犬山さんちのハゴロモギツネ   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。

今回は筆がノリノリになったのか一万字行きました。地味に長いですが分割するほどでもない気がしたのでそのまま投稿しました。

それといつも誤字訂正機能での報告ありがとうございます。言われればわかるんですけど自分で読んでて気がつかないんですよね。誤字は友達。でも消す。



羽衣狐(ライブ)

 はてさてどうしたものかと私は考えながら座っている席で組む足を変えた。

 

「たすけてー!」

 

 とりあえず頭をスッキリさせるためにさっき売店で買った炭酸飲料の缶でも開けて飲むか。んむ、あまり炭酸は得意でもないが、たまにはいいものだ。

 

「ちょ!? なに美味しそうに飲んでんのさ!? ホントにそろそろヤバいって!」

 

 それにしてもこういう施設には初めてきたんだけど、外から見る以上に中は広いんだな。流石5万人も収容してライブが出来るだけはあるというものか。

 

「ひいっ!? かすった!? ふぇぇ……どうしてこんなことに……」

 

 こっちのセリフだわこの引きこもりめ。

 

 おっきーはまだまだ余裕そうなので視線をステージの前に立っている者に向けた。 

 

 そこにはひとつ目で赤い肌をして袈裟を身に纏う巨大な人型の妖怪――見上げ入道がいた。おっきーはその妖怪と対峙しており、黄泉送りなる技を次々に放つ見上げ入道に対して、おっきーは全身を大量のコウモリに分解しながら超高速で空を飛び回って避けていた。

 

 ちなみに何故かおっきーが狐なのにコウモリの姿を取っているのは、おっきー曰く私の比ではない程根性のねじ曲がった性悪狐に "キャラ被ってるからそっちが引け(上品に意訳) "とSNSで言われ、リプライ合戦の応酬の末におっきーが打ち負かされてそうなったらしい。どういうことなんだとツッコミたくなるが言葉の通りらしいので私から言えることは何もない。

 

「ほれ、口を開ける暇があるのならもっともっと避けてみせい」

 

「ううぅ!! 鬼! 悪魔! 羽衣狐!」

 

 うふふ、鬼と悪魔と同列に私の呼び名を並べた理由を聞こうじゃないか。

 

 ちなみにおっきーはヤバいと言い始めてからかれこれ1時間以上耐久しているので放っておいても平気だろう。というかおっきーは、あんな現代に被れまくった成りで中身も残念だが、一尾の頃の私では足元にも及ばないぐらいの大妖怪である。単に自分に自信が無さ過ぎるだけなんだアイツは。

 

『くっ……貴様らふざけているのか!!』

 

「黙れ木偶の坊。余興もわからず刑部すらも屠れぬようでは貴様の夢など夢のまた夢よな」

 

『ぐぐぐ……減らず口をッ!』

 

 そうは言ってみたもののこちらにも決して余裕があるわけではない。何せ約5万人が人質にも等しいのだ。単純に滅してやるだけならばそれこそ一瞬で済むが、人間が戻ってくるという確証も方法もないのではこちらから攻撃することも出来ない。本当にどうしたものか。

 

「あ、久し振りにちゃんと呼んでもらえた……」

 

 お前……それでいいのか……?

 

 私は小さく溜め息を吐いてからどうしてこうなったのかと考え込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハロハロちゃん! 電池組のライブに行こうよ!』

 

 庭の吸血木が突如消滅したため、のびあがりが誰かに退治されてからそう日も経っていないある日。おっきーから突如そんな電話を受けた。

 

 私は目眩を覚えたように大袈裟に頭を抱えてベッドに座り込んだ。

 

「お主が自ら外出とは……明日は日ノ本の国が海に沈み、螺湮城(ルルイエ) が浮上するのかも知れんな……」

 

『おうぇっ!? 遊びに誘ったのにこの仕打ち!? しかも私が外出するとコズミックホラーになるの!?』

 

 まあ、冗談はさておきどうしてそんなことを言い出したのか聞こうじゃないか。おっきーが外出するのなんて年に数えるほどしか無いし。

 

『う、うん……そのね。結構倍率高かったんだけど応募したらペアチケットが当たったから……折角だから誰かと行こうと思ってね……』

 

