犬山さんちのハゴロモギツネ   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。やたら早い投稿ですね、何か悪いものでも食べたんでしょうね。

それはそれとして消えた方の鏡爺の話もある程度書き直しており、つきさっき書き終えたので投稿しました。まだ、お酒が飲めた頃のハロハロちゃんです。

後、羽衣狐の配下のひとりが出ます。

その配下の会話を書いたデータが全部ぶっ飛んだことが何よりも痛かったりしました。


羽衣狐(手長足長入道)

 住宅街とメインストリートの丁度中間の辺り。学業に勤しむ子供が通学路に使う道のひとつにひっそりと佇む寂れたビルの屋上に立ち、無言で街を見下ろす存在がいた。

 

 それは背が高く痩せぎすで、手足が異様に長い妖怪であった。そして、頭には、髪も耳も目も鼻も口も無いのっぺらぼうのような外見をしており、銀にも白にも見える肌をしていた。

 

 服装は妖怪としては妙に近代的であり、黒いスーツと白いシャツを着てネクタイを締めており、全体的な印象としては生物感の無い、無機質な妖怪であった。

 

 何を考えているのか、背の高い妖怪は何をするわけでもなく、街を見下ろし続けている。

 

 

『縺ゅl縺ッ?』

 

 

 突然、状況が変わった。口の存在しない背の高い妖怪から出された音は、人間にも妖怪の耳にも聞き取れぬ、ノイズのような音が幾つも重なりあった不協和音のような何かであった。

 

 

『縺ェ繧薙□?』

 

 

 背の高い妖怪は小さく首を傾げる。それは目のない顔の視線の先にあるものに向けられているように見える。

 

 

『縺励▲縺ヲ縺?k』

 

 

 背の高い妖怪が見つめる先には、髪の左側に少し突き出たおさげをした学生服姿の少女――犬山まなが歩いていた。

 

 背の高い妖怪は暫くそのままの姿勢で固まり、犬山まなを湿った視線でじっと見つめていた。

 

 

『縺ェ縺、縺九@縺』

 

 

 ポツリと再び呟かれたノイズと共に、背の高い妖怪の身体が小刻みに震え出す。その様子は端から見て明らかに異様である。

 

 

『縺ォ縺翫>』

 

 

 すると背の高い妖怪は体勢を変え、更に食い入るように犬山まなを見つめているように見えた。そのまま背の高い妖怪は、更に暫く犬山まなを見つめていた。

 

 

『蜊ア髯コ』

 

 

 再び状況が変わる。背の高い妖怪は短くノイズを呟くと、犬山まなのいる方に向けて手を掲げた。

 

 

『縺セ繧ゅk』

 

 

 当然、幾ら背の高い妖怪の腕が人間よりも長め、だからといって届くわけもないが、背の高い妖怪は手の中に犬山まなを握り締めるような動作をとった。

 

 

『縺ッ縺斐m繧ゅ&縺セ』

 

 

 最後にこれまでで最も大音量で出されたノイズが大気を震わせた直後、まるでそこには始めから何もいなかったかのように、背の高い妖怪は跡形もなく姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(な、なに!? なんなのあれ!?)

 

 私は学校の帰り道を全力で走っていた。普段ならこんなことはしないけど今は緊急事態。

 

 ここ数日、なんだか得体の知れない何かに見られているような気がしたけど、見られていただけだからそういう類いの妖怪でもいるのかなと思って特にお姉ちゃんにも相談しなかった。けれど今日はまるで違った。

 

 そこまで考えた直後、視界の隅に"アレ"が映った。

 

「……っ!」

 

 頭の中に電気が走るような感覚に襲われ、視界の端にテレビの砂嵐のような光景が映る。当然、それだけに留まらず、思わず目を瞑り、少しだけ足を止めてしまう程の頭痛にも襲われた。

 

 

『縺薙▲縺。』

 

 

 そして、たったそれだけの時間でアレは私のすぐ近くに来ていた。

 

