とある科学の刀剣使い(ソードダンサー)   作:御劔太郎

17 / 38
第16話 我流 抜刀剣術 絶技二の型 妖華狂月爪

満身創痍の木山春生は自身から出てきた得たいの知れない怪物を見ていた。

 

「は、はは……凄いな……あんな化け物が生まれるとは……学会で発表すれば表彰ものだな。」

 

木山は呆然とした様子で呟きながら、今まで自分がしてきた事を振り返る。

これだけの事をするのに何年もの時間を掛け、万全の準備をして計画を実行するはずだった。

教え子たちを助ける。

 

ただ一つの信念だけで、ここまで来たというのに結果は失敗……

苦労して構築したネットワークは彼女の手を離れ、子供達の回復は叶わなくなった。

 

「………お終いだな。」

 

自分以外、誰も聞く者はいないと思った言葉。

懐から拳銃を取り出し、そのまま自身のこめかみに当て、後は引き金を引くだけだった。

 

「諦めないでください!」

 

しかし、その悲痛な言葉を聞く者がいた。

彼女が声のする方に視線を向けると、そこには美琴と初春の姿があった。

 

「あ……」

 

初春の顔を見た直後、その顔が以前、教えていた子供たちの顔と重なる。

自然と思わず、木山の頬が緩む。

 

「……アレはおそらく、AIM拡散力場の集合体だ。」

 

「AIM拡散力場の?……」

 

「仮に『幻想猛獣(AIMバースト)』とでも呼んでおこうか……幻想御手(レベルアッパー)によって束ねられた一万人のAIM拡散力場…………それらが触媒となって生まれた潜在意識の怪物……言ってしまえば、アレは一万人の子供達の思念の塊だ。」

 

思念の塊と聞いて息を呑む美琴と初春。

その話を聞いた今なら、あの怪物が放つノイズ交じりの声が『悲鳴』のように聞こえる。

恐らく、その理由も能力に関するもの。

 

「〰〰yujbvkajksgfiksf〰〰ッ!!!」

 

ソレは一万人分の負の感情を束ねた怪物。

あの悲鳴は、どうにもならない感情をただ吐き出しているように見えた。

 

「……どうすれば止められるの?」

 

「フ、それを私に聞くのか?今の私が何を言ってもキミ達は信じな…………」

 

「…………私の手錠、木山先生が外してくれたんですよね?」

 

先程まで手錠の嵌められていた両手を突き出し、彼女の言葉を遮る初春。

それを見て呆れたように木山先生は視線を逸らす。

 

「単なる気まぐれだ……まさか、そんな事で私を信用すると?」

 

「それに………子供達を助けるのに、木山先生がそんな嘘をつく必要がありません。」

 

その時、木山先生の目には……

 

『先生の事、信じてるもん♪』

 

再び、教え子と初春の姿が重なって見えた。

 

「…………………」

 

木山先生は嬉しそうに微笑む。

犯罪者である自分を信じようなど、滑稽な話だった。

だが、その純粋さがひどく心地良く思える。

 

「『幻想猛獣(AIMバースト)』は、レベルアッパーのネットワークが生み出した怪物だ。ネットワークを破壊すれば、止められるかもしれない……」

 

「ハッ!」

 

初春さんは思い当たる節があったのか、ポケットからある物を取り出した。

手のひらよりも小さい、僅かな衝撃でも壊れてしまうかもしれない希望という名のマイクロソフトを……

 

「レベルアッパーの治療プログラム!」

 

「試してみる価値はあるはずだ……」

 

その時だった。

 

「ぐあァァァァーッ!!!!!」

 

方針が決まった事を確認する美琴の耳に、詩音の苦痛歪む叫び声が響く。

三人が詩音の方を見ると、怪物の触手に自慢の長髪を捕まれ、引っ張り上げられた詩音の姿があった。

彼の全体重が頭皮に掛かる。

想像を絶する痛みだろう……普段では絶対に見ることの出来ない表情だった。

 

「何てことだ……ッ!」

 

「詩音くんッ!!?御坂さん!早く助けないと!」

 

「ダメ!今、電撃を撃ったら詩音に当たっちゃう!」

 

絶対絶命の詩音だった。

怪物の爛々と光る赤い瞳が、詩音が睨み付ける。

今にも彼を喰い殺そうとしていた。その時!

