犬山さんちのハゴロモギツネ   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。

オリジナル回かつおっきー分補給回です。ちょっと鬼太郎の好感度も上がります。


羽衣狐(人間)

 木々が疎らに立ち並ぶ林でひとりの妖怪の少年――鬼太郎は走りながら辺りを注意深く見回していた。その表情には焦りが見られ、一目でただ事ではない様子が見受けられる。

 

(なんなんだあの妖怪は!?)

 

 鬼太郎がそう内心で悪態をついた瞬間――。

 

「くっ……!?」

 

 何かを感じ、その場から飛び退くと、その場所の背後にあった太い木が爆散し、轟音を立てながら地に落ち、土煙を巻き起こした。

 

「……まーた避けられた……」

 

 土煙の中から気怠そうな女性の声が響く。

 

 そして、土煙が晴れるとそこにいたは、頭にカチューシャと髪飾りが付けられ、眼鏡を掛け、シャツとキュロットを身に付けて帯を巻き、 フード付きの着物を羽織り、手根骨までしか覆われていない手袋をしているという奇妙かつ現代風な女性妖怪であった。

 

 女性妖怪は片手の人差し指を木の幹があった場所に向けて静止しており、木を破壊した者はこの妖怪だということが見受けられる。

 

 眼鏡越しの妖怪の瞳には怠さ以上に何らかの使命のために鬼気迫るような色が浮かんでいた。

 

 更に林中から動物――ではなく、折り紙で折られたほぼ原寸大かそれ以上の大きさの動物達が集まり、女性妖怪の指示を待つように鬼太郎を取り囲んだ。

 

「当たってよ! もう!?」

 

 女性妖怪――"刑部姫"はそういうと折り紙の群れと共に全身を蝙蝠に変え、鬼太郎に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いないか……」

 

 ある晴れた日のお昼時。鬼太郎は犬山まなの住む街の中で、都会に佇む公園のベンチに座っていた。

 

 目玉のおやじは妖怪の会合に出ており、珍しく目玉のおやじを連れておらず、さらに言えば鬼太郎が他の妖怪に促されたり、妖怪ポストなどで出向く以外に自発的に人間の世界に来ることも稀である。

 

「羽衣狐……」

 

 それらの理由の答えは鬼太郎の呟きに全て集約されていた。鬼太郎は朝からこの街に居ると思われる羽衣狐を捜索していたのである。

 

 もっとも鬼太郎としても羽衣狐が人間社会に溶け込むことに長けた妖怪だということは重々承知だが、機会があったのでこうして出向いて探している次第である。

 

「やっぱり見つかるわけな――」

 

「だ~れだっ♪」

 

 ハスキーボイスの女性が無理矢理声を高くしたような異様に明るく合っていない声色と共に鬼太郎の視界が隠された。目に当たる柔らかな感触と優しい触れ方から恐らく手だと思われる。

 

 更に鬼太郎はそのまま頭を傾けられ、鬼太郎の背後で屈んでいると思われる女性の胸に後頭部が乗っかり、ふよんと音が聞こえそうな弾力で一度弾かれた後、そのまま少し沈んだ。

 

「………………」

 

「………………」

 

 鬼太郎はそのまま黙り、反応がないために相手も黙っているようだ。そんな中、先に鬼太郎の根気が尽き、溜め息の後に口を開いた。

 

「何をしているんだ羽衣狐……?」

 

「クククッ……まあ、気づくか」

 

 鬼太郎から離れ、鬼太郎が振り向くとそこにはいつものように真っ黒い装いをした羽衣狐が口に鉄扇を当てて立っていた。今日は妖怪城で被っていた口の出る狐のお面をしている。

 

「じゃが、それはこちらの台詞だというもの。朝っぱらから女子(おなご)の尻を追って駆けずり回るとはお主も中々に暇人よのう」

 

「……全部見ていたのか?」

 

