とある科学の刀剣使い(ソードダンサー) 作:御劔太郎
第七学区内に置かれた常盤台中学の学生寮。
ここに美琴と黒子は住んでいる。
夜の8時過ぎ……
首の骨が折れるような音が寮に響いた。
音の主は黒子、この“学生寮(キングダム)”を統べる寮監から制裁を受けたのだ。
「黒子ォォォ〰️〰️ッ!!!」
寮監に首を刈られ、黒子の無残な姿を見て美琴は恐怖した。
黒子を仕留めた寮監は、彼女の首根っこを掴むと、寮の外に面した路上に投げ捨てる。
「寮内での能力の使用は固く禁ずる……そうだったよな?御坂?……」
寮監の目には怒気が籠っていた。
「は、はひッ!!?」
寮監の鬼以上の表情に恐怖で顔がひきつる美琴は慌てて返事した。
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次の日、いつものファミレスで美琴は、黒子の愚痴を聞いていた。
「全く!……口を開けば、規則、規則、規則……!」
黒子は注文していたオレンジジュースを飲み干し、一緒に提供されたストローで、中の氷をつつき、あげのくの果てに勢い余って氷が飛び出し、美琴の方に転がる。
「まあ、仕方ないんじゃない?それが寮監の仕事だし……」
美琴は寮監のフォローを入れた。
「どうにかなりませんの?あの女……!昨日だって、ほんのちょっとお姉さまと戯れていただけですのに、なぜいつもワタクシだけがあのような目に……行けず後家のヒステリーにも程がありますわ!」
「行けず後家って……」
黒子の愚痴に苦笑いの美琴。
「本当のことではないですか!だいたい、女子寮みたいな男っ気のない所で働いているから、行き遅れになりますの!そのうくつをワタクシたちで、晴らそうなどとは良い迷惑ですの。」
当の寮監がいないことに、寮監をぼろっカスに貶す黒子であったが、ちょうどその時、美琴が窓を挟んで外を歩く寮監を見つける。
噂をすれば当の本人の登場である。
二人は彼女に見つからないように、慌てて身を屈めた。
「ウワサをすれば……」
「おかしいですの……」
「え?」
「あの寮監が、おめかししてお出かけするなんて……」
「そういえば、最近休みごとにどこかに出かけているみたいよ……」
美琴の言葉を聞いて、黒子が何かを察する。
「男ですわ!」
「はぁッ!!?」
「こうしてはいられませんわ!お姉さま!」
黒子は急いで店出て、寮監のあとを追った。
「ちょっ!!?黒子?」
美琴も黒子に続く。
そして、始まる寮監へ対する二人の尾行。
物陰に隠れながら、彼女をつけ回した。
「ねえ?どうするつもりよ?」
「あの女の弱味を掴むチャンスですのよ……」
「弱味って……」
「きっとお見合いですわ。あんな血も涙もない人でなしの行けず後家にデートする相手も居ませんもの。もっとも?見合い相手も相当なギャンブラーですわよねぇ?賞味期限切れ目前の女とお見合いだなんて……罰ゲームではないんですし!」
本当に口の悪い黒子である。
日頃のうっぷんか、止まらない止まらない……次々と寮監に対する文句や悪口が出てきた。
「そこまで言わなくても……」
呆れてモノも言えない美琴……
そうこうしているうちに寮監は一件のピザ屋に入って行く。
「「んん?」」
「ピザ屋でお見合い?」
しばらくして寮監が店から出てきた。
手には一人で食べるには、多すぎる量のピザを持って……
それを見た黒子は、また一つの仮説を立てる。
「寮監の見合い相手はイタリア人!名前はマルコですわ!」
「何でそこまで分かるのよ……」
ごもっともなツッコミを美琴が入れた。
そして、寮監はモノレールに乗り第七学区から出る。
「一三学区……?」
寮監が降りた駅は、第一三学区。
幼稚園や小学校が集中して置かれている学区だ。
「こんな所にいったい、どのようなの用が……?」
「ねえ?どこまで着いて行く気なの?」
「この目でマルコを見るまでですわ。」
二人が話していると、寮監は一件の建物の中へ入って行く。
そこには“児童養護施設あすなろ園”と書かれた表札が掲げてあった。
施設にはたくさんの子供たちが、元気いっぱいに外で遊んでいる。
「あ、おばちゃんだぁ~♪」
男の子の一人が寮監の存在に気づいた。
「お、おばちゃん………おばちゃんって誰のことかな~?お姉さんって言わないとあげないゾ☆ミ」
寮監は子供たちへピザをプレゼントする。
「わぁ~!ピザだ~!」
子供たちは滅多に食べることが出来ないご馳走に嬉しそうだった。
その様子を施設の敷地の外から見る美琴と黒子。
黒子はすぐにケータイを使ってあすなろ園について調べる。
