~平穏無事の屋敷・南部邸~
南部「どこかで見たお顔ですね……」
あかり「えぇっー!?嘘でしょ!?あたしの副担任の南部先生でしょー?」
ヤエ「どうしてあなたがここにいるのかしら?南部真命(なんぶしんめい)先生?」
サリー(南部先生とやらはあかりの副担任だったのか。お世話になっている人物にあまり迂闊な発言は出来ないな)
南部「いち教師の人間風情が、こんな辺境の土地に居を構えることがそんなにおかしいですか?」
あかり「先生、仕事辞めちゃったの?」
南部「それは誤解ですよ。少しばかりの息抜きというところでしょうか。五年前に来たばかりなので、この世界に馴染むには少しばかり時間が必要なんです」
サリー「まるで別の世界から来たかのような言い
南部「おとぎ話をするつもりはありませんが……お三方も長旅でお疲れでしょう。お茶を用意しますので、ご歓談でもしてて下さい――」
あかり「やっぱり南部先生って変わってるよね?」
ヤエ「頬を隠すような長髪は生徒から不評。顔色の悪さが拍車をかけてるわ。授業の大半が雑談。学内の評判は賛否両論だったみたいだけどミステリアスな風貌は一部の女子に受けてるみたい。ただ、やたら校則にこだわる性格で遅刻する生徒には体罰まがいの指導もしていたそうよ」
あかり「あたしなんていつもギリギリだったから、『定刻前に登校する生徒のためにも、あかりさんを反面教師にしなければなりませんね』って誉められたんだよ!」
サリー「痛烈な皮肉だな。あかりも反面教師の意味をちゃんと調べた方がいいぞ」
南部「どうぞ。お熱いのでゆっくり味わって下さい」
あかり「先生のその包帯って柔道部の生徒に投げられて怪我したんでしょ?」
南部「ええ。素行不良の生徒に口頭で指導していたのですが、話の途中で逆上されましてね。思いっきり投げ飛ばされました。あの景色がひっくり返る様は一生忘れないでしょう」
ヤエ「しかも卒業生だったのよ。その投げた生徒」
サリー「その卒業生にとっては一生の思い出だろう。武勇伝として」
あかり「――先生も絵が好きなんだよね?」
ヤエ「いつもしているそうね。授業の時間を割いてまで絵画について暑苦しく語っているせいで、保護者からの苦情が絶えないって聞いたけど」
南部「ちょっとした息抜きのつもりだったんですが、中々理解を得られず世知辛い世の中です」
サリー「本当に息抜きだったのか?」
あかり「先生はあたしたちが飽きないようにしてくれてたんでしょ?」
ヤエ「だからって授業の大半を雑談に費やすなんて感心しないわ」
南部「やれやれお二方の評判もよろしくないのですね。ちなみに地理や歴史、政治経済の教科を担当しています。真面目な生徒が多くて感銘を受けていたのですが、どうやら思い過ごしだったようで残念です」
サリー「さっきからのらりくらりと……」
南部「あなたはどこかで会いませんでした?」
サリー「私の質問にはっきり答えていない人間が質問するのか?」
あかり「先生の元カノに似てるとか?」
南部「フフフ、元カノはいませんが妻ならいますよ」
ヤエ「この屋敷に南部先生以外の人間がいるの?」
南部「はい、ですがここに妻はいませんよ。この邸宅にはこの南部を除いて三人ほどと共同生活をしております」
あかり「遠距離恋愛なんだね」
南部「遠距離恋愛ですか……いい響きですね」
サリー「フン!バカバカしい」
あかり「早く試し斬りをしたいからってイライラしないでよ」
ヤエ「殺人衝動かしら?」
南部「お三方はこれからどうするおつもりで?」
サリー「地底国家へ行きたいのだが案内してもらえないだろうか?」
南部「構いませんが少し歩きますよ。よろしいですか?」
あかり「なんかあっという間に進んじゃってるね」
ヤエ「変ね。ここは地底国家の一部じゃないのかしら?」
南部「広義で言えばそうですが、狭義で言えばここは境界線に当たるのです」
あかり「へー、あたしたち境界線の上にいるんだ」
サリー「まだ入国すらしていないというわけか」
ヤエ「結構めんどくさいのね。地底のルールって」
南部「出発は明日にしましょう。今日はゆっくり休んで下さい」