とある科学の刀剣使い(ソードダンサー) 作:御劔太郎
姿は読書のみなさんの想像におまかせします。
ここは第三学区……
外部からの来賓をもてなすために、プライベートプールや高級ホテル等がある。
その学区内にある高級ホテル“プレジデント・ウェルキソン”は、高さ356m、75階建ての超高層ホテルであり、またとりわけ宿泊費が高く、通常の部屋でも百数十万円~スイートルームにいたっては、軽く300万円を超えてくるから驚きだ。
なぜ、そのような話しをするのかと言うと、そのホテルの最上階と屋上の2フロアが詩音の居住区画であるからだ。
豪華な調度品、きらびやかな内装、どれを取っても一級品。
なぜ詩音が、この様な場所に住んでいるのかと言うと、彼はジャッジメントの委員長……すなわちトップであり、また紅月家はこの学園都市建設の際に莫大な出資金を出している他、国を裏から牛耳る貴族の一員であるため、それなりの見栄と待遇は必要であるが、それでも学園都市最強のレベル5たちを超える、破格の待遇だと言えよう。
このクラスの部屋に宿泊するなら、一泊1000万以上はするだろうが、彼はそこに暮らしている。
暮らすとなると、経費含めいったいいくらになるのか、検討も付かない。
朝6時30分……
アラームが部屋に鳴り響き、ベッドで寝ていた詩音の目が覚める。
「う~ん………」
まだ眠たいのか、ベッドの中でもぞもぞと動いて一向に起きようとしない。
そこへやって来たのは、副委員長であるつかさ……
彼女は自身の学校の制服にエプロン姿と言う男心をくすぐる格好をしている。
なぜ、つかさが詩音の自宅にいるのかと言うと、彼女は詩音と同棲しているのだ。
決してやましい関係ではない。
あくまでも、詩音の本命は佐天であり、つかさとは仲の良い姉弟と思って貰いたい。
「いい加減に起きたらどうですか?今日は大切な日なんでしょ?」
「分かってるよ。つかさちゃん……」
「それに朝ご飯も冷めちゃいますから……!」
つかさが詩音と格闘すること10分……
彼が、ようやくベッドから出てくる。
「はぁ……おっくうだ……」
詩音は起きて早々、大きなため息を一人ついていた。
理由は十日前にさかのぼる。
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詩音が通う柵川中学校……
1学期の終業式の日クラスの学活にて、担任の大圄先生から話しがあった。
「えっと……先生からみなさんに相談事があります。」
「え?」
「何?」
「何だろう?」
色々なところから、声が上がる。
佐天たちも例外ではなかった。
佐天は前の席に座っている初春の肩をシャープペンシルでつつく。
「ねぇ、初春……何か知ってる?」
「いえ、私は別に何も……」
「そっか~あ、詩音くんなら………ねぇ、詩音くん………」
佐天が後ろの席に座る詩音に声をかけようとした。
だが、彼女はすぐに諦める。
詩音は堂々と居眠りをしていたのだ。
佐天に隠れるように、うつ伏せになって……
昼行灯である詩音の得意技だ。
「あ、また寝てる……ほら、詩音くん。起きなきゃ……ッ!」
先生にバレないように詩音の体を揺すり、起こそうとする。
「う~ん……あと5分………zZzZ」
詩音は寝言を言って、全く起きようとしない。
「あと5分って。詩音くん、いつも寝てるじゃん!」
とうとう、佐天は回りに聞こえてしまう音量を出してしまった。
「どうしたんだ?佐天?」
「あ、いえ……別に何も………」
佐天は、あわてて自身を取り繕う。
「う~~!何で私が………!」
損な役回りになってしまった、佐天であった。
「あ、先生。詩音くんがまた居眠りしてまーす!」
彼の隣の女子生徒が手を上げて大圄先生に報告する。
いつものことながら、先生はため息をついた。
「はあ……またか……」
大圄先生は、詩音の普段からの体たらくから諦めている。
「そのままにしておきなさい。それで先生はみなさんに相談事があったけど、今、先生の独断で決めました。紅月に任せることにしました。」
「大圄先生。紅月くんに何を任せるんですか?」
初春が聞いた。
「ボランティアです。十日後に常盤台の学生寮で盛夏祭が催されるんだけど、人手が少し足りないと……先生の知り合いの寮監さんから連絡があって、それでみんなに相談したんだ。」
「それで、その手伝いに詩音くんを?」
「あぁ、そうだね。彼にもたまには頑張って貰わないと……」