 半ば煽るような羽衣狐の発言であるが、羽衣狐と何度も接している内に、それは彼女の性格的なものなのではないかと気付き、鬼太郎はスルーすることに決めたようである。更にひねくれたねずみ男のようなものだ。

 

「この街は妾の庭じゃ。大きな妖力が動けばそれだけで気づく」

 

 "まあ、逆に言えばそうでなければ気づかぬのじゃがな"と呟いてから羽衣狐は更に言葉を続けた。

 

「それで、何用じゃ? お主が直々に妾を探しているとなれば討伐か、頼み事か、妾でなければ知らぬような情報じゃろう。だが、討伐するにはお主ひとりでは戦力が少な過ぎる。情報にしても見たところ火急を要するような様子でもなければこの街に高い妖力を撒き散らすような妖怪が現れた訳でもない」

 

 羽衣狐は広げていた鉄扇をパシリと閉じると、どこか嬉しそうな様子で口を開いた。

 

「して、妾に何を頼む、鬼太郎よ?」

 

 羽衣狐は確信したような様子でその言葉を紡ぎ、そのまま黙った。鬼太郎の言葉を待っているのだろう。

 

 全て見透かされているようで何とも言えない気分になるが、それならばこちらも小細工無しにそのまま要件を言ってやろうと鬼太郎は口を開いた。

 

「羽衣狐、僕と戦って欲しいんだ」

 

 鬼太郎は羽衣狐に自身の思いを告げる。

 

 羽衣狐は鬼太郎と同じように人間を守り、また鬼太郎とは違い、人の営みを好くからこそわざわざ人間の街で暮らし、武術まで習得しているのだろうと鬼太郎は考える。それならば羽衣狐と戦えば更なる人の技を繰り出すかもしれない、それなら最早裏付けは取れたようなものだ。

 

 それに一番羽衣狐が鬼太郎と相容れないことはなんとなくわかっていた。これまでの様子や言動から恐らく羽衣狐は人間と妖怪が交わることを良しとしている。根本的な考えがそもそも鬼太郎と真逆なのだ。そちらについても聞いてみたいと考えていた。

 

「………………」

 

 羽衣狐は無言で寄ってくると鬼太郎のおでこに手を当てた。そして、少し間が空いた後に一歩下がり、何やら深刻そうに口を歪めながら呟く。

 

「熱はないのう……とすると頭の問題か……」

 

 すると羽衣狐は鬼太郎の目の前で両手を掲げながら少ししゃがみ、子を招き入れる親のように鬼太郎を求めた。口元には笑顔が浮かんでいる。

 

「何か自殺したいほど辛いことがあったのか? こんなに若いのに可哀想にのう……お姉ちゃんにハグしながら話してみよ?」

 

「指鉄砲」

 

「危なッ!?」

 

 鬼太郎は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の狐を除かなければならぬと決意した。

 

 ことはちょっぴりあったかもしれないが、鬼太郎は気づけば自分でも驚くほどの速業で指鉄砲を羽衣狐に放っていた。しかし、当たり前のように1mほどの距離から繰り出された指鉄砲を羽衣狐はマトリックスよろしくな動きで躱す。当たるわけ無いと思いつつ放ったものであるが、それでもこうも簡単に避けられると最早清々しさすら沸いてくる程である。

 

 しかし、言葉が足らなかった自分にも非はあると思い、鬼太郎は言葉を足した。

 

「……一度ちゃんと戦って欲しいんだ。僕の実力を測って欲しい」

 

 言ってから鬼太郎は流石に一度、指鉄砲を放ってからこんなことを言い出すのは失礼過ぎたと多少後悔したが、後の祭りであり、自然体で他人を煽る奴に下手に出るのもどうかと思ったと自身を納得させ、そのまま羽衣狐の言葉を待った。

 

 まあ、普通に断られるだろう。そう思った矢先である。

 

「ほー? よいぞよいぞ。お主もようやく余興の意味がわかってきたか!」

 

