Fate/Grand Order IF 星詠みの皇女   作:ていえむ

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炎上汚染都市冬木 第3節

振りかぶった盾が空しく空を切る。

ライダーのサーヴァントはまるで嘲笑うかのように空中を跳ね、身を捩りながら鎖を投擲してがら空きの胴体を攻撃する。

寸でで返しが間に合い、分厚い盾が鎖を弾く。すると今度はライダーの強烈な飛び蹴りが盾越しに腕へと伝わり、溜まらずマシュはもんどりを打った。

後ろでオルガマリーが援護をするべきか躊躇しているが、足を止める事なく俊敏に動き回るライダーが相手では彼女の魔術での足止めも期待できないだろう。

せめて宝具が使えればと歯噛みするが、今はどうしようもない。

何とか地力だけでここを突破しなければならない。

 

「所長、イチかバチか突貫します。倒せなくともわたしが動ける内は何とか足止めしてみますので、所長だけでも逃げてください」

 

「そんな・・・・・・だめよ、マシュ。例え逃げ切れても、わたし1人じゃなにもできないわ」

 

力なく地に伏したオルガマリーは、涙目になりながら弱音を吐く。

ここに来て彼女の精神が限界を迎えてしまったようだ。

呆けたまま無防備な姿晒すオルガマリーには最早、理不尽に抗うだけの力は残されていなかった。

 

「くっ・・・」

 

ライダーが身を低く構え、美しい長髪を靡かせながら跳躍する。

鋭くしなやかな殺意の刃がこちらに向かって突き立てられ、マシュは再び盾を構えた。

刹那、ライダーはもう片方の鎖をアンダースロー気味に投擲し、マシュの後方で座り込むオルガマリーへと殺意を向ける。

自身への攻撃にばかり目がいってしまっていたマシュは、ライダーのフェイントに対応しきれなかった。

 

「所長!」

 

「・・・っ!?」

 

「キャスター、凍らせろ!」

 

オルガマリーが身を縮こませた刹那、凍てつく暴風が熱波を吹き飛ばす。

宙を舞う鎖刃は瞬く間に凍り付き、その勢いを失って地面に乾いた音を響かせた。

すかさず、マシュは盾を押し込んで乱入者に気を取られたライダーの姿勢を崩し、オルガマリーを庇うべく後退する。

逃すまいとライダーは駆けるが、吹き荒ぶ冷気が氷塊となって降り注ぐために追撃は敵わない。

いったい誰がと2人は冷気が吹き付ける方角を見やると、氷の魔女を連れ添った1人の少年がそこにいた。

 

「あなた、カドック・ゼムルプス!?」

 

「無事だったんですね、カドックさん!?」

 

 

 

 

キャスターに敵の足止めを任せ、カドックは瓦礫の山を駆け降りる。

目の前には巨大な盾を構える同僚の少女と、情けない姿を晒してバツが悪そうに居住まいを正す魔術師の少女。

マシュ・キリエライトとオルガマリー・アニムスフィアだ。

ひょっとしたら自分と同じようにレイシフトに成功した者がいるかもしれないと思ってはいたが、まさか本当に出会えるとは。

しかも、両足を瓦礫で潰されていたはずのマシュはどういう訳か武器を構えてサーヴァントと立ち回りを演じている。

マシュが英霊の霊基と融合しているというのはAチームでは周知の事実だったが、デミサーヴァントとして活動できるレベルにまで至っているとは聞いていなかった。

 

「キリエライト、お前・・・」

 

「はい。今のわたしはシールダー。盾のデミサーヴァントです」

 

「そうか、ならいくぞ」

 

無事の再会を喜ぶこともなく、カドックは淡々と告げる。

傍らに降り立ったキャスターが何か言いたげに一瞥するが、すぐに相対するライダーへと視線を向けた。

二歩後ろ、オルガマリーを守るように盾を構えたマシュも、乱れた呼吸を必死で整える。

再び地面に垂れる鎖刃。

奇妙な静寂が辺りを包み、緊張感が限界まで引き絞られる。

先に動いたのはライダーだ。

腕から垂らした鎖を蛇のように走らせながら襲い掛かってくる。。

しかし、こちらのキャスターが使役する精霊はその目で見るだけで冷気を操れる。

詠唱すら必要としないという圧倒的なアドバンテージを前にしては、如何なる疾走を以てしても敵わず、

ライダーは成す術もなく凍り付くはずだった。

しかし、如何なるからくりによるものなのか、紫の騎乗兵は全身に叩きつけられる冷気を物ともせず、一瞬で距離を詰めて手にした刃を振り下ろした。

 