佐天と初春には、少しモヤモヤしたモノが心に残るが、満場一致で話しはまとまった。
詩音が起きた頃には、学活は終わり、みんなは下校し始めている。
「ふぁ………よく寝た………」
「ホントだよ。」
「紅月くん、さっき学活で常盤台学生寮の盛夏祭のお手伝いのボランティアの話しが先生からあって、満場一致で紅月くんに決まってましたよ。」
「……………はあッ!!?何で?いつ決まったの?」
「詩音くんが居眠りしてた時に……」
「もう、どうして起こしてくれなかったの?」
「起こそうとしたけど、詩音くんはあと5分だけ~って起きてくれなかったよ。」
「完全に居眠りしていた紅月くんが悪いです……」
「先生に話してくる!」
詩音は職員室に急いだ。
十分後……ガックシと肩を落とした詩音が教室に戻ってきた。
「どうだった?」
「ダメでした……もう、向こうに連絡したあとだったよ。」
「残念でしたね……御愁傷様です。」
何気に初春が辛口コメントを吐いていた。
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盛夏祭の準備は苛烈を極めた。
たった一人の男手だ。
ありとあらゆる場所から要請が入り、生け花の準備、茶室の整備に来客用のバイキング料理の仕込みとうとう……常盤台の生徒や美琴、黒子などからこき使われ、昼行灯の詩音は死物狂いで働いた。
そして、盛夏祭当日の朝だ。
詩音が起きた頃、常盤台学生寮では美琴が目を覚ましたかと思うと大きなため息をつく。
「はあ……」
美琴は布団にくるまり、起きようとしない。
「お姉さま、朝ですわよ。」
黒子が部屋のカーテンを開ける。
朝の日差しが部屋の中を照らした。
「ついにこの日がやって来ましたのよ。」
「ついにって……」
気持ちの良い朝だが、美琴の顔は晴れない。
「今日はお姉さまの晴れ舞台!もっとも?お姉さまにとって毎日が晴れ舞台なんて日常茶飯事なことでしょうが……今日はひときわ特別、黒子はもちろん、寮生一同心待ちにしておりましたのよ。」
「晴れ舞台ねぇ………別に私じゃなくても、他にふさわしい人なんていくらでもいるでしょうに………」
美琴は布団の中で、もぞもぞと動き、愚痴をこぼす。
「まあ、ご謙遜を……!常盤台に腕多しと言いますけど、ここはお姉さまにと、満場一致で決まったではないですか?」
「まあ、決まった以上はしょうがないけど……」
いやいやながらも決定事項なので、仕方なく受け入れる美琴。
「さすが、それでこそのお姉さまですわ。さあさあ、お召変え、お召変え~♪」
鼻歌、下心混じりに黒子が美琴のまとっていた布団を取ろうと手を伸ばす。
「いや~ん♪」
しかし、黒子は美琴のエルボーがクリーンヒット、その勢いで吹っ飛ばされてしまった。
「言われなくても、ちゃんとやるわよ!決まった以上わね!」
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常盤台学生寮の寮祭、盛夏祭の開始時間が迫る。
他の寮生に混じり、美琴、黒子、ボランティアの詩音が並んだ。
寮生たちは全員、メイド服を着用している。
詩音も例外なく……
最初、詩音はメイド服を見て固まってしまった。
そして、寮監に尋ねる。
「あの、すいません……」
「何だ?」
相変わらず、寮監の目は怖い。
目力だけで人を殺せそうだ。
おそるおそる、詩音は話しを進める。
「えっと、僕も他の子と同じようにコレを着るんですか?」
「もちろんだ。」
即答。
「男モノの服は?」
「あるわけなかろうが……。」
これまた即答。
「僕、男なんですが………」
「諦めろ。」
一蹴された。
その後、仕方なく現実を受け入れることにした詩音は、愛刀“絶影”をロッカーに保管し、支給されたエプロンドレスとフリル付きのカチューシャ“ホワイトブリム”のメイド服セットに着替えた。
あの時、切ってしまった髪もセミロングまで伸び、その髪も邪魔にならないようにポニーテールにまとめる。
身支度を済ませて、メイド服姿となった詩音を見た常盤台生徒は、彼の変わりように唖然とする者や、うっとりする者など反応が様々だった。
美琴や黒子はと言うと、腹を抱えて爆笑していたそうだ。
そして今に至る。
「平素、一般に解放されていない、この常盤台女子寮が、年一度門戸を開く日……それが盛夏祭だ!今日は諸君らが招待した大切なお客様らが来場される。寮生として恥ずかしくない立ち振舞いをし、くれぐれも粗相のなきようにおもてなしするように!」
