とある科学の刀剣使い(ソードダンサー) 作:御劔太郎
ただ一言、『ネットワークの暴走』とだけ呟き、彼女は力なくその場に倒れ込んだ。
先程の打撃のダメージが今になって現れたのかと考えた詩音だったが、すぐに違うと察する。
木山先生の頭から幽体離脱でもするかのように、得たいの知れないソレは姿を現す。
ソレの持つ色彩は肌色。
ソレには二つの眼がある。
ソレには両手・両脚がある。
そこまで言えば『人間』のようだがソレを『人間』と呼ぶことは決して出来ないだろう。
ソレの頭上には、普通の人間なら持っているはずのない『天使の輪』のようなモノが存在した。
ソレは胎児に似た『怪物』だった。
「何だよ………アレ………」
詩音が呆然と呟く中、怪物がその口を開く。
「〰〰Giovsduobvnrwuーーッ!!!」
言語になっていないノイズにまみれた雄叫び………
しかし、それは圧倒的な破壊をもたらすもの。
絶叫と同時に猛烈な突風が巻き起こり、先ほどの戦闘で散らばっていた地面の瓦礫を纏めて吹き飛ばした。
「く……ッ!」
詩音は咄嗟に地面に絶影を突き立てて、吹き飛ばされまいと耐えるが、突風の威力は彼の想像を越えており、詩音は十数メートル飛ばされて地面に叩き付けられてしまう。
「ゴホッゴホッ!……もう、いったい何だって言うんだよッ!!!」
反撃と言わんばかりに、詩音も怪物に向けて飛ぶ斬撃『鍔鳴り・凱鳥』を放った。
『ズパンッ!!!』という音と共に放たれた斬撃は怪物の背を削ぎ落とす。
削ぎ落とした肌色の部分からは、肉のようにも見えるが、当の怪物は何ともない様子だった。
だが、詩音を敵と見なしたのかギョロリと赤い瞳が彼を捕える。
その直後、怪物の周りに無数の氷塊が出現し、全弾が詩音に向かって放たれる。
「チィッ!」
放たれた氷弾に対し、即座に『凱鳥』で迎え撃とうする詩音だった。
しかし、『ジュッッッッッ!!!!!!』と、詩音の斬撃よりも早く、氷弾よりも多い数の電撃の槍が全てを破壊する。
放たれた電撃の槍が高熱だったのか空気が熱せられる嫌な臭いが鼻を突くが、今の詩音には、そんな事は気にも留らまなかった。
「今のえげつない電撃は…………ッ!!!」
詩音は恐る恐るゆっくりと振り返り、電撃の発射源に視線を向ける。
そこに立っていたのは、青白い火花を散らしながら、仁王立ちをする美琴。
「アンタはこんな所でナニやってんのよ!」
「何って……見れば分かるでしょ?木山先生の逮捕と怪物退治ですよ。」
「そんな事は分かるわよ!それよりもアレは何なの?」
「僕が知りたいですよ。あんな怪物(モノ)、初めて見ました……」
二人の話しの節を折るように、怪物が無数の光線を二人に向けて放った。
「おっと!」
一方、攻撃を放たれた側である詩音は鼻で笑いながらバックステップで躱す。
その足取りは軽く、この程度では、全くもって脅威にならないと言っているかのようだった。
「ほらほら、もっと狙ってやらないと当たらないぞ☆」
こんな危機的な状況も、詩音は明らさまに楽しんでいる。
「ちょっとアンタ!絶対に楽しんでるでしょッ?!!」
高笑いしながら、バク転まで決める詩音。
そんな彼に、美琴は思わず声を荒らげる。
美琴の声で詩音は動きを止めて彼女の方に視線を向ける。
「御坂さん……アナタは初春さんの所に行ってきて下さい。」
「ハッ!!?何でよ?あの怪物を倒すなら戦力は少しでも多い方が………」
「まあ、それも一理あるけど、そうそう時間を掛けてもいられないですよ。」
なぜ、そこまで急ぐ必要があるのかと、美琴は頭に疑問符を浮かべる。
その答えを直接口にする前に、詩音はある一点に指先を向けた。
そこに有るのは、家や高層ビルなどとは全く別物の巨大な建造物。
「知ってる?……アレ、原子力実験炉…………」
『ブッ!!!』と何とも気軽に言ってのけた詩音に思わず美琴は吹き出した。
「だったら、なおさら一緒に倒した方が良いんじゃ!」
「いや、それよりも初春さんと一緒にいる木山先生ならアイツの対抗するヒントぐらいはくれるんじゃないかな?早く聞いて来てください。」
怪物との戦闘によって時間を喰うよりも、対抗策によって一瞬でカタを付ける方が簡単だと詩音は考える。
それに、下手をすれば戦闘の余波によって原子力実験炉が破壊され、高濃度の放射能が漏れる可能性すらあった。
「………分かったわ。けど、アンタには言いたい事があるんだから、勝手に死ぬんじゃないわよ!」
それだけ言って、美琴は初春さんと木山先生のいる場所に向けて駆け出す。
次第に小さくなっていく彼女の背中を見送ったあと、詩音は再び目の前で不気味に蠢く怪物へと視線を向けた。
「さあて、久しぶりに僕もフルパワーでやってみようかな?……二階堂兵法・影技、『氷鬼憑神の術』!」
そう言って、詩音は自身に暗示をかける。
この技は、『心の一方』で使用自身が自分に暗示を掛け、全ての潜在能力を解き放つ技である。
詩音はこの技を使うのは序列第一位である『一方通行』と戦った時以来だ。
だが、この自己暗示は諸刃の刃であり、肉体にかなりの負荷が掛かるらしく使用後は使用前より筋肉が萎縮して、力及び機動性が著しく低下してしまう。
「ここからがお楽しみだ………化け物………失望させてくれるなよ…………」
詩音の中に流れる幕末の志士の血が騒ぐ。
そして、詩音が地面を蹴った。
「我流、抜刀剣術、奥義ッ!『百花繚乱、乱れ散々桜』!」
次回に続く。