Fate/Grand Order IF 星詠みの皇女   作:ていえむ

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イベントクエスト 獣国音楽祭アナスタシア
幕間の大騒動(イベントクエスト) 獣国音楽祭アナスタシア


それは第四特異点の修正からしばらくしてからのこと、オガワハイムの亡霊騒動もひと段落し、いよいよ5番目の特異点攻略に向けての準備を進めていた頃のことだった。

その日、カドックは相変わらず動かない左手に苦戦しながら、自室で黙々とリハビリに励んでいた。

ロンドンで負った傷は自分で思っていた以上に重傷だったようで、カルデアで観測していたバイタルは非常に危うい数値まで落ち込んでいたらしい。

玉藻の前のおかげで傷は全て塞がったのだが、彼女の呪術を以てしても蟲に喰われ欠損していた部分までを補うことはできず、いくつかの後遺症が残る形となった。

足りない肉を無事だった脂肪や筋肉から補ったので肉体の容積は大きく減り、体のバランスも左右で崩れてしまい躓きやすくなってしまった。

何より左手はほとんど満足に動かない。思いっきり力を込めれば軽く指を握れる程度であろうか。

魔術は等価交換が原則。あの場で他に代替できる材料がなかった以上は仕方がないが、さすがにこのままの状態で特異点修復は任せられないと判断したロマニの命令で、

課せられたリハビリメニューを全てこなすまではレイシフトしてはならないことになった。

なので、現在は立香とマシュだけで微小特異点の修正を行っている状態だった。

カドックとしては非常に不服であるが、体が満足に動かないのでは仕方がない。

言葉にはしないがアナスタシアがいつもよりも優しく接してくれることもあり、カドックはこの命令を粛々と受け入れていた。

やがて、一通りのメニューをこなし終えて喉の渇きを覚え、購買部で飲み物でも買おうと上着を纏う。

自室には紅茶もコーヒーあるが片手では淹れれないし、わざわざアナスタシアを呼ぶほどのことではない。

缶ジュースなら片手でも開けられるだろう。

 

「カドック、少しいいかしら?」

 

出かける寸前、扉が開いてアナスタシアが姿を現す。

何かあったのか、ここまで息を切らせて走ってきたようだ。

 

「丁度良かった、購買に行くつもりだったんだが、良ければ一緒に食堂へ――」

 

「緊急事態です。マシュのマスターが倒れました」

 

「……肩を貸してくれ」

 

立香が倒れた。

その言葉の意味することは大きい。

ケガか病気か、日々の疲れの蓄積か。

それともレイシフト先で厄介な呪いでも受けたのか。

何れにしても自分がこんな状態である以上、彼に倒れられてはカルデアはおしまいだ。

アナスタシアの肩を借り、急いで立香が眠る彼の部屋へと向かう。

そこには心配そうに自分のマスターを見守るマシュの姿もあった。

 

「アナスタシア、カドックさん」

 

「キリエライト、何があった?」

 

「はい、実は――」

 

マシュの話によると、今朝から立香は何度も昏睡と覚醒を繰り返しているらしい。

ロマニの検査では異常はなし。医学的には単に寝ているだけとのことだ。時々、魔術回路が励起する以外はおかしなところは何もないらしい。

その唯一、気になる点も原因が掴めず、こうして覚醒の時を大人しく待つことしかできないのだそうだ。

 

「駆け付けたフェルグスさんも、できることはないと仰っていました」

 

「フェルグスが? 戦士のカンってやつか?」

 

フェルグス以外にも立香を診たサーヴァント達は一様に同じことを答え、マシュに静観するようにと告げたらしい。

どうやらカルデアの医療スタッフよりも英霊達の方がこの事態について詳しいようだが、どういうわけか彼らは詳細を語ろうとしない。

そのため、マシュの不安だけが大きくなっていった。

 

「アナスタシア、君なら視えるんじゃないか?」

 

「……そうね、マシュを不安にさせるだけかもしれないけれど」

 

一拍を置き、しばしベッドに横たわる立香をアナスタシアは凝視する。

彼女の――厳密には彼女と契約した精霊であるヴィイの魔眼は透視の魔眼。

見たものの虚飾を払い真実を暴き出すその眼ならば、下手な検査機器よりも正確に状況を掴めるだろう。

 

「……ダメね。夢を見ているということしかわからない。やっぱりあの時……」

 

「あの時?」

 

「いえ、何でもありません。私にわかるのは、彼が自力で目覚めるのを待つしかないということだけです」

 

そう言って、アナスタシアは口を閉ざす。

何となく含みのある言い方だったが、本当に一大事ならば彼女もきちんと説明をするはずだ。

彼女――というか英霊達が口を閉ざす以上、深い詮索はするべきではないのかもしれない。

結局、自分達にできることもないため、マシュには看病に根を詰め過ぎないように言って部屋を後にし、自室に戻ることになった。

 

「ここに来てマスター2人が同時に戦線離脱なんて、洒落にならないぞ」

 

「焦ってはダメよ、あなたはまずリハビリをちゃんと終わらせないと。今日のメニューは終わったの?」

 

「ああ、少し前に昼の分は終わらせた」

 

「なら、少し休憩ね。気分転換した方がいいわ」

 

「歌でも歌うなんて言わないだろうな、あの時みたいに」

 

ロンドンにレイシフトする前、日本のとある場所に発生した特異点での出来事のことだ。

本来ならばマスターとサーヴァントという主従関係であるはずの自分達が、何の因果か敵同士として相対したひと騒動。

アナスタシアはハロウィンでエリザベートに触発され、音楽祭なんてイベントを巻き起こしたのだ。

今、思い出しても頭痛がしてくるその騒動はハロウィンに負けず劣らずの大騒ぎで、カドックとしても詳細は余り思い出したくはない。

だが、最後のあの瞬間だけはしっかりと胸に刻み込まれている。

アナスタシアが紅茶を淹れるために後ろを向いている隙に取り出した1枚の写真。

そこには自分と立香、そしてステージ衣装に身を包んだアナスタシアとマシュの4人が写っていた。

口にするのも余りに馬鹿馬鹿しいひと騒動。

その特異点での出来事を、自分達はこう呼んでいた。

獣国音楽祭アナスタシアと。

 

 

 

 

 

 

遡ること一ヵ月前。

何故か立香と共にトナカイさん1号・2号を結成する羽目になったクリスマスでの騒動を無事に終え、新年を控えた2015年の年の瀬のことだった。

カドックには馴染みのない習慣だが、日本では年末に身の回りを整理して新しい年を迎えるんだと得意げに語る立香に倣って、

不必要な礼装や音楽ファイルの整理などをしていると、不意に館内に警告音が響き渡ったのだ。

恐らく、どこかの時代で微小特異点が発生したのだろう。

人理焼却によって人類史が不安定になった結果、起点となる七つの特異点以外にもいくつも小さな特異点の発生が見られるようになった。

無論、放っておけば人理にどのような影響を及ぼすかもわからないため、見つけ次第、レイシフトで現地に飛んで特異点の消去を行っている。

今回もきっとその類だろうと思って管制室に向かったが、途中で寄ったアナスタシアの部屋はどういう訳か無人であった。

先に行ったのだろうかと首を傾げながら通路を進むと、向こうからも1人で管制室へと向かう立香の姿が見えた。

こちらも、いつも一緒にいるマシュの姿がない。

 

