犬山さんちのハゴロモギツネ   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。

実質、16話と32話の消化になります。


ハートキャッチはごろも

 

 

 時は現代から150年程遡り明治維新の初期。

 

 とある人間の住む町が災害に襲われていた。

 

 栄華というわけでもないが、江戸の町並みそのものを残した城下町はまず起こった地震によって軒並み倒壊し、町のシンボルであった白塗りの城は赤々と業火によって焼かれ、その中を人々が逃げ惑うという地獄が広がっている。

 

「フッフッフ……」

 

 それを上空で見下ろしながら嘲笑うバテレンの服装をした悪魔――西洋妖怪のベリアルが全ての元凶であった。

 

 彼は明治維新の混乱に乗じてポルトガルから日本に来航し、日本の全てを我が物にせんと破壊活動を繰り広げているのである。

 

 現に彼は実力者であり、町にいた妖怪も人間と同じように逃げるばかりであった。

 

「ん……?」

 

 すると自身のラッフルに雨が当たったことに気が付き、ベリアルは自身が魔法によって発生させた暗雲を眺めた。

 

 暗雲から勝手に大粒の雨が振り注ぎ、町全体に広まりつつあった火災は徐々に弱まっていったのである。

 

 その事に疑問を覚えながらベリアルは魔法を使って雨を止めようと手を掲げ――。

 

 

 

『ああ、騒がしい……煩わしい……』

 

 

 頭の中に直接響き渡った言葉に手を止めた。

 

 溜め息までリアルに聞こえるそれは更に言葉を続ける。

 

『悪魔と言えば人間を堕落に誘う存在あり、それ故に紳士的で義理堅い。そして、如何なる契約や、道端の小石のような些細な約束であろうと必ず守り、守らせる。まさに悪の権化。そう思っておったのだがな』

 

「なんだ!? 何処にいる!?」

 

 ベリアルは辺りを見回したが、それらしい相手は何処にもいない。遠見の魔法を使っても見るが、結果は変わらなかった。

 

 突如として、ベリアルのいる場所と同じ高度の前方にどす黒い色をした巨大な魂が出現する。それは無数の青い炎の球を纏うように従えており、静かに怪しく揺らめいていた。

 

 魂は直ぐに形を取り、"頭に狐耳が生え、八尾の尻尾"を持った着物姿の女性妖怪の姿へと変わった。

 

「ほれ、出てやったぞ?」

 

 切れ長の目にやや大きな口をし、狐のような印象を抱かせる顔をした女性妖怪は目を細め、持っている鉄扇の先でベリアルを指しながらそう呟く。

 

 その様子には覇気がなく、感じ取れる妖気も控え目なものであった。

 

(なんだ……? 化けるだけの妖怪か……?)

 

「そう思うならばそうなのであろう。お主の中ではな」

 

 心を読んだような言葉を吐かれたことにベリアルは驚愕する。

 

 そうしている内に女性妖怪は口を開いた。

 

「さっさとこの国土から逝ね。さもなくば十万億土を踏むことになるぞ」

 

 要は"日本から失せろ、殺す"という最後通告であった。

 

「フ……ハハハハ!」

 

 それを聞いたベリアルは嘲笑い、魔法を起動した。彼は悪魔の中でも最高位であり、野心と実力にものを言わせてここまで来たのだからその対応も当然であろう。

 

「お前が消えろ!」

 

 暗雲から一筋の雷が女性妖怪に落ち、彼女に直撃したように見えた。

 

 しかし、女性妖怪は頭上付近にあった一本の尾で落雷を防いでおり、全くの無傷であった。

 

「小癪な……」

 

 ならばとベリアルは更に魔法を使う。それによって暗雲から女性妖怪目掛けて無数の落雷を降り注ぎ、彼の腕からも落雷が放たれる。

 

 すると今度は女性妖怪の全ての尾がミミズがのたうち回るように蠢き、その一本一本でもって直撃する落雷を掻き消し、全てを防ぎ切った。

 

「ふぁ……」

 

 それから女性妖怪は鉄扇で隠しながらアクビをすると、眠くつまらなそうな瞳でベリアルを見つめ、そのままポツリと呟く。

 

「つまらん……それで本気か?」

 

 そのあからさまな挑発の言葉と態度にベリアルは怒り、自身の魔力を最大まで練り上げ始めた。

 

