とある科学の刀剣使い(ソードダンサー)   作:御劔太郎

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第13話 サイレントマジョリティー 後編

「どうして、紅月くんがこんな所に?」

 

初春の質問に対して、詩音が静かに口を開いた。

 

「知ってたから……」

 

「え……?」

 

「レベルアッパー……佐天さんが僕たちに黙って使っていたことだよ。ここ数日、佐天さんの様子がおかしかったでしょ?」

 

「え、ええ……それは………」

 

「僕、隠れて彼女の事を探ってたんだ。それで知ってしまったんだよ……キミとの通話も全て聞いてた……」

 

「知ってたんですか……じゃあ、どうして佐天さんがレベルアッパーを使うのを止めなかったんですか!紅月くんが止めていたら、佐天さんはこんなことにはならなかったのに!」

 

佐天が意識を無くしたのは、あたかも詩音に責任があると初春が責める。

 

「その言い方、なんかムカツクな~?」

 

「きゃッ!!?うく………ッ!」

 

詩音は責める初春の胸ぐらを掴み上げた。

そして、冷めた視線を彼女に向ける。

 

「は、放してくだ……さい……」

 

苦しそうな初春……

 

「お、お願い……」

 

「お願いしますだろッ!!?」

 

「す、すみません……お願いします……」

 

普段とは違う詩音の視線と迫力が恐ろしく初春は泣いていた。

詩音は、ようやく彼女を解放する。

咳き込む初春は、彼を睨み付けた。

 

「おや?何だい?その目は……この状況に陥ったのは、自分のせいだろ?佐天さんが気を失ったのは、僕のせいじゃないよね?」

 

「だ、だけど友人として止めることは出来た筈です!」

 

「それじゃあ、ダメなんだよ……人は失敗して始めて成長する。佐天さんを成長させるためにわざと止めなかった。これも一つの優しさだと思うよ?」

 

「それは違うと思います……私は紅月くんの考えは認めません!」

 

「お、言うね~まあ、こんな事で言い争いをしてもラチが開かないし、僕は行くよ……」

 

「行くって、どこにですか?」

 

「もちろん、レベルアッパーをばらまいた犯人の逮捕だよ。」

 

「佐天さんには着いてはあげないんですか?」

 

「それは、君の役目だろ?それに咎は受けるさ……全てを終わらせた後でね。」

 

「え?」

 

そう言って、詩音は部屋を出ていった。

 

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佐天さんが意識不明になった。

その情報を聞いた幾人かは壁に拳を打ちつけ悔しさを露わにし、また幾人かはすぐさまその病院へと駆けつけた。

 

「黒子! 佐天さんはッ?!!」

 

駆けつけた者の一人である美琴は病室の前で、ベンチシートに座り込む黒子に駆け寄る。

出来れば何かの誤りであってほしいという微かな願いは、力なく首を横に振る彼女の前にあっけなく消えてしまった。

 

「意識不明……とのことです。症状からして、レベルアッパーで間違いないかと……」

 

「ッ!!?そう、なの……」

 

ふと思い出すのは、佐天と最後に会って交わした言葉。

 

『(レベルなんて、どうでもいいこと……)』

 

もしも、彼女の悩みが能力(レベル)に関するモノなのだとしたら……

美琴が力の限りに拳を握り締めた。

 

「(どうでもいいことなんかじゃないのに……佐天さんにとっては大切なことだったかも知れないっていうのに……ッ!)」

 

扉の窓から僅かに見えた眠っているようにしか見えない佐天。

しかし、その体が動くことはなく、今は意識を戻す手立ても分かっていない。

美琴のせいではないと誰もがその意識を訂正するだろう。

それでも、美琴は自分を責め続けた。

 

「それで、初春さんと詩音は?……」

 

「初春は木山先生のところへ……一刻も早く、佐天さんを快復させるための手立てを見つけるんだと……詩音さんは……連絡が取れませんの。」

 

「アイツはこんな時に何にしてんのよッ!」

 

美琴は初春さんを心配する反面、連絡すら取れない詩音に苛立ちを隠せないでいた。

 

「黒子!私にも手伝わせて……大切な友達がこんなことになってるっていうのに、指を咥えてるだけなんて出来ないわよ…ッ!」

 

「……分かりましたわ。第一、止めて止まるようなお姉様ではありませんものね。」

 

苦笑を浮かべる黒子に苦笑で返し、お礼と共にその肩を軽く叩く。

それが丁度、ケガをしている腕のほうだとは露とも知らない美琴。

痛みを一切出さすに言葉を返した黒子は拍手されてもおかしくは無いほど頑張っていた。

ばれないように肩をかばいつつ、捜査に戻る為に病院を後にしようとしていた二人の前に以前、詩音の担当医となったカエル顔の医者がふらりと姿を現した。

 

**********************************************************************************************************************

 

一方、詩音は第一学区にある風紀委員の本部へとやって来ていた。

そこに置かれた一室は、風紀委員長である詩音だけが入れる執務室がある。

執務室というには、あまりにも広く豪華なものだ。

 

「あら?珍しい人がいるわね……」

 

一人の女子生徒が詩音に声を掛ける。

彼女は『瀬田つかさ』。霧ヶ丘女学院に通う高校二年生である。

レベル4の風力操作系の能力者である。

彼女は風紀委員の副委員長であり、詩音の補佐を兼任している。

 

「珍しいとは失礼な。時々は戻って来てるでしょう?」

 

「それがいけないんです!毎日のように一七七支部に入り浸って……アナタは仮にも風紀委員長、自覚を持ってください!」

 

「自覚は持ってるよ。証拠に仕事はきちんとこなしてるでしょ?」

 

