そして、再度出発。
そこから、食事の最中にヤアドが、長い話をした。
まず、デルガルのことである。
デルガルは、狂乱の魔術師が狂乱の魔術師となる原因となったのは自分の責任だと気に病み、そして助けを求めるために地上へ向かったのだと。
「祖父の…、デルガルのことは、地上ではどのように伝わっているのでしょう?」
「私の聞いた話では…、ある日突然村の地下墓地から現れ…、亡国の王を名乗り、狂乱の魔術師を倒した者には、国の全てをやると告げて…、塵になった、と言われています。」
「そうですか…。祖父が苦痛から解放されたのは、せめてもの慰めです。」
ヤアドは、語る。
多くの者達が呪縛から逃れようと村から出て行ったが、しかし、成功した者は誰もおらず、肉体を失ってしまうのだと。
身体を失うと次第に自我を失い、悪霊になってしまう。
そうなってしまったら、最後。ここに戻ってくることはできないと。
「あなた達も、何度か遭遇したはず。」
「……。」
言えない。
適当に作った聖水で、殴りまくって、聖水シャーベットを作ったなんて。
「そ、それで…、私達がここに招かれた理由は?」
話を変えるため、マルシルがそう言った。
「予言です。」
ヤアドが言った。
「よげん?」
「『その者は、翼持つ剣をたずさえ。狂乱の魔術師を打ち倒し、我々を解放するだろう』、と。」
「ん? 翼のある剣って…、こういう感じですか?」
「ああ…!」
「あれ? 獅子の顔なんていつのまに…。」
「その翼獅子(よくしし)は……、翼獅子は、この国の守り神です。狂乱の魔術師によって迷宮の底に囚われていますが、夢を介して予言することで、今なお我々を導いてくれています。祖父が地上へ旅立ったのも、予言がきっかけでした。ファリン殿…、予言はこう続きます。『翼持つ剣をたずさえた者、狂乱の魔術師を打ち倒し、この国の新たな王となるのであろう』、と。」
「……そ…んな…。」
「ファリン…。」
「ちょ、ちょっと待てよ! その剣は、動く鎧からたまたま取った武器で…。」
「たまたまではありません。それが今、そこにあるということが、決まっていたことだったのでしょう。」
するとヤアドが立ち上がり、ファリンの手を握った。
「約束してください、ファリン殿。狂乱の魔術師を打ち倒し、我々を解放してくださると……!」
「……。」
「ファリン…。」
「……あの…えっと…。」
ファリンは、視線を仲間達に向ける。だが皆黙っている。チルチャックは、こっちに振るなと首を振っている。
ファリンは、俯き…、そして。
「か……考えさせて…ください。」
っとしか言えなかった。
***
「いや、断れよ。」
「……何も言ってくれなかったじゃん。」
「言える雰囲気だったか?」
「もう…。」
あてがわれた部屋で、チルチャックに呆れられ、ファリンは、とても断れる状態じゃ無かったと俯いた。
「それにしても…、いつのまに獅子の形に…、ダンジョンクリーナーのせい? それに、あんな話聞いたから、せっかくの料理も味がよく分からなかったし…。」
「お前な……。美味いとか言ってただろ?」
「お肉の味はしたよ。でもそれ以外が…。」
「実際、ほとんど味はしなかった。」
センシが言った。
「彼らは食事が必要ないと言っていた…。それでうまく調理が行えなかったのだろう。」
横になっていたセンシは、起き上がりベッドの上に座り込む。
「ずっと、考えていた……。彼らに本来、畑や食器は不要なはずだ。それがなぜ揃っているのか…。1千年ものあいだ…、なぜそれらに手入れをし維持してきたのか…。それは、やはり必要だったためだろう。彼らが正気を保ち生き続けるのには……。」
それは…、あまりにも残酷なことだろう。
永遠に変わらぬ姿で、何の欲求も無い状態で生き続けること。
それは究極の安息だろう。
だが……、永遠の地獄とも言えるかもしれない。
ヤアド達が、夢の予言というか細い希望に縋るのも、すべては安息という名の地獄からの解放を願うがためだろうか?
