犬山さんちのハゴロモギツネ   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。

 待たせたな!(ごめんなさい)

 最近投稿したフェイスレス博士の世界貢献もよろしくお願いします!(ダイレクトマーケティング)


刑部姫(教師)

 

 

 夏休みと言えば中学生程の子供は何を想像すると思うだろうか?

 

 祭りに帰省、花火にプール、イベントにレクリエーション等々楽しい行事は幾らでもあるだろう。

 

 しかし、中学生は中学生なりに苦労していることもある。その最たるものが、夏休みの宿題や塾であろう。

 

 

「助けて乙女姉……」

 

 

 夏休みが終わる少し前に宿題に取り掛かり、塾の宿題と板挟みにされて首が回らなくなり始めたまなを見れば一目瞭然である。

 

「もう全く……」

 

 そう言いながらも問題を解くヒントを沢山与えてしまう私は甘いのかも知れない。答え? まなのためにならないからそれは教えない。

 

「ところで羽衣姉は大丈夫なの?」

 

「んー、何がかしら?」

 

「夏休みにバイクの免許取ってるんだよね」

 

 まなの言うとおり、私は今バイクの免許を取るために教習所に通っている。夏休みにやることがないので、折角だからすることにしたのだ。

 

「大丈夫よ。そもそも私、霊体の頃は普通に乗り回してたもの」

 

 なので尻尾にその頃のバイクが沢山眠っていたりする。

 

 免許? 車検? 妖怪にそんなものはないわ。

 

 しかし、犬山乙女という人間になってしまったせいで、それらが使えなくなるというのはちょっともどかしい気分になる。

 

「ちなみに大型二輪免許ね。あんなの目を瞑りながらでも取れるわ」

 

「それ筆記試験は超能力前提だよね……?」

 

 そんな会話をしながらまなの宿題を見ていると、まなが何か思い出したかのように呆れ顔で呟く。

 

「そういえば蒼馬(そうま)がこんなこと言ってたんだよー」

 

 まなは私に"お化けになれる学校"なるものが噂になっていることを話した。

 

 まなからすると子供騙しな噂程度の認識だと思うが、私はどうにもそうとは思えない。

 

 火のないところに煙は立たないのである。ましてや、それが妖怪と人間が混在するこの世界ならば尚更だ。

 

 その場は冗談のように流しておき、まなに聞こえない声でそっと呟く。

 

「少し調べてみるか……」

 

 そうと決まれば今夜から行動である。

 

「ところでお姉ちゃん?」

 

「何まな?」

 

「お姉ちゃんがゲームしてるときの放送でよく、"256・4096・65536はキリのいい数字"って言ってることあるけどあれってどういう意味――」

 

「まなにはまだ早いわ」

 

 それ以上いけない。まなに状況再現は早すぎるわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、こんなに早く見つかってしまうとはのう……」

 

 私の眼前には田舎ならばまだ現役なのではないかと思うような小綺麗な木造校舎が、石の塀で囲まれており、表札には"お化けの学校"というそのままの表記が成されていた。

 

 空には太陽が輝いているが現実のものよりも大きいため、ここが次元の歪みや異界の類いだということもわかる。

 

 そのまま、お化けの学校なるところに入ろうと考えたが、子供が人質にされている可能性を考え、羽衣狐としての状態では何にしても問題になるではないかと思い当たる。

 

「"無害そうな妖怪"にでも化けるか」

 

 そう考え、お化けの学校の近くにあったカーブミラーの前に立ち、着ていた黒いローブを脱ぎ捨てた。

 

 誰かに化けるなんていつ以来だろうかと考えながらカーブミラーを眺める。

 

 

 

「いぇ~い、"刑部姫"ちゃん姫モード全開でーす♪」

 

 

 

 そこには姫モードな刑部姫と全く同じ容姿、装い、声をした私が居た。

 

「………………ふむ、ちょっと違うのう。おっきーのこう、かなり無理してやっている感が出とらんな」

 

 そう言いながらカーブミラーの中のおっきーは溜め息を吐く。さっきの柔らかい表情から一変して殺人鬼のような冷たい眼光にもなっていた。おっきーもシリアスな顔になればこれぐらい出来るということである。多分、一生無いと思うがな。

 

 本物は姫キャラを装ってはいても、対人経験値の深刻な不足から足や手がプルプルしているような感じなのである。

 