 私は思わず、前方から響く、壊れたスピーカーでも出さないような聞いているだけで頭が割れそうになる音の方へ目を向けてしまった。

 

 

『縺翫>縺ァ』

 

 

 ソレは身長が3mはあるけれど、ものすごく痩せた男の人のような妖怪だった。

 

 

『縺サ縺ュ』

 

 

 銀にも白にも見える肌をしていて、顔にはのっぺらぼうのようにあるはずのパーツが何もない。場違いにも、どうやって音を出しているのか不思議に思う。

 

 

『蜊ア縺ェ縺』

 

 

 何よりも特徴的なのは上下黒のスーツ姿だっていうこと。でも、それでいてお父さんが着ているよりもよっぽど似合っている気がした。

 

 少しだけ考えを変えて、頭痛を紛らわした私は、あの妖怪のいる道ではなく、脇道を駆けた。あの妖怪が視界から消えたことで、頭痛はだいぶ和らいだ。

 

 

『縺ェ繧薙〒?』

 

 

 ひとつわかったことは、この妖怪が近付くと頭にあの音が響き、視界に入れると更に酷くなること。だからなるべく視界に入れないように逃げ続けることが正解だと思う。

 

 

『縺ォ縺偵k?』

 

 

 そもそもあの妖怪は一歩も歩いている姿を見ていないのに、必ず私の行く道の先にいる。それが不気味で仕方なく、まるで逃げれる気がしないようで辛かった。私に出来ることはただ、あの妖怪から逃げるだけ。

 

 音から考えて、あの妖怪が背後にいる内に私は脇目もくれず、家へと目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お姉ちゃ――」

 

 やっとの思いで家まで着いて、崩れ落ちるように家に入ってお姉ちゃんを呼ぼうとしたところで気がついた。

 

「きょ、今日お姉ちゃんバイトだった……」

 

 いつもアルバイトの日は直接学校から向かっているので、まだ暫くは帰って来ない。そもそも走っている最中に通知すればよかったことにも今さら気がつく。

 

「お姉ちゃんと猫姉さんに……」

 

 そこまで考えたところでどちらにメッセージを送るかで、携帯電話を持つ手が止まった。お姉ちゃんに送れば多分即座にバイトを放り出して来ると思う。こんな状態だけど、それは妹として心苦しかった。

 

(だったら……そうだね)

 

「猫姉さんに送ろう……」

 

 私は猫姉さんにだけメッセージを送った。

 

 大丈夫……あの妖怪だってきっと家の中には入ってこな――。

 

 

 

『縺ッ縺斐m繧ゅ&縺セ』

 

 

 

 その音は私の背後から響いた。更に私を覆い隠すように夕焼けの日差しで、長く延びた異様なシルエットの影が前に映って見える。

 

 全身が震えた。ここまで単純に怖い妖怪に遭遇したことなんて一度もなかったから。私は目を瞑ってうずくまりたい衝動に駆られた。

 

 でもそんな時、私の中に思い浮かんだのは、羽衣狐として振る舞っている強くて格好いいお姉ちゃんの姿だった。

 

(ダメっ! 私だってお姉ちゃんの妹なんだから! しゃんとしないと!)

 

 根拠も何もない思いを強く持って、私は一気に背後へと振り向いた。

 

「え……?」

 

 振り向いた先には何もいなかった。背の高い妖怪の姿も、あの影も、頭の中に響くノイズも何もない、いつもの家の中だけがそこにある。

 

「なんだ……」

 

 ひょっとしたらただの悪戯好きの妖怪だったのかも知れない。もしそうならスゴく質が悪いけど、誰も殺しても怪我をさせてもないし、妖怪らしい妖怪だったのかな?

 

満足したか、諦めてくれたのかと思って、安心して私はその場で少し後ろに下がって、膝を落として壁にもたれ掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『縺、縺九∪縺医◆』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の記憶は背中に壁ではない何かに当たる感触と、視界を覆うように広がった長い腕を最後にそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ……?」

 

 肌に当たる風を感じて私は目を開けた。

 

(どこだろうここ……?)