 羽衣狐は何故か非常に嬉しそうに手を叩き、更にカラカラと笑いながら"では人間のいないところでやるか"と迫ってきた。

 

 どうも羽衣狐は余興という言葉を"何かに至る過程"という意味で使っているような気がした。そういえば八百八狸の時に結果より過程を大事にすると言っていたことを思い出す。

 

 そうして、鬼太郎は羽衣狐と戦うことになり――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぇ!? 掠った!? ビュンっていった!」

 

 その結果がこれである。

 

 鬼太郎は羽衣狐が連れてきた刑部姫という妖怪と戦うハメになったのである。

 

 よくよく考えれば羽衣狐は一言も自分が戦うとは言っていなかったため、完全にやられたと思いながら自分の落ち度だと納得しつつ、鬼太郎は微妙に燻る羽衣狐への言い様の無い怒りを刑部姫にぶつけていた。

 

「髪の毛針!」

 

「おうっ!?」

 

 しかし、この刑部姫という妖怪も相当な手練れである。現にほぼ、ゼロ距離から発射した髪の毛針に対し、全身をコウモリに変化させ、円形に飛び散ることで躱し、鬼太郎から確実に距離を取った位置で再び身体を形成している。

 

 その上、近距離の攻撃は無尽蔵に現れる折り紙の動物に任せ、刑部姫自身は鬼太郎の隙を付いて攻撃を繰り返すのみというかなりイヤらしい戦法をとっており、不動で万能に攻撃を繰り出す羽衣狐とはまた違った強さがあった。

 

(刑部姫か……)

 

 刑部姫といえば1000年以上生きている羽衣狐と交友のある妖狐であり、近年は姫路城に住む伝説の大妖怪だ。そして、妖怪の中では、羽衣狐と親密な妖怪にも関わらず、羽衣狐よりも遥かに姿を現さない事から羽衣狐と同格かそれ以上の大妖怪なのではないかと、ある意味羽衣狐以上に恐れられている。

 

 もっとも――。

 

 

 

「ちくしょー! 年下の男の子の妖怪と戦って勝てば今年のフェスでちょっとエロいコスプレ衣装着てやるなんて話に乗るんじゃなかった!? 年下の男の子って鬼太郎のことかよぉぉ!? それとハロハロちゃんのちょっとエロいコスプレ衣装とか気になり過ぎるんだよォォ!!」

 

 

 

 その発言は聞く度に鬼太郎の気が抜ける程に覇気に欠けていた。ついでに向こうも似たり寄ったりな理由で連れてこられたようである。しかし、内容はよく分からないが、鬼太郎の数段しょうもない理由な気がしたため、鬼太郎が手を緩めることは特になかった。それどころか戦闘中に出る頼りない発言の数十倍は強いため、鬼太郎が焦り始める程だ。羽衣狐の友人ということもあり、今までの発言全てがこちらを欺く演技なのではないかと鬼太郎は考え始めていた。

 

 ちなみに羽衣狐は夏だろうが冬だろうが、赤い装飾の施された黒い着物を身に纏い、狐っぽい被り物を付けている。しかし、滲み出る美女オーラとでも形容すべきものと、やや低めで全身をなめられるようななんともいえぬ声で大人気なのである。

 

「だいたい、ハロハロちゃんは他人を殴るのとか好きでしょ! なんで自分でやらないのさ!」

 

「心外じゃのう。妾は他人を殴るのが好きなのではなく、他人を苦しめるのが大好きなんじゃよ」

 

「今の私ぃぃッ!?」

 

 ちなみに羽衣狐は空に浮いて二人を見下ろしながら、ワイングラスに赤紫色の液体を入れて、あたりめを摘まみつつ寝そべっていた。

 

「何酒飲んでるのさ……チクるよ?」

 

「これはただの葡萄ジュースじゃ」

 

「そんな般若湯みたいに言って……相変わらず酒豪なんだから……」

 

 鬼太郎から見ても葡萄ジュースだというワイングラスに注がれた液体は、宝石とでも形容したくなるような輝きを見せており、まずありえないと思った。ついでに羽衣狐の尻尾に生えるように刺さっている既に5本程開けられたワインボトルのショルダーから先が見えるが、今はそれどころではないので戦いに集中した。

 

「……?」

 

 しかし、鬼太郎はあることに気づいた。

 

(刑部姫はどこだ……?)

