歪んだ殺人鬼の転生録(凍結)   作:クルージング

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不定期更新にしていると、何時までもグダグタして進まない事が判明したので、ペースを設定して投稿をしようと思います。

週一にするか月一にするか。

今回は

三人称

ギィ視点

ガレア視点

といった感じで視点を変えながら話をしていきます。


《第13話 決戦前夜》

日は既に沈み、空には見事なまでの満月がただすんで綺麗な夜景を作り上げていた頃。

 

半ば強引にミリムとの決闘を因縁付けられたガレアはミリムに対しての不満を静かに押さえ付け、これから起こるであろう戦闘と言う名の暴力に対処するべく頭を抱えながら考えを張り巡らせていた。

正直この理不尽すぎる決定に二、三言程文句を言いたい所だが、残念な事に相手はこの世界の最上位に位置する存在。そんな大物が自分のような得体の知れない人物の話をそう簡単に聞いてくれるとは到底思えない。

それに現段階(・・・)においてミリムと言う生物は戦うと言う行為以外に楽しさを感じない戦闘狂と同時に、まだ子供と言って良い程幼い精神力。話し合いでの解決はほぼ不可能だと断言できる。

 

(戦闘は避けられない…。魔王として一定の矜持を持つギィ、純粋な戦闘力としてはネフィ以下の実力のラミリスは兎も角、ミリムは無邪気な気分屋で歯止めが一切効かないだけでなく、実力もギィと同程度のモノを持つある意味で一番厄介な魔王。戦うと決めたら余程の事がない限りその決定をねじ曲げる事は絶対に無いだろう。原作のリムルと同じようにお菓子を上げたら大人しくなるとは思うが…)

 

しかしそのルートを進んでしまった場合、未来でのリムルが原作で使った方法を使えなくなってしまう危険性があり、後々あちら側に多大な損失を与えてしまう可能性が捨てきれない。

自分の手でリムルを葬り去ろうと考えているガレアにとって、その策はあまり好ましいものではないのだ。

やるなら本当にヤバい時だけ。今はまだその時ではない。

 

(となるとやっぱり最善の策としてはミリムの無力化…あらゆる防御を貫き対抗する手段を無効化させる【死霧之王(シュキーガル)】を使えば勝ちの目はある…だがギィが見ている以上、下手に使用することができない。本当にやりづらいな…)

 

別にミリムを無力化させるだけなら【死霧之王】を使えば危なげなく実行する事ができる。完全な確証があるわけではないが、【死霧之王】はあらゆる耐性を無効にし、その上で相手を無力化する。その特性をうまく使えば例え魔王であろうとその効力を発揮するだろう。

実際の所、ミリムと戦うことはあまり問題ではない。目下最大の問題はそれではなく、この戦いをギィが見ていると言う事。それだけが大きな問題なのだ。

 

世界最古の魔王であり、そして同時に最強の魔王との呼び声も高い魔王、ギィ・クリムゾンは【傲慢之王(ルシファー)】と言う強大な究極能力を持ち、ありとあらゆる能力を模倣すると言う出鱈目な力を持っている。原作ではそれを用いて他の魔王が究極能力を発現したら、その力を使ってそのまま模倣しようとしていた。考えも無しに【死霧之王】を使うようなものなら、即座に【傲慢之王】でその力を掠め取られてしまうだろう。様々な応用が聞く多彩さを持つ能力ならギィに模倣されてもある程度対策は練れるだろうが、生憎と【死霧之王】は単純で強力な能力の括りに入る。一瞬でも認知されれば丸裸にされてしまう。そんな確信があった。

 

(かと言って切り札を使わずに勝てるほどミリムは甘くない。それ所か、一瞬でも躊躇いの念を見せたら確実に潰される。だが使ってしまえばギィの思う壺…。一応一つだけ、その障害をすり抜けて勝負を決める事が可能な手段がある…が、準備をするのに時間がかかりすぎる上に、魔素の動きが激しいから発動前に感づかれる危険性が高い。成功したときのメリットはでかいが、相対的に失敗した時のデメリットも同じように馬鹿でかい。最悪の場合ミリムに成す術無く潰された後、ギィに能力を掠め取られるからな。さて、どうしたものか…ん?そういえば、【傲慢之王】には弱点があった気が)

 

「……い」

 

(そう言えば【傲慢之王】は分析系統の能力は模倣できないって言う欠点があったな。それなら【情報隠蔽】の能力を上手く使えばギィの模倣能力を回避できるんじゃないか?名言はされてない筈だが恐らく【傲慢之王】が発動される条件はギィの対象能力への認知。それを逆手に、俺が考えたギィへの対抗策を合わせれば…)

