微妙にオリジナル展開です。
焼き肉を食べていたファリン達だったが、チルチャックが、ハッとした。
「足音が近づいてくる…。」
感覚が鋭いチルチャックは、塔の上から歩いてくる足音から相手が武装した五人組だと見破った。
そして向こうがこちらに気づいたとも気づいた。
徐々に足音が近づき、やがて…。
「驚いたね…。本当に肉を焼いているぞ。地上に戻れない罪人の類いじゃないだろうな?」
「ただの野営中だ!」
見えてきた人物の言葉にチルチャックが反論した。
「んん? 待てよ。その声…、チルチャックか?」
「えっ? ナマリ? ナマリなの!?」
「ファリンもいたか。」
「知り合いか?」
「前の仲間! よ、久しぶり。…つっても一週間ほどか。」
そう言ってドワーフの女戦士であるナマリが手を振って近づいてきた。
するとファリンが杖を握って身構えた。
「おいおい、こっちには戦う意思はねーよ。」
ナマリが手で落ち着くよう制した。
そしてナマリが新しい冒険者パーティーを紹介した。
今の雇い主であるタンス夫妻。ノームの夫妻で、どこかのお抱え学者で金払いがすごくいいらしい。
そして、双子の男女のカカとキキ。褐色の肌のトールマン(※この世界における普通の人間)。男女なので似てないがどっちがどっちなのか分からないそうだ。
「そう…、誘われてたっていうのは、その人達なんだね…。」
「なに怒ってんだよ?」
「……ナマリがいれば、もっと早く兄さんを助けに行けたのに。」
「タダで死地に付き合えと言われたのを断っただけだろ?」
「よせよ、ファリン。ナマリにはナマリの事情があんだよ。」
「分かってる。分かってるけど…、割り切れないだけ。」
「まったく、相変わらず、兄さん兄さんだな。お前は。」
ナマリは、ジイッと睨んでくるファリンに呆れた声を漏らしたのだった。
「あ、そうだわ。そちらに、魔力草はありますか?」
「見返りは?」
「あ…。」
ファリンは、慌てて自分の身と、周りを見回した。
「…け、ケルピーの肉。」
「いらんわ!」
速攻で断られた。
「行くぞナマリ。迷宮内での施しは足元をすくわれる。」
そう言ってタンス夫妻の夫の方が背中を向けて去ろうとした。
「待って!」
「まったく、途中にあった死体でも自分の蘇生代くらいは持っていたぞ…。」
「違うの。この先に行くなら、ウンディーネが徘徊しているから気をつけて。」
「ウンディーネ?」
タンス夫妻の夫の方は、寝かされているマルシルの方を見て察した。
「ははあ。水の精霊を怒らせたか。ふん。」
見くびるなと言った。
彼らノームは、古代より神々や精霊らと共に生きてきたのだから、精霊は恐れるべき存在ではないのだと言う。
そして、タンス夫妻の夫の方が湖側の通路にナマリと共に出た。
「ウンディーネ! 偉大なる水の精霊よ! 我が声に応えたまえ。」
だがウンディーネは、答えとして…。
「ーー、ダメだこりゃ。」
「ん?」
タンス夫妻の夫の方がナマリの後ろに隠れた。その直後、ナマリの額の真ん中をウンディーネが水の弾丸で貫いた。
「タンスじーちゃん!」
すぐにカカとキキが助けに出て、ナマリの遺体とタンス夫妻の夫の方を助け出した。
「ダメだったわ。」
「ナマリ! ナマリが死んじゃった…。」
さすがに目の前で元仲間が死んだら気分が悪い。
「すぐ治るわい。」
耳をほじりながらタンス夫妻の夫の方が言った。
後ろにいるカカとキキは、あーっという顔をしていた。どうやらこんなことは日常茶飯事らしい…。
そしてタンス夫妻の夫の方が、呪文を唱え、ナマリの額の傷口部分に手をかざした。
すると、淡い光と共に、徐々に傷口が消えていき、あふれていた血も戻っていた。
そして傷が完全に消えた途端、ナマリの目に光が戻った。
「この、クソジジイーーー!!」
起き上がったナマリは、タンス夫妻の夫の方につかみかかった。
「いつもいつも、あたしばっか盾にしやがって!!」
「そのためにおまえにゃー、高い金を払っとる!!」
カカとキキが間に入って、暴れるナマリを押さえた。
「蘇生術か…。魔術の中で特に好きになれん。」
「蘇生には反対?」
「見ていて気持ちの良いものではない。死者は生き返ったりしないものだ。」
「迷宮の外ではそうだけど…、ここだと普通なんだよ。私だって蘇生術使えるよ?」
「普通ではない。普通ではないぞ、ファリン。」
「その通り!」
会話を聞いていたタンス夫妻の夫の方が声を上げた。
彼が言うには、この迷宮には非常に強い術が張られていて、人の魂を肉体に束縛する。おかげでどれだけ肉体が傷つこうが魂は解放されず、損傷さえ治れば元通りなのだそうだ。実際、みじん切りから蘇生した例があるのでその通りなのかもしれない。