 まあ、そんなところを再現したからと言って細か過ぎて伝わらない物真似レベルなので今はこれでいいだろう。

 

 ニコリと微笑んで、きゃる~ん☆な感じになればあら不思議、姫モードなおっきーの完成だ。

 

 まあ、一見この変化、無茶苦茶便利で変装なんて要らないんじゃないかと思うかもしれないが、致命的な弱点を持つので、基本的には変装に頼っていたりする。

 

 私はそのままお化けの学校の中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中に入ると沢山の子供たちが何故か布団を敷いて眠っていた。

 

 お化けの学校というだけあって夜に行われるのかと考え、子供の様子を確認してみるが、未だ人間であり、妖怪になった様子はない。

 

「おやおや?」

 

 どうしたものかと考えていると正面から声が聞こえてそちらを見る。するとそこには見覚えのある妖怪が立っていた。

 

「あなたは……前にお会いしましたな」

 

 それはライブの時に退治された"見上げ入道"であった。何故か逆向きの五芒星が額に刻まれているが、本当にお化けを見たような気分になった。

 

「ひえっ!? ど、ど、どうしてここに!?」

 

 とりあえず、おっきーらしく驚いた素振りをしておく。

 

 ついでにおっきーらしく相手からじりじりと少しずつ離れて退路を確保しようとするのも忘れない。

 

「待ってくれ。話を聞いてくれ……!」

 

 すると見上げ入道がそんなことを言ってきたので足を止める。

 

 攻撃してきたら首を引き千切ってやろうと思い、背中に隠した片腕の爪を立てていたのだが、どうやら向こうは話す気なようだ。

 

 とりあえず話だけは聞いておこうと爪を立てるのは止め、胸の前で腕を抱き締めながら不安げな表情で呟く。

 

「な、なな、何さ……? 何なのさ!?」

 

「そんなに怯えないでくれ。実は――」

 

 それから見上げ入道はお化けの学校について話した。

 

 それによれば人間の子供が好きな時に好きなだけ、したいように勉強を出来る場所らしい。しかし、教員が足りないので、是非とも参加して欲しいとのことだった。

 

「ま、まあ……そういうことならちょっとだけ……」

 

「おお、ありがとうございます!」

 

 とりあえず頷いておき、教員になることになった。ちょっと面白そうだと思ったのは本心だ。

 

 まあ、全然ダメだなコイツは。嘘だということが丸わかりだ。こちとら伊達に千年以上の嘘吐きではいない。いつしか、他人の嘘なんて見ただけでわかるようになってしまった私にとってはただ滑稽である。少し泳がせておこう。

 

 その後、少し話をしてから別れ、校舎内を見て回ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 刑部姫ではないか」

 

「うぇっ!?」

 

 校舎内を散策していると後ろから声を掛けられたので、身体を跳ねて驚きつつ恐る恐る振り返って見せる。

 

 するとそこには小さい老人と、顔だけがモアイ像のように大きい老人の二人組がいた。そして、二人とも覚えがあった。

 

「なんだぁ……"サトリ"と"鬼一口"じゃない。驚かさないでよ、もう……」

 

「ああ、それは悪かったな」

 

 サトリは心を読む悟り妖怪であり、鬼一口は鬼が一口にして人間を食い殺すことをいう概要が妖怪化した存在だ。共に(きぬ)の元配下であり、鬼一口に関してはきぬの前は酒呑の元配下である。二人とも割りと話のわかる方の妖怪だ。

 

 私との関係性は単純に勤め先の社長の更に上の人物といったところか。

 

「何故引きこもりのお前がこんなと……こ……ろ――」

 

 サトリの方は私の心を読んでおっきーではないことに気づいたらしい。まあ、気づくのが早い方だな。

 

「……いや、まさか…………」

 

 サトリは手で狐を2つ作り、それを組み合わせて窓のようにすると、そこから私を覗き込んだ。その瞬間、サトリの顔からサーッと血の気が引いていく姿が見え、非常に面白い。

 

「そうだ。刑部姫、金子返してくれ」

 

 すると、鬼一口が私の前に立ちそんな事を言ってくる。おっきーは過去に博打にハマり、負ける度にきぬや私の配下から金を借りていたからな。こうなることは当然と言えよう。

 