 

【絶対記憶】によって決して忘れることの無い原作知識を活用し、次々とギィへの対抗策を考えていくガレアだが、そこまで考えて驚愕の事実に気づいてしまった。それこそ気付かなかった方が幸せなのではないかと思えるレベルの。

 

(ちょっと待てよ、それなら【知ノ恵】との交信をシャットダウンした意味がないのでは…ヤバい、とてつもなく不味い予感しかしない)

 

「…ーい」

 

(少し無視したりからかうだけでも手痛い反撃をしてくる【知ノ恵】が何の理由も無しに交信を妨害されて黙っている筈がない!更に勘違いだったなんて事がバレたら…。いや、確実にバレてる…)

 

「おい!」

 

「!?」

 

しまった。そう思ったときにはもう遅い。

確実にあるであろう【知ノ恵】の精神攻撃に戦々恐々していると、突然背後から思わず耳を塞ぎたくなるような荒々しい声が聞こえてきた。何事か、と思わずガレアが背後を振り返ると、そこには額に青筋を浮かべたギィが腕組みをしながら聳え立っていた。

 

「聞いていたのか?」

 

「すまん、考え事に集中していて全く聞いていなかった。申し訳ないがもう一度言ってくれないか?」

 

「はぁ…やはり聞いていなかったか。集中するのは良いが少しは周りも見ておけよ?仕方ない、一度しか言い直さないから良く聞いておけ」

 

「…分かった」

 

どうやら考え事をしている内に周りの音もついでにシャットダウンしてしまっていたようだ。心の中で申し訳ないと思いつつ、ギィが語るであろう言葉に耳を傾ける。ガレアは恐らくミリムとの戦いにおいての注意やアドバイスの類いだろうと予測していたが、その言葉はガレアの予想を大きく斜め上に行くものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「喜べ、戦う相手がミリムから俺に変わったぞ」

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

 

 

唐突に投げられたその言葉に、ガレアはただただ呆然としている事しか出来なかった。

 

 

▲▽▲▽

 

 

 

俺、ギィ・クリムゾンが奴に対して初めて抱いた感情は、『疑問』だった。

 

俺が魔王の仲介の場として提案した魔王達の宴(ワルプルギス)の開催地を模索している最中に感じた、並の魔物なら背筋が凍り震えが止まらなくなるレベルの殺気。恐らく無差別に放ったモノだろう。それだけで十分相当な力を持つ存在だと俺には理解できた。

だが俺にとっては何度も経験した事がある程度の殺気だ。何故放ったのかと思わず『疑問』を持ってしまった。

 

とりあえず、ヴェルダに『調停者』としての立場を任された以上、この殺気を放った奴には会っておく必要がある。そう考えた俺は直ぐ様殺気を放ったと思われる相手の元へと向かった。

 

 

思えばこれが、俗に言う運命と言うものだったのかも知れない。

 

 

 

「《魔王》ギィ・クリムゾン…!?」

 

奴が俺の事を認知した瞬間、表情には出さなかったが俺の内心は驚愕に染められた。

 

奴が俺の想定以上に力を秘めていたからではない。

 

予想よりも速く奴が俺の存在を認知したからではない。

 

奴が俺と同じ赤髪だったからでは……無い。似ているな、程度の認識だ。

 

奴が俺の事を《ギィ・クリムゾン(・・・・・・・・)》と表した事に、だ。

 

俺の事をギィと表するのはまだ理解できる。もう数百年名乗り続けているのなら、意識していなくてもその名が何処かで広まっていてもおかしいことではない。

だがクリムゾンは別だ。これは俺の競争相手でありライバルでもある勇者ルドラからつい最近(・・)受け取ったばかりの新しく付けられた名前。

無論、この名前は受け取ったばかりなので無暗矢鱈に公開などしていない。知っているのは他の魔王やルドラ率いる勇者一行だけだと思っていた。だがコイツは知っていた。

勇者の関係者かと思ったが、体内から僅かに漏れ出ている魔素からそれは違うと判断した。魔素を所持しているのは魔物や魔族と言った存在のみで、人間は通常魔素を保持していない。

 

 

 

今俺の正面にただすんでいるこの男は一体何者なのだろうか?俺の知らないヴェルダの関係者?否。

ルドラと戦ったときに近くに隠れていた小賢しい魔物、もしくは魔族?否。

 