「この俺をコケにしおって……ッ! よかろう、本気で捻り潰してくれる!」

 

 ベリアルの身体が赤紫色の光に包まれ、6つの球体に別れる。そして、それらは目、口、鼻、耳、手、足が無数に付いた巨大な球体へと変化し、女性妖怪を取り囲んだ。

 

 囲まれた状況でも、女性妖怪は相変わらずつまらなそうな様子であった。

 

「喰らえ!」

 

 ベリアルは女性妖怪を中心に全ての球体を衝突させて圧倒的な質量によって押し潰した。

 

 彼は殺したと確信し、口球体から笑い声を上げる。

 

 しかし、ぐちゃりと肉塊を素手で貫く音と共に"心臓"を直接握られた感覚を感じ、彼は驚愕と共に初めて底知れない恐怖を抱いた。

 

 

 

「それで……?」

 

 

 

 更に6つの球体の中心から声が聞こえた直後――ベリアルの全てである6つの球体が跡形もなく粉々になった。

 

 女性妖怪の尾が無数の鞭を縦横無尽に振るうように激しく動かされ、ハエでも払うように内部から破壊し尽くされたのである。

 

 また、女性妖怪は片手で掴んでいるベリアルの心臓だけは無傷に留めており、それによって一命を取り止めたベリアルは胸に腕を突っ込まれたまま、女性妖怪の眼前で再生した。

 

「小細工は止めよ。当たってもつまらんではないか」

 

 女性妖怪は彼の球体から出た赤黒い体液を頬につけたままにっこりと笑い、絶句している彼に対して口を開いた。

 

「早く見せろ。その本気とやらを」

 

 

 

 

 ベリアルは膝を折った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァハァ……! ゆ、夢か……」

 

 自室のベッドで嫌に鮮明な悪夢から目覚めたベリアルは、辺りを見回して自身の心臓を確認してから胸を撫で下ろした。

 

 ナイトキャップにパジャマ姿の彼はベッドから立ち上がり、カーテンを開ける。

 

 そこには小高い丘に建つこの屋敷から一望出来る"境港"の海の景色が広がっており、それを眺めながら彼はポツリと呟く。

 

「心臓に悪い……」

 

 まだ、ベリアルの中では今の自身の主である夢で見た女性妖怪――"羽衣狐"の笑顔が頭から離れなかった。

 

 西洋妖怪ベリアルは約150年前に伝説の日本妖怪の羽衣狐に完膚無きまで心身共に叩き潰され、その場で心を入れ換えて"彼女の配下"に下ったのである。

 

 そして、彼は現代では手品師もとい"奇術師"として活動し、世界的に有名なマジシャンである一方、教会と孤児院の経営もしている。

 

 また、孤児院では自身の魔法を孤児に教え、マジシャンの卵として育成もしているのだ。

 

 とはいえ、ただの人間が使える魔法など高が知れているが、それでも両親のいない彼らの人生の中で大きな助けになることは間違いないだろう。

 

 彼はパジャマ姿でキッチンに向かい手作業でベーコンエッグを作り、パンを焼くと朝食とした。

 

 これぐらい魔法ならば一瞬で出来てしまうが、長い間日本にいると自炊をしたくなり、今では一通り自身でこなせるようになっているのである。

 

「~♪」

 

 夢は夢でしかないため、既にその事は忘れ、鼻歌混じりでスマートフォンを取り出すと、お気に入りのアプリゲームを開きつつベリアルは朝食を取った。

 

「ん?」

 

 暫くするとスマートフォンに着信が入り、名前を見ずにベリアルは電話に出る。

 

 

 

[あ、もしもしベリアル? 羽衣狐じゃ]

 

 

 

 ベリアルはほぼ無意識で座っていた椅子から立ち上がり、その場で頭を下げた。無論、相手に伝わる事のない無意味な動作である。

 

「お久しゅうございます。羽衣狐様」

 

[そんなに畏まらんでいい]

 

 そうは言うがさっきの今である。正夢や、羽衣狐が見せたのではないかとベリアルが考えても仕方がないと言えよう。

 

[今お主の住んでおる境港におるのだがな]

 

 ちなみに境港に住み始めた理由は羽衣狐の今の故郷ということで、この地の守りをベリアルが買って出ているためである。

 

「言ってくださればすぐに挨拶に――」

 