 

 私はどこかの森の中にいた。回りはとても暗くて月明かりでしかわからなくて、とても不気味に感じた。それに朝でもないのに森全体に薄く靄が掛かっている。目と鼻の先が見えない程ではないけれど、50mぐらい先はもうわからない。

 

「えーと……」

 

 多分、あの背の高い妖怪に連れてこられたんだろうということは思い出した。とするとあの妖怪も近くにいるんだと思ったけど、周りを見渡してもどこにも見当たらない。

 

 そんなことを考えていると、森から木々がバリバリと折れる異音と、私のいる地面まで響いてきた小さな振動によって思わず、声を上げてしまった。

 

「ひゃっ!? なに!?」

 

 もっとちゃんと辺りを見渡すと、私は数十m程前の場所に、人魂みたいに赤く光る何かが浮かんでいることに気がついた。

 

 その直後、森の靄が何かに掻き消されるように晴れた。

 

「え……?」

 

 靄が晴れて私は唖然とした。人魂だと考えていたものは、ものすごく巨大な骸骨の目玉だったから。

 

 骸骨は湿った視線で私を見つめて、何が楽しいのかケタケタと嗤った。それは寒い時に自然に歯が打ち鳴らされるような何とも言えない様子にも見えた。

 

(この感じ……最近感じていた!?)

 

 どうやら最近の視線の正体はこの骸骨だったみたい。だったらあの背の高い妖怪はいったい――。

 

『―――――ァ!?』

 

 次の瞬間、目の前にいた巨大な骸骨の頭が爆発したみたいな衝撃を受けて不自然に傾いた。よく見ると黒くて細い枝みたいなものを束ねたものが骸骨の頬に当たっていた。

 

 私は自然にその枝の発生元を辿ると、私の背後から伸びていたことに気がついた。

 

 

『縺セ繧ゅk』

 

 

 あの黒板を爪で引っ掻くよりも耳に残るノイズが頭に響き、思わず身体を縮こまらせたけど、それは私の後ろから聞こえたことがなんとなくわかった。

 

 私は恐る恐る後ろを振り向く。

 

 

『縺ッ縺斐m繧ゅ&縺セ』

 

 

 そこにはあの背の高い妖怪が立っていた。丁度、私から10m程の場所で、黒い無数の枝みたいな何かが背の高い妖怪の背中から生やしている。黒い枝はまるで掃除機のコードを巻き取るみたいにしゅるしゅると背中に戻り、数m程の長さで止まると十数本の枝が背の高い妖怪を囲うように宙に漂っていた。

 

 驚いたまま見つめていると、背の高い妖怪は私の方を少し見てから、巨大な骸骨の方に目を向けたのがなんとなくわかった。

 

 次の瞬間、巨大な骸骨ががらんどうの身体から大きな叫び声のような音を上げたので、私はそちらに振り戻る。

 

 それは何かを邪魔されて、とても怒っているように思え、実際巨大な骸骨の目の前に真っ赤な光が集まっているのが見えた。

 

(何あれ……? 光線みたいな――)

 

 そこまで考えた直後、今度は骸骨の顎が爆発したみたいな衝撃を受けて、骸骨の巨体が一時的に打ち上がる。見れば、背の高い妖怪から急激に無数に伸びた黒い枝が人の拳のような形を取って顎を殴っていたことがわかった。

 

 

『縺サ縺ュ』

 

 

 いつの間にか背の高い妖怪は私の隣に来ていた。でも私には見向きもせずに視線は巨大な骸骨だけに注がれている。

 

 背の高い妖怪を見ていると、急に背の高い妖怪が私が見ていた場所から消え、骸骨と私の中間に現れた。

 

(瞬間移動……それで私を追ってたんだ……)

 

 

『螢翫☆』

 

 

 するとその場所で背の高い妖怪は足を開いて手を構えた。それは私が見た限り、初めて人間らしい動きだった。

 

(はっ!? 逃げなきゃ!)