 

「何、ガン着けてくれるんだ?この下等生物がッ!」

 

なんと詩音は、手に持っていた愛刀で捕まれた髪を切ったのだ。

切り離された詩音は、地面に落下した。

 

「鍔鳴り!凱鳥!」

 

**********************************************************************************************************************

 

ズバンッ!!と。

心の一方の影技で、潜在能力を覚醒させた詩音の凄まじい一撃が怪物の肉を深々と抉り取る。

 

「〰〰yusdvbhjyetuejbcx〰〰ッ!!!」

 

意味不明の叫びを上げながら、数多の能力を駆使して目の前の敵を討たんとする怪物。

 

無数の光線を……

無数の氷塊を……

無数の炎弾を……

 

しかし………

 

「無駄だって言っているだろがーッ!!!」

 

怪物の苛烈な攻撃を避けて、逆に激烈な斬撃を撃ち込む。

 

それでも、詩音の優勢とは言えない。

先程から怪物の身体や太い触手を斬り裂いた数は、既に両手両脚の指を使っても数えることは出来ない。

周囲には、あまりの威力に地面には怪物の攻撃によって出来たいくつものクレーターが……

だが、相手の驚異的な再生力によって、せっかく与えたダメージは瞬時に再生し、かなりの威力を持つ攻撃も全く意味をなさない。

そこに『バチィッ!!』と電撃が走り、怪物の肉を焦がす。

発生源に視線を向けると、いつの間にか美琴も戦線に復帰していた。

 

「………戻って来たっていうことは、対抗策が出来たんだよな?」

 

「それよりも、アンタ、髪を……」

 

「そんな事はどうだって良い!対抗策はッ!!?」

 

「あるわ!木山先生が言うには、アレはレベルアッパーによって生まれた思念の塊……AIMバースト。だから、レベルアッパーのネットワークを壊せばアレは倒せる。今、初春さんが治療プログラムを街に流してくれる! だから私達は……」

 

「皆まで言うな……ビリビリ!」

 

「ビ、ビリビリ…ッ!!?」

 

やる事はいたって、単純明快。

怪物の再生力を考えれば、周りへの被害も気にすることはない。

 

「やっぱり、コイツをバラバラに刻んだらいいんだなァァッ?!!」

 

「アンタ、今、私にビリビリって、言ったわねーッ!!!」

 

「ビリビリ!くれぐれも俺の足を引っ張るんじゃねェぞ!」

 

「また言った!私の名前はビリビリじゃない!御坂美琴よッ!!!」

 

さっきまでの美琴の心配顔はいざ知らず、今は互いにケンカ腰ながら、軽い準備運動と共に戦闘態勢を整えた。

そして…………

 

「〰〰iodhaval〰〰ッ!!!」

 

 

怪物の咆哮が引き金となり、激戦の第2ラウンドの火蓋が切って落とされた。

 

「我流、抜刀剣術ッ!百花繚乱、乱れ散々桜ッ!!!」

 

詩音は初速から自身の最高速度に達し、怪物に対して、常人には目にも映らない速さで無数の斬撃を叩き込む。

怪物の触手が、一瞬で細切れになった。

 

「どおぉりゃあァァァーーッ!!!」

 

美琴も間髪入れずに、渾身の電撃を怪物に放ったのだ。

伝説の存在である“風紀委員長(サムライ)”と序列第三位の“超電磁砲(レールガン)”が、その牙を剥く。

 

**********************************************************************************************************************

 

それを“戦闘”と表現するには、あまりにも苛烈すぎるものだった。

次第に激しくなる二人と一体が織り成す猛威を一言で表すのなら…………それは『災害』。

 

それぞれが人智を超えた力を有する者達の闘争は、その中心に入ろうと思う事すら躊躇われるため、余波で発生する爆音や衝撃波などまだ可愛いと思えてしまう。

だが、その原因となる彼等にとっては、その気持ちを昂ぶらせる狩場でしかない。

 

「ハハハッ!!!どうした、化け物ッ?!!お前のチカラはその程度なのかぁッ?!!」

 