[止せ止せ、妾は家族旅行中じゃ]

 

 羽衣狐はベリアルを止める。そして、要件に入った。

 

[それでものは相談なのだが――境港にいる間、まなを見守ってやって欲しい]

 

「な……? 私が羽衣様の妹君をですか?」

 

 ベリアルは驚く。犬山まなと言えば羽衣狐が大層可愛がっている実妹である。そして、羽衣狐は自分で出来る事は極力自身でやってしまう性格なので、そのような頼みは非常に稀であった。

 

[本来なら妾がやらなければならぬ事なのじゃがな……ちと、妖怪絡みで私用が出来て、どうしても境港を離れねばならぬ。その間、何かが起こらぬとも限らぬからのう]

 

 その言葉には疲れが見え隠れしているように思えたが、ベリアルが追及する事はなかった。

 

「そうですか、そういうことならば喜んで引き受けましょう」

 

[そうか、頼んだぞ]

 

 朝食の置いてあるテーブルの空きスペースに、突如として皿に乗った3段重ねのホットケーキと、一本のボトルワインが出現した。

 

 ホットケーキに乗ったベリー系の新鮮なフルーツの香りと、ホットケーキの甘い匂いが食欲をそそり、ワインボトルの方はポルトガル産のスパークリングワインであった。

 

[それは礼じゃ、ホットケーキは妾の手作り故味の保証はせんが、上手く焼けたとは思うぞ]

 

 また、ワインボトルの横にはカラフェとワイングラスも付いており、 ホットケーキの乗った皿共々、一目で気軽に他人にやれるような値段の食器ではない事をベリアルは理解する。

 

[ではな。くれぐれも騒ぎにならんように頼むぞ]

 

[はっ……!]

 

 最後にそれだけ言って羽衣狐との通話は終わった。

 

「………………」

 

 ベリアルは無言でホットケーキの端をフォークで少し切り取り、口に運んだ。

 

「……ッ!? うまい……」

 

 ちなみにベリアルの好物はホットケーキである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベリアルはホットケーキとワインを楽しみながら遠見の魔法で犬山まなを眺めると、現在漁船に乗って海に出ているところであった。

 

「今のところは問題ないようだな」

 

 とは言っても人間が事故に合う確率は低く、現代で妖怪に襲われる可能性は更に低いため、特に問題は起こらないだろうとベリアルは考えていた。

 

「ん……?」

 

 しかし、明らかに妖気を孕んだ霧が漁船を覆い始めたことで、その前提は覆される。

 

 そして、海中から次々と船幽霊が現れ、船員を拐い始めたのである。

 

「ええ……」

 

 凄まじい早さのフラグ回収に羽衣狐の仕込みを一瞬疑ったが、する理由も意味もないため、ベリアルはどうしたものかと考えながら眺めていた。

 

 すると一体の船幽霊がまなを掴まえ、何故かそのまま海に投げ捨ててしまったのである。

 

「ふむ……」

 

 ベリアルは漁船から境港までの距離を考え、2~3km程の距離をまなが着ている救命胴衣だけで辿り着けるのかという疑問に至る。

 

「死ぬな」

 

 ベリアルは魔法を起動し、転送魔法でまなを陸に飛ばそうと考え、騒ぎにならないようにと羽衣狐に言われたことを思い出して手を止めた。

 

 転送魔法は止め、海流と波に魔法を掛け、まなを一番近くの弓ヶ浜まで運ぶことにしたのである。

 

 彼が関わったのはそれぐらいであり、それからは比較的スムーズに事が進んだ。

 

 鬼太郎というベリアルも知る人間寄りの妖怪が、浜に集まる人間たちの前に現れ、解決に乗り出したからだ。

 

 原因は海に封印されていた海座頭という妖怪で、かつて財宝目当てに北前船を沈める悪事を働いており、解放されてからは沈んだ北前船から財宝を引き揚げるために再び悪事を働いていたとのことである。

 

「小物だな」

 

 覚える必要もないとベリアルは海座頭のことを忘れた。

 

 ちなみに北前船はとっくの昔にベリアルが引き上げ、財宝を羽衣狐に献上していたりするため、完全な無駄足である。

 

 その後、人間と妖怪が協力して船幽霊を開放し、海座頭が人間の投球に倒されるという珍事を目にし、大いに笑った。

 