「あれ、皇女様は?」

 

「お前こそ、キリエライトはどうした?」

 

「それが連絡がつかなくて」

 

「愛想尽かされたか? キリエライトに限ってまさかな……」

 

互いのパートナーに揃って置いて行かれるなんておかしな偶然もあったものだと話しながら、仕方なく2人だけで管制室へと向かうことにする。

だが、期待に反して管制室にいたのはロマニ以下いつもの管制スタッフだけであった。

 

「来たね、2人とも。わかっているとは思うけど、特異点だ」

 

「場所は?」

 

「日本――正確には日本の首都東京――の一区画」

 

「狭いな」

 

「うん、沿岸部にあるとある建物が特異点化しているんだ。時代は何と2009年」

 

「近っ!? 10年も経ってないじゃないか。しかもこの場所って――あそこか、あのテレビ局!?」

 

写し出された拡大地図を見て、立香は素っ頓狂な声を上げる。

どうやら地元ではかなり有名な建物らしい。立香曰く、メロドラマやバラエティが強いのだそうだ。

ただ、少し前から視聴率が低迷していて業績がかなり落ち込んでいるらしい。

ちなみにドラマの方はサッパリだったが、アニメは名前だけならカドックでもいくつか知っているものがあった。

手から光線を出す格闘家とか侍が主役の奴だ。

それにしても、建物一つが特異点化しているというのが気になる。

これまでは地方都市や国、大海とそれなりの規模のものが続いていただけに、ここまで狭い規模の特異点は初めてのことだ。

 

「テレビ局……歌番組……アイドル……うっ、頭が…………」

 

「ドクター、俺達ちょっと医務室に……」

 

「ダメだよ2人とも、ちゃんと仕事しないと」

 

脳裏に浮かんだとある英霊の姿に悪寒を覚え、逃げようとした2人をロマニは捕まえる。

放っておいたら人類史にどのような影響がでるかわからないともっともらしいことを述べているが、もしも予感が的中したらどうしてくれるのだろうか。

カルデアは通信の音声をオフにすれば問題ないが、現地には逃げ場はないのである。

あのハロウィンの悪夢を忘れたとは言わせない。

 

「気持ちはわかるよ。けど、本当に一大事なんだ。何しろ、マシュとアナスタシア皇女がここに捕まっているんだよ」

 

「何だって!?」/「何だって!?」

 

驚愕する2人の声が重なり合う。

寝耳に水とはこのことだ。

ロマニ曰く、少し前からカルデアのサーヴァント達が何人も行方不明になっているらしい。

その中にはアナスタシアとマシュも含まれており、行方を追う内にこの特異点の存在に気付いたとのことだ。

強制送還も試みたそうなのだが、何者かに妨害されているのかうまく機能しないらしい。

 

「これはカルデア始まって以来の由々しき事態だ。なので早急に現地へレイシフトして調査をお願いしたい」

 

「そうだな。レフ・ライノールの仲間による攻撃の可能性もある。だが、そうなると同行するサーヴァントは誰になるんだ?」

 

「たまたま手が空いていた彼に依頼した。ほら、キミ達の後ろに」

 

不意に背後から甲高いソプラノの歌声が響き、カドックと立香は振り返りながら飛びずさった。

気配遮断スキルによるものだろうか。いつの間にか仮面で顔を隠したカギ爪の青年が祈るように歌を歌っていた。

名をファントム・ジ・オペラ。

かの小説『オペラ座の怪人』に登場する怪人のモデルとなった人物だ。

カルデアに召喚されたサーヴァントの中でもスパルタクスに並んで扱いにくい、危険なサーヴァントである。

 

「おお、クリスティーヌ、クリスティーヌ。祝福をここに。お前の恐れは我が手中にある。愛しい君は壇上へ、我が眼の中で華やかに歌うのだ。おお、クリスティーヌ、クリスティーヌ」

 

彼の恐ろしいところは重篤な精神汚染スキルの影響で他人との意思疎通が困難であり、何を考えているのか分からないところにある。

圧制者判定に触れると暴走するスパルタクスとはまた違った意味でコミュニケーションが取りにくく、普段は通路などで勝手に歌うに任せている。

だが、サーヴァント消失という一大事にあたって白羽の矢が立ったらしい。

 

「他に手が空いている奴はいないのか? エミヤとかエミヤとかエミヤとか?」

 

「この人手が足らない時に彼を動かすなんてとんでもない。彼はすごいんだよ、アーチャーにしておくのがもったいない。クラス・ブラウニーと呼んでもいいくらいだ」

 

他にも雑用などを買って出てくれているサーヴァントも多く、現状では動かせるのはファントムしかいないらしい。

 

「とにかく、手が空いたら増員を送るから、まずはキミ達だけで様子を見てきて欲しい。ほら、急いで」

 

有無を言わせぬ勢いでコフィンに押し込まれ、レイシフトが開始される。

極小の特異点に行方不明のパートナー。そして、コミュニケーション困難なサーヴァント。

いったい、これから赴く先で何が起きるというのか、不安で仕方のない始まりであった。

 

 

 

 

 

 

視界を覆う光が消え、途切れていた意識が覚醒する。

端末を確認すると、時代に誤差もなく、レイシフトは無事に完了したようだ。

さすがにここまで小さい規模の特異点だとはぐれようがなかったのか、今回は立香と同じ場所にレイシフトすることができた。

そして、最初に目に飛び込んできた光景を見て、カドックと立香は言葉を失った。

 

「こんにちは、ご見学の方はこちらで手続きをお願いします」

 

「シモシモ。これからギロッポンでチャンネエとシースーなんだけど、シータク1台シクヨロ」

 

「先日のオーディションの件ですが、どうかうちの新人をよろしくお願いします。はい、水着? もちろんOKです。では、週末に例のプールで」

 

「キミ、見学の娘? アイドルに興味ないかい? ある? なら詳しい話を食事でもしながらゆっくり……」

 

ここはエントランスだろうか。

局のスタッフと思われる者達が打ち合わせをしながら局の奥へと消えていき、一仕事を終えた芸能人が帰るためのタクシーを呼びつけている姿が見える。

向こうではスカウトマンらしき人物が見学者と思われる者に声をかけてり、営業に来た芸能事務所のマネージャーが電話越しに頭を下げている姿もある。

そして、その全ての者達が服を身に付け、直立歩行をしている動物であった。

 

「犬?」

 

「あっちは猫だ」

 

「多分、カモノハシ……」

 

「ジャンガリアンハムスター……あ、怪獣のスーアク? ご苦労様です」

 

行き交う人々に人間種は1人もいない。全員が獣人であり、ここにいる人間は自分達だけだった。

加えて彼らは異分子にあたるこちらのことを特に気に留めている様子はない。

普通、こういう場に自分達とは違う人種が現れれば驚くなり警戒するなりと何かしらのリアクションが返ってくるものだが、まるでいて当然とばかりに無反応だ。

 