 

 その考えに思い当たった私は立ち上がると一目散に駆け出した。その間、私は背後を決して振り返らずにひたすら走った。

 

 

『豁サ縺ュ』

 

 

 背後で聞こえる爆発音や木々がへし折れる音、そして何よりあのノイズを聞き流しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まな!』

 

「鬼太郎! 猫姉さん!」

 

 犬山まなは森の中を駆けた末、カラスで空から捜索していた鬼太郎らに見つけられ合流した。今この場所にはまなを含めて鬼太郎、猫娘、目玉のおやじ、砂かけ婆、子泣き爺がいる。

 

 まなは一目散に猫娘の胸に飛び込み、猫娘もそれを抱き止めた。

 

「いったい何があったの!?」

 

「背の高い妖怪に追われて気づいたらこんなところにいて……そこに巨大な骸骨もいて……えっと……あ! でも巨大な骸骨から感じたのは最近感じていた視線で!」

 

 血相を変えた様子の猫娘がまなに聞くと、まなは興奮気味にやや要領を得ない話をする。鬼太郎らはそれに頭を捻っていると、鬼太郎の妖怪アンテナが反応したことでそちらに注目が集まる。

 

「これは……? 父さん何か来ます!」

 

「なんじゃと?」

 

 そう鬼太郎が言った次の瞬間に、森の木々を薙ぎ倒す轟音と共に巨大で白い物体が飛び込んでくるのが見えた。

 

「まな掴まって!」

 

「きゃぁっ!?」

 

 猫娘がまなを抱えて跳び、それと同時にその場にいた他の者らもその場から離れた。

 

 その直後、飛来した物体が元いた地面に叩き付けられるように落ちる。まなにはその巨大な白い物体に見覚えがあった。

 

「あ、あれが大きな骸骨だよ!」

 

「あれは"がしゃどくろ"! 下がっててまな!」

 

 まなを地面に下ろした猫娘も臨戦態勢に入り、他も一様にそうしていた。がしゃどくろを囲むようにしていると、がしゃどくろはゆっくりと巨体を翻して起き上がる。

 

 その直後、がしゃどくろの顎の下に突如としてその妖怪は現れた。

 

 妖怪は背が高く痩せぎすで、手足が異様に長い。更に服装は黒いスーツと白いシャツを着てネクタイを締めている。そして、その上にある頭には、髪も耳も目も鼻も口も無い。銀にも白にも見える肌をしている。正しく、まなを追っていたあの妖怪であった。

 

「なんじゃアレは……?」

 

「私を追ってた妖怪!」

 

「見たことのない妖怪じゃな」

 

 背の高い妖怪に対して、目玉のおやじと砂かけ婆は首を傾げた。この中の妖怪で知識人と言える二人がこの様子なため、子泣き爺や鬼太郎もそれを知り得なかったが、唯一猫娘だけ様子が違った。

 

「え? あれって……」

 

 猫娘は今この場で携帯電話を取り出し何かを調べていた。しかし、それが終わる前に状況が動く。

 

 背の高い妖怪の背中から黒い無数の鋭利な刺剣のような触手が伸び、真下からがしゃどくろの頭を串刺しにしたからである。

 

 それをまともに受けたがしゃどくろは、剣山に刺された髑髏のようななんとも不格好な見た目になる。がしゃどくろはそれから逃れようともがくが、更に背の高い妖怪の背中から生えた触手ががしゃどくろの全身を刺し貫き、それさえも許さぬと言わんばかりに次々と縫い付けていった。

 

「あったわ! これよ!」

 

 猫娘は自分の携帯電話を鬼太郎と目玉のおやじの前に出す。それは海外のサイトのようでその中のあった一枚の写真を見せているようだった。

 

 そこには妖怪の身体的な特徴と全く同じ姿をしたものが映っており、見た者を驚かせた。

 

「なんと! 人間のサイトに何故このような……」

 

「違うわ。多分、あれはこの一枚の写真から生まれた妖怪よ」

 

「それはどういうことだ猫娘?」

 

