Fate/Grand Order IF 星詠みの皇女   作:ていえむ

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幕間の物語 -ある日の食堂にて-

それは第二特異点の修復を終えてからしばらくしての事。

少し前に、ネロのわがままでローマとカルデアの共同行事としてネロ祭なるものが開かれ、その興奮も冷めやらぬある日の事だった。

カルデアの食堂で、諸葛孔明―――ロード・エルメロイ2世はひとり、物思いに耽っていた。

手には先ほどからカチカチと開け閉めを繰り返されているライターが握られており、まだ火が点けられていない葉巻を咥えながら、

固い椅子に背中を預けて天井を見る。

そうして、しばらくの間、ボーっと天井を見上げながら、徐に葉巻に火を点けようと思っては思い止まり、また天井を見上げるだけの時間が過ぎていく。

 

「先ほどから何をしているのかね? 吸いたいのなら喫煙スペースに行ったらどうだろうか?」

 

いい加減、見るに見かねた赤い弓兵―――エミヤが紅茶ポットを片手に声をかける。

すると、エルメロイ2世は咥えていた葉巻をポケットにしまうと、眉間にしわを寄せながら無言でテーブルの紅茶を飲み干し、空のカップを見せて紅茶のお代わりを要求する。

 

「すまない、今はそういう気分じゃないんだが、習慣でね」

 

「葉巻は咽頭癌の原因になると聞く。別に禁煙を推奨するつもりはないが、控えた方がよくはないかね?」

 

「考えておくよ。まあ、考え事をするにはどうしてもこれが手放せなくてね」

 

そう言って、再びエルメロイ2世は葉巻を咥えて天井に視線を戻す。

 

「時計塔のロードに、何か悩みでもあるのかね?」

 

「自分の人生がつくづく、因果なものだと考えていたところだ」

 

「ああ、それはお互い様だね」

 

ロード・エルメロイ2世は2000年代の人間であり、本来であるならば英霊と至れるほどの器、歴史を有していない。

彼自身は魔術協会の時計塔に属する講師であり、現代を生きるただの魔術師に過ぎない。

しかし、人理焼却とそれを防ぐための聖杯探索という極めて特殊な事情が絡み、中国の英霊である諸葛孔明の依り代としてこのカルデアに召喚された。

数多の平行世界の中から英霊と波長が近い魂として選別され、諸葛孔明の力をその身に宿す事となった疑似サーヴァントなのである。

本来ならば、依り代の人格は英霊の人格に上書きされることで眠りにつくのだが、彼の場合は孔明の提案により、召喚された時代に明るいエルメロイ2世の方が、その力を十二分に活かせるだろうということで、依り代の人格が肉体の主導権を持つこととなったのだ。

 

「まさか、またも聖杯に関わることになるとは」

 

エルメロイ2世自身はこの世界の出身ではなく、こことは異なる平行世界から呼び出された存在である。

若かりし頃に聖杯戦争に参加していたことが、諸葛孔明の依り代として選ばれた理由の一つになっているのだろうと彼は結論付けている。

ちなみに、「この世界」のロード・エルメロイ2世も概ね、自分と同じような境遇を辿ってきたようだ。

 

「何、英霊ともなればそういうことは一度や二度じゃない」

 

「できれば、呼ばれるのはこれっきりにしてもらいたいがね。君みたいに酷使されて擦り切れるのは真っ平だよ」

 

問題児ばかりの自分の生徒に振り回されることがないのは幸いだが、と心の中で付け加えておくが。

 

「それにしても、サーヴァントとして呼ばれたら、そのマスターが劣等感の塊とは・・・・・・」

 

「ああ、それに関しては同感だ。魔術のマの字も知らない未熟者とは・・・・・・」

 

お互い、カルデアのマスターに思うところがあるのか、2人は複雑な表情を浮かべながら宙を睨む。

 

「ああ、マスターといえば、前にこんな話を聞いてね―――」

 

