原作通りの変化にしました。
高熱。あと悪寒。
ファリン達は、現在全員で、寝袋の中で苦しんでいた。
「み…、みんなぁ…だいじょうぶ…?」
ファリンが弱々しい声で聞くが、返事として返ってきたのはうめき声だった。
この症状…、思い当たるのはひとつ。
食中毒。
「ああ…とうとう…。」
このままこんな形で死ぬのかとファリンは、涙ぐむ。
最愛の兄を救うためとはいえ、魔物を食べ続けたのがこんなところで身体に来たのか…っと。
こんな最深部で倒れて死んだ冒険者を、誰も拾わないだろう。
「兄さん、ごめんね…、ごめんね…。助けに行きたかったのにこんなところで…、うぅぅ…。」
「そんなこと……言うな…ぁ…。」
やがて、高熱にうなされながら、全員が意識を失った。
そして……、どれくらい寝ただろうか。
「ハッ! 熱…下がったかな?」
起き上がったファリンは、身体が軽いことに気づいて起き上がった。
だがその瞬間、ビリッと音がした。
「えっ?」
下を見ると、服が横に破れていた。というか、身体ではち切れたという感じだ。
「えっ? あ、手が…なんか…。」
「どうしたの? ファリン…?」
「た、大変だよ、マルシ…、えっ?」
手がたくましく妙に発達し、けれど、身体が縦に縮んでいたことに驚きつつ、マルシルの方を見ると…、そこにいたのは、マルシルの面影を持つハーフフットだった。
「マルシル…だよね?」
「えっ? えっ? わーーー!?」
「センシー、大変だよ! 起きて!」
センシを起こす。
そしてセンシは…、ウェーブのかかった黒髪の美しいエルフになっていた。
「……うるせぇな…、なんだよ?」
「…チルチャック…さん?」
チルチャックの髪型をした、青髯のおっさんがそこにいた。
「わーーー!」
「うおーーーー!?」
もうてんやわんや。
そして、落ち着いたところで状況確認。
「つまり…、俺達はチェンジリングを踏んじまったってことか…。」
「ヒポグリフをグリフィンに変えるほどだから、人間が踏めばこれだけの変化があっても不思議じゃないよ。」
「チェンジリングって、その生物の近縁種に変えると言われるあの…。」
「えーと…、まず私は、ドワーフ。で、チルチャックは、トールマン。マルシルは、ハーフフット? で、センシは、エルフ…。イヅツミは……、コボルト? 猫耳の。」
それぞれ違う種族になっていた。
しかし、特に酷いのはセンシかもしれない。まさに、美!…なのだ。エルフは、男女問わず容姿が美しいが、筋骨隆々のドワーフがエルフになると……こうも変わるか。ファリン以外が頭を抱えるほどだ。
「ってことは…、もう一度チェンジリングを踏めば治るってこったろ? グリフィンをヒポグリフに戻したようにな。」
「そうしたいけど…。外、見て。」
ファリンが部屋の外を指差す。
そしてマルシル達が外を覗くと、そこは野営する前とは違う通路になっていた。
「チェンジリングを探す以前に…、元の場所へ帰れるかも分からないの…。」
「なんか震えるとは思ってたけど、迷宮自体が揺れてたってこと?」
「そうみたいだね。」
「ひとまず服を着替えようぜ。服を交換だ。」
「そうだね。」
っというわけで、服を交換。
冒険者用の服なので性別云々は関係なく着れた。
だが、チルチャックなどは、背が伸びたことと、五感が鈍くなっため、その感覚になれない様子だった。またマルシルも、ハーフフットになったため、力が弱くなり荷物を持てず、逆にドワーフになって力が増したファリンが荷物を持った。
「とりあえず、貯水庫を目指してみよう。」
ということで出発。
「ねえ、チルチャック。民間療法とかってあった? 地元で取り替え子の話があるんだよね?」
