とある科学の刀剣使い(ソードダンサー) 作:御劔太郎
昼時、詩音たちは昼食を取るために食堂へとやって来た。
流石はお嬢様学校、食堂も広く、内装もモダンな感じだ。
食堂を飾る和洋折衷色々な料理と、この上品な空気に初春は、終始顔がニヤケっぱなしである。
「はあ~もう、帰りたくない。いっそここに住みたい!」
料理を取りながら、初春は本心を吐露していた。
「私、先に行くね?」
初春と共にいた美琴は先に料理を取り終わり、開いている席へと向かう。
そして、佐天は目の前のケーキを見ながら悩んでいた。
「どうかしたの?ルイコ……」
詩音が聞く。
「うーん………」
しかし、佐天はケーキに集中しているため返事をしない。
「ケーキ、取らないの?じゃあ、僕が先に貰うよ?」
詩音は、ケーキの側に置いてあったナイフを持つと、何のためらいもなくケーキを縦に両断、次に横一文字、そして袈裟斬り、逆袈裟と刃を入れ、綺麗に八等分に切り分ける。
その間、佐天は「あー!あー!あーーッ!」と悲鳴に似た声を上げていた。
詩音はその切り分けたケーキを、一つまた一つと皿に乗せていく。
「こんなにきれいなケーキになんてことをーッ!」
「別にお腹に入れば、何でも一緒だよ。」
みるみる内に彼の皿は、ケーキでいっぱいになった。
「紅月くん言う通りですよ。さっきシュガークラフトを食べてた人のセリフじゃありません!」
と、初春も詩音の肩を持つ。
「それにしても詩音くん、そんなにケーキを取って、食べられるの?」
佐天の言う通り、詩音の持つお盆には三皿に分けて、十個以上乗っていた。
「もちろん。甘いモノは別腹さ……ね?初春さん?」
「同志!当たり前じゃないですか!」
意気投合する二人であった。
一方の美琴は、開いた席に座り、詩音たち他の三人より先に食事を取っているが、午後からの事が気がかってしまい、ため息ばかりで食べ物が喉を通らなかった。
「美琴お姉ちゃーん!」
次の瞬間、美琴に幼い女の子が抱きつく。
彼女に抱きついた子は、純真無垢な絵顔を受けべていた。
「あれ、アナタはあすなろ園の……何でこんな所に?」
「私が招待した。」
美琴の前に現れたのは、子供たちを引き連れた寮監であった。
寮監の姿を見た美琴は、思わず顔をひきつらせてしまう。
「ねえねえ……」
「うん?」
「ビーズで指輪作ったり、お絵かきしたりしたんだよ。」
「へえ、良かったわね。」
美琴は女の子の頭を撫でる。
「でもね……あのね……一番楽しみなのはねぇ?………お姉ちゃんのステージ!」
女の子の言葉に動揺した美琴の全身から、嫌な汗が吹き出した。
「だだ誰に、聞いたのかなぁ~?」
動揺する美琴に追い討ちを掛けるように、寮監は美琴に耳打ちをする。
「御坂、一言だけ言っておくぞ?あの子たちをがっかりさせるような事はくれぐれもしてくれるな?」
言いたい事を言った寮監は、子供たちを連れて美琴から離れていった。
寮監たちを見送った美琴は、うつむき愚痴を吐く。
そこへ詩音たち三人が合流した。
「御坂さん、ステージで何かするんですか?」
「え?あ、いやッ!!?……」
「別にもったいぶらなくても、良いじゃないですか?」
「別にもったいぶってないよ?」
「ルイコ、御坂さんはサプライズがしたいんだよ。」
「そうか!」
「ち、違うわよ!テキトーなこと言わないで!」
「サプライズかぁ、楽しみですね!佐天さん!」
「だから初春さん、違うの!」
「あー!それ以上は言っちゃダメです!」
「詩音……!なんてことを………!」
美琴が詩音を見ると、彼は外道のような笑みを浮かべていた。
「アイツ〰️〰️ッ!!!」
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昼食を終えた、詩音たちは次の展示品の見学のために寮内を歩いていた。
「みんな、ちょっと御手洗いに行ってくるね。さっきに行ってて良いよ……」
「あ、はい……」
「どうぞ……」
美琴は三人もとから去って行く。
「ねえ?御坂さん、さっきから様子が変じゃない?」
「そうですか?」
佐天と初春が話していると、外に設置されたステージで何やらイベントをしているのが見えた。
「二人とも外のステージで何かしてるみたいだし、ちょっと行ってみない?」