『こちらにも映像は届いているよ。どうやら特異点の範囲が狭い代わりに、かなり強く歴史が歪められているみたいだね』

 

「何をどう歪めれば服着たライオンが小鹿をナンパする世界ができあがるんだ? あれ、絶対食われるだろ、食欲的な意味で」

 

太り気味のライオンがティーンエージャーっぽいバンビーナに色目を使うという色々と危うい絵面にカドックは大きくため息を吐いた。

これはひょっとするとレイシフト前の予想が当たってしまうかもしれない。

その時は隣の立香を盾にして全力で逃げようと心に誓うカドックであった。

 

『とにかく今は調査に集中しよう。上の階に強い魔力の反応があるから、そっちに向かってくれ』

 

「受付で通行証貰ったほうが良いのかな? 行ってくる」

 

立香は人混み(?)を掻き分け、シベリアンハスキーの受付嬢のもとへと向かう。

すると、受付嬢は見学手続きを行おうとする立香を制し、電話の受話器を取ってどこかに連絡を取った。

程なくして通話を終えた受付嬢は恭しく一礼すると、社長が降りてくるのでしばらく待って欲しいとだけ告げた。

どうしてテレビ局の社長が自分達に会いに来るのだろうか。

そもそも、こちらが来ることをどうして知っているのか。

湧き出た疑問を問いかけてみるも、受付嬢は黙して応えようとしない。

そうこうしている内に、あれほど賑わっていたエントランスが静まり返っていき、黒服のエージェントらしき狼達がエレベーターの前にレッドカーペットを敷くと、左右に一列で並んで花道を造り始めた。

同時にどこからか現れたバンドマン達が演奏を開始。

荘厳なメロディをバックにエレベーターの扉が開き、ゆっくりと姿を表した少女が頭上に向けて指を突き刺すというどこかで見たことのあるポーズを取った。

 

「私こそが社長、このロマノフTVを取り仕切る麗しのプレジデンテ。アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァです」

 

まず、どこからツッコめばいいのかカドックは一瞬、判断がつかなかった。

社長と名乗った少女は顔のない奇妙なぬいぐるみを掲げた、白銀の髪の自分がよく知る人物。

カドックに取って最良のパートナー、キャスター・アナスタシアだった。

悪戯好きだが普段は深窓の令嬢という表現がピッタリなアナスタシアだったが、目の前の彼女はどういうわけかセレブが着るような豪奢なスパンコールドレスにラメ入りの派手なマラボーを身に付け、黒服が用意した簡易の折り畳み椅子に腰かけてこちらを見上げていた。

彼女が煙草を欲しがるように人差し指と薬指を立てると、黒服の1人が懐からココアシガレットを取り出して手渡し、火を点けるような仕草を見せる。

社長らしく偉ぶって見せているつもりなのだろう。

 

「…………」

 

「ふふっ、驚いて言葉もないようね」

 

「……何をしているんだ、君はここで?」

 

「もちろん、テレビを撮っているのよ。そう、最高の歌謡ショーを撮るの。ここはそのためのテレビ局よ」

 

テレビを撮る? いったい何を言っているんだこの娘は。

この忙しい時期に、世界の命運がかかったグランドオーダーを放っておいてテレビ撮影だって?

こっちは彼女が行方不明と聞いて、最悪の可能性すら考えてきたというのに、彼女はそんなこちらの気も知らないでセレブを気取っている。

 

「この特異点は君が作ったのか!?」

 

「もちろん。ハロウィンの時にちょっとネコババした聖杯の欠片を使ってね」

 

「あー、ダ・ヴィンチちゃんに渡す時に何か欠けているなって思ったのは、君が割ったからだったのか!?」

 

「そういうのはちゃんと報告しろ。報連相だろ、報・連・相!」

 

苛立ち紛れに立香の首をアームロックで締め上げる。

詰まるところこの事件の発端は彼の杜撰な対応ということである。

 

「ふざけたことをしていないで、カルデアに帰ろう。今ならまだどこにも実害はない」

 

「ふざけていません、私は真剣です。私は最高の歌謡ショーを撮るために、マシュを最高のアイドルにしてみせます。邪魔をするというのなら……」

 

周囲の黒服達がスーツを脱ぎ去り、手に手にこん棒を持ち出して戦闘態勢を取る。

立ち上がったアナスタシアは手にした扇子をこちらに向けて突き出すと、高らかに宣戦を布告した。

 

「熱々熱湯風呂の刑とします」

 

「意味がわからない。僕に何を宣伝しろって言うんだ!」

 

「無論、私が作るテレビの良さを」

 

雄叫びを上げて3匹の獣人、ノッポとマッチョとデブの狼が突撃してくる。

ふざけてはいても相手は人間離れした力を持つ獣人。

自分や立香だけでは勝ち目はない。だが、サーヴァントとなれば話は別だ。

先ほどまでこちらのやり取りなど気にも留めずに歌い続けていたファントムは、獣人達の敵意を感じ取った瞬間、

何かのスイッチが入ったかのように歌うの止めて右手のカギ爪を一閃する。

鮮血が迸り、瞬く内に倒れていく獣人達。

最初の3人の後も次々と獣人は襲い掛かってくるが、ファントムは粛々と、まるで退屈な作業をこなすかのように彼らを血祭りに上げていった。

同時に獣人達が霊核を砕かれたサーヴァントのように消滅していく。

つまり、彼らは本物の獣人ではなく聖杯の魔力から作られた偽物ということだ。

 

「LaLaLa。そこの歌姫たらんとする少女よ。喝采は汚れなき無垢な心にもたらされる。初めての絶頂、気持ちの昂ぶりを思い出すのだ。倒錯する行いは愛しき彼方に届かぬことを呪え、LaLaLa」

 

「面妖な。この人に出演交渉は無理ね。カドック、次に会ったら熱々おでんの刑に処します。覚えていなさい」

 

「待て! 令呪を以て命ずる――」

 

逃げようとするアナスタシアを捕まえる為、右手の令呪を行使する。

しかし、一画が消え去っても何も起こらない。

本来ならばパスを通じてアナスタシアへと行き渡るはずの魔力は行き場を見失ったかのように渦巻き、時間と共に霧散していった。

 

「無駄よ、聖杯の力で令呪の拘束は遮断致しました。このテレビ局の中にいる限り、私を止められるものなどおりません」

 

まるで悪女のような高笑いを残して、アナスタシアは階上へと消える。

本人なりに社長らしく振る舞っているつもりなのだろうが、明らかに間違ったイメージを抱いているように思えてならなかった。

 

「カドック、どうする?」

 

「追いかけるに決まっているだろう」

 

「うん。もしもマシュに何かあったら、こっちはゴムパッチンの刑だ」

 

『冷静になろう、2人とも。この様子だと途中の階でも待ち伏せがいるかもしれない。皇女様の真意はわからないが、それだけ彼女が本気なのは確かなようだ』

 

ロマニに促され、一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、アナスタシアが消えたエレベーターを見上げる。