そのどれもが確証を持てない、だが違うと言う確証も無い。しかし、不思議と俺はこの予想が違うと自信を持って判断できた。理由は分からない。それを問い詰められてもまともな返答はできないだろう。

 

 

そしてそのような思考を俺にもたらした眼前の男に対する感情は『疑問』から『警戒』へと入れ替わった。

だが、今は圧倒的に情報が無い。何の確証も無しに一方的に『警戒』するのは流石に思う所があったので、まずは相手の実力を確認する為に軽い手合わせをすることにした。

 

 

相手の了承?そんなのある訳無いだろ。

 

 

結果から言って、随分と驚かされた。

純粋な身体能力は俺と比べても何ら遜色はない。だが、戦い方においては俺よりも数段上手だった。

最初は来るなり唐突に攻撃を仕掛けてきた俺に驚いて防戦に重きを置いていたようだが、徐々に相手がこの状況に慣れてくると戦況に変化が生じてきた。さっきまでの動きとは180度打って変わって、確実に、的確に、こちらの動きを観察し見極め、痛打を加えてこようとしてくる。

時には足蹴りや膝曲げ等こちらの体制を崩すような行動をして隙を作らせるような動きをしていた。

一概に言って、力の使い方に関しては俺よりも上手い。俺の場合戦い方を工夫しなくてもそのまま力だけで攻略できる事が殆どなので、こう言う戦い方はしたことが無かった。見た限り体術の一種ではあるだろうが、長い間戦闘をしてきて、このような戦い方に覚えは無ぇ。

俺の知らない技術(アーツ)の一種か…?

 

勿論それだけでは身体強化系の能力で簡単に対応できるので明確な驚異足り得ないのだが、生憎と奴はそれ以上の引き出しをしてくる事もなく、戦いはそのまま俺の圧勝で終わった。

 

 

 

しかし、それが俺の『警戒』レベルを引き上げた。

 

 

 

今回、奴は俺との戦闘で能力を一切使っていない。【痛覚無効】を持っているのは戦いの中で確定したが、それはあくまで耐性であり、能力ではない。使える能力が無いのかと一瞬考えたが、後から来たミリムに魔素量を確かめさせた所、それは無いと判断した。

奴の魔素量はそこらの悪魔や魔物共よりずっと多い。

それに身を守るための体術も習得している。

なら必ず、自衛の為に攻撃系の能力を最低一つは持ち合わせてる筈だ。なのに今回はその能力を使わなかった。と言うことは…。

 

(信じたくねぇが、間違いねぇ。コイツ、俺の能力を把握して警戒していやがる)

 

瞬間、俺の奴──ガレアへの『警戒』は確かなものに変わった。どんな手段を使ったのかは分からないが、ガレアは俺の事を知ってやがる。いや、知っていると確信できたのが俺の事だけであって、ミリムやラミリスの事も知っていてもおかしくねぇ。ミリムがガレアに興味を持って戦うと宣言した時、一瞬顔面蒼白になっていたからな。恐らくミリムがどんな性格か理解してるんだろう。

 

そうなると益々ガレアがどんな手段を使って情報をかき集めているのか興味が湧いてくる。

 

解析系の能力持ちとコネがある?

 

可能性は高そうだが、そこまで相手の情報を網羅する解析系能力者は今まで聞いたことがない。ミリムでさえ魔素量を暴くだけだというのに、能力と真名まで解析する能力者が本当にいるのか?…確証がないな。

 

 

ガレア自身が余程強力な解析系能力の持ち主?

 

一番可能性が高いのはこれだろう。自身が持っていればその能力は自由に使う事ができるし、躊躇う必要もない。先の考察で能力と真名まで解析する能力者が本当にいるのかと疑問を抱いたが、奴がその能力者なら多少は納得できる。他の考察よりは現実味があるが、そうなると俺と戦っているとき何故能力を使わなかったのか。俺の究極能力、【傲慢之王】は知覚さえすれば大抵の能力は模倣できる、だが唯一の欠点として解析系能力だけは模倣できない。俺の細かな情報も知っているガレアがこの情報を知っていない筈がない。そう思っていたのだが…。

まさかとは思うが、忘れていた?いや、そんな訳は無いだろう。(その通り)

何にせよ確証が無いのでは決めつけはできない。

やはり本人に問い詰めるしか、真実を知ることはできないようだ…はしゃいでるミリムには悪いが、今回の戦いは俺に譲って貰うとしよう。

 

 

 