 

 ついさっきまで羽衣狐と会話していた刑部姫がどこにもいなかったのである。まるで、その場から忽然と消えてしまったかのようにだ。

 

「ちょいちょいっと」

 

「しまっ――!?」

 

 次の瞬間、鬼太郎は背後からその声と共に背中を指でつつかれたことに気づいた。

 

「ぐぁぁあぁぁ!?」

 

 つつかれた場所を中心に、遅れて全身を凄まじい衝撃が外側に向かって駆け巡り、鬼太郎の身体そのものを浮き上がらせた。その攻撃方法からは想像出来ないが、木の幹を木っ端微塵に爆散させた衝撃の正体がコレある。

 

 並みの妖怪ならば既に魂すら霧散しているような想像を絶するダメージを受けた鬼太郎は、空中で既に気絶する手前のような表情をしていた。というよりも実質ほぼノックアウトしている。

 

 しかし、鬼太郎をダークヒーローのように過大評価している節のある刑部姫は、これぐらいで鬼太郎が倒れる訳がないと確信しているため、追撃の手を緩めない。

 

「あーん、もう!」

 

 刑部姫は空中に浮く鬼太郎に対して自身の身体を蝙蝠に変換し、超高速で鬼太郎に突撃した。

 

 一撃、二撃とバツ字を刻むように鬼太郎の身体を斜めに突き抜ける。繰り出されたその二回の攻撃は一瞬と形容しても遜色ない程である。

 

「引きこもりたーい!」

 

 最後の三撃目は鬼太郎の上から突撃し、地面に向けて己ごと叩き潰し、大地に林の木々を巻き込む程の大きさのクレーターを刻んだ。

 

 無論、刑部姫は無事であり鬼太郎から少し離れ、クレーターの外側の位置に蝙蝠達が現れ、刑部姫の形を成す。

 

「よ、よし……これでちょっとはダメージを……」

 

 刑部姫の欠点として、唯一の友人が強過ぎる為、自身を相当に過小評価していることだろう。ちなみに彼女は"六尾の妖狐"であり、この前の八百八狸ぐらいなら妖怪獣を含めなければ、全員を一度に相手をしても余裕で皆殺しに出来るぐらいの戦闘能力はあるのである。妖怪獣も不眠不休で1週間ぐらいならば、耐久してタゲを取り続けることも可能だったりする。

 

 よってそんな大妖怪が鬼太郎に一切手加減なく本気で攻撃を幾度も直撃させれば――。

 

「お、おい……刑部……鬼太郎が息をしておらん!?」

 

「え……? いやいやあの鬼太郎がそんな――ひえっ!? 手足が絶対に曲がっちゃいけない方向になってるぅ!?」

 

「おーい! 鬼太郎! 行ってはならん! 戻ってこーい!」

 

 後、実年齢は"2000歳以上"であり、羽衣狐の倍程生きていたりする。つまりこの狐、後輩の狐にあの扱いをされ続けて尚甘んじているのである。

 

 この後、無茶苦茶治療した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、鬼太郎」

 

 鬼太郎が目を覚ますと目の前に羽衣狐の姿があった。回りを見渡せば人間があまり立ち入らない山奥の林にも関わらず、いつの間にか向き合うように置かれていたふたつのベンチの片方に鬼太郎が寝かされていたことがわかった。

 

「…………何があった」

 

 鬼太郎が少し己の身体を確認すると身体に傷ひとつなく、治療されていることは明白であった。体調もいつもよりも良いぐらいである。

 