「キャスター!?」

 

「っ!」

 

大きく横っ飛びに跳んで攻撃をかわし、もう一度冷気による攻撃を試みる。

距離が近い分、さっきよりも強力な突風が襲いかかるが、やはりライダーは凍り付くことなく追撃をしかけてくる。

まるで、冷気など最初から感じていないかのように。

 

「魔術が利かない?」

 

「対魔力ね。あの規模の冷気を受け付けないのなら、かなり高いランクを有しているようね」

 

マシュの呟きに、冷静さを取り戻したオルガマリーが歯噛みしつつ答える。

魔術師のサーヴァントにとって対魔力のスキルは天敵だ。

真骨頂である魔術を封殺され、苦手な白兵戦を強いられればどれほど優れた魔術師であれ苦戦は免れない。

ここまで一方的にエネミーを屠ってきたキャスターも、まるで狼に狩り立てられる小鹿の如く逃げ回り、致命傷をギリギリで避けるのが精一杯だ。

 

「カドック、あなたその顔!?」

 

「わかっている。くそ、こんなはずじゃ・・・・・・」

 

チアノーゼが出始めた唇を噛みしめ、カドックは血走った眼をぎらつかせる。

ここまでの魔術の行使とキャスターの召喚・契約により削られてきた魔力が徐々に底を見せ始めていた。

その存在が精霊に近しいサーヴァントの維持には本来、膨大な魔力を必要とする。

いくら燃費がいいとはいえ、何のバックアップもないまま、自前の魔力だけでキャスターをここまで現界させる事ができたのはほとんど奇跡に等しい。

ならばどうするか。

キャスター1人では敵わない。

自分の力だけではどうしようもない。

マシュではあいつを抑えられない。

ここでも地力の差が立ち塞がる。

だが、やるしなかい。

 

「キリエライト、合図をしたら跳べ」

 

「あなた、何を・・・」

 

「いいから行け、シールダー!」

 

「は、はい! 所長、マシュ・キリエライト、行きます!」

 

こちらの一喝にオルガマリーが背筋を強張らせるが、構ってはいられない。

マシュが盾を持ち直して駆け出し、カドックは残った魔力を地面に走らせる。

解析の魔術の応用。

手の平を伝って染み出した魔力の波が地面の下にあるものを暴き立てるその姿は、まるで水脈を探す南米のシャーマンのようだ。

主が何かを仕掛けていると感じ取ったキャスターも、纏った冷気を更に鋭く尖らせてライダーの攻撃に備える。

 

「ニガシマ・・セン・・・」

 

初めてライダーが言葉を発した。

同時に、闇に包まれた眼光の輝きが増し、キャスターは自分の体が鉛のように重くなるのを感じた。

先ほどまでかわし切れていた鎖が頬を掠め、瓦礫に足が取られかける。

思うとおりに体が動いてくれない。

キャスターの眼が捉えたのは、爛々と輝くライダーの双眸。

間違いない、あれは魔眼だ。

彼女に見入られた事で、こちらの動きを封じられたのだ。

 

「キャスター、足を射抜け!」

 

「・・っ!」

 

カドックの叫びにキャスターは冷気を放つも、やはりライダーは止まらない。

吹き付けた雹は彼女の対魔力スキルによって弾かれ、空しく宙へ散っていく。

勝利を確信したのか、闇で見えぬはずのライダーの顔が愉悦で歪んだかのような錯覚を覚えた。

 

「ネムレ!」

 

「いえ、それはあなたの方よ」

 