聖杯の力で建物自体も歪められているのか、本来ならば存在するはずの階段も見当たらない。

この隔階止まりのエレベーターで上に向かうしかないようだ。

アナスタシアが何を考えてこんなことを仕出かしたのかはわからないが、とにかく追いかけて真意を質し、マシュを救い出してこの特異点を修正する。

改めて決意を固め、カドック達は扉が開いたエレベーターへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

到着を告げる音が鳴り、エレベーターの扉が開く。

扉を閉めようと手元のスイッチを押すが反応はなく、他の階のボタンを押してもエレベーターが動く気配はない。

魔力の反応がある最上階のボタンを押していたのだが、どうやらすんなりとは行かせてもらえないらしい。

仕方なくその階へと足を踏み入れたカドックと立香は、第1スタジオと書かれた仰々しい扉を開けて中へと入る。

 

「なっ……」

 

目に飛び込んできたのは巨大な坂だった。

等間隔で原色に塗り分けられた巨大な坂。イメージとしては遊園地のプールなどに設置されている大きな滑り台だろうか。

それがスタジオいっぱいに設営されていた。

これもテレビ番組という体裁なのか、獣人達がセットに向けてカメラを構えている。

襲いかかってくるかと身構えたが、与えられた役割以上のことはしないのか、彼らは静かに撮影を続けるだけであった。

そう、静かなものだ。彼らだけならば。

 

「のわああぁぁぁっ!?」

 

「ぐはあっ!!」

 

塊となって滑り台を転げ落ちてきた2人がカドック達の足下に辿り着く。

軍服姿の少女と忍者のような和装に身を包んだ少女。

カルデアのサーヴァントである織田信長と沖田総司だ。

 

「ノッブ、何やっているの、こんなところだ?」

 

「おお、藤丸。それにカドックではないか」

 

起き上がった信長の軍服は、あちこちに粘液のようなものがこびり付いていてテカテカと光っていた。

これはひょっとしてローションだろうか? どうやら滑り台の上から流されているようだが。

 

「いやなに、アナPとか名乗るテレビ局の社長からテレビの出演依頼が来ての。これで儂も世界に羽ばたくビッグスターと二つ返事で引き受けたら、まさかの汚れのバラドルというオチなのじゃ」

 

「お、沖田さんは怪しいから止めようって言ったんですよ……こふっ!」

 

「沖田!? 死ぬな、戻ってこい!!」

 

「死んでません!」

 

生来の病と後年のイメージが重なった結果、サーヴァント沖田総司は英霊にあるまじき病弱さを持ってしまっている。

こんな風に血反吐を吐いて倒れるのはしょっちゅうのことだ。

そして、信長と仲が良いんだか悪いんだかわからない漫才を始めるのもいつものことだ。

 

「ともかく、このスタジオはゲームをクリアせねば先に進めぬとアナPが言っておった」

 

つまり、ローション塗れの坂を逆走しててっぺんまで登りきれば先に進めるということか。

 

「でゅふふ、そうはイカのゴールデンボール。このゲームを簡単に攻略できると思わないでござるよ」

 

不気味な笑い声と共に、坂の上に1人の男が現れる。

黒髭エドワード・ティーチだ。

 

「我こそはこの第1スタジオを預かる敏腕AD、エドワード・ティーチ。このスタジオは拙者考案の肉体派バラエティ『むちゃくちゃパイレーツ』の収録現場でござる。マスター氏達、先へ進みたければ昇ってくるのがよいぞ、この男坂をよお」

 

「気を付けてください、坂を上ると容赦なくローション地獄で洗い流されます」

 

「でゅふふ、このローションは拙者が厳選した肌触りよし粘性よし、水落もよくて後腐れなしの優れもの。マタ・ハリのお姉さんとかに一本どう?」

 

「自分で言っていて恥ずかしくないのか、あんたは!?」

 

「リア充には言われたくねえっ! つべこべ言わずに上がってこい!」

 

何だか妙な空気になってしまったが、このゲームをクリアしなければ先に進めないのは確からしい。

ちなみに令呪でサーヴァントを空間転移させるのもルール違反なのだそうだ。

あくまで自力で坂を昇らなければならないらしい。

ティーチが言うように坂を流れるローションは肌触りがよく触っていると不思議な気持ちよさがある。

坂自体もそこまで急な角度ではないので、うまく魔力を通せばそれほど苦労もせずに昇ることができるだろう。

そう思って坂の中腹まで昇った瞬間、突如として流れてくるローションの量が倍増した。

 

「えっ?」

 

続けて頂上からホースによる放水が行われ、顔面に直撃した信長がチーズのように転がりながら落ちていく。

更にゴムボールやビーチボール、果てはバレーボールが雪崩のように転がってきて、バランスを崩した沖田が立香を巻き来んで転落。

当然ながら残ったカドックはそれらの集中砲火をくらい、奮闘虚しく手が滑り、坂を転がり落ちていった。

 

「黒髭ぇ!!」

 

「思い知ったか、これがテレビの力よ」

 

「バラエティなら何しても許されると思うな! これただの暴力じゃないか!」

 

「数字が取れれば良いんだよ!」

 

その後も何度かチャレンジするも、ことごとく黒髭に邪魔をされて坂を上り切ることができない。

何度も転げ落ちて帯が緩んだ沖田は色白の肌がかなり際どい部分まで露になっており、息が上がって赤くなった頬も相まって非常に色っぽい。

対して信長も途中から邪魔になるマントや軍服の上着を脱ぎ捨てているが、色気の欠片も感じないのは普段の行いというか、諦めもせずに坂を上ろうとする姿が余りに男らしいからなのか。

いずれにしても2人とも体力の限界が近づいてきていた。

 

「何故、儂らばかりこんな目に」

 

「まったくです。どうして彼女達には攻撃しないんですか、あなたは!?」

 

見ると、攻撃の余波が及ばない壁の向こうにローションで戯れる2人の少女の姿があった。

ゴルゴン三姉妹のステンノとエウリュアレだ。

最初からそこにいたのだろうか?

彼女達はこちらのことなどお構いなしでビニールプールいっぱいに注がれたローションを掻き回し、そこに足を入れたり互いに掛け合ったりといった遊びに興じている。

 

「えー、だって2人とも怒ると怖いしぃ、可愛いから見てるだけでいいかなぁって。あ、お前らは別な、汚れの芸人だし」

 

「これが芸能界の闇ってやつか」

 

「お前、自分がデビューした時のこと忘れてないだろうな。どう考えてもイロモノ枠だろ、尾張の」

 

これで真面目になった時の彼女は第六天魔王の名に恥じない暴れっぷりを見せるのだから、歴史とはわからないものである。

 

「ローションで遊ぶ上姉様と下姉様」

 

「やめとけ、石にされるのがオチだ」

 

微妙に息を荒げている立香を制し、カドックは改めて坂の上に立つティーチを見上げる。

こんなことに時間を費やしている暇はないのだが、彼の守りは鉄壁だ。

あれを突き崩せるとしたら、黒髭の嗜好をダイレクトに突くしかない。

 

「ステンノ、エウリュアレ、ここは一つ協力を……」

 

