とある科学の刀剣使い(ソードダンサー)   作:御劔太郎

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第32話 レベル6(神ならぬ身にて天上の意志にたどり着くもの) 前編

春上はペンダントの写真に写る、かつての親友“枝先絆理”の事を話し始めた。

 

「絆理ちゃんと私は同じチャイルドエラーの施設で育ったの……私、人見知りで友達も出来なくて、でも絆理ちゃんとだけは仲良く出来たの……いつもテレパシーでお話ししてくれてたの。けど、別の施設に移されてそれっきり……なのに、この頃、また聞こえるの……絆理ちゃんの声が……『助けって、とっても苦しいって』……でも、どこにいるのか、どうして苦しいのか分からないの……助けてあげたいのに、何も出来ないの……」

 

話しているうちに彼女は辛さから、目に涙を溜める。

そんな春上を初春が、元気付けようと励ました。

 

「大丈夫ですよ!お友達はきっと見つかります!いえ、私が見つけてみせます!なんたって、私は“ジャッジメント”ですから!」

 

「初春さん……」

 

涙を堪えることの出来なくなった春上の目から、一筋の滴が頬を伝う。

 

「そうだよ!こう見えても、初春は優秀なジャッジメントなんだから……♪」

 

佐天もすかさず、フォローを入れた。

 

「こう見えてもは、余計です。」

 

一言多かった。

フォローを入れたつもりが、逆に初春から怒られてしまう。

 

「アハハハ……つい……」

 

佐天は苦笑いを浮かべた。

 

「だから、安心して下さい。」

 

「ありがとうなの……」

 

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春上の事は、佐天と初春に任せて、詩音は美琴や黒子と共に病室の外でテレスティーナに枝先絆理の事を話していた。

 

「レベルアッパー事件ッ!!?」

 

「そうです。その犯人、木山春生と対峙した時に色々と使えると思ってね。それで過去のデータを漁っていた時に、ちょっと……」

 

「アンタ、そんなことをしていたの?」

 

「まあね。」

 

「しかし、いちジャッジメントである詩音さんが、そのような危なっかしいデータを閲覧出来るはずがありませんの。」

 

「だけど、実際には出来た。詩音……アンタ、どんな手を使ったの?」

 

「御坂さん。それは企業秘密ってことで……」

 

このような時にも詩音はいつもどおりに飄々としている。

 

「アンタ!こんな時に冗談ッ!!?何のつもりよ!」

 

そんな彼に対し、美琴は感情的になった。

 

「落ち着いてくださいな。お姉さま!」

 

「…………ッ!!!」

 

黒子に諭されるも、美琴は感情を抑えられない。

 

「それで紅月くん?他に何か知っている事は?」

 

「えーっと、他に知っている事は………あ、その枝先絆理って子は木原幻生って言うお爺さんの実験台にされてたみたいですよ。」

 

「実験台ッ!!?……」

 

「実験名目は確か“暴走能力の法則解析用誘爆実験”……研究内容としては、表向きAIM拡散力場制御実験と称して、 被験者のAIM拡散力場を刺激し暴走の条件を探る為の『人体実験』らしいよ?」

 

「人体実験なんて、非人道的なモノ許されるはずがありませんの……テレスティーナさん、その木原幻生という方について何か知っていることはありませんか?」

 

「詳しい事はあまり分からないけど、一部の科学者の間では有名よ。マッドサイエンティストとしてね……その人なら人体実験も平気でやりかねないわ。今は消息不明みたいだけど……」

 

「ってことは、仮にも木原幻生の行った実験が本当だとすると……」

 

「察しが良いわね?紅月くん……被験者の子どもたちがポルターガイストの原因かもしれないわね。」

 

「どういうことですの?」

 

「その子どもたちが暴走能力者になっているってこと。」

 

「で、でも、確かあの子たちは今でも眠り続けているって……」

 

「御坂さん、おそらくその子どもたちは、意識が無いまま能力が暴走しているとしたら、全てのつじつまが合うんじゃないかな?」

 

「そんな……ッ!!?」

 

「意図的な干渉ではなく、無意識のうちにポルターガイストを起こしていると……?」

 

「可能性はあると思っているわ。その子どもたちはどうしているの?」

 

「事件後は、アンチスキルが捜索したのですが、あいにく今のところ発見には至っておりませんの。」

 

「と言うことは、まずは探し出すのが先決ね。」

 

そう言うとテレスティーナはポケットからチョコレート菓子の入れ物を取り出し、数回ほど振る。

 

「今日のラッキーカラーはピンク♪」

 

自身の手のひらには、宣言どおりにピンク色にコーティングされたチョコレートが……

 