「そのままの意味よ。架空のキャラクターだったのよ、元々はアメリカの掲示板でジョークの怖い怪物として創作されたの。それがインターネットに乗って爆発的に広がって現実で感化された人間が事件を起こすまでになったわ」

 

「なるほどのう、インターネットを通じて沢山の人間の強い感情や思いが妖怪という形を成してあの者を生んだということか。成り立ちはどうあれ、妖怪の生まれとしては筋が通っておる」

 

「でもどうしてまなを追っているんでしょうか?」

 

「アメリカかー。小学生の頃に一回家族で旅行したことはあるね」

 

「まな……まさかその時になんかしたんじゃないでしょうね?」

 

「し、してない! してないよ! 今まで全然知らなかったし!」

 

 そんな会話を繰り広げているとがしゃどくろと、背の高い妖怪に動きがあった。

 

 

『豁サ縺ュ』

 

 

 背の高い妖怪がノイズのような声を発すると、髑髏に刺されたままの全ての触手は外側へと勢いよく引っ張られる。

 

 がしゃどくろの頭はミシミシと異音を立て髑髏を中心に全身がひび割れる。そして、遂に限界は訪れ、がしゃどくろの身体は爆発するように弾け、崩れ去ってしまった。

 

 後に残るのは、暗い森の中で月に吼えるように構えた黒い無数の触手を生やした背の高い妖怪だけだ。

 

「がしゃどくろをいとも簡単に……」

 

「質の悪い悪霊のような妖怪ですが並の妖怪が勝てる相手ではありませんよ」

 

 

『縺ェ繧薙□?』

 

 

 がしゃどくろを葬った背の高い妖怪はノイズのような音を出しながら首だけを傾げ、鬼太郎らを見据える。

 

「猫娘、何か弱点はないのか?」

 

「あったらとっくに言っているわよ」

 

「なんじゃあの音は酒が不味くなるわい」

 

「子泣き、それどころではない。来るぞ……」

 

 目玉のおやじをまなに預けると、鬼太郎らはまなを庇うように背の高い妖怪の前に出た。それを見てか、背の高い妖怪は更にノイズを吐く。

 

 

『縺ッ縺斐m繧ゅ&縺セ』

『縺セ繧ゅk』

 

 

 いつもよりも長く出されたようにまなは感じたノイズ。更に何故かとても感情が籠っているような気さえした。

 

 しかし、背の高い妖怪はその考えとは裏腹に背中から無数の黒い触手を伸ばし、鬼太郎らへと殺到させた。

 

「子泣き!」

 

「ほいさ! おぎゃぁぁ! おぎゃぁぁ!」

 

 砂かけ婆の判断により子泣き爺は先頭に立って石になる。触手は動きを変えて前に出た子泣き爺をまず串刺しにするように殺到した。

 

 結果、触手は子泣き爺を貫くことが出来ず、先端をへし曲げられる。触手自体にダメージを受けているようには見えなかったが、その光景に背の高い妖怪は少し驚いているように見えた。

 

「喰らえ!」

 

 間髪いれずに子泣き爺の背後から飛び出た砂かけ婆が背の高い妖怪へと砂を掛ける。目がないにも関わらず、それを受けた背の高い妖怪は顔を覆って苦しむ様子をした。

 

「にゃっ!」

 

 次に猫娘が背の高い妖怪に迫る。すると猫娘の進行上に自動的に自身を守るように触手が折り重なって道を防いだ。

 

 しかし、猫娘の爪にとってはあまり関係のないこと。猫娘が爪を振るうと枝のような触手は次々と引き裂かれ、背の高い妖怪の触手の数を減らした。

 

「今よ鬼太郎!」

 

「ああ! 指鉄砲!」

 

 鬼太郎の構えられた指から妖力の奔流が放たれる。

 

 砂を退けた背の高い妖怪は咄嗟に触手を盾のように束ねて防ごうとしたようだが、出ていた触手が足りず、指鉄砲により消滅し、背の高い妖怪の胴を指鉄砲は貫通した。

 

「やったか!?」

 