「嫌よ、だって疲れるもの」

 

「私達はあなた達の雄姿を目に焼き付けておくから、どうぞお気になさらず」

 

(まあ、そうだろうな)

 

聞くだけ聞いてみただけである。

2人が壁になってくれればティーチの攻撃も緩まるかと思ったのだが、当の女神達に協力する気がないのなら仕方がない。自分達だけで何とかしなければ。

そうして手をこまねいていると、坂を昇らずに下で控えていたファントムが徐にマントを脱ぎ捨て、ローションが流れる坂の前に立つ。

まさか、昇るつもりなのだろうか。

 

「山、山、山、ならば昇るしかない。そこに山があるのなら、そこに君がいるのなら、我は天国への階段を踏み抜くことなく駆け上がろう」

 

ふっと彼の体が宙に浮いたかと思うと、そのまま流れるローションなど気にも留めずに坂を駆けあがっていく。

そういえば、彼は無辜の怪物スキルで異形化したことで浮遊能力を有していたのを忘れていた。

単に浮かび上がるだけで空が飛べるわけではないのだが、今回の場合はそれのおかげでローションの妨害を受けることなく悠々と坂を昇ることができる。

 

「なにぃ、ルール違反じゃないのそれ? ええい、ならばこれでどうだ」

 

次々と撃ち出されるボールの砲弾を、ファントムは巧みなスケーティングで回避し、金メダリストも真っ青のトリプルアクセルで宙を舞う。

信じられないことにローションの坂の上でバク転まで披露しているのだ。

あの殺人鬼、少々アグレッシブ過ぎではないだろうか。

 

「まずい、ティーチが増援を呼んだ!」

 

「放水の三段撃ちじゃと! それ儂の!」

 

立て続けに撃ち込まれた放水が何度もファントムの痩躯を抉り、バランスを崩した彼の体が落下を始める。だが、ファントムは自らのカギ爪を坂に突き立てて転落を防ぐと、そのまま這いずるように坂を昇りつめ、遂に頂上へと辿り着いた。

 

「凱歌はない、凱歌はないのか」

 

「こわっ! 何このホラーなお方!? あ、待って! 止めてくださ――あーれー」

 

突き飛ばされたティーチが勢いよく坂を転がり落ち、番組を収録していた撮影機材に衝突する。

すかさず、信長達がここまでのうっ憤を晴らすためにティーチを簀巻きにして吊し上げ、それぞれの得物を突き付けて甚振り始めるのだった。

甘言に乗ってしまった信長の自業自得とはいえ、ティーチも大役を任されたことでやり過ぎてしまったのでお互い様である。

 

「これでこの番組も打ち切りか」

 

「どこかでシャワー浴びれないかな。ローションが……」

 

「クリスティーヌ、我が外套を汚す栄誉を賜れるのなら、涙を拭い空へと昇ろう」

 

言っていることはわからないが、とりあえずファントムが差し出してくれた彼のマントを拝借して顔を拭う。

この調子で上の階でもまたおかしな番組が収録されているのであろうか。

いったい、アナスタシアは何を考えてこんなことをしているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

ロマノフTV最上階の特別スタジオでは、アナスタシアによる入念なリハーサルが行われていた。

 

「違うのよマシュ、そこはこう。登場したら決め顔でこう! もう一度」

 

「は、はい! え、えっと――こう!」

 

「違う! こう! もっと腰を曲げて。そんなんじゃきらめく舞台は程遠いわ」

 

「わ、わたしは別にアイドルになりたいわけじゃ……」

 

「黙りなさい。女の子は誰でもシンデレラになれるの。さあ、リハーサルを続けましょう」

 

「き、聞いてくれません。せ、せんぱーい!!」

 

マシュの悲痛な叫びが木霊する。

彼女のSランクアイドルへの道は遠い。

 

 

 

 

 

 

「うん? 今、マシュの悲鳴が聞こえたような?」

 

「気のせいだろう。それにいくら暴走しててもアナスタシアはアナスタシアだ。キリエライトに危害を加えたりはしないさ」

 

「だといいけどね」

 

ゆっくりと昇り出すエレベーターの中で、立香は何やら物思いに耽った顔をする。

ああは言ったものの、パートナーである彼としては気が気でないのであろう。

何しろここまで二人三脚で頑張ってきた新米マスターと新米サーヴァントだ。

自分には計り知れない繋がりがそこにはある。

 

「そういえば、どうしてここは獣人しかいないんだろうね?」

 

「テレビを撮影するのに手っ取り早く人手が欲しかったんだろう」

 

「でも、それなら人間でもいい訳じゃない? 出演者の方もカルデアのサーヴァントを引き抜いたみたいだし、人間を使わないことに何か拘りがあるのかなって」

 

「拘り……か……」

 

もしもそんなものがあるのだとすれば、それは恐らく彼女の人間不信に由来するのだろう。

ロマノフ王朝最後の皇女であるアナスタシアは、革命によってその命を絶たれた。

敵方の政治的利用を防ぐための無慈悲な処刑。

彼女にとってそれは共に北国を生きた国民からの裏切りにも等しく、今でも祖国に対して複雑な思いを抱いている。

ひょっとしたら、そんな思いが聖杯に反映されて、獣人達が生まれたのかもしれない。

人は信用できない。或いは、人間もまた獣に過ぎないという彼女の人間不信の表れなのかもしれない。

全ては本人のみぞ知ることではあるが。

 

「それは、本人に聞き質すしかないな」

 

エレベーターが停まる。

外に出ると、先ほどと同じく何もない通路と第2スタジオと書かれた扉が1つ。

今回もここで何らかのゲーム――番組の企画を攻略しなければ、先へと進めないのだろう。

意を決して扉を開けると、見知った2人がスタジオの真ん中で自分達の訪れを待ち構えていた。

スタジオの雰囲気は闘技場風とでも呼べばいいだろうか。

円形の壁に囲まれ、観客らしき人々が書割に描かれている。

その中央に立つのは灰色の鎧を身に付けた大柄の剣士と、雅な着物を纏った長身の侍。

ジークフリードと佐々木小次郎だ。

 

「よくきたなマスター達。ここは俺達の看板番組『竜殺兄弟』の収録現場だ」

 

「そして拙者達はロマノフTVきっての売れっ子男性ユニット『ドラゴンスレイヤー』。そう、見ての通りのアイドルだ」

 

アイドルは普通、鎧や袴姿で武器を持ったりしない。

加えて彼らは英霊達の中でもそういった浮ついたことに一番、縁のないタイプだと思っていたのだが、こちらの思い違いだったのであろうか。

 

「すまない、今回はこういう役回りなんだ。本当にすまない」

 

「またしても門番というのが因縁を感じるが、死合えるのならばまあ、そう悪いことでもあるまい。剣士でないのはこの際目を瞑ろう」

 

「俺達と対バンし、打ち勝つことができれば先へと進める。さあ、全力で来い!」

 

「わかった。始める前にまず言わせてくれ。対バンっていうのはあなた達とファントムが戦って勝てばいいのか? バンド要素はどこにある? その剣は楽器なのか?」

 