「別の友人と行けばよいではないか。それにそういったところは不馴れだ。妾が行くような女に見えるか?」

 

 基本的に私は昔から騒がしいところが苦手である。今でもそのようなので乙女としてもあまり好きではないのだろう。

 

『ふぐっ…うっ……ハロハロ以外にリアルの友達なんかいないやい!』

 

「………………すまん」

 

 ゴメン、おっきーの交遊関係の狭さナメてた私の落ち度だ。

 

 まあ、これでも何百年か前に比べたら随分マシになったものだ。昔なんて――。

 

"引きこもっているんだから、要件があるならもうちょっと後にしてくれるとありがたいよー。んー十年ぐらい"

 

 等と言ってたので引き摺り回すレベルで外に連れ出したものだ。

 

 そのお陰かどうかは不明だが、数百年経った最近は――。

 

"んっ、ん、ん……どうしても、どこかに行かなきゃいけないときは言ってね? ちゃんと私も付いていくし……しおらしい? もうっ! 分かってて言ってるでしょ!……いじわる"

 

 等と言い出すようにもなり、このように私が同伴だが自分からも外出をするようになっただけ良しとしよう。

 

「しかし、アイドルか。ませた小娘どものお遊戯など見て何が楽しいのやら、てんでわからぬな」

 

『むっ、言ったね! ハロハロちゃんでもそれは聞き捨てならないよー! ハロハロちゃんにも絶対出来ないようなことをステージ上でやってのけるから彼女たちはスゴいのさ!』

 

「ほほう、この私に出来ぬじゃと?」

 

 それは少しカチンと来たぞおっきー。アイドルの真似事が出来ないわけがないじゃないか。どれだけ年期の入った演技派妖狐だと思っている。

 

 アー、あー、よし!

 

「転生妖術少女ハゴロモちゃんだよっ★」

 

『うわっ……』

 

 その一言はどんな鋭利な刃物や陰陽師の破魔矢よりも私の心を深く深く傷付けた。

 

「貴様……後で覚えていろ。天守閣が原型を留めていると思うなよ…?」

 

『ひえっ!? せめて個人攻撃にしてよぉ!?』

 

 流石に私自身"あ、これ無理だわ"とか思ったが言っていいことと悪いことがある。心にしまっておくのがマナーというものだ。

 

『武蔵ちゃんクッションあげるからダメ……?』

 

「よきかな」

 

 超許す。ちなみに私の部屋にもう9個あるけど可愛いからまだ欲しい。

 

 その後はおっきーと会う日時を決めてから電話を切った。

 

「んぅ?」

 

 するとすぐにチャイムが鳴ったので、玄関に向かった。

 

「はい、どちら様でしょうか?」

 

 するとそこには藤色の髪をして白いブラウスに赤の吊りスカートを履いた背の高い美人がいた。

 

 ただの美人ならばよかったのだが、明らかに彼女は妖怪であった。私と違って、人間だけでなく他の妖怪からも人間と思われるための妖術や妖気を完全に絶った上で臭いを消す等のことをしていないので、妖怪からしてみれば一目瞭然である。まあ、普通そこまでする意味もないので私の方が遥かに少数派だがな。

 

「ふーん、あんたが犬山まな?」

 

「ふふ、残念。私はまなの姉の犬山乙女です。私が妹と間違えられるなんて滅多にないから嬉しいわ」

 

「そ、そうなの……」

 

「今、まなを呼びますね」

 

 そう言って女性を待たせて振り向いたところで目を見開き、真顔に戻る。まなの友人……という雰囲気では無かった。しかし、敵意があるようにも見えず、かといって何か感情を隠しているようにも見えない自然体だった。だとするとまなに危害を加えるわけでは無いだろう。ならば姉は無粋なことをせずにいつも通りまなを呼んで部屋に戻るのがよいのだろう。

 

 むしろどちかといえば気掛かりなのはまなの方だ。

 

 妖怪と交流を持っているかもしれないということは、まなが妖怪が見えるようになっている可能性が高いということ。となると家で無闇に耳や尻尾を出していたら大変なことになっていたかも知れない。

 