 ちなみに一番立て替えていたのは他ならぬ私である。多分、小さめの街で一番高いビルを建れるぐらいは立て替えている。まあ、今さら返してなんて言わないけどね。他人に金を貸すときは戻って来ないことを前提に貸すのが、いい人付き合いの仕方だ。

 

「馬鹿止めろ! そのお方は羽衣――」

 

「黙れ」

 

 私は即座に尻尾を二本出し、二人の首筋に宛がった。多少、妖気も漏らしているので鬼一口も私だと理解出来ることだろう。

 

「私は姫ちゃんだよ?」

 

「い……いえ、申し訳ありません。羽衣さ――」

 

「もー、違うってば! 私は姫ちゃんだって言ってるでしょ……?」

 

 合わせろと言っているのが、わからない程下郎でもあるまいにのう。クククッ……。

 

「鬼一口、耳を貸せ」

 

「おう」

 

 二人は私から少し離れて小さく話し合う。それが終わると、二人は土下座せんばかりの勢いで私に事情を話始めた。

 

 うむうむ、よきかなよきかな。

 

 

 

 

 

「そうなんだ。あなたたちは見上げ入道が悪さをしないように、お化けの学校に教員として潜り込んだんだね!」

 

 聞いた話によれば、なんでも二人は偶々、この近辺にいた時に見上げ入道に誘われ、このお化けの学校の教員になったらしい。そして、その悪事を暴くためにいるそうだ。

 

「そうなのですよ! 我々は貴女様の教えを忠実に――」

 

「ハゴロモ姫ちゃん、嘘を吐かれるのは嫌いだなぁ……」

 

 ご苦労――などと言うと思うてか……?

 

 サトリはやっぱりなと言わんばかりに表情を歪め、引きつった笑みを浮かべる。

 

「サトリ……あなたがいたのに見上げ入道の心の中が見えないっていうのはちょっとおかしいんじゃないかなー? それなのに見上げ入道に着いたんだったら、他に何か理由があるよね? 今言えば姫ちゃん特別にパンチだけで許しちゃうぞー!」

 

 サトリ……貴様がいながら見上げ入道の腹の中が見えぬということはあるまい? だというのに奴に着いたのならば……他に理由があろう。今言えば一撃で許してやるぞ?

 

 私が拳を握り締め、笑顔でにじり寄るとサトリと鬼一口は観念した様子で口を割った。

 

「いやぁ……その……余った人の子は喰ってもいいと言われまして……」

 

「人の子の肉は絶品だ」

 

 とりあえず、二人は私のアッパーカットで宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなー! さあ、刑部姫先生の授業だよー!」

 

「おっきー!」

 

「おっきー先生!」

 

「刑部姫!?」

 

 お化けの学校に潜入してから数日。何故か見上げ入道は全く動きを見せないので、ズルズルと教員の真似事を続けている。

 

「今日は日本史のお勉強だぁ! 昔は密接だったから中国史も可だよ」

 

 そうして、今日の授業が始まった。

 

 

 

「おっきー! 織田信長ってどんな人?」

 

「あー、ノッブ……? あの人は確かに歴史通りの凄い人なんだけど、人柄に関してはかなりざっくばらんでいい加減な人でねぇ……。何かある度に是非もないネ!って締めてるのが印象に残ってるなぁ。兎に角、変人だったよ。後、女性だね」

 

「えー、嘘だぁ!」

 

「多分、生きてたら、何でもかんでも日本史が題材のゲームで黒幕にされるの見て、爆笑しながらプレイしてるんだろうなぁ……」

 

 

 

「おっきー先生、李書文の伝説って本当?」

 

「先生かぁ…………いやー、先生は本当というか現代で語られてるところは、人間相手で全力出せてないから撫でる程度の逸話だよ。というか、私ぐらいじゃないかな。先生の本気の一撃を何度もぶち当てられたの。この身体が素手の一撃で意識飛びそうになるなんてたぶん、後にも先にも先生だけだよ。あれは人間じゃないってマジで。なんで"八極拳ならやっぱり先生に学びたい!"だなんて思っちゃったんだろうなー……昔の私は」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

 

「おっきーせんせぇ! 酒呑童子って何ですか?」

 