「無論、楽器とはバンドマンにとっての武器。奏でる剣戟こそ我らが音楽」

 

「カドック、すまないさんの頭がすまないことに」

 

「LaLaLa、笑止。我が歌姫の奏でる音色に勝る音楽なし。奢る蜥蜴は皮を剥ぎ、燕は空へと還ると知れ」

 

「こっちはこっちで何故かやる気満々だ」

 

制止する間もなく両者の戦いは始まった。

浮遊しながら繰り出したファントムのカギ爪を真っ向から受け止めるジークフリードと、すかさず背後から一撃必殺を狙う小次郎。

慌ててカドックと立香はそれぞれの魔術で援護に入る。

それぞれのガントが2人の動きを止め、その隙に離脱したファントムが幻影のシャンデリアを落として圧殺を図った。

だが、頑強なジークフリードが盾になることでシャンデリアの一撃を防ぎ、音速に達した小次郎の剣が再度、ファントムの首を狙う。

それを寸ででかわすファントムではあったが、小次郎は容赦のない連撃で彼を追い詰めていく。

ファントムも身のこなしは素早い方であるが、小次郎の剣速はそれ以上だ。

無辜の怪物による異形化がなければ、食い下がることもできずに首を撥ねられていたであろう。

 

「あれ?」

 

戦いを見守っていた立香が首を傾げる。

戦況は小次郎が一拍を置いた隙にジークフリードとの立ち回りに代わっており、彼の『悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)』によってファントムの攻撃は悉く弾かれてしまう。

加えて彼の剛力から繰り出される剣はファントムに一撃で致命傷を与える為、彼は攻撃よりも防御に専念をせざるをえなかった。

稀代の剣士と侍を前にして、誰の目が見てもファントムの敗色は濃厚。

だが、予想に反して彼は倒れることなく食い下がり、2人に対して着実にダメージを蓄積させていく。

ここに来て立香が首を傾げた理由にカドックも思い至った。

ファントムは巧みに立ち回り、2体1の状況を作らないようにしているのだ。

オペラ座の怪人として凶行を重ねた殺人鬼のカンが成せる業であろうか。

うまく2人を同士討ちの可能性がある位置へと誘導し、全力での攻撃を封じている。

全力が振るえねばジークフリードは固いだけの盾であり、速度を落とした小次郎の剣ではファントムの首は落とせない。

やがて先に体力が尽きた小次郎の足をファントムが切り裂くと、負けを悟ったジークフリードが振り下ろす寸前であった剣を下し敗北を宣言する。

 

「俺達の負けだ。元よりこれは殺し合いではない。ここまで粘られた以上、敗北を認めるしかないだろう」

 

「殺人鬼に後れを取ったことを省みるべきか、同じアサシンであることを誇るべきか。複雑よの」

 

「汝たちの音は重奏とならず、重ならぬ響きは不協和音。雑念は捨てよ、喝采を拒め。LaLaLa、LaLaLa」

 

高らかに凱歌を歌うファントムの言葉を要約するとするならば、2人が息を合わせて戦っていたらもっと早くに負けていたということだろうか。

確かに2人は全くタイプが異なる剣士だ。実力が高すぎて平素ならば問題にならぬのだろうが、こうして粘られると相性の悪さが露呈するのだろう。

 

「なるほど音楽性ならぬ剣術性の違いというやつか」

 

「うむ、ならば『ドラゴンスレイヤー』はこれで解散かな。普通の竜殺しに戻る時が来たか」

 

この後、ギャラで酒の席でもどうかな、などと話しながらジークフリードと小次郎は去っていく。

後に解散コンサートという名の決闘が武道館にて行われるのだが、それはまた別のお話である。

 

「えっと、クランクアップで良いのかな?」

 

「普通の竜殺し……普通の竜殺しとはいったい……」

 

 

 

 

 

 

 

その後もローマ・スパルタ・圧制との鬼ごっこ企画『run for muscle 筋トレ中』、何故か友達を紹介させられた『アマデウスアワー、罵っていいとも』、オリオン(熊)のグラビア撮影、メディア・リリィ主演『101回目の離婚調停』と実にバラエティ豊かな企画に参加しつつ、遂にカドック達はアナスタシアが待ち受けているであろう特別スタジオがある最上階へと辿り着いた。

 

「い、いよいよだな」

 

「カドック、カツラ被ったままだよ」

 

「ファントム、これやる」

 

「LaLaLa」

 

舞台衣装のカツラ(ハゲ)を押し付け、何事もなかったかのように特別スタジオを書かれた電光看板を見上げる。

この先にアナスタシアとマシュがいる。

何故、こんなふざけたことをしでかしたのか聞き出さねばならない。

場合によってはきついお灸を据えることもあるだろう。

 

「いくぞ」

 

気合を入れ直し、扉を開ける。

直後、目に飛び込んできた光景にカドック達は凍り付いた。

 

「はーい、マジカルシールダー、マシュリンだよ。えへん」

 

そこには、フリフリのステージ衣装に身を包んだマシュが盾を構えてポーズを決めていた。

色合いは彼女の礼装と同じ黒や紺色の系統で統一されており、ところどころに白のフリルが施されている。

足は黒のソックスとガーダーベルト。スカートは短い癖にボリュームがあり、されとて下着が見えないように白いふらふらとしたものが生地の下から見え隠れしている。

そして胸元には青い大きなリボンがあしらわれており、彼女の大きな北半球が絶妙な面積を垣間見せていた。

隠そうとはせず、下品に露出させることもない。魅せたいけど見せられないという乙女の恥じらいのようなものが感じられた。

よく見ると腕や足にもアクセサリーを身に付けている。

あれは精巧に作られたマシュの盾のレプリカだ。光を反射する盾の銀細工が可愛らしさの中に凛とした佇まいを醸し出している。

そして、たった今、気づいたことだが腕を持ち上げた時、ほんの少しだけお腹が見えるように布地が切り詰められている。

この衣装をデザインした者は彼女の魅力がどこにあるのかということをよく理解している。

なお、眼鏡は標準装備である。

 

(はっ……僕は何を……)

 

思わず呆けていた自分が情けなくて頬を叩き、意識を呼び覚ます。

隣では立香が自分以上にダメージを受けてノックダウンしているが、この際無視することにしよう。

 

「キリエライト、アナスタシアはどこだ?」

 

「ここにいます。よくぞここまで辿り着きました、特等席にご招待しましょう」

 

スポットライトが当たり、アナスタシアの姿が露になる。

彼女が座っていたのは審査員席だった。

よく見るとこの舞台は歌番組のセットのようだ。

奥には点数を示す電光掲示板。反対側は観客席になっており、多くの獣人達で埋め尽くされていた。

 

「『ロマノフ音楽祭』。それがここで行われている最高の歌謡ショーです。マシュはここで最高のアイドルになるの」

 

「あの、わたしはただ無理やり連れてこられて……」

 

「誰でもシンデレラになれるのよ」

 

「アナスタシア、シンデレラは12時に魔法が解けるし衣装も馬車も全部他人が用意したものだろう」

 

「お黙りなさい、夢も希望もないのですか。全てはあなたのためだというのに」

 

「……なんだって?」

 

彼女は今、何と言った?