 とりあえず彼は魔法で海中に沈んだ野球ボールを回収し、そっとまなのポケットに戻しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝起き、リエおばさんを手伝いつつ朝食を取った後、ホットケーキを作ってからまなと別れ、配下に電話を入れて私のメインイベントの開始である。

 

「よろしおす」

 

 そう言いながら笑う酒呑。一応、眼鏡だけはケースに入れて持ち歩いているが、服装はいつもの着物姿である。

 

 まず酒呑を連れて様子見も兼ねて大江山に行ってみることにした。

 

 

 

「国定公園かぁ……」

 

「だーれもおらんなったなぁ」

 

 

 

 かつて存在した御殿は影も形もなくなり、知り合いの妖怪も何処にも居なかったため流石にここに住む気はないらしい。まあ、私だってそうする。

 

 

 

「ちょ……な、な、なん……なんで私のところにそんな人連れてくるのさ!?」

 

「ダメ……?」

 

「ダメとかじゃなくて無理無理むりぃぃぃ!? 同居なんてハロハロちゃんとしかダメぇ!」

 

「あらぁ~」

 

 

 

 次にクソ広いので酒呑を置くようにとおっきーのところへ来たが、人見知りクソ雑魚ナメクジメンタルなおっきーでは無理だったようである。

 

 当初は脅して住まわせようかと思っていたが、なにやら大変嬉しいことを言われたので勘弁してやるとしよう。

 

 

 

「ここは?」

 

「うーん……景色はええが、ようわからんなぁ」

 

 

 

 東京の一等地に建つ高層マンションの一室に来てみたが、感触はよろしくないようだ。まあ、1000年前の妖怪に大都会駅近システムキッチン完備の魅力を力説しても仕方ないといえばそれまでだろう。

 

 

 

「こんなところはどうじゃ?」

 

「管理が大変そうやねぇ」

 

 

 

 今度は昔ながらの造りをしている日本家屋の平屋の大豪邸に案内してみたが、ものすごく現実的なことを酒呑に返され、一流や一等地は別に求めていないということに気付く。どちらかと言えば普通の家や、寝に帰るような場所なのだろうか。

 

 建築が非常に得意なことで有名な鬼が集まっていた大江山の御殿はそれはそれは立派だったため、全くの盲点であった。

 

 時間もかなり経ったので今日はここまでにして、暫くはバラバと同じように妖怪城もとい厭離穢土城に住めばいいのではないかと考え、最後に酒呑に見せ――。

 

 

 

「嫌やわぁ、鄙びでけったいな城やなぁ」

 

「――――――!?」

 

 

 

 ハゴロモは心に9999のダメージを受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

 友人が妖怪城でふて寝してしまったので少しだけ時間を潰すため、酒呑は境港の弓ヶ浜の海岸沿いを歩いていた。片手には友人の尻尾から取り出したワインボトルが握られている。

 

 また、今は犬山乙女の友人として振る舞う必要がないので、眼鏡をケースにしまった状態であった。

 

「んー?」

 

 見ると海岸で妖怪と人間が地引き網のように綱を引いているのが見えた。しかし、一本しか綱がないため、どちらかといえば海と綱引きをしているようにも見える。

 

 人間と妖怪が協力している光景に、酒呑は自身が生きた時代を思い出し、目を細めて笑みを強めた。

 

「ちょ……ちょっと!? ぬりかべは?」

 

「ワシらが先に飛んで来たからのう……! 遅れているようじゃ……」

 

「オ、オギャァ……」

 

 しかし、どうやら状況は芳しくないらしく、妖怪が引くことで丁度海の方の綱と拮抗しているように見えた。本当に海と綱引きをしているらしい。

 

 興が乗った酒呑はふわりと飛び上がり、綱の一番奥の場所に立った。

 

「なんか、面白そうどすなぁ。うちも混ぜとぉくれやす」

 

「え……?」

 

 前にいた現代に染まった猫の妖怪が後ろを振り返り、酒呑を目にする。そして、二本の角を見て驚きながら口を開いた。

 

「お、鬼ぃ!?」

 

「それぇ」

 

 次の瞬間、酒呑が片手で綱を引いたことにより、浜にいた人間と妖怪達が少し宙を舞い、それと同時に綱の手応えが無くなる。

 

「あら……もう終わり?」

 