 

 

 

 

 

それはある日の事。

度重なる苦情の申し立てにも応じるどころか、寧ろ最近はドル友が増えてやる気に満ち満ちているエリザベートに対して、カドック・ゼムルプスは最後通牒とばかりに嘆願書を持参して睨み合っていた。

自分でもどうして、こんなことをしているのか納得できなかったが、残念ながら人手不足のカルデアではサーヴァントの問題はサーヴァント間かマスターで解決することが暗黙の了解となっている。

もう1人のマスターである藤丸立香も似たような感じで走り回っているため、文句を言うことができなかった。

 

「エリザベート、ここにカルデアスタッフから集まった嘆願書がある」

 

「嫌よ」

 

「せめて、最後まで聞け!」

 

「嫌よ、どうせ歌うなって言うんでしょ!」

 

召喚されてからというもの、エリザベートの歌に対してカルデアのスタッフからは苦情が殺到していた。

何しろ彼女はとてつもなく音痴なのである。

声は高いし音程は外れているし歌詞はサイケでさながら歩く音響兵器だ。

まともに聞いてしまった者は頭痛や吐き気を覚え、その後も眩暈に悩まされ、酷い時はフラッシュバックで狂乱する者もいた。

ただでさえ人手が少ない状況で、そんなことが続くとカルデアの存亡に関わってくる。

 

「歌はあたしの全てなのよ。アイドルがマイクを置くのは引退する時って決まっているの!」

 

「嘘つけ! マイクがあろうとなかろうと歌うだろ、君は!」

 

「うむ、天上の調べにマイクの有無は関係ないな。真に魅せる歌声というものは、己が声量だけで万人を魅了するものだ」

 

「そこで話をややこしくするんじゃない、暴君(ネロ)!」

 

最近、召喚されたもう1人の音響兵器、ネロ・クラウディウスに対して、若干苛立ちながらカドックはまくし立てる。

彼女もエリザベートに負けず劣らずの広域破壊兵器であり、最早その歌声は対軍宝具と呼んでも差し支えないだろう。

エリザベート1人でも持て余していたところに、更にもう1人が増えた事で、スタッフ達の我慢も限界に達したのだ。

 

「好きなことを好きにして何が悪いというのだ」

 

「そうよそうよ。良いこと言うじゃない。さすがはあたしのドル友(ライバル)

 

「余とそなたのセッションは、何れこのカルデアを席巻するであろう。その時こそ、我らの天下!」

 

「ええ、歌が世界を救うのね!」

 

「お花畑か、お前たちは!」

 

歌が絡むと狂化:EXになる2人を前にして、カドックは軽い頭痛を覚え始めていた。

いっそこのまま、2人の歌で滅んでしまってもいいんじゃないかとさえ思ってしまう。

もちろん、そんなことは許されないしするつもりもないので、カドックは思考を切り替えることにした。

相手がこちらの要求を呑まないのなら、プランBに切り替えるまでだ。

 

「わかった、そんなに歌いたいならその場所を提供しよう」

 

そう言って、カドックは2人をとある一室へと案内する。

そこは居住区画から少しだけ離れたところにあり、今は特に何にも使われていない空き部屋であった。

部屋の広さはスタッフの個室とそう変わらないが、ベッドなどがない分、居室よりも広く感じられる。

中央には簡易ではあるが机とどこから調達してきたのか、2人がけのソファが2つ。

机の上にはスピーカーに繋がった小さな機械―――オーディオプレイヤーが置かれていた。

 

「歌うならこの部屋を使って欲しい。ここなら大きな声を出しても外には漏れないし、練習にはもってこいだ」

 

言わば、簡易のカラオケBOXである。

部屋全体にはカドックが防音の魔術を施しており、中でどれだけ騒ごうと外には声が漏れないようになっている。

スピーカーやオーディオはダ・ヴィンチに作成を頼もうと思ったが、法外なQPを請求されたので、仕方なくカドックがカルデアに来る際に持参したものを流用した。

 