全て、自分のため?

 

「どういうことだ、アナスタシア?」

 

「いいえ、最早語る言葉は無用。ここがステージならばやるべきことはただ一つ。さあ、盛大に奏でなさい獣人バンド!」

 

アナスタシアが指を鳴らすと、どこからともなく現れた数人の獣人達が手にした楽器を奏で始める。

演奏の内容はカドックが好んで聞くロックンロール。だが、どういう訳かその音を聞いた瞬間、体からどんどん力が抜けていった。

魔術回路を励起させ、状態異常の回復を試みるもうまくいかず、やがては立っていることすら困難となってしまい、地べたに座り込むしかなかった。

 

「これぞ戦場(いくさば)を彩る獣人バンド。ネロ皇帝の逸話を参考に、最後まで演奏を聴いてもらえるよう聞く者を脱力させる効果が出るように機材を調整したの」

 

「参考にするところ、違うだろ……」

 

だが、実際に手足に力は入らず、動くことができない。

そうこうしている内に四肢の末端が少しずつ凍り始めていった。

獣人バンドの演奏で動くことができない自分達を、アナスタシアが順番に凍り付かせていっている。

 

「さあ、氷漬けにして特等席で聞かせてあげる。最高の歌謡ショーを」

 

「や、やめろ」

 

「うむ。戯れもそこまでにするといい、クリスティーヌ足らんとする者よ」

 

獣人バンドの演奏にも負けない、凛とした張りのある声がステージに響き渡る。

ファントムだ。ファントム・ジ・オペラ。

いつもの歌うような話し方ではなく、ハッキリと聞き取ることができる言葉を彼は発している。

 

「何のつもりの当てこすり。私が歌姫(クリスティーヌ)ですって?」

 

「左様。ああ、だが語る舌は持てぬ……これ以上は……おお、クリスティーヌ。おお、お前に、お前の進む道を、我が血塗られた手が切り開こう。おお、クリスティーヌ」

 

再びいつものように歌い出したファントムは自らの宝具を出現させる。

華々しいステージに似つかわしくない、骨を重ねて作り上げられた魔のパイプオルガン。

獣人バンドの力で魔力も体力も奪われ、指先を満足に動かすことさえ困難であるというのに、彼はその苦しみを感じさせない気迫で演奏を開始する。

奏でられるは魔の旋律。沸き起こるは魔の戦慄。

これぞオペラ座の怪人として現界した彼の至宝。

ただ1人の歌姫のために積み上げられた屍の山。

 

「歌え歌え我が天使。『地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)』」

 

決して広くはないステージで、2つの音楽がぶつかり合った。

獣人バンド達の魂の叫びと怪人の魔の演奏。

互いに譲れぬものが激しく火花を散らし、それぞれの音を相殺する。

それは同時に、音の呪縛からの解放も意味していた。

 

『走れ、カドックくん! 皇女が持つ扇子だ。それが加工された聖杯。この特異点を生み出したものだ!』

 

「っ……アナスタシア!」

 

残った魔力を総動員し、凍結を砕いて走り出す。

ファントムもどこまで持つかわからない。この数秒で勝負を決しなければ、彼女を止めることができない。

 

「音楽が……だからとて、ここで終わる訳には……」

 

こちらを凍らせるつもりなのか、アナスタシアの視線が注がれる。

だが、彼女が魔術を行使する寸前で、立香の放ったガンドが彼女の動きを止める。

その隙に、カドックは床を蹴る足に力を込めて一気に距離を詰めた。

決着は、余りに呆気ないものだった。

手から弾かれた聖杯はマシュが回収し、押し倒されたアナスタシアは観念したかのように顔を手で覆って動かない。

いつの間にか階下にいたサーヴァント達も様子を伺いに、ステージの周りに集まってきていた。

 

「アナスタシア、どうしてこんなことを?」

 

「……あなたのためです」

 

「……?」

 

「ハロウィンでのあなたを見て、私は心を痛めました。あなたは本当に音楽が好きなのに、あのライブで負う必要もない瑕を受けて。それでなくとも最近のあなたは人理だ研究だと趣味を封じて自分を高めることばかり。あなたから笑顔が消えたのはもう遥か昔。だから、あなたが喜ぶことを……そう、最高の歌謡ショーを私は企画したの」

 

「…………」

 

余りの衝撃に言葉が出てこなかった。

エントランスでこの異変の原因は立香だと立腹したのがもうずっと前のようだ。

実際は自分の方に原因があって、彼女はそのために今回の騒動を引き起こしたというのに。

 

「……待て、それとキリエライトはどう関係あるんだ?」

 

特異点の発生はこの際、置いておこう。

自分に気を使ってくれたのは嬉しいし、ロック以外はそこまで聞く訳ではないが音楽は好きだ。

歌謡ショー、おおいに結構。

ただ、何故それがマシュを巻き込むことに繋がるのだろうか?

 

「決まっています。歌謡ショーには目玉となる歌手が必要でしょう。マシュのポテンシャルは計り知れないものがあります。そのためにマシュをSランクアイドルに仕立て上げ、視聴率1位を目指す。そしてゆくゆくはロマノフTVから世界に売り出すの。目指せトップアイドル、夢は全米デビューよ」

 

いったい、この皇女は、何を言っているんだろうか。

 

「あれだね、目的と手段が入れ替わってる」

 

『番組を盛り上げるためのアイドルを売り出す事ばかりに目がいって、何のために歌番組を作ろうとしたのかを忘れているね』

 

(すまない。こんなサーヴァントで本当にすまない)

 

彼女は生前、悪戯の度が過ぎて周りから小悪魔と呼ばれていたようだが、なるほどこの暴走っぷりではそれも頷けるというもの。

 

「クリスティーヌ、おおクリスティーヌ。彼女を責めるな。マスター(クリスティーヌ)サーヴァント(クリスティーヌ)はお前のために歌姫(クリスティーヌ)足らんとしたのだ。暗い水底で我が垣間見た光、おお、あのクリスティーヌの微笑みと喝采が汝にもたらされんことを。おお、クリスティーヌ」

 

「カドックさん、わたしからもお願いします。彼女に悪気はなかったんです。ただ、ちょっと空回ってしまったというか……」

 

最初に協力を求められた時は、純粋にカドックのことを思ってのことだったらしい。

2人で歌を練習してマスターに披露する。そういう段取りだったとのことだ。

ただ、マシュの歌を聞いて惚れこんだアナスタシアが徐々に裏方に回るようになり、それがどんどんエスカレートしていった結果、現在のアナPが出来上がってしまったらしい。

 

『カドックくん、これは君でないと収拾がつかないよ』

 

「あ、ああ」

 

このまま放っておくと、どんどん彼女の行動が悪い方へ傾いてしまう。

今ならまだ、実害はマシュと一部のサーヴァントだけで済んでいるが、このまま悪化すればカルデアを巻き込んで次々とおかしな番組撮影に没頭してしまい、人理修復どころではなくなってしまうかもしれない。

まだ取り返しがつく内に、彼女を諭して止めさせなければならない。

 