「大人気なく全力出したおっきーにフルボッコにされてお主が負けた。それだけじゃ」

 

「やり過ぎました……」

 

 羽衣狐以外の声の方向を見ると、地面にあり、真っ黒で中の見えない落とし穴のような謎の物体が喋っていた。しかし、よく思い返せばそれは刑部姫の声だということを思い出す。

 

「……ちらっ」

 

 チラッと言葉で話しながら穴から刑部姫の上半分の顔が生える。どうやら鬼太郎が刑部姫を見失ったのはこういうトリックだったようだ。

 

 鬼太郎は何とも言えない気分になっていると羽衣狐が拍手をして、そちらに意識が向いたところで口を開く。

 

「大したものじゃな。流石は幽霊族のゲゲゲの鬼太郎といったところか。筋力、敏捷も並の妖怪では比較にすらならん。それに加え多彩な能力による搦め手の数々も目を見張るものがある。何より妾が見てきた大妖怪の中でもお主は上位に食い込む程の妖力を持っておる」

 

 それは素直なまでに鬼太郎を褒め千切る内容であった。思わず、鬼太郎は目を丸くする。

 

「しかし、やはりまだまだ青二才(ひよっこ)じゃな」

 

 だが、羽衣狐は少し声のトーンを落とすと溜め息を吐き、大袈裟にやれやれと手を付けて首を振った。やや、カチンと来たが、羽衣狐の性格的なものだと再び考え、黙って羽衣狐の話を聞く。

 

「陰険な能力、フェイント、搦め手、人質。お主に付け入る隙など幾らでもありおるわ。如何せん、素直過ぎる嫌いがあるのう。どうせ、しょっちゅう初見の妖怪の能力に引っ掛かったりして痛い目を見とるんじゃろう」

 

「………………」

 

 鬼太郎は何も言い返せなかった。思い当たる節があり過ぎるのだ。その上、刑部姫の攻撃が直撃したのも刑部姫の初見の能力によるものである。

 

 そんな中、刑部姫が動く。

 

「終わったなら、私はお昼にしてるね!」

 

 刑部姫は穴から舞台装置でせり上がるように姿を現し、鬼太郎が寝ている方とは逆のベンチに飛び込むように座った。そして、持ってきた鞄から蓋が青く容器が半透明なタッパーを取り出し、蓋を開ける。するとそこには非常に香ばしい香りの漂うカレーが並々と入っており、白米が見当たらなかった。

 

 それを見た羽衣狐は眉を潜める。

 

「おっきー……何もこんなところにまでカレーを持ってこなくてもよいのではないか?」

 

「オマエガヤッタンダロォォォ!?」

 

 おっきーは羽衣狐の肩にすがるように手を置き、ガタガタと前後に揺らした。揺らされている羽衣狐は小さく笑い声を漏らしながらそれを甘んじて受けている。

 

「半分! まだ半分もあるのよ!? 全然減んないよぉぉぉ!! お城の管理人さんに"あの……刑部姫様……天守閣をカレー臭くするのは観光客の皆様へも影響が出るので、出来れば止めていただけませんか?"って言われる気持ちがわかるかぁぁ!?」

 

「知らん。妾、お主じゃないし」

 

「ひーとーでーなーしー!」

 

(なんなんだコイツら……)

 

 鬼太郎は率直にそのように思った。

 

 羽衣狐は普段は尊大でマフィアのボスのような妖怪だと思えば、鬼太郎に真摯なアドバイスを送り、今は楽しげに友人イビりに徹している。刑部姫はおどおどしており全く実力がある様子が見えないと思えば、戦法も攻撃も凄まじくえげつないものであったにも関わらず、今は涙目で友人に弄られている。

 

 この二人、性格も有り様も真逆でありながら不思議と息があっており、非常に似ているようにも思えたのだ。それと得体が知れないということも共通しているのだ。

 

 鬼太郎は次第になんだか何もかも馬鹿らしくなり、このままふて寝でもしてしまおうかと考えていると、額に冷たいものが当たり、それに意識を向けた。

 