「飲み物は歩いて10メートル先に自動販売機がある。レクレーションルームの修理が終わったら、そこにちゃんとした設備を導入してもらうよう、僕の方から申請を出しておく。それまではここで我慢して欲しい」

 

というより、我慢してもらわないとスタッフの生死に関わる。

 

「へえ、つまりアタシ達専用のスタジオっていうことね」

 

「うむ。オーディエンスがいないのがちと寂しいが、楽団なしでも伴奏が流れるのは実によい」

 

「そうか、気に入ってもらえて何よりだ。何なら、一日中歌っていてくれても構わない」

 

「お言葉に甘えさせてもらおう。そして、ゆくゆくは皆を集めてこの美声を披露しようではないか」

 

「そうね、エリちゃんライブwithネロinカルデアってわけね」

 

それは、恐ろしい地獄絵図になりそうだと、カドックは頬を引きつらせた。

とにかく、これで当面の問題は解決できたと、カドックは胸を撫で下ろして部屋を後にする。

すると、いつから待ち構えていたのか、壁にもたれかかっていたアマデウスが手を振ってきた。

 

「やあ、2人は気に入ってくれたようだね。協力した甲斐があるってものさ」

 

「助かったよ。手持ちの楽器だけじゃ音を用意し切れなかった」

 

「最近はああいうポップな歌もあるんだね。今度、作曲に取り入れてみようかな」

 

人理が焼却された状態では、インターネット経由で音楽を集めるのも限界がある。

だが、アマデウスの宝具ならば大抵の音は奏でられるので、オーディオを編曲するに辺り、彼に伴奏を依頼したのである。

 

「けど、良かったのかい? あの娘達のために大事な――楽器? を使ってしまって。君も音楽は聞くんだろう?」

 

「それだけで済むなら安いものさ。それに、僕はどちらかというと生音が好きでね」

 

「なるほど」

 

こちらが求めているものを悟ったのか、アマデウスは俗っぽい笑みを浮かべて指揮者の如く指を遊ばせる。

 

「ボクの演奏は高いぜ。そうだな、まずは―――俺の――」

 

 

 

 

 

 

「―――と、いうことがあったらしい」

 

「君の存在が1ミリも出てきていないが、どこでその話を聞いたんだね?」

 

「無論、マリー・アントワネット女史からだよ。アマデウスがうっかり口を滑らせてしまったみたいでね、彼女が方々に話して回っているんだ」

 

「それは、ご愁傷様」

 

ここにはいない、自分のマスターに対して同情の念を禁じ得ないエルメロイ2世であった。

 

「とはいえ、静かなのはいいことだ。こうして、煩わしいことを忘れてゆっくりするのは心の―――」

 

その時、飛行機のエンジン音にも似た爆音としゃれこうべの笑い声のように滅茶苦茶な音階がカルデアの館内に響き渡った。

先ほどの話の中で出てきたエリザベートとネロの歌声だ。

カドックが身銭を切ってその問題を解決したはずだというのに、いったい如何なる事態であろうか?

 

「2人の歌で防音の術式が壊されたぞ!」

 

「またか!? 緊急用の護符を使え! カドックが戻るまで保たせるんだ!」

 

「ダメです、3分と保ちません!」

 

「馬鹿な、12枚の護符が3分で全滅だと―――!?」

 

「ダ・ヴィンチ顧問は何をしているんだ、あの人なら何とかできるはずだ!」

 

「あの変態! 工房に鍵をかけて居留守をしています!」

 

「チクショウ! すぐにカドックを特異点から呼び戻せ! 明日の人理より今夜の安眠だ!」

 

上へ下への大騒ぎがカルデアを包み込み、エルメロイ2世とエミヤはどちらからというでなく視線を交わらせた。

 

「まあ―――」

 

「世は事もなし」

 

とっぴんぱらりのぷう?

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