寮監の激励も終わり、盛夏祭開場となった。
詩音は美琴の隣に立ち、一緒に盛夏祭のパンフレットの配布をしている。
「別にこんな格好じゃなくても、おもてなしは出来るんだけど……」
メイド服に愚痴る美琴。
「本当ですよ……そもそも僕、男だし……これじゃ、ただの変態さんですよ……」
詩音も心のどこかで、いまだに納得出来ていないようだ。
「あら~?私的には似合っていると思うわよ?」
悪意たっぷり、笑いを堪えながら詩音をからかう美琴。
そんな彼女に、ちょっとムカッ腹がたった詩音が言い返す。
「御坂さんこそ、馬子にも衣装って感じでかわいいですよ♪」
「馬子にも衣装って、どういうことかしら?」
苦笑いの美琴に、パチッと青白い電流が流れる。
「さあ?ほら、御坂さん。お客様ですよ?笑顔笑顔。」
適当に話しをはぐらかす詩音。
美琴も慌てた様子で、笑顔になる。
「いらっしゃいませ♪ようこそ。盛夏祭へ♪」
「こちら、本日盛夏祭のパンフレットとなっております。」
詩音と美琴のもとにやって来た三人組の男子生徒に、それぞれパンフレットを手渡した。
すると三人組は、詩音や美琴をかわいいなどと煽て、写真撮影をねだってきた。
三人組は詩音が男だと全く気づいていない様子だ。
「申し訳ございません。寮生の撮影は、ご遠慮させてもらっております。」
「ご了承下さい。」
詩音と美琴は、頭を下げる。
しかし、二人に向けて、まばゆいフラッシュが何度もたかれた。
「だから、写真撮影は………!」
美琴の口角はひきつり、ボルテージが一気に上がる。
「良いねー!はーい!はーい!良いねー!」
美琴や詩音を撮っていたのは黒子だった。
俊敏に動き回り、色々な角度から二人をレンズに納めていく。
三人組の男子生徒たちも口をあんぐりと開けている。
「し、白井さんッ!!?」
「良いねじゃないわよ!何でアンタが撮ってんのよ!」
「誤解なさらないでくださいな。今日、ワタクシ黒子は盛夏祭の記録係……来年度の開催に向けて、こうして参考写真を撮っていますのよ~?」
高級一眼レフのデジタルカメラで取った画像を見ながら、にやけ顔の黒子。
男子生徒もそんな彼女にドン引きだ。
すばやく、掃けていく。
だが、黒子は美琴に対し不満を漏らした。
「ですが、お姉さま?このお召し物にも短パンとは、せめて詩音さんみたいにドロワーズをお履きになるなどした方が……」
「えっ、いつの間にッ!!?」
いつの間にか、取られていた詩音のスカートの中……
詩音は恥じらう乙女よろしく顔を赤くしていた。
さらに黒子は、再び美琴のローアングルを狙い、床に横になっている。
次の瞬間、美琴が電撃を放ち、黒子が構えていたカメラを破壊した。
「おわッ!!?」
「あのさ、黒子……来年度の開催に向けての参考に、どうして私や詩音のそのような写真が必要になるのか、教えていただけるのかしら~?」
美琴からのお仕置きとして、黒子は彼女からおもいっきり頬を引っ張られる。
しかし、痛い痛いと言いながらも、黒子は嬉しそうだ。
「どうやら白井さん、懲りてないみたいですね?」
詩音は、ボディスラムの要領で黒子を逆さまに抱え上げて頭部を膝の間に挟みこむ。
「ちょ、ちょっと待って下さいまし!詩音さんのお仕置きには、何のうま味もなく………ッ!」
黒子必死の説得も、詩音には届かず………
「問答無用!」
次の瞬間、そのまま両膝を曲げた状態で落下、膝をつくと同時に黒子の脳天をタイル製の床にたたきつけた。
「グヘァッ!!!?」
勢いで黒子の頭は床に突き刺さり、どういう原理で立っているのかわからないが、黒子は痙攣している。
「まあ、ざっとこんなモンでしょ?」
「だ、大丈夫?黒子……」
「え、ええ………」
返事があったので、まずは一安心と言ったところか……
そんな時だった。
「こんにちはー♪」
「相変わらず、やってますね~」
聞きなれた間延び声かする。
声をした方を見ると綺麗に着飾った初春と佐天がいた。
「うわぁ~!白井さん、今日は盛夏祭へのご招待ありがとうございます。なんと言っても常盤台中学の寮祭ですからね!」
お嬢様に憧れる初春の興奮度が、異常に高い……
佐天も彼女をやれやれと言った目で見ている。
「これはきっと、私たちの創造を遥かに越えた知らないことが、待ち受けているに違いありません!」
初春は目を輝かせていた。