 まあ、そこは人間に密着して生きる転生狐。元々誰にも悟られないような生き方を常日頃からしているため、まなにバレることはまず無いだろう。それよりもまなが妖怪側に来てくれるかもしれないことに少し嬉しさを感じているのだからダメな姉だ。

 

 そんなことを思いながらまなを呼び、私は部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 そこまで考えたところで戦況が変わったため、意識をそちらに戻した。

 

 見ればおっきーの足に黄泉送りの帯状のモノが触れていた。こうなったらどうなるかなど火を見るより明らかだろう。仕方ない、この辺りにしておくか。

 

 私はおっきーが黄泉に送られる前に尻尾を4本出して黄泉送りそのものを縛りつける。

 

『な!? そんな馬鹿な……』

 

 そして妖力を込めて捻り絞ることにより黄泉送りを破壊し、物理法則に従って床に落ちるおっきーを尻尾で回収して私の腕の中に抱き寄せた。

 

「残念じゃったな見上げ入道よ。此奴は妾のモノ。誰にもやる気は無いぞよ」

 

「は、はい……」

 

 どうしておっきーが答えるのかは不明だが、ここは流しておこう。大切な友達だから知らん妖怪などに渡したりはしない。

 

「まあ、ここまでか。愉快な見せ物じゃったぞ」

 

 おっきーを抱えたまま私は青い狐火を手の中にひとつ作る。それを見上げ入道に向かって軽く投げた。狐火は私と見上げ入道の丁度中間に差し掛かった瞬間、爆発して一瞬だけ凄まじく激しい光と音を放つ。

 

『うぉぉぉ!?』

 

 それを直視していた見上げ入道は涙を浮かべながら手で目を覆っている。妖怪と言えど1~2分は使い物にならないだろう。

 

 これぞ私が一尾の頃によく使っていた閃光玉狐火、あるいはスタングレネード狐火である。猫だましならぬ狐だましだ。

 

「生憎、妾はお主と遊んでいるほど暇では無いのでな。では、さらばじゃ」

 

『め、目がぁ……くそぉっ!』

 

 見上げ入道が苦しんでいる隙に、妖気を絶った上で私はおっきーと自身に姿隠しの妖術を使って隅で壁際の席に移動する。そして、更に防音の結界を張りおっきーを席に座らせた。

 

「もう見上げ入道はこちらから何かしなければ我らには気づけぬじゃろう。話してよいぞ」

 

「うぅぇぇぇん!! ごわがっだよぉぉぉ!!」

 

 おっきーは座らせたのに私に抱き着いてきた。

 

「ひっぐ……ひっぐ……」

 

「怖かったのう。大丈夫か?」

 

「もうちょっとこのままでいさせて……」

 

 おっきーは折れてしまったので、仕方ないがこのままいることにした。だが、状況は依然として変わってはいない。五万人の人間が人質にとられたままだ。

 

 どうしたものかと再び考えながら地団駄を踏んでいる見上げ入道を眺めていると、何人かの妖怪とひとりの人間が入ってくるのが見えた。

 

「ほぁ?」

 

 私は久し振りに素ですっとんきょうな声を上げた。入ってきた人間の方に釘付けになったのだ。

 

 それはただの人間ではなく、私の妹であるまなだったからだ。ど、どど、どうしてまながこのような危険なところに!?

 

「わぁ、本物の鬼太郎だ」

 

「鬼太郎?」

 

 伊達に演技を常にしてきたわけではなく、最初の呟き以外まなに対する思いは表情にすら一切出さないでひたすら困惑していると、復帰したおっきーはステージの方を見ながら開口一番にそのようなことを呟いた。

 

「うん、人間から妖怪退治とかを請け負っている幽霊族の妖怪だよ。その筋では有名な妖怪退治の専門家だね」

 

「ほう、なかなか殊勝ではないか」

 

「いやいや、流石に妖怪を討伐している数でいったらハロハロちゃんには及ばないだろうけどね」

 

「ふむ……」

 

 となると大方まなは、自分の意思であそこにいるのだろう。ならば姉が口を挟むのはいらぬ心配というものだ。 初めて見るような口振りが気になるが、おっきーがそこまで言うのならまなのことは一先ずは任せるとしよう。勿論、尻尾は一本は出しておき、いつでもまなを守れるようにするがな。

 