「酒呑じゃと!? あ、彼奴なら妾の城やらゲゲゲの森やら適当にその辺酒盛りばかり――おほん。鬼って言うのは何かにつけて年中お酒ばっかり飲んでるこわーい妖怪だからあんまり関わっちゃダメだよ? 絵本の泣いた赤鬼なんて例外中の例外なんだからね!?」

 

「はーい!」

 

 

 

 そんなこんなでこれが授業なのか大変怪しいが、普通の教えや語呂合わせ等もしつつ授業っぽいことをしていた。そこそこ楽しんでいる気がしないでもない。

 

「んー……?」

 

 なんか今、廊下側の窓の外に"サングラスを掛けた鬼太郎っぽい者"が見えたような……いや、流石に気のせいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはぁ……」

 

 日の出になり授業が終わったので、私はそろそろ家に戻って家族の朝食を作ってから学校に行かなければならない。既に徹夜の毎日だが、私クラスの大妖怪はその程度では全く問題ない。

 

 あー、仕事終わりの一杯は染みるなぁ……! まなには悪いが、禁煙に禁酒なんて一部の妖怪にとっては死ねと言っているようなものだから無理なんだよなぁ……お姉ちゃん我慢できない悪い娘なの。性質はどちらかといえばぶっちぎりで邪悪な妖怪だもの私。せめてたまに飲まないとたぶん、色々溜まり過ぎて性欲でまなを襲う自信があるわ。

 

 

 

「刑部姫……?」

 

 

 

 聞き覚えのある声に私が振り向くと、そこには鬼太郎っぽい何かがいた。

 

 というのも何故かその人物は鬼太郎っぽい容姿と背格好をしながら、丸いサングラスだけを掛けているというよくわからない状態だったからである。それを変装というのはあまりに無理がある。そのため、たぶん鬼太郎のような何かだろうか……?

 

 そう言えば鬼太郎は幽霊族であった。ならば弟や兄がいても不思議はないだろう。つまりは目の前にいる鬼太郎っぽいのは鬼太郎の兄弟――。

 

「おい、刑部姫。僕だ鬼太郎だ」

 

 すると彼はサングラスを外した。その顔はどう見ても鬼太郎である。というか鬼太郎だった……おのれ、この私をここまで混乱させるとは……。

 

「お主が羽衣狐の友人の刑部姫か」

 

「ひゃぁ!?」

 

 ひょっこりと目玉のおやじも顔を出したので、私は校舎内の物陰まで退避し、片目だけ覗かせて鬼太郎らを見つめた。

 

「な、なな、なにさ!? 前の復讐!? アヴェンジャーなの!?」

 

「いや、違う。むしろこっちが話を聞きたい。なんでお前がお化けの学校で教師をしているんだ?」

 

 ふむ、その様子から察するに妖怪ポストに相次ぐ子供の失踪の便りが来て、お化けの学校を突き止め、解決に乗り出したというところか。

 

「そ、それは――」

 

 私はそのままの状態で鬼太郎に私がここに来た経緯を話した。尤も送り込まれた理由は、羽衣狐()自身ではあまりに目立つ上に流石に教師という柄ではないので、代理としておっきーを無理矢理送り込んだということにしておいた。

 

「羽衣狐がお化けの学校の解決に……」

 

「一応、見上げ入道から粗方話は聞き終えたよ」

 

 話が私にとって恥ずかしい方向にシフトしそうだったので、そちらに話題をすり替え、興味を引いたところで更に続ける。

 

「見上げ入道を蘇らせたのは"名無し"って奴だってさ。見上げ入道も具体的なことは知らないみたいだったけど、力のある存在みたいだね。それ以上のことはアイツも知らないみたいで私もサッパリ」

 

「そうか……いや、十分だ。ありがとう」

 

 鬼太郎のありがとうという言葉に思わず身震いする。これはおっきーではなく、単純に私が面と向かって感謝されることに対して、これだけ生きていても未だにあんまり慣れていないからである。なんというかこう……ムズムズする。

 

「あー、もうお化けの学校は大丈夫だよ」

 

 その言葉にキョトンとした様子で鬼太郎と、目玉のおやじはこちらを見つめてきた。

 

「たぶん、今夜で廃校になるからね」

 