「アナスタシア」

 

アナスタシアを起き上がらせ、自分の顔を彼女の目線に合わせる。

逃げられないように、しっかりと肩を掴んで。

 

「はい、何でしょう」

 

「君の気持ちはありがたい。けど……」

 

「けど?」

 

「キリエライトや他の人を巻き込むのは……やり過ぎだ……」

 

「はい……」

 

「…………君がいい」

 

一瞬、恥ずかしさが勝ってうまく言葉が出なかった。

だから、すぐに気持ちを奮い起こして言い直す。

こんなこと、普段は絶対に言えないのだ。

気持ちが揺るがない内に、ハッキリと、言葉にしなければならない。

 

「君の歌を……聞かせて欲しい」

 

「けど、マシュの方が歌も上手くて……」

 

「君がいいんだ」

 

「さっきの戦いで、セットも壊れてしまったわ」

 

「関係ない。テレビなんて関係ない。歌が聞ければ、それでいいんだ」

 

彼女の言う通り、最近の自分はグランドオーダーのことばかり考えていて心に余裕がなかった。

アナスタシアはそんな自分のことを心配して今回の騒動を起こしたのだ。

だが、それは同時に彼女自身の心の不安定さも浮き彫りとなった。

エレベーターの中で立香と話していた、何故ここには獣人しかいないのかという疑問の答えだ。

彼女は本心では人と接することを恐れている。

だからテレビなんて回りくどい方法を選択したのだ。

カラオケでも生演奏でもいくらでも方法はあるのに、わざわざ番組を収録して放映するという方法を選んだのだ。

常に一歩引いてしまう彼女と向き合うためには、こうして目を合わせて本心を口にするしかない。

 

「僕に聞かせて欲しいんだ。君の歌を……」

 

カルデアの面々がこれを見ていることを記憶から消し、目の前のアナスタシアにだけ注視する。

これでうまくいっただろうか。

自分の偽らざる本心をぶつけたのだ。きっと彼女に届いているはずだ。

 

「途中で、歌詞を忘れるかもしれません」

 

「構わない」

 

「足の持病で踊れません」

 

「気にしない」

 

「……最後まで、特等席で聞いていてね」

 

「もちろん、聞かせてもらう」

 

彼女から距離をとり、観客席の最前列に座る。

他の面々も、いつの間にか席に着いていた。

立香も、マシュも、サーヴァントやカルデアのスタッフ達も、みんながアナスタシアの動向を伺っている。

やがて、意を決したアナスタシアはマイクを拾って立ち上がると、身に付けていたスパンコールドレスを脱ぎ捨てた。

その下から露になったのは、ちゃっかりと用意していた自分専用のステージ衣装。

マシュとお揃いのデザインで、純白や薄い水色で統一されたフリルのスカート。

髪をかき上げたカチューシャがチャームポイントだ。

もちろん片手にはヴィイ、そしてもう片方の手でマイクを握り、ステージの上でイントロの再生を促す。

 

「さあ、ついて来れる方だけついてきて!」

 

獣人バンドとファントムのセッションが始まった。

即興の、とても拙いラブソング。

振り付けもなく、音程も不確かで、間違っても公共の電波には流せない代物だ。

けれど、文句を言う者は誰もいなかった。そんな奴がいればカドック自ら殴りつけるつもりだった。

だって、彼女は今、輝いている。

自分のために、一生懸命歌を歌ってくれている。

 

「特等席か……」

 

「カドック?」

 

「藤丸、お前楽器は?」

 

「えっと……タンバリンなら」

 

「よし、キリエライトも来い」

 

「え、ちょっと」

 

立香とマシュの手を取り、ステージに上がる。

バンドマンの1人からギターを掻っ攫うと、景気付けに大きく鳴らしてソロ演奏を始める。

反対側では立香が渡されたタンバリンを恥ずかしそうに鳴らしながらステップを踏んでおり、マシュもアナスタシアと肩を寄せ合いながら歌を歌う。

視界の端では乱入しようとしている2人のエリザベートをスパルタクスが笑顔で羽交い絞めにしている姿が見えた。

やがて歌が終わると、誰からというでなく拍手の渦が巻き起こる。

これがこの微小特異点、獣国音楽祭アナスタシアの顛末。

1人の少女の空回りが巻き起こした、ささやかなイベントであった。

 

「はいみなさん、お疲れ様です。はい、チーズ」

 

 

 

 

 

 

話は再び、第四特異点攻略後のカルデアに戻る。

藤丸立香の昏睡事件から数日後、無事に立香は眠りから目を覚ました。

メディカルチェックの結果も良好。どこにも異常はなく、すぐにでもグランドオーダーに復帰できるらしい。

 

「そうか、巌窟王か」

 

談話スペースに腰かけて立香から聞いた話を整理すると、彼はソロモン王の邪視を受けて魂を夢の監獄に囚われてしまったらしい。

だが、巌窟王と名乗るサーヴァントの力を借りることでこれを脱し、目覚めることができたのだそうだ。

巌窟王というのは恐らく、モンテ・クリスト伯かその本名であるエドモン・ダンテスのことだろう。

友人達に裏切られて監獄に捕まり、脱走の後に彼らを仇と狙う復讐者。

アヴェンジャーというクラスに相応しい男だ。

そして、何故自分ではなく立香がソロモン王の手にかかったのか。

それはロンドンでの邂逅の際、アナスタシアが自分の視界を凍らせたからだ。

故に魔術王と視線を合わせずに済み、彼の呪いを受けることなく帰還することができた。

恐らく、立香を診た時も彼女はそのことに気づいていたのだろうが、マシュを心配させるだけだと思い、口を閉ざしたのだろう。

 

「彼とはまた会える気がするんだ」

 

「監獄塔に囚われた復讐者か……お前も負けず劣らず厄介な縁を持ってくるな」

 

時計のアラームが鳴る。

リハビリの時間だ。

ロマニの見立てではもう少し体が動くようになれば、グランドオーダーに復帰してもいいとのことだ。

いいかげん、実戦から遠のき過ぎて体も鈍っている。未だ強大な力を持つ魔術王への不安はあるが、だからといってカルデアで大人しくしている訳にもいかない。

何もしなければ2017年が訪れない以上、とにかく行動し続けなければならない。

 

「カドック、写真落ちたよ」

 

「ああ、すまない」

 

「あの時の写真だね、俺も持っている」

 

「ゲオルギウスが撮っていたんだ。もう、随分昔みたいな気がするよ」

 

写真をポケットに収め、立香に背を向けて歩き出す。

立香もまた、自室に戻るために通路の反対側へと歩き出した。

2人は知らない。

その何気ないやり取りが、次の特異点で起こるある出来事を暗喩していたことに。

 

 

 

A.D.2009 獣国音楽祭 アナスタシア

人理定礎値:-

放映終了(ご視聴ありがとうございました)




というわけで書いてみましたオリジナルイベント。
配布鯖……星4ルーラー・アナスタシアか星4バーサーカー・アナスタシアでどうでしょう?

次回は5章なのでしばらく構成煮詰めるために北米プレイバックします。
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