にこそ通ず。『すべては我が槍に通ずる』(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)!』

 

地響きと共に王城の天井が突き破られ、巨大な大樹が出現する。

あれがロムルス(ローマ)の宝具なのだろうか。

一見するとただの植物操作。しかし、聳え立つ大樹は生命力に満ち溢れ、曇天すら吹き払うほどの輝かしい気を発している。

あれはローマだ。

過去・現在・未来、時代を跨いで栄え滅んだローマの全てがあの宝具には込められている。

 

『馬鹿な、我が呪縛を・・・サーヴァントでありながら、マスターに逆らうのか―――!!』

 

『魔神よ、お前達の嘆きもローマは受け入れよう。さあ、我が槍にて(ローマ)に還るのだ!』

 

『まさか―――「皇帝特権」を捨てたのかぁっ!!? その身を今一度捨て、神へと至ると―――貴様にまだ、それだけの意志が残って―――』

 

断末魔の悲鳴が聞こえる。

光の奔流が、禍々しい気を打ち払っていく。

解放された国造りの権能に抗える者などいない。

ローマの光はローマに敵対する全てを飲み込み、受け入れ、滅していく。それはロムルス(ローマ)すらも例外ではない。

 

『ネロよ、我が愛し子よ。永遠なりし深紅と黄金の帝国。その全て、お前と後に続く者達へと託す。忘れるな、ローマは永遠だ。故に世界は、永遠でなくてはならない』

 

そう言い残し、偉大なる神祖(ローマ)はこの時代から姿を消した。

後に続く者に大いなる遺産を遺し、彼はまた天へと上ったのだ。

その場に居合わせることができなかったことをカドックは悔やんだが、それでも不思議な充足感があった。

それはここで戦っていた全ての兵士達も同じだった。

魔獣は彼の威光を恐れて逃げ出し、ゴーレムは動きを停止していた。

ローマ同士の戦いは終わりを迎えた。

全ては今、ローマへと還ったのである。




ローマってずるいなぁ、キャラが濃くて。
書いていて後半、ローマしか出てこなかった気がする(笑)。

このペースなら後、2話くらいで終われるかな。


ところで、沖田ちゃんの実装まだですかねー(棒)(沖田オルタよ何故当たらん)

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