とある科学の刀剣使い(ソードダンサー)   作:御劔太郎

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第18話 炎天下での撮影も楽じゃないね……

着替え終わった詩音は、撮影のためにスタジオに向かう。

中に入るとすでに美琴たちが、彼のことを待っていた。

どうやら、詩音が一番最後だったようだ。

 

「おそい!」

 

開口一番に美琴に怒られる。

 

「すみません。でも待ち合わせって言うのは、遅れて来るもんでしょ?」

 

「バカ!それが許されるのは、女の子だけよ!それに何ッ!!?水着が“ふんどし”って!いつの時代の人間よ!」

 

「僕は完全なる現代っ子です!」

 

上には日焼け防止用の薄手のパーカーを纏い、下は淡い桜色のふんどしを着用した詩音は仁王立ちを決めている。

彼の後ろでは荒れ狂う白波が見えるようだった。

 

「もう、良いわよ……は~すみません。全員揃ったので撮影を始めて下さい。」

 

「分かりました。」

 

「え?このスタジオ、何もないよ?」

 

詩音の言うとおり、このスタジオには何もない。

背景、撮影機材どころかカメラマンすらいない。

 

「大丈夫ですよ。ほら、この通り……」

 

担当者がリモコンを操作すると、背景が常夏のビーチへと変わった。

 

「我が社のスタジオは、学園都市の技術の粋を結集して出来ておりますので……様々なシチュエーションに対応できます。」

 

「おおー」

 

「それにね、詩音くん!実際に触れる事ができるんだよ?」

 

佐天がCGで構成れたヤシの木に触れて見せた。

 

「では、撮影を始めます。撮影の際は自然体でお願いします。」

 

担当者の女性は、スタジオから出て行く。

スタジオに残った詩音たち……

 

「行っちゃいましたね……担当の人は自然体でって言ったけど、やっぱり撮影の人は男性なんでしょうか?」

 

初春の一言に婚后以外の女子たちは、緊張してしまう。

 

「怯えてなりませんわ!モデルは見られて初めて輝くのですよ!」

 

「そうです。堂々としとけば良いんですよ!」

 

詩音はどっからでも撮ってくれと言わんばかりに、腰に手を当て仁王立ちをした。

その時、スピーカーから担当者の声で、

 

「安心してください。撮影は全て自動撮影になっております。」

 

と案内がある。

 

「「「「「「「「「ヘ………?」」」」」」」」」

 

そして、水着の撮影が始まった。

婚后はイスで色々なポーズを決めている。

 

「いや~自然体でアレはないわ……」

 

苦笑いを浮かべる美琴、そこにやって来たのは黒子。

手にはサンオイル、空いている手はウニョウニョと怪しく蠢いている。

口からはヨダレをだらだら垂らし、頬を赤らめ、目が爛々と輝いていた。

まさしく、変態の鏡である。

 

「何よ!アンタ!」

 

背筋に悪寒が走った美琴が一歩後ろに下がった。

 

「何よって、ワタクシ達も自然体でサンオイルの塗り合いですわ……」

 

黒子が近づく度に、美琴は下がる。

そして、美琴は逃げ出した。

変態の前から全速力で………

 

「絶対にイヤ!アンタとなんか!」

 

「あ~ん、お待ちになってェ~!お姉さまァ~!」

 

二人の追いかけっこが始まった。

それを見る詩音たち………

 

「アレが自然体か~」

 

「私たちもあの二人に負けないように楽しみましょう。」

 

「「「「「は~~~い!」」」」」

 

相変わらず、婚后はポーズを決めている。

美琴と黒子は未だ砂浜を走っていた。

詩音たちは、ビーチバレーに興じる。

 

コート内には、詩音と佐天がチームを組み、初春と固法がチームになっている。

 

「頑張ってくださーい。」

 

「ファイトですわー!」

 

湾内と泡浮がコート外から応援した。

先攻は詩音チーム。

詩音の手には、スイカ柄のビーチボールがある。

 

「いきますよー!」

 

「どっからでも掛かってきなさーーい!」

 

気合いたっぷりの固法が構える。

その言葉に詩音の目の色が変わった。

本気モードだ。

 

「そーれ!」

 

