誤想男子   作:実験用モルモット

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1話②

「ほれ、確認してないけど多分撮れてるぞ」

 入学式の後、体育館を出てすぐ姉に捕まった。スマホ返せ~と言いながら抱き付かんとする勢いだったからとっさに押し付けるようにスマホを返してやった。抱き付きを拒否された姉は、仕方なしといった感じでしおんと腕を組む。人前でこういうスキンシップを取ろうとするの、本当にやめてほしい。いや、家でもやめてほしいけども。

「む~しおんは冷たいなぁ~。お姉ちゃん寂しいぞ~」

「高校生にもなってまだ弟にベッタリくっついてる方がおかしいんだよ。弟として普通の反応だ」

「でも琴葉ちゃんたちはいつも仲良しだよ?」

「あれは同性だからだろ。うちとは違う。離れろ」

「え……じゃあしおんは私の事嫌い……?」

うちとは違う、を姉弟仲良くないと捉えたのか、しゅんと落ち込む姉。こうなるとしおんは強く拒否できない。しかもこれは演技ではなく素の発言だから尚タチが悪い。

「いや、別に嫌いってわけじゃないけどさ」

「ホント!?良かったぁ!私もしおんの事大好きだからね」

「うるさい」

 心から安堵する姉を横目に心の中で溜め息をつくのだった。こういうところに弱い自分がつくづく情けなく思える。

 

 体育館から2年生の教室までは大した距離じゃない。歩いてわずか数十秒である。たったそれだけの距離なのに姉のお陰でかな~り目立っていた。

「相変わらずのゆかちゃんだったね~」

 へたり込む様に自分の席に戻ったしおんにずん子が話しかけてきた。

「ああ、まったくだ。あの姉バカっぷりは本当に勘弁してほしいよ」

「ふふ、その気持ち、少しだけわかるな。私も家ではイタコ姉様ときりたんにくっ付かれてて。さすがに人前では大人しいからし~くんとはちょっと違うけど」

「ほーん?あの二人が……ああ、なんとなく想像できるなぁ」

「二人ともちょっとだけ……愛が重いなって感じるんだよね」

この人も姉妹絡みで色々と大変なようだ。何だか、自分の周りには変わった姉妹しかいない気がする。類は友を呼ぶってやつだろうか。俺の場合は姉弟だけど。

「ところで、今日マキさん見かけた?体育館にはいなかった気がするんだけど」

「ううん、私も知らない。マキちゃんは3組だから来てたらゆかちゃんと一緒にいるはずだよ」

「てことは、休みか遅刻だな。初日から何やってんだよあの人……」

 ここで担任が戻ってきて話は終了、ずん子含め立っている人たちが席につく。そして委員会決めとか新しい教科書だとか、そういう話が……。

 

「…………それじゃ、また月曜日!解散!」

 終わった。新学期初日が終わった。サヨウナラの礼の後のクラスメイトの行動は実に様々だ。さっさと教室から出ていく者がいれば担任に話しかけに行く者もいる。自分は……。

「あれ?し~くん、どこ行くの?そっちは……」

 教室から出たらずん子に呼び止められた。しおんが行こうとしているのは正門と反対方向にある東館。そっちにあるのは音楽室、美術室、視聴覚室、その他空き教室と1年生の教室だ。

「ん、あかりを迎えに行ってくる。ゆかりにもそう伝えといて」

「なるほど。いってらっしゃ~い」

 今度の担任はHRを早く終わらせるタイプなのだろうか、他の5クラスはまだお話し中だ。足早に他クラスの前を通り過ぎ東館へと向かう。4階から1階まで降りると徐々に賑やかな声が聞こえてきた。どうやら1年生はもう話が終わっている様子。良いタイミングだ。

 1年生たちは早速友達を作ったり話したりと楽しそうにしている。その子達の視線が一気に自分に集まるのを感じた。まあそうだろう。高校生活初日から自分達の所に上級生が来たら誰だって緊張するだろうな。

