最後にシュローと再会。
およそ四日間の間に、チルチャックが変動する迷宮の法則を見つけたと言った。
どこかが繋がって、どこかが塞がる。基本的にその繰り返し。
戸や家具の数、建物の種類は変わらない。
民家が墓地になるということもない。
便所が七つある。民家の裏には便所を失った民家が六軒あったはずであること。
壁は一定間隔で右巻きの渦状に動いて、石像の位置は方角含め固定。
その他諸々をふまえて…、チルチャックは地図を片手に皆を導いた。
そして…。
「あ! あの家…、みんなで竜を食べた場所だわ。」
「チルチャックすごーい。」
「まっ、こういうのも仕事なんで。」
「天才。」
「賢い。」
「かわいい。」
「耳が大きい。」
「やめろ!」
ポンポンと触ってくる手を、チルチャックが振り払った。
「でも、この道……。」
それを聞いたチルチャックは、ギクッとした。
そうこの道には、あのレッドドラゴンの血だまりが残っていた場所があるのだ。
あれを見られたらファリン達がライオスを探すために慌てるだろう。
どうなだめるか…、そう悩んでいたチルチャックだが、それは杞憂に終わる。
「ここだったよね。竜の死骸があった場所。」
「あれ?」
そこには何も無かった。
血だまりの跡も、もちろん死体も。
「壁のヒビは、炎竜が倒れたときに残ったものだろう。」
「そのヒビが塞がりかけてるわ。」
『魔術師の目が来るぞ。』
「!!」
壁の隙間から幽霊が出てきてそう言った。
「ファリン?」
「ま、魔術師の目が来るって…。」
「まじゅつしのめ?」
その時、微かな羽音が聞こえてきた。
「まさか、あの小型竜!?」
「身を隠さなきゃ!」
「いや、無理だろ! ここは見通しが良すぎる!」
「走って、マルシル!」
「……いえ。身を隠すなら…。」
マルシルは、チルチャックを後ろから抱え上げた。
「壁の中!」
「んぶっ!?」
チルチャックを壁に押しつけると、チルチャックは、壁の中にめり込んだ。まるで粘土のように。
「ほら、二人とも早く!」
「わ、分かった…。」
「これは……。」
そして、全員が壁の中に潜った。
そのあと、小型の竜が通り過ぎていった。
通り過ぎて数十秒ほどして……。
「ぶはああああああああ!!」
「おええええええ!」
壁の中からファリン達が飛び出し、必死に息をした。
「マルシル…、これは一体何の魔法?」
「魔法じゃないわ。」
「? あ…そっか……、クリーナーだ。」
「なに?」
「ダンジョンクリーナー。迷宮内のゴミを掃除して、破壊された場所を補修する生物(?)だよ。」
「そう。まだ完全に固まりきってないはずだって思ってね。」
そして、ファリンは、壁や床を触りだした。
「ここまでは、元の壁。ここから、クリーナー! 床も!」
「……げっ。床一面に小さい何かが蠢いてる!」
感覚が鋭いチルチャックがその生物に気づいた。
「全部クリーナーだね。彼らがいない迷宮はすぐに崩壊してしまう。魔物じゃないし、害はないよ。」
「害はある。わしのテントをよく囓るんだ。こいつらは。」
「ふふ。彼が邪魔だと判断した物はすべて分化されてしまうから、竜の死骸や爆発の残骸を食べたんだ。」
爆発などで迷宮内が傷つくと現れ、分泌液で延焼や倒壊を防ぐ。
そして周囲に散らかったゴミを食べ始める。
好き嫌いはない。有機物から無機物まであらゆるものを食べる。
最後は欠けた部分を埋めるように分泌液を出し、元の迷宮の姿を復元する。
そのため、迷宮は常にその姿を保っているのだ。
生物の治癒と同じ過程だとマルシルは言った。魔物はバイ菌を排除する免疫組織ってとこだろうと。
「それも魔術の仕業なのか?」
「すごいでしょ。」
「やれやれ…、次は魔術の消化器官か…。」
「その場合は迷宮は何を食べるんだろうね?」
そんなことを話しているファリン達を見ながら、チルチャックは安堵の息を吐いた。
血の跡が消えていてホッとしたのだ。
「また変動が起こる前に進もうぜ。」
「うん。」
そして、チルチャックの導きに従い、先を進んだ。
***
そして、ついに上への階段を見つけた。
「階段だぁ~!」