詩音がサーブを放つ。

しかし、詩音の放つサーブは凄まじい速度と威力を誇り、咄嗟の反応が出来ず、ビーチボールは砂浜に突き刺さった。

 

「ひえェ~。」

 

「動けなかった……」

 

初春は尻もちを着き、固法は膝がガクガクと震えていた。

 

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ビーチでの撮影も終わり、次のシチュエーションはリゾートホテルのプールだった。

みんなで準備体操をしている中で、美琴は黒子に“フィッシャーマンズ・スープレックス”を決めている。

 

「ぐはァッ!!?」

 

婚后のセクシーポーズはより磨きが掛かっているみたいだった。

再び、シチュエーションが変わる。

今度は豪華なプレジャーボートでの撮影だ。

操縦席ではしゃぐ者もいれば、ボートに設置されているイスでリラックスしている者もいる。

ちなみに詩音は後者だ。

婚后はどれにも当てはまらず、船首で女豹のポーズをとっている。

 

**************************************************************************************************************************

 

そして次は、なんと……極寒の雪山だった。

なぜだろ?水着ではかなり無理がある。

詩音を含めて、みんながガタガタと震えていた。

黒子は必死に美琴の温もり求め、佐天と初春は詩音にしがみついている。

固法、湾内、泡浮の三人は自身の体を擦っていた。

 

「どうして、雪山なんでしょう?」

 

「背景に応じて、気温も変わるみたいですわね……」

 

「そんなのどうだっていいよ!だいたい、そこまでする必要があるのッ!!?」

 

黒子の猛烈なアタックを阻止しながら、後輩である湾内と泡浮の会話にツッコミを入れる美琴。

 

「まあ~それが学園都市の技術なんでしょう。」

 

「初春も割り切るなー!」

 

肝が座っている初春と正反対の佐天。

 

「婚后さんもいい加減にしないと、風邪ひくよー!」

 

そうなのだ。婚后はこの猛吹雪の中、凍えながらも撮影に専念している。

心配になった詩音は彼女に声を掛けた。

 

「だだだだ、大丈夫ですわ!わわ、ワタクシはモデル!いいぃぃ、如何なるときもオーダーに応えてみせますわ!………うぇ〰️っクシュン!」

 

無理がたたり、盛大にくしゃみをする婚后であった。

 

「言わんこっちゃない……」

 

「無理するからですわ……」

 

詩音と黒子がジト目で婚后を見ていると、またもや背景が変わる。

次は灼熱の砂漠だ。

炎天下の太陽に熱せられた砂の上で寝ていた婚后は熱さに耐えられず、「あっつ〰️〰️〰️っい!」と叫びながら飛び上がった。

 

「これは暑すぎ……」

 

「焼けますね……」

 

「なんでこんな極端な……」

 

茹だるような暑さでテンションもガタ落ちの美琴たち……

 

「でも、心頭滅却すれば火もまた涼しって言うじゃない?」

 

「何を馬鹿なことを……」

 

みんながみんな、おかしくなってきた。

そんなところに婚后がやって来て叫ぶ。

 

「水ッ!水〰️〰️〰️ッ!!!!」

 

するとどうだろう。

彼女の水の請求に学園都市の技術が完璧に応えた。

砂漠の次は、嵐の中、荒れ狂う波に揉まれる漁船の甲板の上だった。

必死になって近くの物にしがみつく。

 

「「「「「「「「うわぁァァァァ〰️〰️ッ!!!!」」」」」」」」

 

「って!水多すぎッ!!!!」

 

「だから!なんでこんな極端なのッ!!?」

 

「なんでしょう!この装飾過剰な船は〰️〰️ッ!!!!」

 

普段はおしとやかで物静かな湾内が珍しく絶叫していた。

 

「ど〰️〰️ッせ〰️〰️ッい!!!!」

 

そんな中、婚后は釣り竿一本で大物を吊り上げる。

 

「見て下さいな!見事なカツオ!!!!」

 

どや顔で胸を張っている婚后。

 

「残念!それは“スマガツオ”ですね!」

 

すかさず初春が訂正を入れた。

 

「ツッコむところ、そこじゃないだろう……」

 