 まなは正義感が強くて他人思いで心配性だからなぁ……いったい誰に似たのだか。

 ん? 最初よりも妖怪がひとり減っているような……。まあ、いいか。

 

 そして、どうやって見上げ入道を解決するのかとわくわくしながら売店で買ったさっきとは別の缶ジュースを開けた。アイドルよりも面白いものが見れそうだ。

 

「…………おい、鬼太郎とやら初手で黄泉送りにされたぞ」

 

「あ、あんなの初見で弾けるのはハロハロちゃんクラスにわかりやすく強い妖怪だけだって……。大丈夫だよ、きっとここから必ず逆転するから!」

 

 本当かなぁ……。まあ、私は人間さえ助かればなんでもいいのだが。

 

 そこでまなの隣にいる女性妖怪をよく見れば前にまなを呼んでいた妖怪だったと気が付く。

 

「此奴は?」

 

「猫娘ちゃんだねー、初めて見るけどやっぱり美人だなぁ」

 

 猫娘か……なんかあんまり強そうではないなと失礼なことを考えていると、猫娘は四足で地面に立ち、見上げ入道へと駆け出した。見開かれた目に裂けた口と鋭い爪がまさに猫娘といった風貌である。

 

「怖っ!?」

 

「クリオネでも見ている気分じゃな」

 

 確かバッカルコーンとかいう若干強そうな名前の補食器官のアレである。私は両方ともそれはそれで可愛いと思うけど。

 

 猫娘はこのままひとりで見上げ入道を倒してしまうのではないかと思うほど善戦していた。しかし、見上げ入道はあろうことにまなを狙って黄泉送りをしやがったのである。

 

 とっさに最早妖怪だとバレるのも覚悟で、まなを救出しようと尻尾を伸ばそうとしたが、それよりも先に猫娘がまなを突き飛ばして身代わりになった方が早かった。

 

 別に身代わりになる必要は全く無い無駄な行為であり、寧ろ状況を悪くしただけだが、それを行った猫娘のことを私は高く評価した。

 

 しかし、これでまながひとりになった。まなが黄泉送りにされてしまうぐらいならば、まなを刑部に預けて五万人の人間を引き換えにしてでも奴を殺すべきかと考えていると、黄泉送りを破り帰って来た鬼太郎が猫娘を助けた。

 

「ほう」

 

「ヒーローは遅れてやってくるって奴だね」

 

 一回黄泉送りにされた場合は遅れたに入るのだろうかと考えたが、そんなこと聞けばおっきーが語りだして面倒そうなので特に言及はしなかった。

 

 しかし、見上げ入道はいよいよ面倒になったのか鬼太郎たちを吸い込み始めた。なんでもありだなアイツ。

 

「ちょ、飛ぶ!? こっちまで吸われるって!?」

 見ればおっきーは備え付けの椅子にしがみついており、鬼太郎たちが空に浮くのも時間の問題だった。

 

 そろそろ私も動くか。流石に何も出来ない時間は非常に歯痒かった。その礼も見上げ入道にしなければならないだろう。

 

「刑部よ。妾が射ったら、直ぐに引きこもり姿隠しと結界を強めよ」

 

「え……? 良いけど射るって何を?」

 

 私は少し出している一本の尻尾から何の変哲もない弓を取り出した。

 

"一尾の弓"

 

「あ、羽衣九ツ武具のひとつだね!」

 

「魔帝七ツ兵器みたいに言うでない。それとこれは本当にただの弓じゃ」

 

「そうなの?」

 

「妾が一尾の頃に愛し、子を成した陰陽師の男が使っていたただの弓じゃよ」

 

「あ……うん、思い出の品なんだね」

 

 終ぞ結婚はしなかったが、晩年は私の住みかにずっと彼もいて私に看取られて死んだ。今思えば私が素直になれなかっただけできっと純粋に愛していたんだろう。だからこれを持つのは私が私でいるための証のようなものだ。

 

 私は彼の弓を構え、再び尻尾をまさぐると彼のものを模した術の仕込まれた破魔矢を取り出して弓につがえた。

 

「え……? 何その矢に編まれた術……? 見てるだけで寒気がするんだけれど……?」

 

 んぅ? 待って今気付いたが、なんだあのまなに引っ付いている小さな妖怪は? というかまなのどこを掴んでいる……?