「児童養護施設あすなろ園……ここ、“置き去り(チャイルドエラー)”の施設ですわ。」
「え?」
チャイルドエラーとは、学園都市における社会現象の一つである。
原則、入学した生徒が都市内に住居を持つ事となる学園都市の制度を利用し、入学費のみ払って子供を寮に入れ、その後に行方を眩ます行為。
「チャイルドエラーって、あの身寄りのない子供たちの?」
「はいですの……」
寮監と子供たちが話していると、彼女の前に50半ばの女性が現れた。
「いつもありがとうございます。」
女性が笑顔で寮監にお礼混じりの挨拶をする。
「い、いえ……////」
「子供たちも楽しみにしているんですよ?お姉さんいつ来るかな~って♪」
「私の方こそ遊んでもらってますから。」
「アナタのような方がボランティアに来て頂いて、本当に助かっています。ありがとう……」
頭を下げる女性。
「お姉さんも一緒に食べよ~よ~」
「えぇ。もちろん♪」
「やったー!」
みんなは施設内に入って行った。
その様子を見送る美琴と黒子……
「寮監のあんな顔、初めて見た………」
「ワタクシもですわ……まさか、このような所でボランティアをしていたなんて………」
「うん………」
「ちっとも知りませんでしたわ。寮監様がこんなに心根の優しい方だったなんて………」
「へ?寮監……様?……」
さあ、いよいよ黒子の様子がおかしくなって来た。
「それに比べ、ワタクシ“達”は行けず後家だの、ろくでなしだの、自分“たち”が恥ずかしいですの!黒子のバカ!バカ!バカ!…………」
手首がネジ切れんばかりの手のひら返しとは、このことを言うのであろう……
黒子は悔しさのあまり、柵を手で何度も殴っていた。
「“達”って……アンタだけでしょう……」
そんな黒子に、美琴は呆れ果てていた。
「ん?アレって………」
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「あーあ、たかがテスト点数が悪かったからってボランティアだなんて……」
「別に良いじゃないですか?何事も経験ですよ。それに子供たちと遊べて楽しいじゃないですか。」
「だけど、初春さんとあんなに勉強会をしたのに、ルイコが全く点数が取れないなんて……17点なんてどうやったら取れるのか、逆に知りたいよ。」
「うー!それは、言わない約束でしょー!」
詩音たちはあすなろ園でボランティア活動をしていた。
理由は三人の会話から察して欲しい。
「三人ともちょっと良いかな?」
詩音たちのもとに、30代前半の男性と50代半ばの女性がやって来た。
「まだ、挨拶してなかったね?コチラがこなあすなろ園の園長先生をしている、茂乃森カズコさん。」
「茂乃森です。今日一日よろしくお願いします。」
「「「よろしくお願いします。」」」
「ところで……あちらにいるのは、アナタ達のお知り合いかしら?」
園長の見た方に居たのは………美琴と黒子だった。
美琴は会釈をし、黒子は声はあまり出さずとも、ブンブンと手を詩音たちに振っていた。
「「「ええ、まあ………」」」
美琴と黒子が詩音たちと合流し、いつもの五人組となる。
「奇遇ですわね?こんなところでアナタ方とお会いするなんて……」
「御坂さんたちもボランティアですか?」
「あ……いや~~」
佐天の質問を笑って誤魔化す美琴。
「あれって白井さんのところの寮監さんじゃないですか?」
「一緒に来たんですか?」
「いいえ……これには読みどころの無い事情ってモノがありますの。」
「読みどころの無い事情って、大方、あの寮監さんをつけて来たんでしょ?あの人の弱味を握ってやるって……言い出しっぺは白井さんだろ?」
エスパー並みの読みを披露する詩音。
「どうして、そんなことが分かりますのッ!!?」
「やっぱり、アンタは能力者なのね?」
「だから、僕は無能力者ですって!白井さんの行動原理なんてアホにも分かるから……!」
「まあ、確かに……」
「お姉さま!そこは納得してはいけませんの!」
施設内では、寮監と子供たちが一緒に遊んでいた。
そこへ、詩音たちの担任である大圄と園長がやって来た。
大圄先生と寮監が園長を交えて会話している。
その様子を外から眺める五人……
「へえ……寮監さんもボランティアをしていたんですね?」
「大圄のボランティア仲間ってわけか……」
「あの方、大圄先生ってお名前ですの?」
「そうだよ。僕たちの担任の……」
「分かりました。お相手はあの方だったんですわね?」
黒子が何か推理した。
「え?相手って?」
「寮監様はあのお方に恋をしているんですよ。」
「「こ、恋ッ!!?」」
佐天と美琴がシンクロする。