「関西地方では“ヤイト”とも呼ばれているんですよ?」

 

佐天の素早いツッコミも気にせず、初春は魚の雑学を披露する。

 

「僕は絶対に刺身だな。」

 

「詩音さん、アナタのオススメする食べた方なんてどうでも良いですわ!」

 

黒子の叫びにも似たツッコミが響いた。

すると、何度目だろう……またもや、背景が変わる。

先ほどまでの嵐がピタリと止まり、星の煌めく美しい夜空ヘ変わった。

 

「止んだみたいですよ?」と初春が一言……

 

「わあ、きれいな星空。見てぇ……」

 

美琴は感激し、さらにひときわ大きく青い星を指差す。

その指の差す方に、他のみんなが目をやった。

 

「あそこに地球がぁ………ぁ……………って、月面かいッ!」

 

お手本のような、乗りツッコミを見せる美琴。

 

「でも、本当にきれいですね。」

 

「そうね……」

 

その時だった。

 

「皆さん!ご覧になって!アレは……ッ!!?」

 

次は何かに気付いた婚后が、別の方を指差して叫ぶ。

その方に目を向けると、そこにあったのは、明らかに自然の物ではない人工的な長方形の黒い物体がそびえ立っていた。

 

「「「「「「あ……………………………」」」」」」

 

その場にいた全員が呆気に取られていた。

そして、黒子の手には謎の大きな骨が………

 

「え?」

 

首をかしげる黒子。

そこに担当者からアナウンスが入る。

 

『すみませ~ん……ちょっと、調整しますので、景色変えますね?』

 

「今度はなんですのッ!!?」

 

黒子の本音が出たところで、次は青空がきれいなキャンプ場に背景が変わった。

テントが張ってあり、近くの机には魚介・肉・野菜・米・果物と色々な食材が置かれていた。

別の場所には、調理器具が並べてあった。

 

「キャンプ場?」

 

「ごめんなさい。あの~今、カメラのエラーが出てしまったんで、調整に少し時間が掛かるので、休憩しといて下さい。」

 

「休憩って………」

 

担当者が詩音たちのもとへ説明に来た。

そして説明も早々に担当者は、去って行く。

 

「あ、そうそう。その材料、本物ですからご自由にどうぞ。」

 

思い出したように、担当者が振り向き様に食材のことも言って、スタジオから出て行った。

 

「ご自由にどうぞって……どうします?」

 

佐天は固法に質問する。

 

「このシチュエーションに、これだけの食材……」

 

少し考えた固法が答えを出した。

 

「カレーしかないでしょ!」

 

調理場に移動したメンバーはカレーの調理担当とご飯の担当に別れる。

 

「じゃあ、ご飯とカレーの担当に別れましょう。」

 

年長者らしく、固法はリーダーシップを発揮し、組分けを始めた。

 

「私、カレーやりまーす!」

 

佐天は進んでカレー班に志願する。

 

「私も~」

 

初春も控えめにカレー班に手を挙げた。

 

「じゃあ、私はご飯やりましょうか?」

 

「お姉さまがやるなら、ワタクシも……」

 

美琴と黒子は、ご飯を炊く係りをかって出る。

 

「まったく、カレーなんて、そんな庶民の食べ物………」

 

そこへ婚后が、カレーヘの否定的な横やりを入れた。

 

「えぇ~カレー良いじゃないですか。」

 

佐天が反論する。

 

「カレー嫌いなんですか~?」

 

初春が聞いた。

 

「実はカレー、作れないんじゃないですの?」

 

黒子の言葉に、婚后はビクッと身を震わせる。

どうやら図星だったようだ。

 

「え、何を言っていますの!もちろん、作れますわ!婚后家に代々伝わる究極のカレーを……」

 

しかし、彼女は強がり、虚勢を張る。

 

「スッゴーい!どんなカレーなの?」

 

「えッ!!?」

 

美琴の質問に彼女は言葉を詰まらせてしまった。

 

「美味しそう!食べてみたいな!」

 

「ぜひ、作って下さい!」

 

佐天と初春が羨望の眼差しを婚后に向けている。

しかし、黒子はそんな彼女を信じておらず、懐疑そうに見ていた。

 