 さっき、式の時にあかりが何組かは確認済みだ。俺と同じ4組。階段目の前の教室だ。ドアの前から声を掛ける。

「あかり」

「あ、お兄ちゃん!」

銀髪三つ編みの少女が笑顔で駆け寄ってきた。相変わらず元気で何より。男子用の制服を着ているとはいえゆかりとしおんを瞬時に見分けられるのも流石従妹といったところ。

「叔母さんは?」

「残りの荷物を運ばなきゃって、お父さんに迎えに来てもらって帰っちゃった。お兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に帰ってきなさいだって」

「そうか。ならまた後で挨拶しなきゃな」

「お姉ちゃんはどこ?」

「多分まだHR中。先に正門行って待つぞ」

「はーい!」

 しおんの後ろをピョコピョコ付いてくるのも昔から変わっていない。よくもまあ、ここまでなついたものだ。

「ねえねえお兄ちゃん!腕組んでも良い?」

「やめろ。あらぬ誤解が生まれる」

「え~お兄ちゃん冷た~い!あかり寂しいな~」

ぶーぶー文句を言う従妹を見て、コイツ最近ゆかりに似てきたな、などと考えながら門へ向かうしおんだった。

 

 正門横に体育館と本館を繋ぐ渡り廊下があり、その下の広場にはベンチがおかれている。何年か前に卒業していった先輩方が作ったものらしい。本館西出口も目の前にあり、2、3年生は大抵ここから下校する。ここで待っていれば丁度来るだろう。ついでに日陰なのもありがたい。

「まだ初日だけど高校はどんな感じだ?あかりの事だしもう友達はできたんだろ?」

「うん!とりあえずクラスの皆と仲良くなったよ」

「うん?40人全員と?マジで?」

「えへへ!ねぇねぇ、お兄ちゃんと一緒にベンチで座ってるとなんだかカップルみたいだね!」

「まあ、俺は思わんが周りからはそう勘違いされてるだろうな。あとナチュラルに腕組むな」

「え~。お兄ちゃん冷た~い。そりゃ確かにお兄ちゃんには美人な彼女さんいるけどさ~もっと私にも構ってよ~」

「今日から同じ家だろ。嫌でも毎日顔合わせる事になるからそれで勘弁してくれ」

 結月姉弟は高校生になってから親元を離れて二人暮らし中。ゆかりは仕事で忙しいから家事全般は基本しおんが担当している。そこに今日からあかりも来るのだ。憧れの姉弟と同じ学校に進学したは良いものの、実家だと遠すぎるため姉弟と一緒に住まう事となった。昨日までに大体の物は運び終わってて、後は今日届けてもらう服や小物類を片すだけ。

 正直なところ、しおんはあかりと一緒に暮らすことは反対だった。別に従妹を嫌っている訳ではない。料理の腕は人並み以上にはあると自負しているが、あかりのお腹を満たすだけのモノを毎日作り続けられる自信がないからだ。少食のゆかりとは真逆で、ややオーバーな表現だがブラックホール並みの胃袋と言えばどれだけ大食いか伝わるだろう。これから毎日コイツの三食を作らなければと考えるとゾッとする。結局ゆかりに説き伏せられて渋々認めたのだが、先が不安だ。

「はぁ~ぁ……夕飯どうするかなぁ」

 