現に、詩音は表沙汰になってはいないが、ジャッジメントの長であるという立場すら忘れ、嗜虐の笑みと共に圧倒的な暴力を振るっていた。

 

「ちょッ!!?アンタ、キャラ壊れすぎ!いったい、どうしたっていうのよ!」

 

「別に………あんなモン見て、ちょっと興奮しているだけだ!」

 

いつもと感じの違う詩音に美琴は戸惑いを隠せない。

一方のAIMバーストは二人に向けて氷塊や炎弾などの多種多様な攻撃を放つ。

だが、超人的な身体機能を持つ詩音に、攻撃をいくつ放った所で直撃する事はない。

美琴にしても、自身の身体から発せられる微弱な電気によって、攻撃を察知し、軽く回避する。

 

「おいおい……もっと気合いを入れろようよ、化け物……これじゃ、張り合いがないってもんだ!」

 

詩音が優雅に刀を振り上げた。 

 

「絶技、爆爪閃裂撃…………!」

 

斬撃を孕んだ猛烈な衝撃波がAIMバーストの体の半分近い部分を吹き飛ばす。

 

「やった!」

 

美琴はガッツポーズを取った。

 

「所詮はただの肉の塊、この程度か………」

 

詩音がAIMバーストに背を向けた。

その時だった………

 

「〰〰GJADMTGW〰〰ッ!!!」

 

耳障りな叫び声と共に、太い触手が詩音を凪ぎ払う。

 

「ガハッ!!!」

 

詩音は胃から内容物を吐き出しそうになった。

 

「詩音ッ!!!」

 

美琴が慌てて駆け寄る。

 

「詩音ッ!大丈夫ッ!!?」

 

「あ、ああ……抜かった…………」

 

AIMバーストは基本的に自身に攻撃を仕掛ける者にしか反撃を行わない。

故に、二人は不規則に迫りくる触手を回避しながら飛ぶ斬撃などを併用した攻撃と電撃を駆使し、原子力実験炉へと向かう怪物の進行を妨げる。

 

だが、相手の攻撃手段は触手だけではない。

それらを一点に束ねた中心から光が収束し、極大の弾丸となって豪雨のように撒き散らされる。

器用に回避していくが、無数に放たれたうちの一つが高架橋へと猛スピードで向かう。

今まさにレベルアッパーの治療プログラムをその手に持つ初春のもとへと………

 

「ヤバッ!!?」

 

視線の先に彼女の存在を確認し、焦りの声を上げる美琴。

 

現在、彼女の手に握られた治療プログラムだけが、この状況をひっくり返す事ができる最後の切り札………

 

それを失ってしまっては、最早その手立てはない。

そう思う美琴の目の前で、光弾は軌道を変化させる事なく初春さんの下へと直進し…………

しかし、光弾が初春に当たることはなかった。

 

「オレの友達(ダチ)に、手ェ出してンじゃねェよ……」

 

光弾の軌道を変えた張本人である詩音は気だるげに呟く。

 

「詩音くんッ!!!」

 

「オラァッ!!!さっさと走らんかァーーッ!!!オレたちの援護も絶対じゃねェゾぉーーッ!!!」

 

「は、はひ〰〰ッ!!!」

 

詩音が初春に向かって吠えた。

再び放たれた光弾の軌道を変え、さらにAIMバーストに反撃する。

攻撃を弾かれ、自身の肉を切り裂かれる怪物だが、そんな事には目もくれず三度同じ攻撃を繰り返す。

 

「攻撃が単純だな……つまらん!」

 

彼に向けて直進してくる光弾を飛ぶ斬撃・凱鳥で迎撃、軌道を変えようとした。

だが、その直後、詩音の迎撃が当たる前に放物線を描くかのように動きが変わり高架橋へと再び向けられる。

 

「(チッ! コイツ、自分で軌道を変えやがった!!?)」

 

一瞬の出来事に反応が遅れ、光弾が高架橋にいた初春の近くに着弾した。

もうもうと立ち込める粉塵。

次第に晴れていく粉塵、その中にいたのは、制服を身に纏い倒れた女子中学生…………………ではなく、大型の防護盾を正面に構えた警備員(アンチスキル)の“黄泉川 愛穂”とその後輩“鉄操 綴”が立っていた。