詩音に誘われるまま、佐天と初春は中庭の野外ステージに行くと、そこでオークションが開催されていた。
今、出展されているのは高級ブランド物のバッグが三点……
「本当に他に入札される方は、居られませんか?」
司会進行の女性が、観客たちに最終の確認を取る。
観客たちからは、他に手が上がらなかったので、ブランドバッグ三点セットの落札が決定した。
バッグ三点を落札したのは、なんと固法美偉だった。
彼女もまた黒子から招待を受けて盛夏祭に参加していた。
「えーー!固法先輩ッ!!?」
佐天は驚いて大声を上げている。
一方のバッグを落札した固法は、バッグを受けとるために壇上を歩いているが、終始、顔が弛み切っていた。
バッグを受け取り、ステージを降りて来た固法に佐天が声を掛ける。
「固法セ~ンパイ?」
「ッ!!?あ、アナタたちッ!!?」
固法は自分の恥ずかしい顔を見られた思い、ビクッとした。
「固法先輩がブランド物に興味が意外でした。」
「ええ、驚きです。」
「固法先輩もけっこうミーハーなんですね?」
三人に茶化される固法。
「あ、いや……ふ、普段はこういった物には興味ないのよッ!!?これはチャリティーなの!この収益は全額身寄りのないチャイルド エラーの子供たちに全額寄付されるのよッ?ジャッジメントとしては参加しない手はないわッ!!?」
固法は必死に自分のイメージを守ろうとするが、時すでに遅し……
「先輩、何だか凄い言い訳くさいです。」
佐天のツッコミに、固法はぐうの音も出なかった。
「ねえ?アナタたちもオークションに参加してみたら?」
「無理ですよ。私たちはお小遣い少ないですし……」
「ですね。」
「だね………」
詩音は実際のところ、莫大な奨学金や仕送りを学園都市や実家から受け取っているため、生活には全く困ってないが、みんなには秘密にしている。
「フフ……大丈夫よ。」
固法はそう言ってステージに視線を向けた。
三人も彼女に連れてステージを見ると、司会の娘が次の出展の品を用意していた。
「次に出展された品は、“キルグマー”の文具セット!まずは100円から!」
「200円!」
「300円!」
「400円!」
と値段が少しずつ上がっていく。
「ほらね?」
固法の言う通り、詩音たちにも求め安い物も多数用意されているようだ。
「確かにこれなら……」
「ですね。」
初春が手を挙げようとした時だった。
「10000円……ッ!!!」
誰一人手を出させないために、一気に値段を吊り上げる者が現れる。
みんなが唖然としているなか壇上に上がったのは、なんと黒子であった。
「「えーーーッ!!!」」
佐天と初春が驚いている。
「何やってんだか………」
詩音は頭を抱えていた。
黒子とも合流を果たした詩音たち一行。
「白井さん。土御門さんが探してましたよ?」
「そうだよ。自分勝手な行動をしたら、みんなに迷惑をかけちゃうよ。」
「それに、厨房抜け出して何しているのかと思ったら、たかが文具に10000円って……」
「いいえ、これは“ただ”の文具セットではありませんの……これは、ワタクシの愛すべきお姉さまが出品した物になりますわ。」
黒子はうっとりした瞳で文具を見ている。
「この下敷きもノートも、言うなればお姉さまの分身……アア~ン、黒子の果報者~////」
黒子はやはり変態さんだった。
文具セットを頬を擦り付け、クネクネと動いている。
「アハハ……御坂さんのでしたか。」
「どおりで……」
「はあ~」
相変わらずの黒子にドン引きする詩音たちであった。
「あれ?そう言えば御坂さんは?一緒じゃなかったの?」
固法が聞く。
「えっと、それがですね………」
佐天が答えようとした時だった。
「みなさん、ごきげんよう。」
誰かに声を掛けられる。
声のした方に目を向けると、そこには婚后光子が気恥ずかしそうにしている湾内と泡浮と連れていた。
「こ、婚后光子……!」
黒子は彼女ことが苦手らしい。
「なんですの?その格好は?」
詩音たちも唖然としている。
黒子のツッコミにも頷けた。
「あら~察しの悪いおつむですわね~今日のワタクシはアナタにメイドの何たるかを教えに、敢えてこの衣装で参上しましたのよ。アア~何たる慈悲深さ………」
どうやら、婚后は自身に酔っているようだ。
痛い!痛過ぎるぞ!婚后光子!