「いえ……今回は庶民のカレーを食べても良いかな~っと……」

 

婚后は何とかして逃げ場を作ろうとした。

だが、「じゃあ、両方作れば良いんじゃない?材料たくさんあるし……」と婚后には、とんでもない事を固法は言い出す。

 

「え?」

 

「いいですね!」

 

「賛成!ねぇ!」

 

「まあ~どうしてもって言うなら……」

 

「「やったー!」」

 

「じゃあ、そう言うことでそっちはよろしくね。私たちはご飯を炊くから……」

 

「「はーい!」」

 

「オホホホ………楽しみにしてらして!あ……あぁぁ………はぁ~」

 

彼女たちのおかげで、完全に後のなくなった婚后は、大きなため息を吐いていると、そこへ湾内が泡浮を連れてやって来た。

 

「あの~婚后さん?」

 

「は、はいッ!!?」

 

気が抜けていた所に、いきなり声を掛けられた婚后は驚いてしまい、少し声が裏返ってしまう。

 

「ワタクシたちもご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

「え、えぇ……どうぞ後づいいに……」

 

「「やったー!」」

 

「では、まず……玉ねぎの皮をを剥きましょう。」

 

「「はい。」」

 

婚后の指示を皮切りに三人は、カレーの調理を始めた。

ちなみに詩音は適当な理由をつけて、彼女たちの料理の行方を見守ることにした。

 

***************************************************************************************************************************

 

暇をもて余した詩音は、ご飯を担当している固法たちのもとへやって来た。

人数分のお米を黙々と磨ぐ固法の後ろで、美琴と黒子がガスコンロを弄っている。

 

「あっれ~?」

 

火をつけようとコンロの摘みを何度回して一向にガスが出ない。

 

「困りましたわね~?」

 

黒子もライターを持ってスタンバイしている。

 

「故障?」

 

固法も心配していた。

 

「どうしたんですか?」

 

詩音が三人に声を掛ける。

 

「コンロに火を着けたいけど、なかなかガスが出なくて……」

 

「ちょっと、貸して?」

 

詩音は美琴から受け取ったコンロを色々と弄ってみた。

 

「ガスはきちんとあるから、コンロが原因だね。無理して使うと危険だから止めた方がいいよ。」

 

「じゃあ、どうするの?これじゃご飯が炊けないわ……」

 

「任せて下さい。まだ方法はあります。」

 

詩音はそう良いながら美琴は見た。

 

「ヘ?私ッ!!?」

 

詩音と美琴、黒子は場所を変えて、詩音は近くにあったコンクリートブロックと金網を手早く組み立て即席の台を作り、その上にお米入れてた飯ごうをセットする。

 

「さあ、頑張って御坂さん!」

 

美琴が能力を発動する。

するとどうだろう……飯ごうがゆっくりと加熱され始めた。

 

「なるほど、IHですのね?うまいことお姉さまをつかいましたわね?」

 

「でしょ~♪」

 

詩音は得意気だ。

 

「話しかけないで、気をつけてないと吹き零れちゃうのよね……」

 

詩音や黒子とは逆に、美琴は電流の調整に必死なようだ。

そこへ固法が別の飯ごうを持ってきた。

 

「これもお願いね~!」

 

「えッ!!?まだ、あるんですかッ!!?」

 

気を散らした美琴は一瞬、電流を強めたために、飯ごうから一気に吹き零れてしまう。

 

「「あ………」」

 

「やっちゃった………」

 

***************************************************************************************************************************

 

美琴たちと別れた詩音は、婚后たちがうまくいっているのか心配になったので、一度戻って来た。

するとどうだろう。

彼女たちは玉ねぎを全て剥き真ん中の小さな芯だけが残っていた。

 

「(マジッ!!?玉ねぎ、全部剥く人の初めて見た……)」

 

詩音は自身の目を疑った。

 

「ずいぶん小さくなりましたね……」

 

「これどうすれば………」

 

「え~~っと……」

 

説明に困る婚后、どうやって誤魔化せば良いか悩むが、良い返しが思い浮かばない。

しかし、湾内が良いアシストを出した。

 

「あっ!これは、カレーの付け合わせの……!」

 

