対レッドドラゴンのため、パワーをセーブするという意味で作りました。
今回も短め。
宝虫のおやつを食べながら、ファリン達はどんどん進んでいく。
「いつまで食べてるの?」
「結構量があって…。」
ちびちびと、宝虫の巣のジャムサンドを食べているファリンにマルシルが言った。
「そんなことしてたら、霊が出たときにはすぐ対応できないぞ?」
「だいじょうぶだよ。」
「頼むぜ、ファリン。霊の類い相手は、お前の得意分野なんだからな。」
「うん。分かってるよ。」
「そうなのか?」
「ええ。ファリンは、霊の扱いがとても上手なのよ。」
「チョイチョイと、パンパンって、簡単にやりやがる。」
「ほう。それはたいしたものだ。」
「そんなたいしたことじゃないわ。あっ…。」
歩きながら会話していると、ファリンがジャムサンドを落とした。
「もったいない。」
ファリンがしゃがんでそれを拾おうとしたとき、床からヌウッと半透明の手が伸びてファリンの手を掴んだ。
「きゃっ!」
「ファリン!」
短く悲鳴を上げたファリンだったが、すぐに手をかざして霊の頭部に当てて、霊を追い払った。
「だいじょうぶ!?」
「うん。」
「驚いた。あんなに簡単に霊を退けるとは…。」
「ちょっと待ってね。」
「何をする?」
立ち上がったファリンがセンシに手を伸ばしてきたので、センシがそれを制した。
「霊が取り憑かないようにするの。」
「あ、やってやって。」
「俺も頼む。」
「わしは…遠慮する。」
「ちょっと、霊の取り殺されるよりはマシよ? こんな時に魔法嫌いなんてしてたら…、っ。」
嫌がるセンシを説得しようとしていたマルシルは、背後の廊下の向こうから冷たい気配を感じ取った。
「…いる! 走って!」
「ファリンにやらせればいいだろ?」
「数が多いわ! こんなところでファリンの魔力が尽きたら終わりよ!」
「私はだいじょうぶ!」
「ダメよ、あのドラゴンと戦うためにもとにかく力を温存しとかなきゃ!」
「っ!」
「じゃあ、どうすんだよ!?」
「とにかく逃げるのよ!」
ファリン達は、とにかく走った。
あちこちでヒソヒソと声が聞こえてくる。
どうやら先ほど見つけた別の冒険者パーティーの死体に引かれて霊が集まりつつあるらしい。一応処置をしておいたのでゾンビ化することはないだろう。
走り続けたファリン達は、廊下にあった扉の一室に逃げ込んだ。
「どうするんだよ? このままじゃじり貧だぜ?」
「やはり、簡単に死人から逃れることはできんようだ。」
するとセンシが荷物を降ろし、中から道具を取り出し始めた。
「何を…。」
「魔除けを用意する。」
「魔除け? できるの?」
「聖水だ。」
「そんなもの持ってたの?」
「いや、今から作る。」
「作るって言ったって…。あんた、聖職者かよ。」
「世界には、様々な魔を祓うための伝承がある。」
例えば、火。
暗闇を祓い、生み出す力にも、奪う力にもなる火は、古今東西、魔除けや神聖なものとして用いられてきた。
センシは、四本のロウソクを立てると火を灯し、その上にランタンの器をかぶせ、その上に小鍋を乗せた。
「それは確かだけど…、ロウソクの火だけじゃ…。」
「ひとつひとつの力は小さくとも、数が揃えばそれなりの力となるだろう。」
次にセンシは、宝虫の巣のジャムを取り出した。
例えば、黄金の甲虫(こうちゅう)。
その習性から太陽と、その神を象徴とするとして崇められた。
そして宝虫の巣のジャムを水を張った小鍋に入れていった。
例えば、酒。
神に供える物としては欠かせないし、殺菌作用もある。
スプーンで何匙か酒を加えていった。
例えば、塩。
厄除けや身を清めるために用いられる風習がある。
…ついでに砂糖も加えた。
「効き目が薄そうだから量も多めに。」
「メチャクチャ適当だな!?」
「他には、ハーブだとか。生き物の内臓だとか。これらに火の力を加えれば……。聖水の完成じゃ!」
「霊が来たわ!」
「ファリン!」
杖を構えたファリンが霊を追い払っていく。。
だが次々に壁をすり抜けて霊はやってくる。あまりの数にファリンは息切れしていた。
「聖水を詰めた瓶はしっかり密封する。」
「密封!? 使わないのか!?」
「まあ待て。ヒモで縛って…。」
「センシ! 早く!」
そして、センシは、瓶詰めの聖水を縛っているヒモを握り、振った。
すると霊は切り裂かれるように散っていった。
「すごい!」
「あんなんでも効き目あるのかよ…。」
そしてセンシが次々と霊を散らしていき、やがて霊はいなくなった。
「し、霜ついてる。」
霊を退け終えた聖水は、霊の冷たさによって霜がつくほど冷えたようだ。
そして。
「む、これは…、アイスができたな。」
「まあ、壁をすり抜けるんだし、瓶詰めでも関係ないのかもな。」
ただまき散らすよりは効率的なのかもしれない。
***
取り皿に凍った聖水のソルベをとりわけた。
「霊に触りまくった物なんか食べて平気なのか?」
「あんな力の強い聖水を口に入れるのも問題ありそうな…。」
「美味しい。」
「あっ! ちょ、ファリン!」
ファリンが警戒無く一口食べたのでマルシルが声を上げた。
ファリンが先に食べたので、他の面々もソルベを口にした。
「ほんとだ。美味しい。」
「すごいさわやかな味。」
「あまり恨まれずに除霊できたみたいだな……。」
「うんうん。」
「そういえば、生き物の内臓って何を入れたの?」
「スライムを削って入れた。」
「だからちょっとプルプルしてるのかなぁ? 舌触りをまろやかにしてくれてる。」
ファリンは、そこまで言って、ソルベを見つめて俯いた。
「……兄さんにも食べさせてあげたかったな。」
「何言ってんのファリン。」
「そうだぜ? 帰り際にまた食えるかもしれないぞ?」
「…そうだよね。うん…。」
まあできたら食べないに越したことはないのだが…、っというのが、マルシルとチルチャックの本音ではあった。
この回はどうするか結構悩みました。
ファリンがいることで霊の心配はないということにすべきか、あえて手作り聖水のソルベを作るように話を変えるか。
結局、ファリンの魔力をセーブする意味で手作り聖水を作ることにしました。
さすがにライオスほど口が滑ることはありませんでした。ただし、ブラコンが振り切ってます。
次回は、生ける絵画。