「さあ!すみずみまで見て下さいまし!これが純イギリスで純和風のメイド服ですわ!」
金にモノを言わせ、ムダに変な物を作る婚后光子、恐るべし……
「純イギリスで純和風って……」
黒子の言いたいことも分かる気がする。
「さあ、白井さん?試しにお帰りなさい、お嬢様と言ってみて下さい。」
「なぜ、ワタクシが?」
「あら?言えないですの?フフ……」
婚后は黒子を鼻先で笑った。
その姿を気に食わない黒子が反撃をする。
「ごめん遊ばせ。こういった事には疎くて……よろしければ、お手本を見せて頂けます?」
「仕方ないですわねぇ……見ていなさい!クルクルクル~♪お帰りなさいませ、お嬢様♪」
ノリノリでメイドになりきる婚后……
「コホン、喉が渇いたので飲み物を人数分、お願い致しますの……」
「かしこまりました。お嬢様♪」
鼻歌混じりに婚后は飲み物を貰いにどこかへ駆けて行った。
「あ~あ、行っちゃった。」
「扱い安い女で助かりましたの……」
「こんにちは。ご無沙汰しております。」
湾内は、詩音たちに声を掛ける。
「アナタたちも災難ですわね。“あんな”のに見込まれてしまって……」
黒子は二人の気苦労を労った。
それに苦笑いを浮かべるしかない二人……
「別に悪い人では無いんです。実は今日も……」
「盛夏祭に行こうとお誘い下さったのは、婚后さんですの……以前からとても楽しみにしていらして、是非にと……」
「え?みなさん、この寮に住んでるじゃないんですか?」
「ええ。常盤台中学には女子寮が二つあって……」
「こことは別に“学舎の園”の中にも……ワタクシと湾内さん、婚后さんはそちらの方に……」
学舎の園、そのフレーズを聞いた初春の目の色が変わる。
「あっ、あの素敵タウンの中にッ!!?石を投げればお嬢様に当たると言う楽園の中にッ!!?はあ~~////」
これで何度目か……
初春は別の世界に旅立って行った。
「それで、御坂さまどちらに?」
「そう言えば、さっき御手洗いに行くって言ったきり……」
「あら……今日のステージ、楽しみにしていますと、お伝えたかったのに……」
「残念ですわね、湾内さん……」
「御坂さん、ステージで何かやるの?」
「サプライズですよ!サプライズ!」
「へぇー何だろう。」
「あ、そう言えば僕、寮監さんから御坂さんのエスコートを任されてたっけ……」
「そうなの?詩音くん?」
「じゃあ、急いで行かないと……!」
そんな一部始終を寮の廊下から見つめる美琴。
大きなため息をし、ステージ衣装に着替えるために自室に戻る。
「もう……みんなして、そんなに期待しないでよ~!変な汗まで出て来ちゃったじゃない……今の私の顔、どんなんだろう。エスコートに来る詩音に笑われちゃう。これって緊張?いやいや、私に限ってね………」
美琴はそんなことを考えながらも、用意されたステージ衣装に着替えた。
部屋を出ると詩音を始め、女生徒たちが待っていた。
「遅いですよ。御坂さん……」
「うるさい////」
「まあ、とにかく行きましょう。」
「分かってるわよッ////」
美琴から荷物を受け取った詩音は、共に中庭のステージ裏へと移動する。
美琴はステージ裏から表を見ると、彼女の演し物を楽しみにしている観客たちで全ての席が埋まっていた。
「あ~ヤバ、胸がドキドキしてきた。あーもー!御坂美琴!しっかりしろ!」
美琴の緊張もピークになっていた。
「御坂さん?」
「何よ……ッ!」
その時だった。
いきなり、詩音が美琴を抱き寄せる。
「へっ////……いいい、いったい何してんのッ!!?」
ちょっとしたパニックになってしまう美琴……
しかし、詩音はそんな彼女を気にすることなく、優しく美琴の頭を撫で続ける。
「これは僕が緊張した時に、僕の母さんがしてくれるおまじないです……こうやって、頭を撫でてもらうと不思議と落ち着いて来るんですよ。」
「確かに……おかげで少し楽になったかも……」
「でしょ?」
詩音は笑顔を見せる。
「じゃあ時間です。僕は表の席に行きます。」
詩音はみんなの待つ席に向かおうとした。
「詩音!………」
美琴が呼び止める。
そして……
「あ、ありがとう……////」
恥ずかしそうに、お礼を言う美琴であった。
詩音は佐天の隣に座ると同時に、美琴がバイオリンを持ってステージに現れる。
「うわあ……凄い、バイオリンの独奏だよ。」
「さすがです。御坂さん……」
佐天と初春は感激が止まらない。
「御坂さんのお手並み拝見ってところだね……」
詩音は余裕綽々といったところか……
美琴は観客たちに一礼し、落ち着いた様子でバイオリンを構える。
詩音が先ほどしたおまじないが効いているみたいだ。
そして、美琴はバイオリンの演奏を始める。
美琴の演奏は、素晴らしいモノで、みんな聞き入っていた。
次回に続く。