「ほれ、冷たいかぼちゃスープじゃ」

 

 羽衣狐が鬼太郎の額に当てていたモノを受け取ると、何やら温かみのある濃い黄色をした液体が並々と詰まった手に収まる程度の大きさの丸っこいビンであった。

 

「ほれ、おっきーにもやろう」

 

「わぁい……カレー以外のたべものだぁ……」

 

 投げられたビンを受け取る刑部姫。その表情は嬉しさと、切なさと、ちょっぴりの憎悪が入り雑じったとてつもなく絶妙な表情であった。

 

 一方、鬼太郎が羽衣狐を見てみれば、刑部姫の表情を楽しむように口元に笑みを浮かべており、この二人の関係をなんとなく察した。

 

 やってられねぇ!と言いながら刑部姫はビンの(コルク)を開け、一気に飲み干そうと、牛乳を飲み干す風呂上がりの人間のように腰に手を当てて傾けた。

 

「もがぁ!?」

 

 自家製感溢れるスープに溶けたかぼちゃの密度と、明らかに見た目の容量より遥かに多い量に刑部姫はむせる。

 

「言い忘れたが、2.5Lぐらい入っておるからのう? 後、ビンの中に入ったものは冷たいものが温まることも、温かいものが冷めることも決してなくなり、腐りもしなくなる呪術が掛けておるからのう」

 

「地味に多い!?」

 

「それと、ビンが破損したり呪術に綻びが生じたりすれば無期限で修理か交換対応をしておるからのう」

 

「万全のアフターサービス!?」

 

「………………うまい」

 

 二人のコントのような茶番を眺めるだけで、疲れ始めた鬼太郎は身体を起こして座ってから、冷たいかぼちゃスープとやらを口にしてみた。伊達に長きを生きる羽衣狐の料理ではなく、味は超一流であった。

 

「ふふ、口にあったならばよい」

 

 鬼太郎は目玉のおやじのために持って帰ろうと考えていると、いつの間にか鬼太郎の隣に羽衣狐が座っていた。

 

 非常に小さく呟いたハズの言葉を聞かれ、母親のような対応をされたことに少し恥ずかしくなった鬼太郎は、話を反らすためも含めて聞きたかったことを切り出した。

 

「なあ、羽衣狐……」

 

「なんじゃ?」

 

 鬼太郎は羽衣狐に妖怪と人間との距離について問い掛けた。人間と妖怪は本来、交わってはならない。だが、すぐそばにいる。それが鬼太郎を含めた妖怪の原則であり、羽衣狐にとってはどうなのかという問いだ。

 

「………………」

 

 それを聞いた羽衣狐は押し黙り、珍しく真剣な表情で口を結んでいた。そして、少し間が空いた後、羽衣狐は重い口を開いた。

 

「人間の中の常識という定義を知っておるか?」

 

 突然、羽衣狐の口から吐かれた問いと繋がりのない哲学のような言葉に鬼太郎は目を丸くする。そうしているうちか、元々鬼太郎の返答を聞く気がなかったのか、すぐに羽衣狐は言葉を続ける。

 

「常識とは20歳までに周囲から押し付けられた偏見のことを言うのじゃよ」

 

 しかし、その言葉に鬼太郎は羽衣狐が言わんとしていることに気づいた。

 

「それを含めて聞く。鬼太郎よ。それはお前自身が望み、心からそうしたいと考えていることか?」

 

「それは……」

 

 そうだとは言えないだろう。最近は犬山まなという存在がおり、元々鬼太郎は妖怪からすれば優柔不断な妖怪だ。

 

「そもそも人間と妖怪が友好を結び、結果として損をするのはいつも妖怪じゃ。人間のあまりの脆さに壊れてから気づくのも妖怪じゃ。長い命のせいで人間と同じ時間を歩めず、苦悩するのも妖怪じゃ。先立たれ、後悔し、泣くものも妖怪じゃ」