大穴の予想として観測世界からの転移者と言う考察もあったが、流石にそれは無いだろうな。

 

 

ミリムにガレアとの勝負を譲ってくれないかと頼んだが、案の定ミリムは盛大に駄々をこねた。

理不尽な提案なのは良く良く分かっているのだが、このままガレアがミリムに潰されるのは正直あまり宜しくない。もし俺の予想が正しければガレアは後の戦いの際に大きく役立つ事になるだろう。そう易々と手放す事は避けてぇ。

仕方ないので、今度本気のバトルをしてやると言ったら、渋々とだが了承してくれた。

…何かとんでもない事を言ってしまった気がするが、今はこちらに集中だ。ガレアに勝負の相手が俺に変更になった事を報告したがコイツ、考え事をしていて周囲の音を全く拾っていなかった。集中力があるのは良いことなのだが、これは多少イラッと来る。

 

その後俺はガレアに俺が勝ったらお前の事を話して貰うと条件を付けたが、やはり一方的な条件ではあちらが納得しないので逆にガレアが勝ったら魔王の地位を授けると言っておいた。

この提案にガレアは驚き少し考えていたが、やがて納得したように首を縦に振ってくれた。

 

 

さて、見せて貰おうか、お前の真実を。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

「喜べ、お前の相手がミリムから俺に変わったぞ」

 

「……………は?」

 

唐突にギィから延べられた言葉に、俺は呆然とするしかなかった。

だってそうだろう。

今の今まで絶体絶命な状況を打破する為に一生懸命策を労じてたのに、このタイミングで見事な手の平返しを受けたんだから。

「俺の苦労を返せ!」って思わず叫び返してしまう所だった。それはつまり、戦う相手がミリムからギィに変更になったって事なのだろうか?ギィの対抗策も考えておいたからそれ自体は別に問題じゃ無い。むしろ好都合。

けど、些か急展開過ぎないだろうか。

 

「…それに関しては構わないが、急にこんな行動を起こした事には何かしら理由があるんだろ?」

 

「あぁ。お前は俺を知りすぎている。その情報源が何なのか、お前の口から聞いてみたくてな」

 

…成る程。ギィは俺の情報が何処から貰っているのか気になるのか。まぁ、【傲慢之王】を警戒しているのはバレバレだっただろう。

前の戦闘では警戒しすぎて能力一切使わなずに終わったからな。でも、少し提案が一方的過ぎる。多分こちらが勝負を受けるようなメリットは用意していると思うけど。

例えば、こちらが勝てば何らかの地位を与えるとか。

 

「だがこんな一方的な提案が通るとは俺も思っていない。お前もそうだろう?そこでだ、俺が勝ったらお前の情報源を話して貰う。逆に、お前が勝ったらお前を新たな魔王として迎い入れよう。どうだ?悪くない条件だと思うが」

 

予想通りのメリットを用意していたようだ。

確かに後々の行動を考えると自由に動きやすくなり妨害を受けにくくなる魔王と言う地位は魅力が高い。

勿論魔王を目の敵にしている奴らに狙われると言うリスクもあるが、それを引いてもメリットはかなりでかい。だが、負けたときのリスクもこれまたでかい。情報源を洗いざらい話すと言うことは、俺が持っている最大のアドバンテージを失う事と同義であり、俺の素性を話す事にも繋がる。まして話す相手は最強の魔王であるギィ・クリムゾン。下手をすればこれからの俺の行動が激しく制限される恐れがある。それは何としても避けたい。どうすれば…。

 

…別に正直に話さなくても良いのではないか。

ようは相手が納得できるような理由を話せば良いだけだから。幸いにも俺には優秀な解析系の能力【知ノ恵】がある。それであちらの情報を探っていたと言えば万事解決。解析系能力は【傲慢之王】では模倣できないからバレても然程問題じゃない。

そうと決まれば了承するだけだ。

律儀に返答するのもあれなので、単純に首を縦に振るだけで留めておく。厳しい戦いになるのは承知している。

一度戦って負けているのだ、実力差は嫌に成る程分かってる。けど、それは正面(・・)から戦った時の場合。今回は【知ノ恵】がある、【死霧之王】も使える。

策も立てた。後はそれを実行するだけ。

再起動した【知ノ恵】からの罵倒雑言は正直怖いが、背に腹は変えられない。

二度目となるギィとの衝突に向けて、俺はゆっくりと【知ノ恵】の能力を再起動させた。




最近暑くてクーラーが欲しい…。扇風機だと気休めにしかならねぇ…。

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