 キョトンとした表情で、首を傾げる酒呑に浜にいた人間と妖怪の視線が集まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しくしくしくしく……」

 

 変じゃないもん……かっこいいもん……。

 

「天守閣からの景色はええなぁ」

 

 そう言いながらいつの間にか何処かに行って、また戻って来た酒呑は、いつの間にか私の尻尾からまさぐって取り出していた酒瓶を呷っていた。

 

 今私……鬼に……鬼に気を使われている……。

 

 そう考えながらいい加減立ち直り、起き上がった。それからスマホを確認すると既に夜になっていることと、まなから不在着信が入っていることに気付いた。スマホをサイレントにしていたため、気づかなかったようだ。

 

[あ、やっと繋がった!]

 

 不思議に思いリダイヤルをすると、随分嬉しげな声色のまなが出る。そして、まなから話を聞くと昼の内に海座頭という妖怪が暴れ、鬼太郎と庄司おじさんに退治され、今夜からお祭りが開かれるらしい。

 

「どういうことなの……」

 

[そーゆーこと!]

 

 そういうことらしい。庄司おじさんのスナイパー庄司の話って事実だったんだ……いつも話し半分に聞いていたので、正直なところ本当だとは思っていなかった。

 

[鬼太郎と猫姉さん達もいるから浴衣着て来てね!]

 

 それだけいうと電話を切られてしまった。まなには敵う気がしないなぁ……。

 

「んふふ、浮き世にうちより名のある大妖怪を顎で使うとは……まなはんかんにんやわぁ」

 

 ハゴロモイヤーと同じかそれ以上の聴力で話を聞いていた酒呑はそんな感想を漏らす。

 

「眩しいまでに悪意がないのよ、あの娘はね……」

 

 姉として本当にそう思う。あんなに純粋で可愛らしく、強い人間はそうはいない。

 

 とりあえず浴衣を着て祭りに行こうと酒呑を誘ったが、酒呑は酒呑で用事があるらしい。

 

 賑やかな場所に自然に集まる習性を持つ酒呑にしては奇妙な行動に少し疑問に思ったが、詮索はせずに酒呑を残して祭りに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼太郎、猫姉さん、目玉のおやじさん!」

 

 海座頭を倒したその夜。境港で開かれた祭り会場で鬼太郎らと、水色にアサガオの絵柄の浴衣を着たまなは合流した。

 

「えへへ、猫姉さんだぁ」

 

「まなったら……」

 

 直ぐに猫娘に抱き着くまな。それに少し呆れた表情をしている猫娘であったが、それよりも優しげな様子の方が強いように見える。

 

「今日は私のお姉ちゃんも来るんですよ!」

 

「まなちゃんのお姉さんというと黒髪で背の高いあの娘か」

 

「知っているんですか父さん?」

 

「のびあがりの時にまなちゃんの家でちいと見掛けたからのう」

 

 そういえば目玉のおやじはまなの家に一泊した事があったなと鬼太郎は思い返した。

 

「ねぇ……まなのお姉さんって"犬山乙女"っていう名前よね?」

 

「うん、そうですよ?」

 

「じゃあ、やっぱりあの――」

 

「お待たせ、まな」

 

 そこまで猫娘が言ったところで声が掛けられ、そちらに振り向いた。

 

 そこには長い黒髪を簪で止めてうなじを出し、椿の花の柄があしらわれた黒い浴衣を着た背が高く肌の白い女性が立っていた。

 

 その容姿、立ち振舞い、表情などの全てから美しさや気品が感じられ、同性でも息を飲む程の美人である。

 

「乙女姉!」

 

 まなは猫娘から離れ、当たり前に乙女の隣に立つ。そして、まなが乙女の手を引いて鬼太郎達の前に連れて来た。

 

「紹介します。私のお姉ちゃんです」

 

「姉の乙女です。いつもまながお世話になっているわね」

 

 乙女は何故か猫娘に目を向けると、また口を開いた。

 

「お話は常々まなから聞かされています。ええ……本当によく聞かされているわ……」

 

「ど、どうも」

 

 何故か乙女から猫娘だけに対して凄みのようなものを感じ、猫娘は乙女からの笑顔かつ無言の圧力に少し気圧される。

 