「ああ。火で炙れば元に戻るとか、桶いっぱいの水を飲んだら戻れるだとか…、そういう口伝なら山ほどある。実際は、本物の子供を拷問してたってわけだ。胸くそ悪い話だぜ。」
「うーん、じゃあ、やっぱりチェンジリングを探すしかないか…。でも、もしまた別の種族になっちゃったら……。いいかも。」
「おい。」
「兄さん、トロールに憧れてたから、実際になってみて姿を教えてあげたいなぁ。」
「……もう知らん。」
目をキラキラさせているファリンに、チルチャックは諦めた。
そうして、そんなこんなあるが、進んでいく。
だが道中、罠もあり、迷宮の惑わしもある。
だが、ハーフフットになったマルシルが鋭くなった五感で罠を感知し、落ちてきた鉄格子をドワーフになったファリンが曲げて道を開け、出入り口がたくさんある通路は、コボルトになったイヅツミが鼻を使って通路を見つけ、通路に空いている穴を飛び越える際には、マルシルをトールマンになったチルチャックが投げて渡した。
「…う~ん、なんだかんだで順調だね。」
「むしろ、以前より順調くらい?」
「意外と慣れるね。」
「慣れ……。」
チルチャックに視線が集まる。
「まあ…。」
「そうだな…。」
「おい…。」
妙な空気になる中、やがて見覚えがある獅子像を見つけた。
「ここを曲がれば…、あっ!」
「ええ!?」
そこにあったのは、迷宮の最深部と言われている扉だった。
「あ…、戻るはずが、進んじゃってたんだ…。」
「引き返そうぜ。」
「ねえ…。」
「ファリン? まさか…。」
「このまま、行かない?」
「おいーーー!?」
ファリンの提案に、全員が過剰反応。
「今までのことを考えると、迷宮は私達を逃がすつもりはないみたいだし、あがいても時間の浪費。先に進み方が適切かなって? あっ、もちろん元に戻ることも考えてるよ。一生この姿でいるなんてことは…。」
「お前な! 長命種の身体引けたからって…!」
「確かに…。」
意外にもマルシルが助け船。
「意外とここまで不便はなかったし。」
「耳の大きさの違いがなんだというのか…。」
センシまで同意。どうやらエルフの感覚がそうさせているらしい。
チルチャックとイヅツミは、絶句した。そして、ため息を吐いたのだった。
「…先に進むとして…、どうやってあの扉を開けるんだ? あれの開け方が分からないから、みんな騒いでんだろ?」
「チルチャック。開けられそう?」
「解錠しようにも、錠前がない。魔術的な何かかもな。」
「魔力が通っている感じはするけど、解読には時間と設備とお金が……。」
先に進む案……、塞がる。
「ヤアドさーーーん! これ、どうすればいいんですか~~!」
「助けて有翼の獅子~~!!」
ファリンと、マルシルがガンガンと扉を叩いた。
「お、おい! おいおいおい! ファリン! その剣!」
「えっ!? わっ!」
ファリンが背負っていた剣から、触手が伸びていた。
慌てて背中から降ろして手に持つと、触手は、扉にある丸い部分の下の方の中へと入っていった。
「なんか成長してない!?」
「この酷寒で死んだかと思ってたけど…、もしかして…、有翼の獅子が?」
「もしくは、ヤアドさんのおかげ?」
ゴゴゴゴ…っと扉から音がなり出す。
すると…。
ガサッと上の方にある茂みが動いた。
「そこ! 何かいるわ!」
そして茂みから現れたのは、動く石像・ガーゴイルだった。
「来るよ!」
そして、いつも通りの戦術を取ろうとした一行。
しかし…。
「な、なんで俺を追って来る!?」
「一番目立つからだよ!」
「お前、タッパがあるんだから、お前も戦え!」
「無茶言うな!」
直後、背後に迫ったガーゴイルが爆発した。
マルシルだった。
チルチャックは、爆風で吹っ飛ばされ、転がった。
「チルチャック!」