「はー、ようやくここから出られる…。」
「では、ここらで一発アレをしておくか。」
「うん! そうだね、アレをしよう。」
「アレ? そっか……、アレね…。」
そして、アレが実行されようとした。
センシがフライパンと、包丁を出し。
ファリンがドライアドの実などの食材を出し。
マルシルが、カエルスーツを身にまとった。
「えっ!? アレって食事のこと!?」
「長い階段を上がる前に体力をつけないと。」
「この階段にはたぶんテンタクルスはいないよ。」
「はよ言え!!」
「実は結構気に入ってんだろ?」
「違うわい!」
「ウーム。食材充実しすぎて、何を作ったもんか…。…アレを使ってみるか。」
そして調理開始。
まず、小鍋に麦を入れて炊く。
「それ、三階で拾ったやつ?」
「いよいよ飯が尽きた時のためにとっておいた。」
次に、挽(ひ)いたコカトリスの肉と、ドライアドの実、マンドレイクの実と葉、石化消し草(?)の葉を適当に切り、味を付けて炒める。
中をくりぬいたまだ柔らかいレンガに麦飯を敷き、上に具材を乗せる。
そのレンガを網の上で熱する。
そして。
「えっ!? なにそれ!?」
「コカトリスの卵。持ってきたのはいいが、使い勝手が悪くてな。」
コカトリスの卵は、バジリスクの卵と似ている物の、大きさが段違いだった。
センシは、卵の先端に穴を空けて、フライパンに卵の中身を出した。
コカトリスの卵で作った、卵のあんをレンガに詰めた麦飯と具材の上にかけたら……。
「完成じゃ!」
クリーナーが復元したレンガに詰めた、コカトリスの石焼きあんかけの完成。
「わー、美味しそう。」
そして実食。
「おごけが美味しい。」
「スプーンを皿に突き立ててみろ。」
「えっ?」
言われるままに皿になっているレンガの底にスプーンを刺してみる。
すると、レンガがムニッと掬えた。
「ダンジョンクリーナーでできた石を使ってみた。」
「すごーい! ありがとう、センシ!」
ファリンは、クリーナーを食べた。
そして、なんだかすごい顔になった。
「……。」
「…どんな味?」
「えっと…、うぐ…、第一印象はドロなんだけど…、よく味わってみると、青虫と鉄とレモンをマジカルに混ぜたような……。」
「他の物に喩えまくってるな。」
「表現のしようがないよぉ…。」
「魔法生物なんか食って大丈夫かよ?」
「うむむ…。」
「無理して食べちゃダメよ。」
食後。
「ここの幽霊が助けてくれたの。」
「さっきの魔術師の目が来るって言ってたやつか?」
「うん。」
「そういや、オークがここいらの幽霊は正気を保ってるって言ってたな。」
「そういえば、そうだね…。…ん?」
その時、ツンツンと、肩をつつかれた。
振り向いたとき、そこにいたのは、巨大な牛の顔をした大きな蜘蛛がいた。
「きゃああああああああ!」
「ファリン! うっ!」
あっという間に蜘蛛の糸にグルグル巻きにされるファリン。マルシルも背後から来た誰かに捕まった。
センシも首を羽交い締めにされ、チルチャックも刃を後ろから突きつけられた。
「この声…、ファリンか?」
「えっ……?」
声がした後、一人の侍がやってきた。
「…知り合いだ。」
「シュロー?」
「シュロー!?」
「シュローってなに?」
「トシロー坊ちゃんのことだろう。」
「トッシュロー…。」
ファリン達は解放された。
「誰だ?」
「前のパーティーのメンバーだった人…。」
「どうも。」
シュローは、最後に見たときよりもやつれており、ひげを生やしていた。
「…どうしてあなたがここに?」
「君こそ。」
ファリンとシュローの間に奇妙な緊張が走った。
「なんだ、この大所帯は?」
シュローのメンバーの他に、別のパーティーメンバーがいた。
「はじめまして。」
「……あなたは?」
「ファリン…さんですよね?」
「ええ。」
「僕は、カブルーといいます。」
「…はじめまして。」
褐色の肌の青年カブルーがどこか人懐っこい顔でファリンに挨拶をしてきた。
カブルーとの初接触(?)。
次回は、捏造しまくったシュローとファリンの会話が主になります。
そして、ついにドラゴンキメラ登場です。