そしてさらに語り出す。
彼が思うところによると、死んだ者が生き返るのではなく、ここでは死自体が禁じられているのだと。
「なんともおぞましい呪いよ。さておき…、私はそういった古代の呪術の研究をしていてな。この付近にある魔方陣の調査に来た。……が、ご覧の通り少々護衛が頼りない。調査を手伝ってくれれば、薬草なりを分けよう。」
「本当ですか?」
「しかし、お前さん…見たところ回復役じゃろう? 護衛には向かんな。」
「ううん。私もそれなりに前衛で戦えますから。」
「バジリスクも一撃で倒せるしな。」
「ほう? なかなかの実力者というわけか。その若さで…。」
「はい。」
「では、頼むぞ。」
会話を聞いていたナマリは、ばつが悪そうにしていた。
***
「調査場所は、二カ所。」
現在居るのは、四つの塔を四つの通路でつなげた場所である。
タンス夫妻の夫の方が調査したいのは、その塔の地下である。
ウンディーネが邪魔なので、対面の塔の調査はできない。そこで現在いる塔の地下を先に調査することになった。
タンス夫妻の夫は、妻に自分に何かあったときのためにココに残るよう言いつけ、チルチャックとまだ具合が悪いマルシルが残り。カカとキキ、ナマリ、そしてファリンとセンシが護衛として向かうことになった。
地下への階段を降りていく、壁に根っこが絡みついている。
「この辺りだ。エルフ文字か…。酷いくせ字だな。根が邪魔だ。はらってくれ。」
そしてナマリとセンシが斧を使い、ファリンが背負っていた剣を使い、根を切っていった。
「ファリン。どうしたその剣。」
「ナマリには、関係ないわ。」
ナマリからの問いに、ファリンは冷たく答えた。
「気色悪い剣だ。前々から言ってたけど、ライオスといいお前も、ちゃんとしたところで武器を買え。」
「これは、兄さんへのお土産なの。」
「聞けよ。いいか? 買うときは、ドワーフが打ったやつをだぞ? ハーフフットが店番してるようなところはやめろ。あと、鞘を使い回すな。それから……。」
ナマリは、センシの方を見た。
「あんたもたまには武器を手入れしろ! 斧が可哀想だ!」
センシが使っているボロボロの斧を指さし、ナマリがそう言った。
「…今…、うるさいって思っただろ?」
ナマリが背中を向けたままのファリンに聞いた。
「…別に…。けど、武器の扱いに関してはやっぱりすごいなって思った。兄さんが信頼してたのも頷ける。」
「……。」
そう言うファリンに、ナマリはなんとも言えない顔をした。
すると、ファリンが手にしていた剣が震えた。
「…あ……。」
まさかと思い、地下の方を見た。
しかしそこには根が垂れ下がっているだけで、魔物姿はない。
「みんな下がって!」
「どうした?」
「魔物がいるわ。」
「では、倒せ。」
「どこにいるのか分からない。」
「あ? では、なぜ魔物がいるとわかる?」
「えっと…なんとなく。」
「なんだそれは。」
「タンスさん。こういうときのファリンは信用できる。」
「…根拠もない話しに付き合っとれん。潜んでいるなら引きずり出せばいい。」
すると、キキがボウガンを取り出し、矢を地下の方へ放った。
しかし何も反応はない。
だが…、その時。
シュンッとすごい勢いで根っこ(?)がキキを絡め取り、上へと持ち上げた。
「テンタクルス(触手生物)!」
少しの間バタバタ暴れていたキキだが、やがてシーンっと動かなくなった。
「わあー! キキ、キキ! 大丈夫か! おい、何をしている、早く魔物を殺せ!」
「いや、武器届かないから…。」
「早くなんとかしろ!」
「わざと捕まって懐に飛び込むってのは?」
「…テンタクルスは。刺胞生物よ。触手が皮膚に触れると毒針が射出されて身体は麻痺する。捕われればこっちの命が危ないわ。」
「死んでも生き返らせてやる!」
「あのな……!」
「私が行くわ。」
言い合いになりかけていたタンスとナマリを止めるようにファリンが言った。
「おい、待て。回復役のお前が行っても…。」
「センシ。兜を貸して。」
「聞けって。」
「ナマリ。お願いね。」
「はっ?」
「私も、武器についてはとても信頼してたから。」
「ど、どういう意味だ?」
ナマリの問いに答えず、ファリンは、小石を拾うと、天井にいるテンタクルスに向けて投げた。
小石が当たり、テンタクルスが反応して動き出した。
そしてファリンを絡み取り、上へと持ち上げた。
「いっ…!」
服や兜の上からでも刺胞は刺さってくる。
ファリンは、身体が痺れていく中、剣を使いキキを絡み取っているテンタクルスの一部を切り取っていた。
「…お、お願い…、ナマリ!」
そしてテンタクルスの一部が切れて、キキが手にしていたボウガンが落ちた。