 

 だからこそ、妖怪と人間は交わってはならないのだろう。そう思い口を開こうとし――。

 

「ならば何も問題はなかろう」

 

 真っ向から受け止めるような堂々とした物言いに言葉を失った。

 

「色々な人間に出会い、笑い、語り、時に衝突し、また笑い合う。そして、いつかは笑って死を弔え。それでも悲しみが拭えないのならば、全てが終わった後でひとりでひっそりと泣けばいい。そしてまた、新たな友を探すのじゃ」

 

「羽衣狐……お前は――」

 

 "ずっとそうしてきたのか"

 

 鬼太郎はそう言葉に出そうとしたが、これまで見てきた羽衣狐の所業を思い出し、不意に言葉が詰まった。

 

 するとすぐに羽衣狐から言葉が吐かれる。

 

「お主が何年生きておるか知らぬがのう。妾が生まれた時代では、妖怪が人間の茶店で当たり前のように仕事をしていたり、夫婦(めおと)となることもさして珍しいことでもなかった」

 

 狐の仮面で表情は半分しか読めないが、それでも懐かしむ様子はどこか嬉しげで、悲しげにも見えた。

 

「何よりも何が幸せで、何が不幸せなのかは当人が決めることじゃ。お主や他の妖怪、妾も含めて誰にも決められぬわ」

 

 "例え周りから見れば幸せな結末ではなくてもな"と呟き、更に言葉を続けた。

 

「よいか、鬼太郎。妖怪と人間の間にはのう。壁も境界線もない。もしそれが存在するのならば、それはお主自身の心のなかに存在するものじゃ」

 

 その言葉を放った羽衣狐は、まるで子を叱る親のようで鬼太郎は自然と少し萎縮してしまう程であった。

 

「まあ、カビの生えたどころか苔むした古臭い妖怪の矜持じゃ。あまり宛にするでないぞ」

 

 そういっていつもの調子に戻った羽衣狐はカラカラと笑うと、羽衣狐は鬼太郎の隣から、カレーを膝に"私……蚊帳の外……"と呟いている刑部姫の隣に移った。

 

「今日はこの辺りでお開きにしようぞ。中々に良き余興と語らいであった」

 

 そう言って羽衣狐は指を鳴らした。

 

 次の瞬間、鬼太郎の視界は暗転し、それが戻るといつの間にか、羽衣狐に声を掛けられたあのベンチに鬼太郎は座っていた。無論、羽衣狐も刑部姫もどこにもいない。

 

 一瞬、今までのことは夢だったのではないかと錯覚したが、片手に握っているスープ入りのビンからそうではないと気づく。

 

「はぁ……」

 

 鬼太郎はベンチに背中を預けながら溜め息を吐く。そして、また羽衣狐に対する疑問が増えたと考えた。

 

 羽衣狐は妖怪が別れを受容して傷つけばそれでいいと言った。しかし、実際にそれを受け入れられる妖怪は数少ないだろう。ひとつの別れで簡単に我を忘れてしまう程に並みの妖怪の心は弱いのだ。

 

 それこそ、羽衣狐のように強靭な意思の強さや、"人間のような心"でも持っていない限りは難しいだろう。

 

「ああ……そうかアイツ――」

 

 その考えに至った瞬間、鬼太郎は不意に笑ってしまった。そして、これまでの羽衣狐の雲を掴むような不可解な行動と、同時にいつか羽衣狐が言っていた言葉を思い出す。

 

《人間同士ですら思った通りには動かず、自他問わず利益か感情で動きおる。怠惰な上に言われたことすら満足に守れず、そのクセ優柔不断で白黒つけるのは不得手。トドメに傲慢で自尊心だけは高い》

 

 鬼太郎はようやく羽衣狐の一端を掴めたのか、どこか付き物がとれたような表情をしていた。そして、空を向いてポツリと呟く。

 