「どういたしまして。そのご期待に添える“素晴らしい催しもの”もありますから、どうぞ楽しんで言ってくださいな。」
黒子は素晴らしい催しものと言う言葉に含みを持たせ、その際に一瞬だけ横目で美琴を見る。
一方の佐天は、ボランティアとして参加している詩音を探した。
「あの、御坂さん。詩音くんはどこにいるか、分かりますか?」
佐天は辺りをキョロキョロする。
まだ彼女は美琴の隣に立っている詩音に気づいていない。
単に美琴たちと同じ寮生だと思っている。
「ルイコ、僕ならここにいるよ。」
詩音が、佐天に声をかけた。
「「ええ〰️〰️〰️ッ!」」
すると声をかけられた佐天は盛大に驚く。
もちろん、初春も………
「どうして、詩音くんがそんな格好を……ッ!!?」
「これには深いわけが……………」
詩音は佐天と初春に事の経緯を話した。
「それは大変でしたね……」
「まあ……詩音くん可愛いし、良いんじゃない?」
「そうですよ。今日一日、その格好で頑張って下さい。」
「そんな……」
落胆する詩音であった。
「では、お話しも済んだ事だし、さっそくご案内を……」
黒子が先頭になって、佐天と初春を案内しようとすると……
「ちょっと待て~~」
誰かに声を掛けられた。
声の主は、詩音たち同年代の女の子。
詩音や美琴の着ているエプロンドレスとは違う色のモノを着ていた。
「白井~?ビュッフェの手伝いはどうするつもりだ~?」
「あぁーーー忘れてましたの………」
どうやら黒子には、別の仕事があったようだ。
「あの~この方は?」
初春が聞いた。
「あ~紹介するわ。コチラは繚乱家政女学校の土御門舞夏……今回の寮祭の料理も、彼女の学校に指導してもらったの。」
美琴が丁寧に紹介する。
「繚乱って、あのメイドスペシャリストを育成すると言われる……?」
「土御門舞夏である~。」
「で、コチラは私の友達の初春飾利さんに佐天涙子さん……」
「ヨロシク~♪」
「あの、ヨロシクお願いします。」
「困ったことがあれば、何なりと申すが良い。さあ行くぞ、白井~ッ!」
「へ?」
舞夏は黒子の首根っこを掴むと、引きずりながら連れていった。
「あの、え?ちょ、ちょっと待ってくださいまし……初春たちを放って置くわけには……」
「仕事は放って置いて良いと言うのか~?」
「えっと……決して、そのようなことは……………」
「行っちゃったね……」
「じゃあ、私たちで二人を案内するわよ!」
「そうですね。それで二人ともどこが見たい?」
ボランティアとして参加している詩音は、今回の盛夏祭の内容を隅から隅まで知っている。
そんな彼が聞いた。
そしたら、初春がいの一番に手を上げる。
「はい!はい!はーい!あります!行きたい所あります!ここと、ここと、ここからここまで、ズイーッと!」
いつもの初春と違う雰囲気にだじろいだ。
初春は案内役の詩音と美琴にパンフレットを見せ、それを指でなぞり、ルートを掲示する。
「えぇーそれって全部じゃん……」
佐天は自身のパンフレットを見ながら、初春にツッコミを入れた。
「佐天さん?今日はいつものおっとり初春とは違いますよ!もう、宣言しときます!リミッター解除ですから!」
「うわぁ~」
「ハハハハ………」
初春の気合いに詩音はドン引き、佐天は苦笑いを浮かべる。
「アチ!アチ!アチ!アチ!…………」
初春から噴き出す熱気に佐天は、さらされてとても暑苦しそうだった。
「じゃあ、順番に回って行きましょ?」
美琴はやれやれと言った感じで、案内を始める。
まず四人がやって来たのは、“シュガークラフト”が展示されている部屋。
中に入ると、全て砂糖で作られた人形や花、家をモチーフにした展示品など色々なモノが置いてある。
「うわー!こんな展示があるなんて、さすがはお嬢様学校ですよね!佐天さん?」
「へぇー良く出来ているなーでも、これって本当に全部砂糖で出来ているのかな?どれどれ……」
佐天は花束を模した展示品から、花びらを一枚取ると、それをおもむろに口の中に放り込んだ。
初春がそんな彼女を見て悲鳴を上げている。
「うげぇ……果てしなく砂糖だね。」
「当たり前だよ。シュガークラフトだもん……」
「ダメですよ!佐天さん!展示品を勝手に食べちゃ!」
初春は佐天を注意した。
「初春さん、別に気にすることはないよ。」
「え?どういう事ですか?」
「ほら……」
詩音が指差した方を見ると、美琴が他の生徒からシュガークラフトを勧められていた。