センシがそれを受け止め、絡まっているテンタクルスの触手をちぎり取り、ボウガンをナマリに投げ渡した。
「…くそ! そういうことかよ! 一番厄介な仕事をふりやがって!」
悪態をつきながら、ナマリは、ボウガンを天井にいるテンタクルスに向けた。
そして、矢がテンタクルスの胴体に当たった。
死んだテンタクルスは、キキとファリンを解放した。
「キキ!」
「ファリン、大丈夫か!? ……では、ないか…。」
***
そして、地下からファリン達は戻ってきた。
「まあまあ、キキ。一体どうしたの?」
「今すぐ治してやるからな。」
そう言って、寝かせてキキにタンスが治療魔法をかけはじめた。
「ううむ。これは厄介だな。すまんが少し時間をくれ。」
「おかまいなく。」
「げっ。」
チルチャック達の方へ戻ったファリンがそう答え、ファリンの顔を見たチルチャックが声を漏らした。
「テンタクルスに刺された。」
ファリンの顔は、テンタクルスの毒で腫れ上がっていた。先にやられたキキの方がまだ酷い。
「ちょっと、待って。種類を特定するから。」
そう言ってファリンは、ライオスの愛読書を取り出した。
「これは、どうしたらいい?」
「うわ! なに握りしめてんだ!」
センシの左手には、テンタクルスの触手の一本が握りしめられていた。
しかもその手はパンパンに腫れていた。
「ちぎった際に手が麻痺してとれなくなった。」
「ノームみたいな手になってんぞ。」
「見せて。」
ファリンがセンシが握っているテンタクルスを見た。
触手の直径は五センチ前後で、長さは、二十メートル。
色は薄い茶緑で、斑点はない。そして、植物のツタや根に似ている。
「アイビーテンタクルスだわ。」
そしてファリンは、その対処法を言い出した。
酢で洗えば刺胞の動きを多少抑えられるので、酢を直接かける。
テンタクルスの種類によっては逆効果なこともあるらしい。
そして、断面へ十字の切り込みを入れ、縦に裂けば、刺胞のある上皮だけむける。
その結果…、いわゆるバナナみたいになるわけで…。
「割と美味しいらしいよ。」
テンタクルスの酢和えのできあがりである。
「ふざけてんのか?」
「あの…、これは豆知識で…。」
「それしか方法がないのなら仕方ない。」
「えっ?」
センシは、テンタクルスの酢和えを食べた。
「なるほど、悪くはない。ちゃんと調理すれば、もっと旨くなる。」
「私にも食べさせて!」
テンタクルスを食べる姿に、ナマリは顔を青くしていた。
「ん…、これは…。箇所によって味が違う!」
「さすがに気のせいだろう。」
「本当よ! チルチャック、食べてみて!」
「……酢の味しかしない。」
「そう…? マルシルも食べてみる?」
ファリンは、フォークにテンタクルスの身を一部刺して、寝ているマルシルに食べさせた。
「……酸っぱい。何このねっとりした…。何コレ?」
「ナマリも食べる?」
「えっ…。」
「ここがおすすめだよ。」
「いやいや! いいって! こっちは食料に困ってないから!」
「美味しいのに…。」
「旨くはないが。」
そしてファリンとセンシは、テンタクルスの調理について語り合いだした。
香辛料を使えば臭みを消せるとか、野菜との相性も良さそうだとか、煮込むか潰して焼くかすればとか語り合っていた。それを見ているナマリは、顔を青くしていた。
やがて中身の実を食べ終えたテンタクルスが、センシの手から離れた。
「すまんかったな。治療してやろう。」
「あ、私はいいです。」
「厚意は受け取っておけ。」
そしてタンスに、ファリンは治療してもらった。
「あの、それよりも魔力草を…。」
「おお、そうじゃったな。」
そう言ってタンスは、妻に目を配って荷物の中からマンドレイクを出した。
「マンドレイク…。そんなに魔力は回復しないわ。」
「今の手持ちはそれしかない。」
「…仕方ないね。マルシル。これで少しだけ魔力を戻せるよ。」
「ありがとう…。」
「お礼ならナマリに言って。」
「えっ?」
「素晴らしい射撃の精度だった。一本の矢で倒すとは!」
「ナマリがクロスボウの扱いも上手でよかった。」
「いや……、初めて触ったんだけど…。」
「えっ…?」
それを聞いたファリンは、ちょっと間違えたら自分の額とか頭を矢で射られていた可能性があったことに顔色を無くした。
こうして、マルシルの魔力の枯渇問題は、まだ解決しないままとなった。
マンドレイクがどれくらい魔力を回復させるかとかは捏造です。
たぶん魔力草よりは回復しないということにしました。あとマルシル自身の魔力の量が多いとかでほとんど回復できないとか。
次回は、ウンディーネ討伐and料理。