 まあ、ちょっとだけお化けの学校が楽しかったことは認めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刑部姫から今日でお化けの学校が終わると告げられた日の夜。鬼太郎は子供たちに紛れて校庭にいた。校舎側には見上げ入道を中心に刑部姫と刑部姫の知り合いで鵺の残党妖怪だというサトリと鬼一口が並んでいた。また、刑部姫の隣にいる鬼一口の脇には、大きな樽を横にしたような何かの装置が置いてある。

 

 すると見上げ入道が口を開き、ここにいる子供たち全員を妖怪にすると言い始めたのであった。

 

 驚きながら臨戦態勢に入ろうとする鬼太郎だが、刑部姫が溜め息を吐きながら気怠げな様子で口を開いたことで、ひとまず行動を止める。

 

「鬼一口、よろしくね」

 

 その言葉の直後、鬼一口の歯が外側に剥き出しになり、縦に数m伸びた。そして、子供たちが異様な光景と事態に驚き戸惑う中、鬼一口は頭ごと自身の口を振り下ろした。

 

 樽のような大きな装置に向かって。

 

 当然、鬼が一口でモノを食べるという概念そのものから生まれた妖怪の一撃により、樽は一口で8割以上喰われ、ボリボリと硬いものを砕く咀嚼音だけが響く。

 

「不味い」

 

「な、何をして――」

 

「ふむ、膨らみますぞ。刑部殿」

 

「はいはーい」

 

 次の瞬間、刑部姫が地面を蹴り、見上げ入道の目の前へと跳ぶ。大妖怪の馬鹿げた脚力でもって行われたそれは鬼太郎でも見失いそうになるほどの速さであった。

 

「何の真似――」

 

 そして、そのまま見上げ入道の胸部に軽く手を置く。たったそれだけの動作に鬼太郎は思えた。

 

「ぶぐぅ!?」

 

 次の瞬間、置いた箇所を中心に見上げ入道に凄まじい衝撃が走り、胸部が大きく潰れる。明らかに過剰極まりない威力の何かを刑部姫は放っていたのである。

 

(アイツ、やっぱり僕の時は力を隠して――!?)

 

 鬼太郎が思い出したのは、自分と戦った時に背中を指で触られたこと。指一本であの威力なのだから手で触れれば当然、更に威力が上がると鬼太郎は確信した。

 

 攻撃を終えた刑部姫は軽く伸びをしながら見上げ入道に背を向けて、無防備な姿を晒している。

 

「キ゛サ゛マ゛――!!」

 

 片肺を潰され、息を吸えなくなった見上げ入道は、怒りで目を血走らせながら刑部姫を絞め殺そうと、抱き着くように両腕を回した。

 

 その瞬間、刑部姫は眼鏡の奥でニヤリと獰猛な笑みを浮かべ、背後に少し飛んで見上げ入道の胸部から腹に掛けての場所に背中を付ける。

 

「本気でやっちゃうぞー!」

 

 そして、見上げ入道が刑部姫を背中から抱き締めた刹那、刑部姫は地面をクモの巣状の亀裂が走るほど踏みしめるのと同時に、密着した状態で刑部姫の背中を通して見上げ入道に明らかに人智を超越した衝撃が走った。

 

「――――――」

 

 見上げ入道は、胸部から腹部に掛けて抉れるように陥没しており、一目で即死レベルのダメージだということが見て取れる。

 

 更に衝撃は内部に対しては外見以上に及んでいるようで、全身のあらゆる箇所から血のような黒紫色の妖気を吹き出し、そのまま白目を剥いて魂ごと見上げ入道は消滅していった。

 

「さあさあ、皆――」

 

 全身を見上げ入道から出た妖気で返り血のように濡らしながら、刑部姫は子供たちに笑みを向けて言葉を吐く。

 

「お化けの学校は今日でもう終わり! 帰った帰った!」

 

 一部始終を目にした子供らは真っ青になりながら頷き、鬼太郎と目玉のおやじもなんとも言えない気分になり、鬼太郎に関しては刑部姫の本気に顔を少しひきつらせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひー、疲れたぁ……」

 

 お化けの学校があったエリアに封印処理を施した後、私は外に出た。既にその場には誰もいない。まあ、鬼太郎と目玉のおやじには子供たちがちゃんと帰るようにして欲しいと言っておいたのでもう大丈夫だろう。

 

 サトリと鬼一口も帰らせた。まあ、一応駄賃として刑部姫の借金の5倍の額を渡しておいたので、今頃は飲み屋にでも行っているだろうな。

 