「"人間"にそっくりなのか」

 

 その言葉は誰に聞かれる訳でもなく、憎らしいほど快晴の空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 現在、羽衣狐は自室の床で正座し、目を伏せていた。

 

 その姿は座れば牡丹というより黒百合などが引き合いに出されそうなほどに妖艶である。

 

 そして、羽衣狐がちらりと伏せていた目を上げた。

 

 

 

「お姉ちゃん……」

 

 

 

 目の前にはスマートフォン片手に器用にも笑顔に青筋を浮かべた妹こと犬山まなが立っていた。

 

 スマートフォンには羽衣狐が空に寝そべりながら自称葡萄ジュースを飲んでいる光景が激写された画像が映っている。

 

「あの引きニートめ……チクりおったなぁ……」

 

「お ね え ち ゃ ん ?」

 

「アッハイ」

 

 羽衣狐は仕返しに成功し、小悪党のような顔をしている刑部姫を想い描き、必ずや100倍にして返してやると誓った。

 

 果たして鬼太郎は強靭な意思の強さを持った妖怪だというコレの正体に気づく日は来るのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー……ホントに勝っちゃうとはね……」

 

 鬼太郎と戦ってから初週の休日。刑部姫ことおっきーはそんなことを呟いていた。もっとも彼女にとっては毎日が休みみたいなものである。

 

「それでハロハロちゃんがマジでちょっとエロいコスプレ衣装着てくれるなんて思わなかったよ」

 

 おっきーは現在、厚いカーテン越しにいる羽衣狐の着替えを今か今かと待ち望んでいた。

 

 ちなみに女性なのに何故羽衣狐のエロさに期待するかと言えば別におっきーがレズビアンだとかそういうわけではなく、"バカヤロウ! 女はスッゴい美人の裸に興奮出来るんだよ!?"とか本人は言い張るので注意。

 

 すると、突如、カーテンが勢いよく開かれた。

 

「じゃーん!」

 

 そこには黒いシースルーのモノキニの水着を身に纏い、裏地が赤の漆黒のコートを肩にかけ、営業スマイル全快で、煌めくばかりの笑顔を浮かべた羽衣狐が立っていた。

 

「"砂浜のウルズ"じゃ!」

 

  ちなみに今さらであるが、羽衣狐は結構範囲の広いゲーマーである。元ネタは語るべくもない。

 

「………………」

 

「ん? どうしたおっきー? おい」

 

「はうわぁ……ぶへー」

 

「おっきー!? なんじゃそのギャグみたいな鼻血!?」

 

 おっきーは死んだ。羽衣狐の着エロに耐えられなかったのだ。

 

 

 

 

 




おっきーってFGO自分自身が動くモーションだと無駄にえげつない上にカッコいいんですよねぇ……(尚、性能)

ちなみに作者、アズレンではグラーフさんが嫁です(迫真)




~ハゴロモさんのスープ~

あきビン
 4本持つことができます。クスリ、水、妖精などを入れて持ち運びます。また、ガノンドロフとテニスができるぐらい頑丈。
 羽衣狐の妖術が掛けられており、見た目とは裏腹に2.5Lぐらい入り、中に入ったものは冷たいものが温まることも、温かいものが冷めることも決してなくなり、腐りもしなくなる。これは特製スープ入り。

特製スープ
 まなのおねえちゃんの特製スープ、10回分(1回分250ml)。体力・魔法力が全回復。ダメージを受けるまで攻撃力が2倍。
 季節により中身が変わるので味も変わるが、効果に変化はない。夏場は冷たいかぼちゃスープ。

こんだて
春:キャベツトマトスープ
夏:冷たいかぼちゃスープ
秋:きのこクリームスープ
冬:温かい三平汁風スープ

頼めばすぐに用意してくれるスープ(具は冷蔵庫にあったものを使用)
・味噌汁
・清汁
・潮汁
・酸辣湯
・DCS
・チリコンカーン
・チキンスープ

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