「だいじょうぶ! 直撃はしてない…は…。」
杖を手にしていたマルシルだったが、突然鼻血を垂らし、倒れた。
「ま、周りが…虹色~…。」
「魔力酔い!? ハーフフットだから!? イヅツミ!」
イヅツミを見ると、犬のように興奮して正気の目じゃなかった。
「待て! イヅツミ! 私が合図するまで動かないで!」
大きな音と血の匂いで興奮しまくっている状態のイヅツミに、犬のように待てをさせて止める。今戦いを始めたら死ぬまでやめないだろう。
「センシ! ……武器は?」
「…重いから。」
エルフは、ひ弱。
ファリンは、もう自分しかいないと考え、センシの鍋を盾にして剣を振るう。
戦いに向いている筋骨隆々のドワーフだから、本来魔法使い側であるファリンでも、激しい戦いが出来た。
だが…。
猛烈に疲れた。
「暑い…。」
そういえば、ドワーフのナマリやセンシは、軽装だったが、これが理由かと思い至った。
このままでは、普通に負ける。
そう判断したファリンは、開いた扉の向こうへ逃げることを提案した。
チルチャックに鍋を渡し、ガーゴイルの攻撃を防ぎながら全員で扉へ飛び込む。
そして、重い扉を内側から押して閉じた。
「ふぅ~~~、…どうしよう。この身体…、すごく不便だわ。」
「結局こうなるか…。」
「それにお腹すいた…。ドワーフってお腹減りやすいんだね。」
そういえば、すぐにセンシが食事の支度をしていたが、これが理由だったようだ。
調理開始。
まず小麦粉・水・塩・卵を、よく練り、寝かせておく。
その間に、挽いたヒポグリフの肉に刻んだタマネギ、野菜を加え、よく練る。
寝かしておいた生地を棒状にして、等分に切り、薄くのばす。
伸ばして作ったその皮に、先ほど作った肉と野菜の具を入れて、くるむ。
「ちょっと作りすぎじゃないか?」
「不思議…。モクモクと作業してたら気持ちが落ち着いてきた。」
「何度かに分けて食べれば、あっという間だ。調理を続けよう。」
湯を沸かし、出来た物を茹でる。
2、3分茹で、引き上げ、黒胡椒をかけたら…。
「完成じゃ。」
ヒポグリフの水餃子のできあがり。
「あづ!」
「熱い汁が出るから気をつけろ。」
「早く言え!」
「うん。美味しい。」
「なんかいつもより美味しく感じない?」
「ううん、これは誰が食べても美味しいと思うよ?」
ファリンは、水餃子を食べながら、周りを見回した。
「それにしても…、ここって…異質。なんだろう? 見たこともない設備って言うか…。」
「余所ではたまに見かけるけどな。」
「ドワーフたちが築いた防衛地点の一種でしょ。」
「防衛?」
「エルフとドワーフが戦争をしていた頃…のね。学校で習わなかった? 双方が競って技術を先鋭化させていった結果…、大災害を招いてしまったの。その名残で迷宮には多くの“遺産”が眠っているけど、同じ過ちが起こるのを危ぶんで、エルフやドワーフたちは迷宮内の技術にピリピリしているわけ。この迷宮は特に色んな文化の衝突点だから、介入の暁には相当揉めるでしょうね。」
「そ、その話だけどさ!」
チルチャックが言った。
「もし、エルフに因縁つけられたら、お前がなんとかできるんだよな?」
「えっ!? なんで私!?」
「お前の母親、宮廷勤めだとか、言ってたろ! コネとかないのか!」
「そ、それは…。」
「どのみち、今のマルシルは、ハーフフットだよ? 交渉するならセンシかな?」
「……善処する。」
美!な、センシがそこにいる。
「…………極力、元の姿に戻る方法の模索…、で、行こう。」
「異議無し。」
こうして、チェンジリングを探しつつ、他の方法で元に戻る方法を探すということになった。
ダンジョン飯・8巻開幕。
チルチャックと、センシの変化が過激だなぁって回ですよね。