「さー、帰ろっと」

 

 ああ、そう言えばもうおっきーの真似はしなくても――。

 

 

 

「お疲れ様。"羽衣姉"!」

 

 

 

 ひょっこりと、近くの墓石の後ろから我が妹こと、まなが顔を出し、私は固まる。

 

「ひえっ!? な、なな、なんで!?」

 

 最後の日にいたことは気付いていたが、まさか羽衣狐()には気づいていないと思っていたので、ビックリである。

 

「え? だって?」

 

 まなは当たり前のように目を丸くしながら呟く。

 

「姫姉さんはあんなに頼り甲斐ないよ?」

 

「……………………オウフ」

 

 純粋に普通の刑部姫を知っている人間からの一切容赦の無い言葉に思わず唸った。これはおっきーが聞いたらきっと泣く。

 

「それよりそれどうやってやってるの!? 他の姿にはなれるの!?」

 

「まあ、ただの変化の術じゃからな。妖狐由来のものじゃよ」

 

 狐に化かされるという奴だ。まあ、まなが楽しそうなのでちょっと他にもやってみよう。

 

 私はその場でくるりと一回転し、そのついでに変化してみる。

 

 その姿は藤色の髪をした背の高いまなもよく知る女性そのものである。ついでに腰に手を当ててポーズを取っておこう。

 

「ほら、まな。もうアンタも帰んなさいよ?」

 

「すごーい! 猫姉さんだぁ!」

 

「はいはい、もう仕方ないわねぇ」

 

 そう言いながら抱き着いてくるまな。くっ……元の体より胸のないフラットな体型なので、いつもよりまなを遥か近くに感じれる……! あの泥棒猫! いつもこんな感覚を!?

 

「なんでいつも変化しないの?」

 

 暫く猫娘へ、ドス黒い嫉妬心を募らせていると、まながそんなことを聞いてきた。まあ、誰も知らない姿をでっち上げてその度に変えれば誰にもバレないと普通は思うだろう。

 

「わっぷ!?」

 

「致命的な弱点があるのよ。変化(コレ)

 

 ポンっという軽い音と共に変化を解いたことで出現した私の胸の谷間にまなが沈んだ。うん、やっぱりちょっと遠くなった。

 

「弱点?」

 

「手をこうしてみて?」

 

 まなをその場で180度回してから両手を狐の形にするようにしてもらう。更に後ろから指導してそのふたつを組み合わせ、手の中に小さな窓のようなモノを作った。

 

「相手を見破るって強く思いながら、そこを通して私を見て?」

 

 名残惜しいが、まなから離れると再びおっきーの姿に変わる。まなは半信半疑な様子で手の中の窓から私を覗いた。

 

 すると大きく目を見開いて驚いた表情をし、窓で見たり外して見たりと交互に繰り返しており、大変に可愛らしい。

 

「え……? この中でだけお姉ちゃんに見える!?」

 

「うふふ、それは"狐の窓"って言ってね。誰にでも簡単に出来る"人に化けている妖怪の正体が見える方法"なのよ。違和感を感じたらそうやって見てみるだけで変化は簡単にバレちゃうの」

 

 故に基本的に私は変装をしているのだ。まあ、半妖の体なので使われただけでは犬山乙女の姿が見えるだけなので、マシといえばマシなのだが、鬼太郎らには知られるわけにはいかないだろう。サトリもしていたように狐の窓は妖怪でも使えるような非常に一般的な方法なのである。

 

「そろそろ家に帰りましょうか」

 

 変化解くと私はまなを連れて帰路につく。最後にお化けの学校があった場所を少しだけ眺め、少しだけ笑った後、まなの手を引いて歩き出した。

 

 

 

 

 






~帰宅中~


「そうだ! ねーねー。羽衣姉?」

「んー、なんじゃ?」

「さっき皆の前で見上げ入道を倒すのに使ってた奴って何?」

 それを聞かれた羽衣狐はひきつった笑みを浮かべながら口を開く。

「あれは"八極拳"じゃよ。ちゃんと人間が用いた武術じゃ」

「ええ、うっそだー!」

「嘘みたいな人じゃったからのう……李書文(先生)は下手な妖怪相手も无二打(二の打ち要らず)じゃったし……」

 羽衣狐は渇いた笑い声を上げながら遠い目をしていた。



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