「その恋……ワタクシ、白井黒子が実らせてあげますわ!」
黒子は自信に満ち溢れ、そのまま悦に浸っていた。
「黒子、大丈夫なの?」
「そうだよ。わざわざこんな面倒なことに首を突っ込まなくても……」
美琴と詩音が反対するも……
「ええ、良いじゃん!楽しそうで!」
「私も手伝います!」
「もー二人とも面白がちゃって……」
「大人の恋愛がそうそう簡単にいく訳ないじゃん。」
「そこを強引に行くのが、白井さんの凄いところ………」
その時だった。
初春の頭に黒子のげんこつが落ちる。
「あい、あう!」
「強引は余計です。殴られたいんですの?」
「うぅ………叩いてから言わないでくださいよ~白井さん……」
さてはともあれ、佐天と初春の二人が黒子に見方し、多数決により寮監の恋を成就させる計画が始動する。
「さあ!早速、作戦会議ですわよ~!」
「ちょ、ちょっと黒子ッ!!?」
「ほら、詩音くんも!」
「ええッ!!?」
「急いで、急いで!」
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その日の夕方、寮監が女子寮へと帰ってきた来た。
帰りに寄り道でもしたのだろう。
手にはコンビニのビニール袋を持っていた。
玄関の扉を開けると、そこに居たのは白井黒子……
その後ろに美琴が緊張しながら立っていた。
「おかえりなさいませ、寮監様……」
黒子が一つのおしぼりを寮監に差し出す。
「何のマネだ?白井?……」
「タオルは不要ですか?ではお荷物をお預かり致しますわ……あらあら、今日は発泡酒ではなくビールですか~何か良いことでも?」
黒子は寮監の荷物を自然と受け取ろうとしたが、彼女の怪しさを感じ取った寮監は、半歩後ろに下がる。
「いったい、何の冗談だ?また、首を刈られたいのか?」
首を刈る……その言葉に黒子と美琴の時間が止まった。
しかし、その気まずい雰囲気を打ち破るように黒子が攻める。
「ワタクシ!寮監様のお力になりたいんですの!悩みなり相談なり、色々とこの白井黒子にお話しください!」
「私が貴様に相談?あるわけなかろうが。バカバカしい……」
「ワタクシ、寮監様のお役に立ちたいのですの。」
「ッ!何を企んでいる?白井……!」
眼鏡の向こうから伝わってくる寮監の圧がエグい。
「企むだなんて……ワタクシ、子供たちと仲良く遊ぶ寮監様のお姿に心打たれ尊敬の念を抱きましたのに……」
「いッ!!?なぜ、それを……」
「もちろん、大圄先生のことも存じています。ね?お姉さま?」
「へ?は、はい!」
美琴は慌てた。
「うげッ!!?」
黒子は寮監に捕まり、頭を捕まれる。
首が軋む、軋む……ヤバそうだ。
これでは、昨日の二の舞いになってしまう。
「だ、大圄先生がなんだと言うんだ!」
「だ、だから……ワタクシたちに…………」
「たちぃ~?」
「そ、そうです……ワタクシた、ちに是非とも、大圄先生との間を……受け持つ、キューピッドの……役を………」
必死に訴える黒子。
「入らん!そんなモノ!第一私は、大圄先生の事なんか……」
しかし、寮監は断る。
それと同時に黒子を解放した。
「どうか、ご自身の心に素直になってくださいまし……」
ここぞばかりに黒子が攻め立てる。
「本当はあのお方とお近づきになりたいのですよね~?黒子には何でもお見通しですの。」
「な、何を勝手なことを……」
動揺が止まらない寮監……
それをチャンスと見た黒子が、一気に攻勢に出た。
「苦節二十九年……今こそ恋の花を咲かせる時だと思いませんかッ!!?」
「し、知らんッ!」
寮監は自室へ帰ろうとした。
「行けず後家でよろしいのですか?そのまま一生を棒に振っても!!?」
黒子が爆弾を寮監に投下……
寮監の足が止まる。
さすがに美琴もこれはマズイと思った。
「く、黒子!」
「もう、このチャンスを逃したら次はないかもしれない……ここは百戦錬磨の白井黒子に任せて下さいですの、寮監様!」
「も、もうそれくらいに……」
美琴が止めに入るが、もう黒子は止まらない!
そして、黒子は寮監に向かってとどめを刺す。
「寮監様のご矜持、ワタクシたちにお見せ下さい!」
「本当か?………」
寮監が折れた……
「本当に相談に乗ってくれるのか?」
振り向く寮監の瞳は、恋する一人の女になっていた。
「へぇッ!!?」
美琴は驚く。
黒子はガッツポーズ。
「もちろんですわ!」
「えぇーーーッ!!!!」
次回に続く。
みなさんのおかげでお気に入りが100人超えました。
ありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いします。