 目玉のおやじは乙女の人間らしからぬ美貌を改めて評価し、鬼太郎はまなに全然似ていないなぁなどと大変失礼なことを考えていた。

 

「ま、それはそれとして……」

 

 凄むのを止め、猫娘の回りをグルグル回りながら容姿を見ていた。そして、まなの前に戻った乙女は目を見開き、口を開く。

 

「無茶苦茶可愛いわね!」

 

「でしょう?」

 

 そして、まなと乙女は真顔で顔を見合わせ、同時に動いた。

 

「ねー!」

 

「ねー!」

 

(まなの姉だわ……)

 

(まなみたいだ……)

 

(まなちゃんのお姉さんじゃな……)

 

 三者ほぼ一致した感想を抱いていると、乙女が猫娘の肩に手を置いた。その表情はとても晴れやかだが、猫娘は肉食獣に狙われた草食獣のような何とも言えぬ感覚を感じ取る。

 

「可愛い娘にはおめかししなきゃね?」

 

「ちょ、ちょっと?」

 

「行くわよ、まな」

 

「あいあいさー!」

 

「待ちなさい、どこ連れて行くの!?」

 

 乙女は猫娘を引き摺るように連れていき、まなもそれに続く。そして、建物の裏へと入り、鬼太郎と目玉のおやじから見えなくなった。

 

 

『きゃあ!?』

 

『犬山流脱衣術!』

 

『なにそれお姉ちゃん?』

 

『今作ったわ』

 

『ど、どこ触ってんのよ!?』

 

『採寸よ。サイズ測らなきゃわからないじゃない? えーと、それならこの浴衣ね』

 

『え? 今どこからそれを……?』

 

『乙女のヒ・ミ・ツ。乙女だけにね!』

 

『猫姉さんスタイルいいなぁ……』

 

 

 そして、暫くすると後ろから猫娘の両肩に手を置きながら乙女らが鬼太郎の前に戻る。

 

「にゃ、にゃあ……」

 

 戻った猫娘は金魚の柄の入ったピンク色の浴衣を着させられていた。猫娘は着せられる過程で下着だけの姿に剥かれたためか、浴衣で鬼太郎の前に出されたためか、顔を真っ赤にしていた。

 

「やっぱり素材がいいと違うわね。ところで鬼太郎さんでしたかしら?」

 

「ああ……」

 

「浴衣猫娘さんの感想は?」

 

 とんでもない爆弾投下と共に鬼太郎に視線が集中する。

 

「いいんじゃないかな?」

 

「…………!」

 

 鬼太郎は極普通に思った小学生並みの感想を述べた。しかし、普段から鬼太郎に服を褒められることなど無い猫娘は茹でダコのように真っ赤になる。

 

 そんな光景を乙女とまなは口に片手を当ててニヤニヤしながら眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは花火までの間、お姉ちゃんを含めて全員で的屋を回った。

 

 

「鬼太郎さんちょっと……」

 

「なんだ?」

 

「ひそひそ」

 

「別に構わないが……いいのか、そんなことして?」

 

「いいのよ、祭りの的屋なんて値段設定からシステムまでみーんなインチキなんだから。どうやったって向こうが儲かるように出来てるの。今日は出禁にならない程度に荒らすわよー」

 

「そうか」

 

 

 お姉ちゃんの助言で鬼太郎が射的屋で、コルク銃を撃つと同時にとっても弱めの指鉄砲を撃って景品を倒していた。

 

 鬼太郎の指鉄砲でも何故か1回で倒れない携帯ゲーム機は、鬼太郎が少し指鉄砲を強めて撃つと上に跳ね飛んで倒れ、同時に箱に金属板が突き刺さって居たことがわかった。

 

 やっぱりお姉ちゃんってなんでも知っているなぁ……。

 

 

「~♪」

 

「す、スゴい……お姉ちゃんのモナカどうなってるの!?」

 

「魔法みたいだな……」

 

「美味しそう……」

 

 

 お姉ちゃんが金魚すくいでひとつのモナカを全く破らずにひょいひょい掬っていた。結局、100匹掬っても破れず、飽きたという事でお姉ちゃんがリタイアするまで続いたけど、掬った金魚は黒い出目金の3匹以外は全部的屋さんに返していた。そんなに飼えないんだって。

 

 猫姉さんが戻した金魚をとっても勿体なそうに見ていたけど、それでよかったと思う。

 

 