「ファリン。」
「えっ?」
「わしは、以前、お前がオークの族長に言った言葉を覚えているぞ。」
「……えっ?」
「ま、一晩考えてみなさい。」
そう言ってセンシは眠った。
チルチャックもマルシルも、イヅツミも眠っていく。
ファリンは、ヤアドに握られた自分の手を見た。
「冷たい手だった…。」
まるで…死体のような…。
「兄さん……。私…どうしたらいいのかな?」
ファリンは、動く鎧の剣を抱きしめ、ここにいない兄を思った。
そうして、横になり、ファリンも眠った。
***
翌朝。
小麦と卵が混じって焼けるパンケーキの匂いがした。
「……良い匂い…。」
ファリンは、その匂いで目覚めた。
起き上がると、マルシル達は寝ていたが、センシがいなかった。
「センシ?」
ファリンは、着替えて、センシを探した。
台所にセンシとヤアドがいた。
「あ、いたいた。」
「ファリンか、ちょうど朝食が出来たところだ。」
「センシさん、すごいですね。お料理がとても上手です。」
「センシってすごいですよ。」
そして、マルシル達を起こしに行き、朝食となった。
パンケーキ。
ソーセージ。
カボチャのスープ。
スクランブルエッグ。
久しぶりに食べる、ちゃんとした食事内容だった。
「ん~、美味しい。」
「ヤアド。お前も食べてみろ。」
「えっ、でも、僕…味は…。」
そしてセンシが、一口大に切ったパンケーキをヤアドの口に入れた。
ヤアドは、モグモグと咀嚼する。
「あったかくて…、柔らかいです…。」
「味覚とは筋肉のようなものだ。磨いてやらねば衰えてしまう。触覚や視覚は働いているようだし、まずは食感を楽しむことから始めてみなさい。」
「はい…。」
そして、ヤアドが、朝食中に語り出す。
昔は、時々祖父や両親と食卓を囲んでいたと。
祖父のそばには必ず、シスル……狂乱の魔術師の姿があったそうだ。
元々は道化師として曾祖父が城に迎え、そして祖父とは兄弟のように育ったとか。
やがて玉座に祖父がつき、祖父の勧めで魔術を学び、その頭角を現わした。
元々この土地は、ドワーフやエルフの遺物であふれていて、その中には黒魔術も含まれていたと思われる。
やがて狂乱の魔術師となることになる、シスルは、力に取り憑かれ、狂ってしまった。
そして、国に、不死の呪縛をかけるに至ってしまったのだ。
「私達、どうしても…、魔術師と会話をしたいんです。どうすれば会えますか?」
「か、会話! そんな、無理です! まともに対話ができる相手ではありません! 祖父を隠して出発させるのにも、苦労したのです。関与を疑われ、処刑された者も……。」
「そんな…。」
「ですが…会うだけなら簡単でしょう。外を見てください。」
指差された先には、血で出来た小さなドラゴンがいた。
「村の異変を嗅ぎつけ、魔術師の目が集まってきてます。魔術師本人もやがてここへ来るでしょう。」
「おい、それ、やべぇぞ!」
「うん…。でも…。」
「ファリン。ここは抑えて。とにかく今はここを出ることを考えましょう。」
「……分かった。」
説得され、ファリンは、直接の会話を諦めた。
「ですが…対話ができるかどうかは分かりませんが、最深部に囚われている有翼の獅子の力を借りてください。魔術師の力を抑えることができましょう。」
「ありがとうございます。」
「申し訳ないですが、急いでください。もう、彼がいつ来てもおかしくない。」
そうして急いで準備をし、魔術師の目に気をつけて案内され、城壁の水路の出入り口に来た。
「ここを進むと、城壁の内側、つまり迷宮に戻ることができます。」
「これ、持ってってください!」
「おお、ありがたい。」
村の人々が野菜や肉を詰めた袋や籠を持って来てくれた。
「あまり荷物を持たせると、運ぶ者が苦労するから、そのへんで。」
「はこぶもの?」
「ここへ来たときと同じ方法で、帰りも運ばせます。」
「…げっ…。」
つまり幽霊によって空間転移させられるということだ。
「ありがとう、お世話になりました。」
「ご武運を。」
そうしてファリン達は水路の先へ行った。
ファリン達が去り、ホッとしたヤアドだったが…、その背後に褐色の肌のエルフ…狂乱の魔術師が手を伸ばした。
「今…誰と喋っていたのです?」
前に黄金郷での食事のコメントが無かったと書いちゃいましたが、次の話でありましたね。コメント。味が無いって。
グリフィン編は、苦労しそうです……。特にセンシの過去話が……。見ててホント辛い。