 

 な、なんてこと……最近めっきりお風呂に一緒に入ってくれなくなったから私だって見たことすらあんまりないのに! ぐぎぎ……。

 

 しかし、鋼の意思で小さな妖怪に射かけたいという意思を振り切って、私は見上げ入道へ矢を放った。九尾の狐の怪力から放たれた矢はライフルでも放たれたかのような轟音を立てて進み、見上げ入道の右肩に突き刺さった。

 

『ぐっ!? なんだ?』

 

 見上げ入道の身体が僅かにふらつき、吸引が中断される。

 

 そして、刺さった矢の術式が起動した。

 

『がぁぁぁぁあぁぁぁ!!?』

 

 凄まじい爆発が起こり、見上げ入道の右肩ごと右腕が弾け飛び崩れ落ちたのである。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 うーん、流石の威力。やはり人の身で一尾の私が即逃げるレベルの妖怪を殺し切っただけはあるな。父親よりも晴明の方が比べ物にならないぐらい才能があったのだが、晴明がこれを初めて見た時に真っ青になって絶句していたことを思い出す。あの時は確か三人で行って彼が人間を拐う女性妖怪の頭に当てたんだったか。

 

「子供からしたらトラウマものだったんじゃ……」

 

「それよりさっさと引きこもらんか。流石に怪しまれるわ」

 

「あ、うん。それじゃあ引っきこもろー!」

 

 おっきーがそういうと姿隠しと防音の結界の性能が数倍に引き上がる。今ならば祟り神ですら我々を発見することは難しいだろう。このようにおっきーは引きこもる行為と、引きこもっている時に最大の力を発揮するという大変歪んだ性質をした妖怪なのである。

 

「ちなみに彼のこれを私は榴弾破魔矢と呼んでおるぞ」

 

「それって"一尾の弓"って言うよりも"一尾の矢"なんじゃ……」

 

 矢は使い捨てだし、弓の方が私の宝物だからいいの。

 

「それと――」

 

 私は尻尾から未使用の矢をもう一本取り出すとおっきーに実演して見せてみた。

 

 破魔矢の羽根の部分をナイフのように持ち、そのまま根本にも施された術式を押すと、尖端の爆発術式を組み込まれた部分が見上げ入道に向かって発射されて飛んだ。

 

 今度は音もなく弧を描くようにさっきよりはゆっくりと見上げ入道へと飛び、見上げ入道の足袋に軽く刺さる。

 

 次の瞬間、再び破魔矢が爆発した。今度は刺さっていないため、破壊こそしなかったが足を爆破された見上げ入道を転倒させた。

 

 このように矢だけになっても最低限戦える。妖怪の私には到底真似できない、よく考えられた陰陽師の武器だな。

 

「スペツナズ破魔矢!?」

 

 なんだそれカッコいい名前。

 

 鬼太郎たちは突然の謎の援護射撃ならぬ援護爆撃に困惑し、辺りを見回していたが、その辺りは妖怪退治の専門家。直ぐに片腕が吹き飛んで地面に蹲る見上げ入道への攻撃に戻る。

 

 それによって見上げ入道がさらに怯んだところで小さな妖怪が乗っているまなが前に出て大きく息を吸い込み、言葉を叫んだ。

 

「見上げ入道見越したり!」

 

 その瞬間、見上げ入道は空気の抜けた風船のように急激に萎んでやがて小さな魂となって消えてしまった。

 

 消えた人間は次第に元々いた場所に戻る。もう心配する必要は無いようだ。

 

 目玉のおやじとやらの話を聞くと、見上げ入道は人間に"見上げ入道見越したり"と言われると妖力を失ってしまうらしい。なんだその致命的な弱点。

 

「お主は知らぬのか?」

 

「しょ、書物とかネットの知識はバラバラで確証がないからそういうのが本当かどうかは知らなかったのよ。言うと助かるっていうのは知っていたけど……」

 

 微妙に使えないな、この引きこもりめ。

 

 おっきーに対して溜め息をひとつ吐く。すると鬼太郎たちが帰るようなのでそれをこっそり見送りながら私たちも帰ることした。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 私は途中でおっきーとも別れ、ひとりで家路へと着いていた。