どうやら、湾内は付け合わせの“らっきょう”と勘違いしているようだ。

 

「一つの玉ねぎからこれだけしか取れないとは、なんて貴重な食品なんでしょう。」

 

泡浮も納得したようで、親友である湾内の説明に感心している。

 

「(いやいや違うって、らっきょうと玉ねぎはまったく別の物だから!)」

 

詩音は思わず、心の中でツッコんでしまった。

 

「そうですわね……勉強になりますわ。オホホホ……」

 

一方の婚后は二人に流されるまま、苦笑いをしている。

そんな彼女を見かねた詩音が、声を掛けた。

 

「婚后さん、大丈夫?何か手伝おうか?」

 

詩音の気づかいに婚后は、希望の光りを見出たのか、一瞬表情が明るくなるが、やはりお嬢様のプライドが許さないのか、すぐに詩音の気づかいを断る。

 

「申し訳ございませんが、ワタクシ、殿方の手を借りずともカレーなぞ完璧に作ってみせますわ!」

 

「(〰️ん、その自信がどこから来るのか分からないけど、ま、いいか……)そう、分かった。何かあったら遠慮なく言ってね?」

 

「えぇ……何かあったら言いますわ。ないと思いますけど……」

 

婚后は調理に戻った。

すると、詩音の後ろでカレーを作っていた佐天と初春が、カレーの具材の大きさについて言い争う声が聞こえる。

 

「やっぱり、ニンジンはいちょう切りですよね~」

 

「え?カレーに入れる時は乱切りじゃないの?」

 

「いちょう切りの方が可愛いですし、何より火の通りも早いですよ?」

 

「初春、分かってないなぁ~カレーの具材は大き過ぎず、小さ過ぎずが基本でしょ?」

 

「ウチのカレーは、野菜を細かくしてルーと一体化させて食べるんです!」

 

「いやいや!細かくなんてあり得ない!ジャガイモもちゃんと面取りして、見栄え良くするのが大事じゃん!」

 

「見栄えよりも味の方が大事です。」

 

「味だって美味しいもん!」

 

「「う〰️〰️ッ!」」

 

二人は睨み合って、互いに一歩も引かない状態だ。

 

「はぁ~二人とも落ち着いて!お互いに家庭の味ってものがあるんじゃないの?」

 

詩音が仲裁に入る。しかし……

 

「やっぱり、カレーの具材は譲れない!」

 

「私もです!婚后さんたちにも、聞いてみましょう!」

 

「婚后さん!野菜は大きい方が良いですよね?」

 

「いいえ、細かくですよね?」

 

「いい加減しなよ、二人とも………って、えぇッ!!?」

 

詩音たち三人は、婚后たちを見て驚いた。

彼女たちは、一生懸命におろし金でとうもろこしを芯ごとすりおろしていたのだ。

 

「とうもろこしの……」

 

「「すりおろし……?」」

 

その驚愕の光景に三人の思考が一瞬止まる。

今の今まで何を言い争っていたのか、忘れてしまうぐらいだった。

その後、婚后たちはトマトの表面の薄皮を向こうと、必死にピーラーを使っている。

 

「トマトの皮って……」

 

「剥きにくいですわね……」

 

次は、ワカメだろう海草を切ろうとしていた。

力で切ろうと包丁をグリグリと押し当てる。

 

「そして、ワカメをぶつ切りに……」

 

「切りにくいですわ……」

 

婚后もワカメとの格闘に額に汗が滲む。

指でも切るんじゃないかと、正直見ててちょっと危なっかしい。

そして、カレーに不必要なミカンを切り始める。

 

「ミカンを皮ごと輪切りに……」

 

「ひゃあ!!?果汁が目にッ!!?」

 

「やだぁ~泡浮さんったら~!」

 

湾内と泡浮は、婚后とは正反対で、本当に楽しそうだ。

婚后はそんな二人を尻目に、黙々とゴボウを切っている。

 

「どんなカレーが出来るのでしょうか?」

 

「初めて作るカレー、楽しみですわ。」

 

「食材も、とってもユニーク!ゴボウがカレーに合うなんて初めて知りましたぁ。」

 

「イチゴだって~♪」

 