「「「おぉぉ………」」」

 

目を丸くして、そのチョコレートを見る詩音たち三人であった。

 

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その日の帰りのモノレールの中……

横並びの座席に美琴たちは座っている。

しかし、今の彼女たちの仲を象徴するかのように、手すりが初春と黒子の間に入っていた。

そして、詩音は初春と対面するように席についている。

テレスティーナと話した内容を佐天や初春にも説明した。

 

「ちょっと待ってください。枝先さんが木山先生の元生徒で、その枝先さんたちがポルターガイスト起こしているってことですか?」

 

「えぇ……まだ、断定は出来ないですが。」

 

「とにかく、その子どもたちを見つけないことにはどうにもならないけど……」

 

「でも、見つけるって、どうやって………」

 

「まあ、それは………」

 

黒子はその後に続く言葉を言い渋るような表情で、自身の隣に座る初春を見る。

それに釣られて美琴と佐天も、だんまりを決め込む不機嫌な初春の様子を伺った。

 

「そっか、初春のパソコンでパパァっと調べちゃえば……ねぇ、初春ッ!!?」

 

「探します……探しますけど、春上さんの次はそのお友達を疑うんですか?」

 

初春の口から出た言葉が、黒子の心に突き刺さる。

 

「アンタ!いい加減にしなよ!」

 

悪態をつく初春に、佐天も堪忍袋の緒が切れたようだ。

幸い、この車両には五人以外の乗客はいなかった。

 

「そんなに嫌だったら、辞めれば?ジャッジメント……お前のくそったれなみたいな態度、見ているだけで反吐が出る。」

 

「ちょっと、詩音!アンタも友達に対して言って良いことと悪いことがあるでしょ!」

 

美琴が詩音を叱る。

 

「ふん……コイツがこんなにも聞き分けが悪いなんて思いもよらなかったんでね。つい本音が出てしまいましたよ……」

 

完全に初春と詩音の仲はバラバラになってしまう。

どうしようもなかった。

 

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その日の夜、常盤台の寮にて……

美琴は自室に備え付けられた浴室の湯船に浸かり、今日の出来事を考えていた。

 

「あの子たちが助けを求めているか……」

 

亀裂の入った仲に浮かない表情の美琴……

そこへ脱衣場の黒子から声を掛けられる。

 

「お姉さま、随分と長湯ですのね?」

 

「ああ……ちょっと、考えごとしてた。」

 

「でしたらよろしいんですけど……」

 

「アンタはどうなのよ……初春さんと詩音のケンカに巻き込まれる形になっちゃってるけど……」

 

「まあ、初春が怒るのも無理ありませんわ。今まで仲良くしてきた詩音さんにあんなことを言われて……ですが、詩音さんの言うことには一理あると思いますの。ワタクシもジャッジメントの端くれ事件の解決を………」

 

そう言いながら、服を脱ぎ一糸纏わぬ姿となった黒子は、美琴の居る浴室への扉を何の躊躇もなく開けた。

 

「優先させますの………ぐへッ!!?」

 

次の瞬間、美琴の投げた洗面器が、黒子の顔面にクリーンヒットし、彼女はそのまま大股を開けっぴろげて仰向けに倒れる。

 

「って、シレっと入ってくるなぁッ!!!」

 

「えぇー!今のは入って来ても良いタイミングではッ!!?」

 

「うるさいッ!!!」

 

美琴はお仕置きの電撃を黒子に放つのだった。

 

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一方の詩音は自宅の戻り、シャワーを浴びて薄暗い寝室に篭って深く後悔していた。

 

「はあ……どうして、初春さんにあんなこと言っちゃったんだろう。」

 

詩音はベットに突っ伏し足をばたつかせ、「う〰️〰️」と唸っている。

そこへバスローブ姿の副委員長のつかさがやって来た。

 

「委員長、何か悩みごとですか?」

 

「ああ……つかさちゃんか……別に何でもないよ。」

 

「そうですか?私の目は誤魔化せませんよ。また、誰かとケンカしましたね?相手が誰か当てて上げましょうか?」

 

詩音の顔を覗き込むつかさは微笑んでいる。

高校生とは思えない妖艶で悪い笑みだ。

詩音をからかう時には、いつもこの様な表情になる。

 

「そうですね~」

 

「ほっといてよ。」

 

詩音は彼女のことを煙たがっているが、とうのつかさは引き下がる気は全くもってないようだ。

バスローブを脱ぎ下着姿になると詩音の隣に横に寝そべる。

 

「ふふ……♪嫌ですよ♪この間は白井さん……でしたよね?美緯も今回の件には絡んでないし、レールガンの子も……もちろん委員長のガールフレンドがするはずがない……と、なればあと一人……へぇ~珍しいですね~あの花飾りの……名前は~~」