 

「アンチスキルも、ようやくお出ましかーッ!!!」

 

「無駄話してる暇があるなら、アレを止めておくじゃん!!!この子の事は任せろッ!私達が援護するッ!!!」

 

「フン、そりゃー心強いわァ。その言葉、信じるぜ……」

 

彼女の言葉を受け、詩音は怪物の前に立ちはだかる。

愛刀を持つ、手にも力が入る。

 

「ったくよ、さっきはよくもオレを出し抜こうとしてくれたなァッ!!?」

 

詩音が刀を振り抜く。

 

「お返し………だァッ!!!」

 

ゴッッッ!!!と放たれる一条の光線。

それは直ぐに詩音の放った絶技とぶつかり、大爆発を起こした。

それを起こした本人ですらどのような軌道を描くかは分からず、周囲に被害をもたらしていく。

 

「ちょッ、危なッ!!? こっちにも被害出てるってぇのッ!!!どさくさに紛れて私を殺したいのかアンタはッ!!!」

 

一部、被害を受けている者もいるが、詩音は全く気にする事なく追撃を加える。

だが、そこまでの攻撃を受けているにも拘わらず、AIMバーストの体は傷付いた部分の肉が盛り上がり、再生を繰り返すため決定打とはならない。

むしろ、その身体は巨大化していく。

もはや、人間(ヒト)が入り込める余地などない。

 

「〰〰hdlzknvldlavldjkpv〰〰ッ!!!」

 

永遠に続いていく可能性さえある応酬。

詩音も超人だが、さすがに限界がある

だが、その人ならざる者達の騒乱にも終止符を迎えた。

 

「……ッ!!!」

 

突然、脳内に響くような奇怪な音が流れ出す。

心地良いという訳でも気分が悪くなるという訳でもない、何の効果があるのかも分からない音楽。 

しかし、二人には心当たりがあった。

 

「これは………ひょっとして初春さんがッ?」

 

「どうやら、成功したみたいだな………」

 

初春さんが木山先生から受け取った治療プログラムが街中に流された。

それに呼応するかのように詩音はAIMバーストに対し攻撃する。

音速を容易く超えた一閃が、怪物の巨駆を切り裂いた。

再び再生されるかと思われたが、二度とその傷が塞がる事はなかった。

 

「気を抜くな! まだ終わっていない!」

 

いつの間に近寄ったのか、僅かに離れた場所から木山先生の声が聞こえる。

 

「ネットワークの破壊に成功しても、そいつAIM拡散力場が産んだ1万人の思念の塊! 力場を固定している核を破壊しなければ……ッ!」

 

今まで二つの目玉しか持たなかった怪物の身体から、新たに無数の目が飛び出した。

同時に、取り込まれた者達のものと思われる怨嗟の声が辺りに響き渡る。

 

『……………俺逹だって能力者になりたかった。』

『……………力が欲かった。』

『……………所詮、私たちは欠陥品……』

 

次々に放たれる哀しみの声。

その声の中には、彼が密かに思いを寄せる佐天の声もあった。

それらを聞いた詩音は首を鳴らし準備運動を始める。

 

「下がってろよ、木山先生(ネくら)。巻き込まれるぞッ!!!」

 

「ネ、ネくらッ!!?…………フン、構うものか。私にはあれを生み出した責任が…………」

 

「アンタが良くても、アンタの教え子はどうすんの?」

 

美琴から放たれた言葉に、思わず木山先生の心が揺れる。

 

「回復した時、子供達が一番に見たいのはアンタの顔じゃないの? ……こんなやり方しないなら、私も協力する。そう簡単に諦めないでッ!」

 

その時、身体を吹き飛ばされた事で一時的に活動を停止していたAIMバーストが活動を再開し、触手を鋭い棘のように勢いを付けて伸ばしに掛かった。

 

「あと……………」

 

無数の触手が僅か数mmにまで迫った瞬間、美琴から電撃が瞬き触手を弾き落とす。

 

「巻き込まれるってのは、ア・イ・ツにじゃねェ………」

 

「私たちが巻き込んじゃうって言ってんのッ!!!」

 