「皆すごい!」

 

 目玉のおやじとまなは思い思いの言葉を述べる。しかし、腹に風穴を開けられた背の高い妖怪はこれまでで最大のノイズを吐き、その異音は鬼太郎らすら一時的に怯ませた。

 

 

『豁サ縺ュ縺ェ縺』

『邨カ蟇セ縺ォ』

『縺セ繧ゅk』

 

 

 背の高い妖怪から伸びる触手がさっきまでの比ではない勢いと量で伸び、妖力も数倍に引き上がった。正真正銘の本気なのだろう。

 

 最早、濁流のような量の触手はまなと目玉のおやじを含めた鬼太郎らを取り囲み、触手のない円形の場所以外の地面は全て触手に塗り潰され、木々は隙間もない程に絡み付かれる。

 

 

『縺昴≧隱薙▲縺』

 

 

 更に右腕に触手を纏わせて腕と一体化させた剣のように形作る。そして、左腕にも触手を纏わせて扇のように広い腕と一体化した盾を形成した。

 

「なに!? さっきまでとはまるで……」

 

 次の瞬間、言葉を発した猫娘の背後に盾を振り上げた背の高い妖怪が現れた。

 

「え……?」

 

「猫娘ぇ!」

 

「猫姉さん!?」

 

 鬼太郎とまなの叫びよりも先に猫娘は、既に動作に入っていた背の高い妖怪の盾に弾き飛ばされ、触手を大地とまでいえる光景が広がる円の外に弾き出される。

 

 結果、触手に叩き付けられた猫娘は、触手に拘束され、身動きが取れなくなった。

 

「なっ……!?」

 

 更に同じことをもう一度、繰り返して砂かけ婆も弾き出され、触手に身動きを奪われた。

 

「ぐうっ!?」

 

 次に背の高い妖怪は子泣き爺の目の前に剣を振り被った体勢で現れて振り下ろした。子泣き爺は手と足のみを石化させて耐えたが、見た目にそぐわない背の高い妖怪の怪力により、少しづつ後ろに後退させられる。

 

「髪の毛針!」

 

 それを見た鬼太郎から髪の針が放たれ、背の高い妖怪を襲った。しかし、背の高い妖怪は受けて傷ついているにも関わらず、全く止まる様子も怯む様子もない。

 

「おぉ……!?」

 

 背の高い妖怪は盾で子泣き爺の横腹を殴り、円の外まで弾き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子泣き爺はその時に偶々その場にいたまなの真横を通り過ぎて、触手に埋まる。

 

「きゃぁぁ!?」

 

「いかん! まなちゃん!」

 

 子泣き爺が真横を通り過ぎたことにビックリして思わず、まなは腰を抜かして背後に倒れ掛ける。しかし、触手の無い場所のギリギリに立っていたため、それは触手に呑まれることを意味していた。

 

「え……?」

 

「なんじゃ……?」

 

 しかし、何故か触手はまなを避け、まなは触手の下にある草の地面に尻餅をついた。

 

「まさか……!」

 

 それを見たまなはある答えに辿り着いた。

 

「目玉のおやじさん!」

 

「どうしたまなちゃん?」

 

「私やってみたいことがあるの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、背の高い妖怪は残った鬼太郎に目を向け、盾と剣を構えてその場から動かなくなる。

 

「くっ……!」

 

 一方鬼太郎はそんな背の高い妖怪により窮地に立たされていた。何せ相手はあの体勢から全く予備動作無しで、いつでもどこでも攻撃可能なのだ。分が悪い等という生易しいレベルではない。カウンターを貰う危険性から攻撃にすら転じられないのだ。

 

 しかし、そんな最中に鬼太郎は奇妙な既視感を覚えていた。

 

(なんだあの戦い方……どこかで見覚えがあるような……?)