 

「初春飾利……」

 

「あの子、以前の研修時に一度見掛けたことがありますけど、委員長にケンカを売るとは、おっとりしている割には、けっこうな度胸の持ち主ですね。」

 

「人も見掛けによらないってことさ……」

 

「謝らないんですか?」

 

「どうして?僕は別に間違ったことは言っていない。」

 

「強がっちゃって、後悔してるんでしょ?“どうして彼女にあんなこと言っちゃったんだろう”って……♪優しいですね?」

 

「ねえ、つかさちゃん?年下だけど、あくまで僕はキミの上司だよね?」

 

「昼行灯ですけど……?」

 

「う〰️〰️バカ………」

 

やはり、口でつかさには勝てない詩音であった。

 

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春上が一般病室に移ったその日の午前中、初春が彼女もとを訪ねて来た。

 

「はい!お見舞いです!」

 

初春は春上への差し入れとして鯛焼きの入った箱を差し出した。

鯛焼きを見た春上から思わず笑みがこぼれた。

 

「第八学区にある老舗の鯛焼き屋さんなんですよ♪」

 

「そんなに遠くから……」

 

「食べれば分かります!これ学園都市一の鯛焼きですから………あ、全部つぶ餡ですよ?それ以外は邪道です!」

 

勝手な持論を持つ初春である。

 

「あ、まだ温かいの……」

 

「実はそれ私の能力なんです。」

 

「え?」

 

「こうやって、触っている物の温度を一定に保てるんです。あまり熱い物だと持てないので、生暖かい物が限界なんですけど……」

 

初春は、自身の不甲斐ない能力に締まりの悪い笑みを浮かべた。

しかし、彼女らしい優しい能力であることには間違いない。

 

「コレ……御坂さんたちにも教えてないんですよ?お返しです。春上さんの能力も教えてもらったから……」

 

初春の話を聞いた春上は、手に持った鯛焼きを少し見つめると、そのまま口に運んだ。

 

「ハム………ン~~」

 

「えっと……」

 

春上の行動に戸惑う初春……

 

「美味しいの……♪」

 

口の回りをアンコで汚しながら、満面の笑みで春上が、素直な気持ちを初春に伝える。

その後、二人は仲良く鯛焼きを頬張るのだった。

 

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ジャッジメント第一七七支部、春上へのお見舞いを済ませた初春は自身のデスクでパソコンを使い、行方不明になっている子どもたちの手掛かりを探っていた。

時計の針は午後2時を差している。

 

「木山の供述によると、人体実験の被験者は10名。全員が植物状態になり、医療機関に分散して収容された……」

 

黒子はインスタントのココアを作りながら、固法に事の経緯を説明していた。

 

「けど、いないのね……」

 

「ええ……転院を繰り返していて、途中で子供たちの足取りが途絶えていますの……」

 

「そう……」

 

黒子はココアを持って、初春のもとへ向かう。

 

「ひと息入れたら、いかがですの?」

 

ココアを初春へと差し出す黒子……

詩音と初春のケンカに巻き込まれる形となっているとはいえ、彼女なりに三人の仲を修復したいと気を利かせたつもりだった。

 

「要りません……」

 

しかし、黒子を拒絶する初春は、彼女の差し入れを断る。

どこまでも、強情なヤツだ。

その様子に、固法はため息を着いていた。

 

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そんなやり取りをしているとは、知ってか知らずか、佐天がやって来た。

しかし、手をドアのぶに掛けたところで支部の中の空気を感じたのか、中に入るのを止めて帰ろうとした。

そこへ美琴が現れる。

 

「あれ?佐天さん、どこ行くの?」

 

「あ、いえ、別に……」

 

佐天の気持ちを汲み取った美琴は少し表情を和らげた。

 

「ねぇ、喉渇かない?」

 

二人は近くの公園に移動し、木陰に置かれた飲食スペースの椅子に腰かけ、買ったジュースを飲む。

 

「いや~何か、顔を出しづらくて……」

 

「そうね……ちょっと、ギクシャクしちゃったもんね。私たち……枝先さんのこと、早く見つけなきゃね?春上さんのためにも、初春さんのためにも……でもって、私たちのためにも。」

 

「そうですね。」

 

二人で会話をしていると美琴の携帯がなった。

相手は詩音からだった。

 

「詩音だ。何だろう……」

 

電話に出る美琴……

彼からの内容を聞いた美琴は、その話の内容に驚愕する。

そして、詩音から待ち合わせに指定された場所に、佐天とともに向かった。

 