「………………」

 

「どうした乙女?」

 

「いや、仮設テントで街の若い男の人に囲まれて酒飲んでるあれ……」

 

「船幽霊を解放するのを手伝ってくれた鬼じゃな。通りすがりのただの鬼と言って名は教えて貰えんかったが、悪い妖怪ではあるまい」

 

「鬼はきまぐれですからね」

 

「………………そう」

 

 

 酒呑さんはいないと思っていたら、酒呑さんなりに楽しんでいたみたい。お姉ちゃんは笑顔ながら顔をひきつらせて酒呑さんを見ていた。

 

 

 

 その後は――。

 

 

「私も落書きするわー」

 

「ぬ、ぬりかべ……」

 

 

 遅れて来たぬりかべさんに、お姉ちゃんが子供に混じって落書きしたり。

 

 

「まな、猫娘さん! クジ屋の景品が空になるまで引いて、一等が入っているのか確認する生放送しましょう! 丁度、知り合いの婦警さんも見つけたわ!」

 

「止めなさい!?」

 

「止めてお姉ちゃん!?」

 

 

 炎上しそうなお姉ちゃんを止めたりもしながら、食べ物を買ったりしてお祭りを楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お祭りの花火をお姉ちゃんと鬼太郎たちと見て、こんな時間がいつまでも続けばいいのにと思いながらお姉ちゃんを見るとあることに気付いた。

 

「~♪」

 

(み、耳ぃぃ!? お姉ちゃんの耳がぁ!?)

 

 お姉ちゃんはぴょこぴょこと黒い狐耳を嬉しそうに動かして夜空の花火を眺めている。

 

「まな? どうした……の……」

 

 口をパクパクして耳を動かすお姉ちゃんを見ていると、猫姉さんが私に気付き、お姉ちゃんの耳を見て固まった。

 

 更に鬼太郎と目玉の親父さんの視線もお姉ちゃんの耳に集中する。

 

(あ、終わった……)

 

 そう感じた私は何をするわけでもなく、呆然としていると、お姉ちゃんが動く。

 

「あら? 皆さんどうしたの?」

 

 鬼太郎たちを見回しながら首を傾げるお姉ちゃん。そして、考え込むように唇に指を当ててからポンと手を叩き、両手で黒い狐耳を触って見せた。

 

「ふふ、もしかしてコレのこと?」

 

「あ、ああ……」

 

 あまりにもあっけらかんとした様子に鬼太郎も私も何がなんだかわからず困惑する。

 

 そうしているとお姉ちゃんは腰に手を当て、私に顔を近付けながら困り顔で呟く。

 

「もう、皆のことは私に言ったのに私のことは話してないの?」

 

「え……? あ……うん」

 

「いいのよ、私は気にしてないし。まながいるもの」

 

 当然、私はお姉ちゃんから何も聞いていないので何がなんだかわからない。ひょっとしたらここで全部話してしまう気なのかと思って私は何も言えなかった。

 

 そして、お姉ちゃんは鬼太郎たちに向き合い、片手を胸に当てながら優しげに微笑むと言葉を吐いた。

 

 

 

「私、"半妖"なんです。まなとは血が半分しか繋がってなくて、人間にも妖怪にもなりきれない半端者。それでも、仲良くしてくれたら……嬉しいわ」

 

 

 

 そう言うお姉ちゃんの表情は全て知っている私ですら、無理に笑っているように見え、瞳には不安や悲しみが見え隠れしていると感じた。

 

 お、お姉ちゃん……あ、あれ?

 

 ひょっとしてこれ……私、出しにされた!?

 

 どうやらお姉ちゃんはまだまだ鬼太郎たちに話す気は無いみたい。安心したけど、悲しいのか、喜んでいいのか、私にはもうよくわからなかった。

 

 

 

 







Q:ぬら孫キャラ今後出す気あります?(感想から)

A:ありありだよ! でも野郎か異形ばっかりだよ!(ほぼ登場の確定しているキャラ→二十七面千手百足、鬼童丸、さとり&鬼一口)


Q:ぬら孫で一番エロいと思うキャラは?

A:羽衣狐


Q:ぬら孫で一番チ◯コに悪いと思うキャラは?

A:淡島くんちゃん。

(当初ヒロイン?にする予定でしたが、おっきーの霊圧が消えるので止めました)

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