ファリンがカブルーにたいして怒っているかはご想像にお任せします。
シュローは、マイヅルに言った。
「帰還の術の準備を…。」
「よろしいので? アセビが行方不明ですが。」
「足抜けだろ、捨て置け。」
いつの間にかアセビがいなくなっていたが、放っておくことになった。
「我々の力が及ばず、申し訳ありません。」
「いや…、最大限頑張ってくれたよ。ありがとう。付き合わせてすまなかった。」
頭を下げてくるメンバーに、シュローが言った。
マイヅルが、ダーッと涙を流した。
「俺は…、国に帰る。二度とこの島には戻らない。今回のことは、島主に警告する。」
「そう…。」
シュローは、ファリンにそう言った。
「…ライオスと一緒に帰りたかった。」
「……もし助け出したら、ちゃんと好きって言うつもりだった?」
「…助けることばかり考えてて、そこまで考えてなかったな。」
「…私が、伝えようか?」
「……それは悪い。」
「ううん。私も知ってて黙ってたもの。兄さんを取られるのが怖かったから。」
「あいつが、はっきりと言っても俺を意識してくれるかどうか分からないな。」
「私も…そう思う。」
シュローと、ファリンは、お互いを見て笑った。
そんな二人の姿を見て、チルチャック達は、ちょっとホッとした。
「それと、カブルー…。」
「あ…。」
ファリンは、準備をしているカブルーに話しかけた。
カブルーは、少し汗をかいた。
なにせ、ファリンを盾にしてライオス・ドラゴンキメラを攻撃したのだ。
何かされるかもと僅かに身構えたカブルーだったが…。
「……私は、あなたを責めたりはしないわ。安心して。」
「…そうですか。」
「あなたが攻撃しなかったら、兄さんは全員殺してたと思うから。」
「でも、彼は、あなたにだけは、まったく攻撃の意思がなかった。」
そう、そこがおかしいのだ。
ライオス・ドラゴンキメラに従っていたハーピー達も、まるでファリンにだけは、攻撃するなと指示されていたように動いていた。
「それは、兄さんの魂が、アレに混ざっている証拠なんだと思う。つまり、兄さんの魂と分離させることが出来れば…、救えるかもしれないということ。」
「そんなことが本当に出来ると?」
「信じてる。必ずやる。もし出来なくても、兄さんを迷宮から解放するわ。」
「つまり、殺す覚悟もあるということですか?」
「……ええ。」
ファリンは、そう返事をした。
「そうだわ。」
「はい?」
「お腹すいてない? みんな大変だったでしょ? あれだけ血を流したらお腹がすくから、ちょっと待っててね。」
「はあ…。」
ポカンッとするカブルーを残して、ファリンは、センシのところへ行った。
***
そして、ファリンが笑顔で用意したモノ…。
「なんですか、コレ?」
「ハーピーの卵で作った卵焼き。」
ファリンは、にっこりと素敵な笑顔を浮かべてカブルーに卵焼きが乗った皿を差し出した。
えっ? これ、もしかして怒ってる?
カブルーの脳内に、まずハーピーの姿形が過ぎり、その次に、彼の生い立ちが走馬灯のように過ぎる。
カブルーは、幼い頃、地底から湧き上がってきた魔物に襲われ、家族を失った過去があるのだ。それがカブルーが迷宮を攻略しようとする動機であり、ダンジョンを食い扶持にしている人間を嫌って殺す動機だった。
絶対に食べたくない!!!!
っと思い、大汗をかく。
だがファリンは、ニコニコしている。
その笑顔は、まるで邪気がない。だが見ようによっては背後に黒いオーラが見えなくも…ない気がする。
やっぱり、ライオス・ドラゴンキメラの盾にしたことを怒っているのでは!?っと考えるが、ついさっき責める気はないと言われたので、それはないかもという考えもあり、カブルーは、一秒間の間にグルグル色々と考えた。
そして。
「い、いただきます!」
「美味しい?」
「……。」
「よかったぁ。」
もぐもぐとハーピーの卵焼きを食べたカブルーがコクリッと頷いたので、ファリンは嬉しそうに笑った。
それを見ていたカブルーの仲間達は、『さすが、人の懐に入るためならなんでもする男…』っと、青い顔をして思ったのだった。なお、この後他のメンバーにも卵焼きを勧めたファリン。他のメンバーは、全力で拒否した。カブルーは、飲み込まず、ずっと噛んでいた。
その後、各自食事となり、それから、帰還の準備を整えることとなった。
マイヅルが書いた絵が地上に繋がり、シュロー一行と、カブルー一行が帰還する。
「正直…、俺は、君が狂乱の魔術師にたどり着く前に死ぬと思っているが……。万が一生き延びることができて、しかし黒魔術のせいで地上にも戻れなかった時…。」
「これは?」
シュローは、ファリンに、鈴を渡した。
「これを鳴らせ。遠く離れた、対の鈴と共鳴する。使いをやって東方へ逃亡できるよう手配する。」
「……。」
「死ぬなよ。」
「…言われなくても。」
そしてシュローが絵の中に入った。
「ファリンさん。」
そこへカブルーがやってきた。
「なに?」
「話せて良かった。」
カブルーは、ギュッとファリンの手を握った。
「今回一番の収穫でした。」
「…こちらこそ。」
「あの…、僕の名前、覚えてくれたんですよね?」
「カブルー君でしょう?」
「よかった。次は忘れないでくださいね。それじゃ、また。」
「?」
そう言い残してカブルーは、絵の中を通っていった。
残されたファリンは、絵が消えるのを見た後、キョトンッとした。
「行くぞ、ファリン。もう後には引けない。」
チルチャックに呼ばれてファリンは、そちらへ向かった。
「くそ、ほれ見ろ! 結局こうなる予感がしたんだ。俺には、くそっ。」
「下品だぞ、チルチャック。」
「ごめん……。」
謝るマルシル。
そんな彼女にファリン達は顔を見合わせた。
「…なんとかなるよ。」
そう言うしかなかった。
一行は、地下六階へ。
次回、シェイプシフター。