待ち合わせ場所に到着した二人は、詩音と合流する。

さらにMARからも隊長のテレスティーナが彼らと合流した。

 

「木山春生が保釈ッ!!?」

 

「そう……」

 

「例の実験について話を聞こうと、彼女が収監されている拘置所に行ったの……そしたら……」

 

「あれだけのことをやっておいて、保釈が認められるんですかッ!!?」

 

「僕の知るところによれば……」

 

「子どもたちに通じる糸口が切れてしまったわ……」

 

「そんな事もないですよ。」

 

「どういうことかしら?」

 

「以前、木山春生は木原幻生の研究施設“先進教育局”に所属していた。そして枝先絆理もまた、チャイルドエラーとしてそこで保護され育てられていた。そこへ行けば何かしらの……」

 

「それなら、私たちMARが調べたわ。何もなかったけど……」

 

「そうなの?」

 

「でも、木山ってその子どもたちを助けるために、あんな事件を起こしたんですよね?それなのにその子たちを利用するって言うのは……」

 

「つじつまが合わないって事だよね?ルイコ……」

 

「うん……」

 

「おかしくないでしょ。学生の憧れさえも利用した女よ……」

 

テレスティーナの言葉にどうしても、納得が行かない美琴たちであった。

 

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その日の夜、常盤台の学生寮……

黒子はパソコンで事件の手掛かりを調べていた。

そこへ寝る準備を済ませた美琴がやって来て、彼女のパソコンを覗き込む。

 

「どう?何か分かった?」

 

「多少は……お姉さまこれを見て下さい。なぜあのような規模のポルターガイストが起こるのかと言うと、同系統の能力者のAIM拡散力場が“共鳴”してしまうからですの。」

 

「共鳴ッ?」

 

「ええ……まず一人が暴走能力者に干渉され、その後、同系統の能力者が共鳴していきますの。しかし、この同系統と言うのがくせ者で……例えば、お姉さまの場合ですと、電場を操るモノと磁場を操るモノが含まれていますでしょう?」

 

「まあ、それは分かる……」

 

「百々のつまり、お姉さまの場合は複数の能力者と共鳴してしまいますの。」

 

「と、言うことは………」

 

「ええ、行方不明になっている十名のチャイルドエラーの子どもたちにも同じ事が言えますの。もし、全員が暴走能力を発動させたら、その影響範囲は全学生の約78%に及びますの……」

 

「78%ッ!!?……それって……」

 

「この街が壊滅しかねない規模のポルターガイストが起きてしまいますわ。」

 

「でも、この論文が正しいとは……」

 

「執筆者をよくご覧になって下さい。」

 

「あっ、木原幻生……!」

 

「この男についても調べたんですが、テレスティーナさんの言っていたとおり、消息不明ですの……関連する研究施設も全て閉鎖されていますし、データも散佚していますの。」

 

美琴は黒子からの説明を聞きながら、パソコン画面を見ていると、詩音が口にしたとある研究施設の画像を目にした。

 

「先進教育局……ッ!!?」

 

「どうかしましたの?お姉さま……この研究施設を知っていますの?」

 

「え?……うんうん、何でもない。それよりも、もう寝ましょう?働き過ぎは体に毒よ?それに、もうすぐ消灯時間だし……」

 

「ええ、そうですわね……」

 

二人は床に着く。

部屋の照明を消した。

 

「おやすみ~」

 

「おやすみなさいですの……」

 

一時間後……

美琴は一人起きて、私服に着替えていた。

あの気になった研究施設に潜り込むためだ。

いつもの常盤台の制服だと、色々あった時にマズイので私服にした。

着替えていると、隣で寝ている黒子がギシギシとベッドを軋ませ、激しく暴れ出した。

 

「あっは~ん!お姉さま!あっ!激しすぎますのッ////あっ、あっ……////」

 

頬を赤らめ、身悶える黒子……

明らかに何か如何わしい夢を見ている。

 

「どんな夢を見ているのか激しくツッコミたいわ……」

 

美琴はドン引きしていると、黒子が見ている夢に更なる登場人物が……

 

「えッ!!?し、詩音さん////」

 

「ッ!!?詩音まで巻き込まれてる。」

 

「ワタクシ、お姉さま一途ですから……////いや、ダメですの!詩音さん!激しすぎますの////お姉さまも!いや~~////」

 

数分後、暴れていた黒子も落ち着きを取り戻し、寝息を立てて眠っている。

 

「////……スゴいの見ちゃった。」

 

美琴は驚きを隠せないでいた。

その後、ベッドに細工をして部屋を抜け出し、破棄された研究施設“先進教育局”へと向かうのだった。

 

次回に続く。


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