 ゆかり達が降りてきたのはそれからすぐのこと。ゆかりとずん子と、それから朝いなかったはずの人も。

「しおーん。あかりちゃーん。おまたせー」

「ん、来た来た。あれ?マキさんいたんだ。朝見なかった気がするんだけど」

「いやー、寝坊しちゃった。今日楽しみすぎて夜眠れなくってね」

「式の後のHRが始まるって時に教室に滑り込んできたからね。なんかもう、いっそマキらしくて私は逆に安心したわ。ああ、小学生の頃から変わってないなって」

「初日から何やってんだか。そのギリギリに行動する悪癖はむしろ直せって」

「お姉ちゃん!先輩方もおはようございます!」

「おーあかりちゃん、地味に久し振りだね~」

「おはよう。ついにあかりちゃんも高校生だね。今日からよろしくね」

皆の妹系というか愛され系というか、祖父母から可愛がられる孫ような、天然で愛されるオーラ全開のあかり。今日もマキとずん子から愛でられる。これも昔から変わってない。

 そんな3人を尻目にゆかりがキョロキョロと辺りを見渡してからしおんに尋ねる。

「んー?しおん、叔母さん達は?」

「残りの荷物運びに帰ったってよ。早めに帰んないと待たせることになるな」

「ありゃま、写真渡そうと思ったんだけど、なら帰ってからね。ほら、皆帰るわよ」

あかりの頬を伸ばしたり髪をわしゃわしゃして遊んでいる二人を止めるゆかり。今回みたいに、お馴染みのメンバーと一緒の時は自然とゆかりがまとめ役になる。リーダーの気質があるのだろうか。今まで他人との関わりを極力避けてきたしおんにとって、姉に引け目を感じる要素の一つだ。我が姉ながらこの人はできた人間だと改めて感じる。

「……しおん?私の顔に何か付いてる?」

「いいや、何にも」

「てことは、お姉ちゃんの可愛い顔に見とれてたってことかしら?」

「ハン、可愛いだって?面白い顔の間違いだろ?」

ドヤ顔で言ってくるものだから少しイラッときて、からかってやろうと鼻で笑いながら答えてやった。

「も~素直じゃないんだから。それもしおんの可愛いところなんだけどね」

「俺は別に可愛くなくていいんだよ。男なんだから。離れろ」

「ヒュー、ゆかりんもし~くんもお熱いなぁ。ラブラブすぎて嫉妬しちゃうぞ?私も混ぜろー!」

「だー!もう!お前らくっつくんじゃねぇ!暑苦しいんだよ!」

腰に手をまわして密着するゆかり。和に混ざろうと飛び込むマキ。手を振りほどこうともがくしおん。ここまでは平常運転。そんな3人を見てあかりがボソッと呟く。

「やっぱりお兄ちゃん、大分変わったなぁ」

 それは完全に独り言のつもりだったが、隣にいるずん子にはバッチリ聞かれていた。

「し~くんが変わった?私には普段通りに見えるけど」

「あ、えっとですね、元々お兄ちゃんは楽しいとか嬉しいっていう感情をそんなに表に出す人じゃなかったんですけど、中学生になる少し前からそれ以外の、マイナス?な感情すら出なくなっちゃってたんです。何かあったの?って聞いても教えてくれなくて、私やお姉ちゃんに時々向ける笑顔も作り笑いばっかりで……。あんなにイキイキしてるお兄ちゃんを見たの、私初めてかもしれません」

「そう、だったんだ。私がし~くんと知り合ったのはここに来てからだから知らなかったな。ゆかちゃんはし~くんの事は何か知っているのかな?」

「知ってると思います。でもいつもお茶を濁されてるので、きっと私が首を突っ込んで良い事じゃないんだなって、そう考えてからはもう何も聞かないことにしました。何があったのかは全く分かりませんが、今のお兄ちゃんは以前みたいに、ううん、前以上に明るくなりましたし、私はそれだけで充分ですから」

「おーい、何やってんだー?置いてくぞー?」

 いつの間にやら、3人は門のところに移動していた。ポケットに手をいれ少しだけ体をこちら側にむけて、怪訝な顔をしてこっちに声をかけるしおんの姿からは、話に聞いた無感情だった頃の面影が全く感じられない。

「はーい!今行きまーす!」

元気な声と共に駆けるあかりとワンテンポ遅れて小走りで寄るずん子。ずん子が笑顔でしおんに話す。

「ねえ、し~くん」

「ん、何?」

「ふふ、家族や友達に恵まれたね」

「そう?まあ、ずん子さんが言うならそうなのかな。いきなりどうしたの?」

「ふと思っただけだよ。気にしないで」

「ふーん」

 

 これから、結月姉弟の新生活が始まる。




結月姉弟とマキは小学校が一緒で中学が別、高校で再開。ずん子とは高校から(ゆかりは中学の頃からお仕事で知り合った)。結月姉弟が中学3年生の時に琴葉姉妹が2年生に転入して、高校は別のところへ。あかりちゃんは常に同じ学校に付いてきた。

こんな感じです。その他勢は、まあ追々。
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