その瞬間、キャスターが精霊の眼を通して見透かしたのは、自身の冷気で破損した配水管であった。

直後、轟音と共に地面が割れ、ライダーの足下から巨大な水柱が立ち上がる。

攻撃態勢に移っていたライダーは完全に不意を突かれ、勢いよく吹き上がる水流がその姿を飲み込んだ。

そして、そのままキャスターの冷気によって白く濁った氷柱へと姿を変えていく。

無論、何の神秘も持たない氷がサーヴァントを拘束できる訳もなく、すぐにライダーは自らの怪力で内側から氷を破壊し、キャスターを仕留めんとする。

だが、その僅かな隙が命取りとなった。

俊敏性が最大の武器である騎乗兵が最も窮地に陥る瞬間は、その足を止めた時である。

 

「キリエライト!」

 

「はああぁっ!」

 

合図を受けてビルの屋上から跳躍したマシュが、手にした盾を構えて遥か上空からライダー目がけて落ちてくる。

見る見るうちに迫る巨大な鉄塊。

ライダーにできる事は、ただそれを受け入れることだけであった。

 

 

 

 

無傷なものは誰1人としていなかった。

ライダーはそれほどの強敵であり、自分達の誰か1人でも欠けていたら倒せなかっただろう。

カルデアに帰還するにしろ特異点の調査を続けるにしろ、まずは休んで回復を図らなければ。

そんな事を考えながら、ふらつく足取りでキャスターのもとに近づくと、彼女の唇が少しだけ吊り上がっていることに気づいた。

さっきまでどちらかというと冷たい氷のようだった眼差しが、今は慈母のように柔らかい。

どこか誇らしげにこちらを見つめるキャスターの視線に、むず痒さを覚え、カドックは思わず視線を逸らしてしまう。

 

「マスター、勝てたのに喜びませんの?」

 

「あんな綱渡りな勝ち方はごめんだ」

 

「それでも勝ちは勝ちでしょう。今だけはお祝いしましょう」

 

「そういう気分にはなれないな」

 

「もう」

 

頬を膨らませたキャスターを伴い、オルガマリーと合流する。

開口一番に飛び出したのはやはり罵倒。

もっと早くに駆け付けろだの、心にもない言葉が投げつけられたが、今は不思議と聞き流すことができた。

 

「とにかく、あなたがここに来ていた事は唯一の幸運だわ。凡人とはいえAチームの1人。カルデアに残ってる補欠よりは遥かにマシよ。カドック・ゼムルプス、状況を説明するから聞きなさい」

 

聞かされた現状は、とても楽観できるものではなかった。

謎の爆発によりカルデアの機能は8割が失われ、生き残った職員も20人に満たない。

現在、カルデアを仕切っているのは医療部門のトップであるロマ二・アーキマンであり、

彼の指示の下、急ピッチで復旧作業が進められている。

Aチームを含む他のマスターも1人を除いて瀕死の状態であり、救援はとても期待できそうにない。

自分はたまたま、コフィンに入るのが遅れたからレイシフトに成功したが、タイミングが少しでも狂えば自分も同じ目にあっていたかもしれないと思うと、

空恐ろしさで背筋が凍ってしまう。

 

「話をまとめると、偶然にもレイシフトに成功したあなたは独力でサーヴァントを召喚した、で良いのよね? 本来ならば私の許可がなければ英霊召喚は行えない決まりですが、今は非常事態ということで例外を認めましょう。ロマニ、カルデアからパスを彼に繋げて。魔力をバックアップできれば、マシュのマスターとして彼女とも契約を―――」

 

『えー、そのことなのですが所長。さっきから何度も試みているんですが、彼とパスを繋げる事ができません』

 

「ちょっと、それはどういう事? ちゃんとやったんでしょうね?」

 

『やってます! 不安定なレイシフトによる影響か、それともフェイトシステムを通さずに召喚を行ったからなのか、いずれにせよ、一度カルデアに戻って調整しないとカドックくんにパスを繋げる事ができません!』

 

通信の向こうで、ロマニの悲痛な叫びが木霊する。

そもそも、合流するまでこちらのシグナルを検知する事もできなかったらしい。

カルデアからのバックアップを受ける事ができないとなると、ますますキャスターを召喚できたのは幸運だった。

もしも燃費の悪いセイバーやバーサーカーを引き当てていた場合、ここに来るまでに魔力切れで干からびていた可能性もある。

そこまで考えて、何故という疑問が思い浮かぶ。

燃費がいいといってもキャスターは英霊だ。

その存在の維持には人間1人ではとても賄いきれない魔力を必要とするはず。

先ほど、ロマニはカルデアとのパスは繋がっていないと言った。

なら、凡人である自分がどうして彼女の現界を維持できているのだろうか?