「なんだかお腹がすいて来ましたね~」

 

「待ち遠しいですわ~♪」

 

二人の純粋な気持ちを踏み躙っていると、感じた婚后は食材を切るのを止め、包丁を台の上に置いた。

 

「あら?」

 

「ん?」

 

「婚后さん?」

 

彼女を心配した湾内は泡浮が声を掛ける。

 

「あの………」

 

「「……?」」

 

「実は……その……ワタクシ……本当はカレー作ったことがないですの……カレーはおろか、料理自体したことないんです……ごめんなさい。言いがかりじょう、引っ込みがつかなくて……」

 

婚后は謝った。

 

「それなら、カレーの作り方を教えてもらいましょう。」

 

「先程、あちらの殿方が困ったときは声をくれって言ってましたし……」

 

そして、婚后は詩音に助けを求めた。

 

「あ、あの……」

 

その後、詩音は懇切丁寧に婚后たちにカレーの作り方を教えた。

出来る限り、彼女たちに作ってもらう感じで……

婚后たちが調理を再開して、40分ほどでカレーが出来た。

また、彼女たちが色々切った食材などは、詩音が責任を持ってサラダやデザートなど無駄なく調理した。

 

「「「「出来たーー!」」」」

 

佐天と初春が作ったチキンカレーと婚后、湾内、泡浮が詩音のアドバイスを受けながら、作り上げたシーフードカレー、それに様々な種類のサイドメニューがテーブルを飾る。

 

「すご~い!サラダじゃなく、デザートまで……」

 

「いつの間に作ったんですのッ!!?」

 

「え?白井さんたちが、ご飯炊いてる間にチョチョイのチョイってね?」

 

「「「「「「「「へ、へぇ~~」」」」」」」」

 

隠された詩音の特技に、女子たちは唖然としていた。

 

「さあ、みんな。せっかくのカレーが冷めちゃうわよ!」

 

固法の言葉で各々席に座る。

 

「では、いただきます。」

 

「「「「「「「「いただきまーす!」」」」」」」」

 

「ハム………美味しい!」

 

「細かいのも味が出て美味しいね~♪」

 

「大きいのも美味しいです~」

 

佐天と初春は、どうやらお互いカレーが美味しかったようで、自然と笑みこぼれる。

仲直りも出来て一石二鳥だ。

固法と黒子はシーフードカレーを口にする。

作り手の婚后は、初めての料理だったこともあり、不安そうに二人の顔色を伺った。

しかし、その思いも杞憂だったらしく、二人の「美味しい」の言葉と笑顔に婚后はホッと胸を撫で卸した。

 

「良かったですね♪」

 

「頑張った甲斐がありました。」

 

湾内を泡浮の労いの言葉に嬉しくなった。

そして、自分のカレーをおそるおそる口に運ぶ。

味わって想像以上に美味しかったカレーに胸がいっぱいになった。

 

「どう?自分のチカラで作ったカレーの味は?」

 

「美味しいですわ……ありがとう。アナタのおかげですわ。」

 

「ワタクシ達からも、お礼を言わせて下さい。」

 

「料理のご教授、ありがとうございました。」

 

「もう、そんなこと気にしないで良いですよ。」

 

「つきましては、アナタのお名前を教えて下さる?」

 

「僕?……僕は紅月詩音だよ?」

 

「紅月詩音……分かりましたわ。紅月さん?アナタにワタクシは惚れました!」

 

「「「「「「「「「えぇッ!!?」」」」」」」」」

 

「今日からワタクシの恋人になる権利を与えますわ!」

 

「「「「「「「「「何ーーーーッ!!?」」」」」」」」」

 

「ちょっと、待ってよ。婚后さん!僕はそんなつもりで……」

 

「そうですよ!詩音くんは私と……」

 

「えぇッ!!?ちょ、ちょ……ちょっと、待って佐天さん!いつから詩音とッ!!?」

 

「あ、い、いや……////」

 

「どちらにせよ、彼はこの婚后光子がいただきますわ!オーホホホホ!」

 

「いいえ!詩音くんは私がいただきます!」

 

そして、佐天と婚后の詩音をめぐる争奪戦が始まるのだった。

 

次回に続く。


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