 

 それは背の高い妖怪の盾の構え方に何か引っ掛かりを覚えたのである。しかし、この場でその答えを求めるのは得策ではない。

 

「しまっ……!?」

 

 時間にして刹那の思考の隙を突き、背の高い妖怪は鬼太郎の右斜め後方に転移していた。振り返った時には既に背の高い妖怪の剣の切っ先が鬼太郎の胸の手前まで到達していた。

 

 だが、その剣が心臓を貫くことは無かった。

 

 

 

「止めてぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 まなの静止の叫びによって背の高い妖怪が完全に停止したからである。背の高い妖怪はその態勢のまま首だけをまなの方を向けていた。

 

「ありがとう! 私はもう大丈夫だから!」

 

「まな!? 何を言って……」

 

 しかし、鬼太郎の警戒とは裏腹に背の高い妖怪が自身の武装を解除し、鬼太郎から離れたことで鬼太郎もそれ以上の言葉を止める。

 

 

『繧上°縺」縺』

『豁「繧√k』

 

 

 背の高い妖怪は相変わらずノイズで何かを伝えているように感じたが、今の背の高い妖怪からはまるで敵意を感じなくなっていた。

 

 更に背の高い妖怪は全ての触手を戻し、猫娘たちを解放する。

 

 

『蜻シ繧薙〒』

『縺セ繧ゅk』

『縺ッ縺斐m繧ゅ&縺セ』

 

 

 そして、背の高い妖怪はノイズを吐きながらまなに向かって大きくお辞儀をするとその場から跡形もなく消えて行った。

 

「これはいったい……」

 

「どうやらあの妖怪はまなちゃんを守っていたようなのじゃ」

 

「そうなのまな?」

 

「うん、最近私が感じていたのはがしゃどくろの視線だったみたいだし、あの妖怪に追いかけられたのは今日が初めてで、私だけは触手を避けてたから」

 

「なんともまあ、面妖なこともあるものじゃな」

 

「なんじゃ、ワシらの早とちりじゃったのか?」

 

 子泣き爺の言葉により、鬼太郎らは何とも言えない雰囲気となったが、何れにせよまなが無事だったことを良しとして、帰路に着いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼太郎らから少し離れた場所。そこで背の高い妖怪は何をするわけでもなく佇んでいた。

 

 腹には指鉄砲で開けられた穴がまだ空いているが、あまり本人にとっては気になることではないらしい。また、星空を眺めているのか、何かを考えているのか、夜空に目を向けているようにも見えた。

 

「なんともまあ、よくやられたものじゃな。いや、それに関しては妾も他人のことは言えぬか」

 

 すると背の高い妖怪の背後から声を掛けられ、それを聞いた背の高い妖怪は即座に勢いよく振り向いた。

 

「日ノ本によう来たな"バラバ"よ」

 

 そこには日本三大妖怪の一体である羽衣狐が佇でいた。それも仮面をしていなければ肌を全て覆うようなローブも纏っていない犬山乙女の姿である。また、羽衣狐がいうバラバとは彼の名前らしい。

 

 羽衣狐を目にしたバラバは暫く止まってから首を傾げる。

 

『縺ッ縺斐m繧ゅ&縺セ?』

 

「ああ、妾が羽衣狐じゃ。フォックス100%じゃぞ」

 

 すると更にバラバは首を傾げた。

 

『縺ェ繧薙□?』

『縺ゅl縺ッ?』

 

「あれは犬山まな。妾の実の妹じゃよ」

 

『螯ケ?』

 

 その先をノイズで発しようとしたバラバだったが、羽衣狐に止められた。

 

「これ、バラバ。それでは妾以外に伝わらぬであろう。メモはどうした?」

 

 羽衣狐がそういうとバラバはいけないことをしたといった様子で頭を掻いてからスーツの内ポケットからメモとペンと取り出し、それに文字を書いた。

 

《はごろもさま》

 

「うむ、それでよい」

 

 納得した様子の羽衣狐に対してバラバは更に文字を書いた。

 

《家族》

《まもれた》

《よかった》

 

「ういやつよのうお主は……」

 

 そういうと羽衣狐は尻尾を出し、その中からたんたん坊らが所有していた頃の妖怪城に行く前に使っていた姿鏡を取り出して地面に置いた。

 