 

「しかし……」

 

 帰る途中で鬼太郎が言っていた言葉をふと思い出し、誰に言うわけでもなく復唱する。

 

「誰かが必ず気にかけてくれているのが人間……か」

 

 そうだといいな私も。私に出来るのは他人を気に掛けることぐらいだからな。

 

 そんなことを考えながら家の前まで来ると玄関に誰かが立っていることに気が付く。

 

 それは私の妹のまなであった。まなは陽だまりのような性格なのだが、柄にもなく下を向きながら不安に顔を歪めており、それを見ているだけでこちらも悲しくなってくる。

 

「まな?」

 

「っ! お姉ちゃん!」

 

「ど、どうしたの?」

 

 まなは私を見るなり私の胸に飛び込んできた。突然のことに流石に私も驚く。

 

「よかった……! 帰って来て……!」

 

 ああ、そうか……まなにとって私は犬山乙女という大切な人間の姉。そして、まなは犬山乙女を誰よりも気にかけてくれる人間なのだ。そう考えると私がまなに対して大き過ぎる秘密と嘘を抱えていることに胸が痛んだ。

 

「心配かけてゴメンね。大丈夫よ。お姉ちゃんだもの」

 

「うん……」

 

「お詫びに何か作ってあげる。まなの好きなものにするわ」

 

 そう言って私はまなの頭を撫でた。次第にまなは照れ臭くなってきたのか私から離れた。ちょっと……いや、スゴく残念。

 

「もう、こんな時間に食べたら太っちゃうよ」

 

「うふふ、育ち盛りなんだからそういうこと言わないの」

 

 私はまなを軽く小突く。

 

 まなと向かい合っているうちに私は自然と口を開いていた。

 

「…………ねぇ、まな? もしね、もしもよ?」

 

「なに乙女姉?」

 

 まなは私とは似ても似つかない澄んで優しそうな瞳で私を見つめた。どうしてこんな瞳に嘘を吐き続けられるというのか。私は喉まで出かかった言葉を思い浮かべ口を開き―――。

 

 

 

"私が妖怪だったとしたらどうする?"

 

 

 

そう言ってしまえばきっとまなは驚くでしょう。見上げ入道だけではない。もしかしたらのびあがりにもまなが関わっていたのかもしれない。それならきっとまなは悲しむ。

 

 私は……そんな妖怪よりもずっと強大で、ずっと質が悪くて、生き汚いだけの嘘まみれの妖怪なんですもの。

 

 だったら私に出来る最善のことは私がまなにとっての優しい姉の犬山乙女であり続けること。それでいい。それでまなが幸せになるのなら私はそれでいい。

 

 まなにとって知らない世界があったでしょう。見たことのない綺麗な景色もあったでしょう。新しい友も出来たことでしょう。けれどそのなかにも知らなくていい方が幸せなこともあるのです。

 

 私はまなが死ぬまで、いいえ死んでからもそのようにありたいのです。大好きだから―――言えない。言いたくない。

 

「――――ううん、やっぱりなんでもないわ。いつまでもここに居ては風邪を引いてしまうもの。早く家に入りましょう?」

 

 

 また、私はまなに嘘を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

「どうしたんですか父さん?」

 

「いやな、鬼太郎。この矢どこかで見た覚えがあるんじゃ……」

 

 ゲゲゲの森にある鬼太郎親子の家で、小さな妖怪――目玉のおやじは、回収してきた見上げ入道に刺さった矢を食い入るように卓袱台の上で見つめていた。

 

「スゴいわねそれ、あれだけ爆発しても傷ひとつついていないなんて」

 

「あの場に偶々居合わせて隠れていたとても優秀な陰陽師か退魔師の矢……でしょうか父さん?」

 

 猫娘と鬼太郎の言葉にも耳を貸さず、目玉のおやじは考え込む。そして目玉のおやじの手が根本の羽根の部分に付いている模様に触れた。

 

「うわっ!?」

 

「な、なに!?」

 

 その瞬間、矢の半ばから先が弾丸のように発射され、鬼太郎親子の家の壁に突き刺さった。矢じり部分が全て壁に埋まっているところからその威力の高さが伺える。

 

「あ、危ないわね……」

 