或いはこの冬木という土地自体に何か秘密があるのではないだろうか?

 

「所長、わたしは大丈夫です。マスターなしでも何とか戦えます」

 

「戦ってもらわなければ困ります。はあ、どうしてこう次から次から―――それで、あなたのサーヴァントはどこの英霊なの? 何か強力な宝具でも持っているんでしょうね?」

 

薄氷が踏み潰されたかのように、場の空気が静まり返る。

キャスターが僅かに身を強張らせ、自分の後ろに半歩下がって身を隠した。

自分の事を知られたくないのだ。

しかし、オルガマリーはキャスターの無言の抗議など聞く耳持たないとばかりに声を荒げる。

 

「どんな力を持ってるかもわからなければ戦いようないでしょう。それとも言えない理由でもあると言うの!?」

 

「そ、それは・・・・・」

 

「・・・・所長、そこまでにして欲しい」

 

「あなたねぇ」

 

「キャスターは僕のサーヴァントだ。彼女は強い、その力はマスターである僕が一番よくわかっている。決して足手まといには――――――」

 

不意に悪寒が駆け抜けた。

咄嗟にキャスターを庇いながら魔術障壁を展開し、弾かれた短刀が宙を舞う。

更に続けて1本、2本、次々と短刀が飛来するが、それはキャスターが起こした突風で吹き飛ばされた。

 

「アサシンのサーヴァント」

 

ライダーと同じく闇を纏った暗殺者がそこにいた。

 

「マシュ、キャスター、戦いなさい! 同じサーヴァントでしょう!」

 

「・・・はい、最善を、尽くします」

 

苦しげに答えたマシュが盾を構える。

先ほどまで不安そうに縮こまっていたキャスターも、今度は自分が守るのだと言わんばかりに前に出る。

2人ともまだ闘志は衰えていない。だが、消耗があまりにも激しすぎる。

マシュはマスターがおらずこれ以上の戦いは危険だし、キャスターはまだ余力があるがマスターである自分が限界を迎えている。

ライダーとの戦いもギリギリの勝利だったのだ。今の状態で再びサーヴァント戦を行うのは自殺行為だ。

 

「大丈夫、あなただけは―――」

 

死地へと赴くキャスターの顔は暗い。

そんな顔は止めてくれ。

運命を受け入れ、絶望しきった蒼白の顔。

生前、何に絶望したのかは知らないが、そんな風に悲嘆にくれる姿は見ていられない。

それなのに、自分はもう見ていることしかできなくて、己の無力さにカドックは奥歯を噛み締めた。

その時だった。

 

「なんだ。お姫様かと思えば、中々いい女じゃねえか」

 

男の声が響くと同時に、アサシンの体が燃え上がった。

 

「―――ッ――ァ!?」

 

呆気なく燃え尽きる暗殺者のサーヴァント。

それを成し得たのは蒼いフードを被った青年。

杖を携え、ドルイド風の装束に身を包んだ魔術師は、シニカルな笑みを浮かべてこう言った。

 

「キャスターのサーヴァント、故あって助太刀するぜ」

 

光の御子。

クー・フーリンとの出会いであった。




ハサン先生哀れ。
最初はアサシンの気配遮断をアナスタシアの魔眼で破る展開だったけれど、それだとワンサイドゲーム過ぎるかもという理由でライダーに変更。
対魔力ってキャスター泣かせ。


追記)
一部文章を訂正。
設定はできてても指摘されるまでそれを文章化していないことに気づけないのは情けないねぇ。気づいた箇所があれば今後も手直ししつつ進めていくと思います。
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