 するとその鏡の中には羽衣狐の姿ではなく、どこか自信無さげな様子の杖を持った老人が映っているのがわかる。老人は鏡の中から出て来てバラバの前に立った。

 

「安心せい。妾の友人の一人の鏡爺じゃ。今回まなの危機とそれをお主が追っていることを仕事中に手鏡で教えてくれてのう。折角だからお主に任せることにしたのじゃ」

 

「は、羽衣さんとは何百年も前からの旧友です……」

 

「鏡に嘘は吐けぬからのう。後で酒でも酌してやろうぞ。ツマミも作らねばな」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 ちなみに鏡爺よりも羽衣狐の方が歳上である。

 

「さ、行くぞ。妾の配下がひとり、"現代の妖怪"よ。お主とは契りがまだであったな。ひとまずは妾の居城に来るがいい」

 

 羽衣狐は笑顔でそう言ってから妖怪城のコンクリート片を取り出した。

 

 数秒後、そこには羽衣狐もバラバも鏡爺もおらず、ただ夜空と心地よい風のみがあった。

 

 

 

 




こ れ を 鏡 爺 の 話 と 言 い 張 る 勇 気


はい、羽衣狐の配下のひとり。現代の妖怪バラバさんでした。一応、元ネタの画像とキャラは"LOVA バラバ"と検索すれば出ます(誰も予想出来なかったであろう謎チョイス)。

あ、バラバの元ネタはスレンダーマンです(ド直球)。

しかし、一言も痩せた男とか◯レ◯◯ー◯ンとか言及していないので何も問題ありませんね!(白目)

作者思うんですけど、やはりゲゲゲの鬼太郎の男性妖怪は化け物チックな見た目の方がゲゲゲの鬼太郎っぽいですよねぇ。




~以下バラバさんの文字化けさせた会話の答え合わせもとい特別翻訳です。よかったらまた参照して読みなおしてみてください~



『縺ゅl縺ッ?』あれは?

『縺ェ繧薙□?』なんだ?

『縺励▲縺ヲ縺?k』しってる

『縺ェ縺、縺九@縺』なつかしい

『縺ォ縺翫>』におい

『蜊ア髯コ』危険

『縺セ繧ゅk』まもる

『縺ッ縺斐m繧ゅ&縺セ』はごろもさま


◇◆◇◆◇◆


『縺薙▲縺。』こっち

『縺翫>縺ァ』おいで

『縺サ縺ュ』ほね

『蜊ア縺ェ縺』危ない

『縺ェ繧薙〒?』なんで?

『縺ォ縺偵k?』にげる?


◇◆◇◆◇◆


『縺ッ縺斐m繧ゅ&縺セ』はごろもさま

『縺、縺九∪縺医◆』つかまえた


◇◆◇◆◇◆


『縺セ繧ゅk』まもる

『縺ッ縺斐m繧ゅ&縺セ』はごろもさま

『縺サ縺ュ』ほね

『螢翫☆』壊す

『豁サ縺ュ』死ね


◇◆◇◆◇◆


『豁サ縺ュ』死ね

『縺ェ繧薙□?』なんだ?

『縺ッ縺斐m繧ゅ&縺セ』はごろもさま
『縺セ繧ゅk』まもる

『豁サ縺ュ縺ェ縺』死ねない
『邨カ蟇セ縺ォ』絶対に
『縺セ繧ゅk』まもる

『縺昴≧隱薙▲縺』そう誓った


◇◆◇◆◇◆


『繧上°縺」縺』わかった
『豁「繧√k』止める
 
『蜻シ繧薙〒』呼んで
『縺セ繧ゅk』まもる
『縺ッ縺斐m繧ゅ&縺セ』はごろもさま


◇◆◇◆◇◆


『縺ッ縺斐m繧ゅ&縺セ?』はごろもさま?

『縺ェ繧薙□?』なんだ?
『縺ゅl縺ッ?』あれは?

『螯ケ?』妹?




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