「父さん気を付けて触ってく――」

 

「そうじゃ……」

 

 それを見た目玉のおやじはゆらりと立ち上がると、血相を変えた様子で口を開いた。

 

「コイツは"羽衣狐"の"一尾の弓"の破魔矢じゃ! 千年以上も前の古く珍しい術と、そのような面妖な術式を未だに矢に込めているのは此奴しかおらん!」

 

「羽衣狐ですか……!」

 

「え……? 羽衣狐ってあの羽衣狐のこと!?」

 

 それを言った目玉のおやじだけでなく、鬼太郎と猫娘も困惑した様子だった。その二人に目玉のおやじはさらに言葉を吐く。

 

「羽衣狐は人間の間では全くの無名の妖怪じゃ。しかし、妖怪の間では常に語られる日本三大妖怪の一体。酒呑童子、玉藻の前、そして羽衣狐。三体の中でも羽衣狐は最も邪悪な存在だと言われておる」

 

 話を区切り、再び座り込んだ目玉のおやじは少し唸ると難しい顔で再び口を開いた。

 

「羽衣狐は人間を寄り代に転生を繰り返して生きる転生狐じゃ。その上、数えきれない程の妖怪を殺し、時に屠り喰らってきたと言われておる。そして、酒呑童子や玉藻の前と違って羽衣狐は未だに討伐も封印もされておらん」

 

「それは……」

 

「誰も奴を倒せたモノがいないということじゃな」

 

「なによそれ……」

 

 あらゆる妖怪は大なり小なり何かしらに敗北したり、封印された経験がある。名の知れた妖怪ならば尚更だ。しかし、羽衣狐は違った。

 

 人間の社会に生き、まるで人間のような狡猾さを見せながら、如何なる妖怪、如何なる人間にも負けたことがなく、妖怪を好んで殺し喰らう大妖怪。そのような妖怪が妖怪の中で恐れられていない筈は無かった。

 

「なぜ羽衣狐がこれを見上げ入道に撃ち込んだのでしょうか?」

 

「それはわからん。羽衣狐はいつも妖怪を殺し回っているが、たまに妖怪に加勢することもある」

 

 まるで雲を掴むようじゃと目玉のおやじは続け、また言葉を続ける。

 

「何より此奴は人間に溶け込むことに最も長けた妖怪と言っても過言ではない。例え見ていても我々ですらわからんじゃろう」

 

「……ッ! 待って! じゃあ、羽衣狐がまなの住む街に居るってこと!?」

 

「それもわからん。じゃが、言えることはひとつじゃ……」

 

 目玉のおやじは言葉を区切ってから重い口を開いた。

 

「羽衣狐はこれまでの妖怪とは何もかも比べ物にならん。もし戦うことがあれば、ゲゲゲの森全ての妖怪が相手をしても勝てるかどうかわからんということじゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、は……はくちゅんっ!」

 

「乙女姉風邪?」

 

「誰かが噂でもしてるんでしょう。それよりも美味しい?」

 

「うん、とっても!」

 

「そう、ならよかったわ」

 

(あれ? また一瞬お姉ちゃんに狐耳が見えたような……?)

 

 とはいえ、真実というものは案外近くにあり、もっと単純で優しいものなのかもしれない。

 

 それと蛇足だが、羽衣狐はとても嬉しくなると無意識に耳が出るという本人が気付いていない妖狐の小狐のようなクセがあったりする。

 

 

 

 




◆羽衣狐さんがまなちゃんに隠している最大の理由
妖怪の間での評価が最凶最悪レベル、その上7割ぐらいは真実なのだから質が悪い。

◆一尾の弓
この小説オリジナル。書いてて楽しかった(小並感)。でもこんな奇抜な物使ったら足がつきますよね。


◆羽衣狐とおっきーの強さ(ふんわり説明)
羽衣狐
映画版ゲゲゲの鬼太郎でラスボス張れるぐらいの強さ

おっきー
ゲゲゲの鬼太郎のアニメで前後編の2話引っ張れるぐらいの強さ


ちなみにおっきーは目玉のおやじさんと違って戦える代わりに、知識が偏っているので目玉のおやじさんより解説能力が劣っています。なので実際に知らなければわからない弱点とかあんまりわかりません。






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