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シュガークラフトの部屋を出た一行が次に向かったのは、ステッチが展示されている部屋だ。
大小の展示品が部屋の廊下の壁に飾られている。
「凄いなー!細かい仕事だね。」
佐天は展示品に感心していると、隣にいた初春が何かに気づいた。
それは、ブラックボードに書かれたステッチ教室の案内だった。
「佐天さん、佐天さん!体験できるみたいですよ!」
子供のようにはしゃぐ初春。
それを分かったと、まるで年上のお姉さんみたいに宥める佐天。
「御坂さんと紅月くんも一緒にどうですか?」
「え?私?私は別に……」
「僕も大丈夫。二人で楽しんでk………」
美琴と詩音は断ろうとしたが、初春は聞く耳を持たず、暴走している。
「はい!決まりです!四名お願いします!」
四人は中に入ると席に着き、渡された道具を始めた。
各々がステッチを作り始めて20分が経った。
「ふぅ~これは中々の出来ですよ!ほら、佐天さん……」
初春はステッチ初心者だが、自分の出来に納得したのか、佐天に見せようと、横から声を掛ける。
しかし、初春の動きが止まった。
佐天は器用にスーパーカーをデザインしていたのだ。
これでも、以前より腕が少しばかり落ちたらしい。
美琴は美琴で、あじさいとゲコ太を綺麗に刺繍している。
男の子である詩音なら自分より、あるいはと初春は思ったが、その考えは見事に打ち砕かれた。
詩音も見事なキルグマーのステッチを完成させていたのだ。
「んおッ!!?みんな上手すぎる……」
「初春さん、どうかした?」
「あっ、いえ……アハ、アハハハハ………」
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他にも、色々な展示を見て回った。
生け花に絵画、習字まで……
さすがお嬢様学校と言うだけあって、どれもハイクオリティーであった。
それに茶道のブースでは、何と詩音がお茶を点てて三人に振る舞ったのだ。
慣れた手つきの詩音、茶道を熟知している美琴、初春は彼の作法に感心し、佐天は厳かな雰囲気に緊張していた。
その後は寮の図書館で、本を読んだりして優雅なひとときを、満喫した初春たちであった。
「常盤台中学の寮祭、お見事ですわ。ワタクシ感服致しました。展示の一つ取って見てもワタクシの学校では決してマネ出来ないモノばかり……そう思いませんこと?ルイコさん?」
初春がお嬢様の空気によって、何やらおかしな事を言っている。
それを見かねた佐天は、彼女を現実に戻そうと、初春のスカートをおもいっきり捲り上げた。
ファサ~っと浮いた初春のスカートの中から、可愛いらしいアニマルプリントの下着が露になる。
見事な公開処刑だ。
「ひゃわぁぁぁぁ~~~ッ!!!?」
顔を真っ赤にしてスカートを、押さえる初春。
「な、何やってんですか!佐天さんッ////」
「お帰り~!いやぁ、どっかに行ってた見たいだからさ……」
「お帰り~じゃ、ありませんよ!私!どこにも行っていません!」
初春と佐天がそんなやり取りをしていると、常盤台の生徒と話す詩音の声が聞こえてきた。
「はい、これで良いよ。」
詩音を二人が見ると、彼はその女子生徒のエプロンの腰ヒモを綺麗に治していた。
「あ、ありがとうございます。紅月さま////」
異性との接触が少ない女子校なせいか、その女子生徒は気恥ずかしそうにしている。
「ううん、気にしないで。」
「では……////」
彼女はとても嬉しそうに連れの生徒とその場をあとにしていた。
「良いな~私も詩音さまにもっと絡んで欲しかった……////」
常盤台の寮生の間でも詩音の人気は、うなぎ登りである。
ボランティアとして手伝い、貴族としての気品や色々な作法などのレッスンをしたりと、彼はこの十日間の間に常盤台生の憧れの的となっていた。
「見てごらん、初春……あれが本物ってやつだよ。」
「は、はあ……」
「でも、何か妬いちゃうな………」
佐天の詩音を見る顔は、何だか寂しそうだった。
「アンタ、良いの?他の子にそんなに優しくしちゃっ
て?」
佐天の表情に気づいた美琴が詩音に問いかける。
「何がです?御坂さん……」
詩音は訳も分からず、首を傾げる。
「朴念仁、バカ………」
と、いきなり美琴は文句を言うと詩音から離れて佐天と初春の所へと行った。
「えぇー?いきなりですかー?」
次回に続く。
ご意見、ご感想をお待ちしております。