詩音は刀を鞘に戻し、鍔に指を掛け、右足を前に、左足を後ろに、前傾姿勢を取った。

 

「オレの全力を持ってヤツを粉微塵に吹き飛ばしてやるッ!!!ビリビリ、ヤツの体表を焼き払え………ッ!!!」

 

詩音がこれから使う奥義の名は『絶技、二の型、妖華狂月爪』……

絶技一の型である、『爆爪閃裂撃』の最上位の技である。

鞘走りを極限まで高め、そこから放つ衝撃波を孕んだ斬撃は進路上にあるモノを全て破壊しつくす。

ちなみに、この技を開発した二代目は当時の最新鋭の鉄鋼戦艦の装甲を斬り裂いて沈めたと言う伝説も残っている。

 

「任せなさい!行くわよ!」

 

「早くやれッ!!!もうおれ自身の限界も近いんだ!」

 

自身に暗示を掛けた詩音は限界を超えて満身創痍………

それもそのはず、木山先生と戦い初めてすでに一時間以上。

AIMバースト戦になってからは、100%全力を出している。

残り時間は3分を切っていた。

 

「いっけェェェーーッ!!!」

 

今までよりも強大な電撃が、怪物に向けて解き放たれる。

怪物は自身の目の前にバリアを発生させる事で電撃を逸らしていた。

 

「(あれは、私が使用したものと同じ誘電力場……やはり彼女の力では……それに彼は………)」

 

自分が行った時と同じように電撃を当てる事は出来ないと考える木山先生だったが、そんな彼女の目の前で、ボロボロと怪物の肉が削ぎ取られていく。

 

「(ッ!!? 電撃は直撃していない……だが、強引に捻じ込んだ電気抵抗の熱で、身体の表面が消し飛んでいる!私と戦った時は、全力ではなかったのか……ッ!!?)」

 

超能力者(レベル5)……

改めて、その規格外な力をその目で知り、驚愕に震える木山先生だった。

 

「良いぞ、ビリビリ!もう一踏ん張りだ。」

 

美琴の放った絶大な電撃で炭のように真っ黒に焦げたAIMバーストの体目掛けて、詩音は全身全霊を込めて全力で刀を振り抜いた。

 

「行くぜッ!我流、抜刀剣術!二の型!妖華狂月爪!」

 

次の瞬間、猛烈な裂風が黒く焼け焦げた体表を一瞬で吹き飛ばし、中にあったAIMバーストのコアを木っ端微塵に破壊した。

コアが消滅したことによって怪物も同様に消滅する。

 

「レベル0だって、こんなに強いんだぜ………?」

 

全力を出しきった詩音はその場に仰向けに倒れた。

 

やがて、警備員の増援が到着し、木山先生は抵抗する事なく拘束される。

これにより、『幻想御手事件』は完全に終結したのだ。

詩音は自己暗示の副作用から、体力の衰弱が著しく、さらに涙腺や鼻から血を垂れ流して、とても危険な状態だったので、すぐにアンチスキルの車両に乗せられて、病院に向かった。

事後処理を疲れた様子で見ていた美琴は、連行される木山春生が呼び止めた。

 

「キミたちには随分と世話になった。こんな状況で言う事ではないかもしれないが…………ありがとう」

 

「別に……結局、私たちは何の役にも立てなかったし………」

 

「そんな事はないさ………」

 

そう言うと、木山春生は手錠の掛けられた両手で美琴の手を握った。

 

「キミたちのような人間がいてくれただけで、心強かった……本当に、ありがとう…………」

 

「それで、子供たちの事はどうするの……?」

 

美琴としても気になる。

その言葉に木山先生はクスリと笑みを浮かべた。

 

「もちろん諦めるつもりはない。もう一度やり直すさ。刑務所だろうと世界の果てだろうと、私の頭脳はここにあるのだから………」

 

ただしと一度区切り………

 

「今後も手段を選ぶつもりはない。気に入らなければ、その時はまた邪魔しに来たまえ。」

 

「おいおい……」

 

その場にいた全員が苦笑いを浮かべる中、木山先生は警備員の護送車に乗せられ移送されていった。

 

次回に続く。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。