「8割方は私がしてますけどね?自分のとは別に……」

 

嫌味ったらしく詩音を見るつかさの視線がヒジョーに痛い。

 

「うー……じゃあ、次からは頑張って3割はするよ。」

 

「全部やってください!ハァ……それで?今日はどうしたんですか?」

 

「別にたいしたことじゃないよ。」

 

そんな事を言ってはいるが、詩音が本部にやってきた理由……

それは、これから起きることに対する装備を整える為だった。

と言っても、詩音の武器は愛刀の絶影だけなので、防具その他を揃える。

 

服は普段から着ている柵川中学の制服から、淡い薄むらさきに桜柄の刺繍が施された振り袖着と袴に着替え、靴も学校指定のローファーから頑丈なブラウンカラー本革のロングブーツに履き替えると、袴の裾を邪魔にならないようにブーツに綺麗に入れた。

 

防具として、学園都市に置かれた紅月家の息の掛かる造兵工廠に特別に作らせた超高分子量ポリエチレン繊維と強化プラスチック複合の胴当て、両手には防弾・防刃繊維で編まれた籠手を、籠手と同様の特殊繊維で作られた腰部と局部を守る垂を装着した。

 

詩音は文字通りの勝負服へと着替え終わる。

 

そして、詩音は机に向かい引き出しに手をかけた。

中から出てきたのは、黒いヘッドセット……

学園都市のとある研究機関が開発した最新鋭の物だ。

コンパクトな見た目からは想像が付かないような性能を誇っている。

詩音はそのヘッドセットを頭に装着すると同時にシステムが起動した。

ヘッドセットから赤い光が左目に照射され、網膜に直接、情報が表示される。

 

「久しぶりに使ったけど、調子は良さそうだね。えっと、一七七支部のパソコンにハッキングを掛けて……」

 

詩音は視線を動かすことで網膜に投影される情報を整理していく。

そして、詩音は自身の所属する風紀委員第一七七支部のウェブカメラにアクセスした。

 

「こ、固法先輩ッ!!?」

 

いきなり映った固法美偉の姿に詩音は少し驚く。

他にも、美琴と黒子の姿が見える。

 

「今、支部内にいるのはこの三人だけか……」

 

三人は何やら話しをしていた。

 

『なるほどね……そういうことなら、“書庫(バンク)”へのアクセス許可も下りるはずよ。能力開発を受けた学生はもちろん、医療機関とかにかかった大人たちのデータも保管されているから……』

 

『プライバシーや個人情報の塊ってことね……でも、なんでレベルアッパーを使うとその誰かの 脳波パターンが組み込まれるの?』

 

『しかもそれで能力のレベルが上がるなんて……それこそ、専門家でもない限りさっぱりですの。』

 

意図も分からなければ理論も分からないとお手上げの二人に対し、固法はパソコンを操作しながら考えをめぐらせる。

 

『確かに、コンピューターだって特定のソフトを入れたからって格段に性能が上がるって訳でもないし。まあ、ネットワークに繋ぐならいざ知らずだけど……』

 

彼女の呟いた豆知識に美琴が疑問を返す。

そもそも、ネットワークに繋がないコンピュータなどあるのかという疑問もあったが……

 

『えっと、ネットワークに繋ぐと性能が上がったりするものなんですか?』

 

『まあ、個々の性能が上がるわけじゃないわ。でもいくつかのコンピューターを並列に繋げば演算能力はその分上昇するし、可能性があるとしたらそのレベルアッパーを使って“脳”のネットワークを形成したってところでしょうね……AIM拡散力場を電波に、行き来するデータの統合をその脳波の波形にあわせたとしたら……』

 

二人が何とかギリギリ理解に追いつけるほどの 速度で固法美偉は理にかなった推測を打ち立てていく。

 

『脳の演算能力が上がれば、その分能力強度は増しますよね?』

 

『ええ……しかも、同じ能力の経験を共有すること でより効率的に能力を使えるようにもなるはずよ……恐らく意識不明者は脳の活動領域の全てを演算処理に使われていると考えられるわ。出たわよ! 脳波パターン一致率97%……ッ!』

 

理論も殆ど推測し終わり、検索もまず間違いなく当人であるという結果がはじき出された。

画面に映し出された、見慣れた女性……

照明写真でも変わらないクッキリと刻まれた隈と、ぼさぼさの背中まで伸びた茶髪。

 

『……なんで、この人が出てくるのよ。』

 

『木山春生』が、そこにいた。

なにかの間違いではと思い何度も確認しようと名前も所属も見知ったものでしかない。

 

『ちょっと待ってくださいな! 今、初春はその木山春生のところへ行っているのですよ……ッ!!?』

 

木山先生がレベルアッパー事件になんらかの関わりがあることは間違いなく、もしかしたら犯人そのものかも知れない。

今、そこへ、事件の真相にいたるだろう内容を聞きに向かっている初春。

黒子は携帯電話を取り出し、彼女に連絡をとる。

 

『……ダメですの! 初春と繋がりませんのッ!』

 

初春の携帯電話はコール音すら流れず、電波か電源かの問題を指摘する機械音声の案内のみ。

 

「意外だったな…木山先生が犯人だったのか。」

 

事件の真相が分かった詩音は支部のウェブカメラへのアクセスを止めて行動を開始する。

 

「初春さんも先生と一緒にいるとしたら……」

 

詩音は警備員(アンチスキル)のメインコンピューターにアクセスし、木山先生の車の車種とナンバーを検索にかける。

その後、自動車ナンバー自動読取装置を使い、木山春生のあとを追うのだった。

 

次回に続く。




今回、詩音くんが着替えた勝負服のイメージは『犬夜叉』に登場する“殺生丸” です。
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