なぜだ?
「都合が良すぎないか?」
「えっ?」
「いや、チェンジリングのことだ。」
先を進む途中でチルチャックが唐突に言った。
「別の種族になりたい奴なんて大金積んででも山ほどいるはず。なのに、チェンジリングは、地上じゃ駆除され今じゃ迷宮の底の方でしか見られないほど出回っちゃいない。ってことは、今の状態は一時的な効果か、ヤバい副作用があるってことじゃないか?」
「ふくさよう…。」
「それと…、今の姿…、実年齢と外見年齢の差はどうなってる? センシから見てファリンはいくつに見える?」
「50歳ほど?」
「ドワーフって、トールマンの2倍半ほどの寿命って聞くから…、それ相応に反映されるんだね。」
「気になるのは、残りの寿命だ。変化前と同じペースで歳を取るのか? 変化前の姿に準ずるのか。…マルシル、お前他人事みたいな顔してるが、もし、変化前の姿に準ずるのだとしたら…、俺達ハーフフットの平均寿命は50歳前後だ! お前はあと、40年足らずでしわくちゃになって死ぬ!」
「えーーーー!? そこまで寿命が短いの!? 100年くらいは生きるんじゃ…。」
「いるにはいるらしいけど…、トールマンだと60歳くらい?」
「ごく一部だな。」
「っ…。」
マルシルの脳裏に、夢魔に見せられた悪夢が過ぎって黙り込んでしまった。
「そっか…、実年齢が反映されるなら、寿命の問題があるのか…。縮んだり…逆に伸びたり…。うーん、でも、それだとチルチャックの言うとおり地上から駆除された理由が分からないよね。うまく使えば自由に種族を変えて寿命問題も解決するのに。」
「だろ?」
「キノコ……、キノコがそうする理由?」
ファリンが腕組みしてウーンと悩んだ。
その時、ファリンがハッと顔をあげた。
「何かが…来る? なんか、石がぶつかるような…、ガーゴイル!?」
「おい! 扉を施錠しなかったのか!」
「鍵がなかったから…。」
「どうすんだ!?」
「このままじゃどこまでも追って来る…。ここで倒そう!」
そして全員が戦闘態勢に入る。
直後、通路の奥からガーゴイルが飛んできた。
狭めの通路で、ファリンに向かって一直線に飛んできたガーゴイルの一体に体当たりされ、ファリンの手から剣が落ちた。
「ファリン! きゃっ、うぎゃ!」
「おい、うろちょろするな! 俺がいつも真っ先に隠れる理由が分かったろ! こっち来い!」
ハーフフットという身長が小さく軽い身体は、戦闘という混沌の中では邪魔にしかならないのだ。だからこそチルチャックは、それを理解していて後援に回っていたのだ。
トールマンになっているチルチャックが両手でマルシルの両手を掴み引っ張る。そこへ、剣を拾ったガーゴイルが剣を投げた。
「マルシル! チルチャック!」
剣は、ギリギリで二人の腕の間を通り抜けた。
その瞬間。ボワンッ!と音と煙が舞った。
「うわっ! なんだ!? マルシル、お前か?」
「ち、違う…。でも待てよ…、今の煙…それに…剣が…。」
見ると先ほど腕の間を通り抜けた剣が別の形になっていた。剣は剣であるが、なんかいかにも凶悪そうな形に。
「チェンジリングよ! みんな手を繋いで! 輪になるのよ!」
「! 分かった!」
ファリンは、瞬時に理解し、そして他のメンバーも集まり輪になって手を繋いだ。
そこにガーゴイルが一体飛んでくる。
「今だ!」
そしてタイミングを見て輪を少し広げて体当たりを避け、輪の中にガーゴイルを通した。
するとボワンッ!と再び煙が上がり、ガーゴイルの気配がひとつ消えた。
煙が晴れるとそこには……、顔の形をしたマンホールのような石の板が転がっていた。
「やった!」
「あと一匹! …降りてこない……。」
「…チルチャック……。」
「…分かった。」
「えっ?」
左右でファリンとチルチャックがマルシルの手を掴み直して構えた。
「飛んできた瞬間を狙う!」
「えっ? えっ?」
そして最後のガーゴイルが飛んできた。
「マルシル! 跳べぇ!!」
跳ぶ…というよりは、跳ばされるような形で持ち上げられファリン達の腕の輪の間をガーゴイルが通り抜けた。
そして再びボワンッ!と煙が舞い、そして、バランスを崩して倒れたファリンの顔に、チョロチョロと水がかかる。
そこには、小便小僧になったガーゴイルがいた。
「か…勝った…。」
ファリン達は、ホッとしてへたり込んだ。
***
結論から言うと、チェンジリングの解除方法は身体からチェンジリングの胞子を洗い流せば良いということだった。
ファリンがキノコの生態を思い出し、チェンジリングが生物を変化させるのは、胞子を浴びせてその生物を突然変化させることで異質な存在とさせ、群れを成す生き物ならば、群れから嫌われ、ひとりとなり、やがて死に至らせてその死体を栄養源にチェンジリングのフェアリーリングを形成することがチェンジリングの目的だと説明した。
もっと簡単に言えば、変化させられた生物は、チェンジリングの苗床なのだ。シイタケの原木のように。
「たいした副作用だ…。」
取り替え子の話も、子供を拷問して死なせればその死体からチェンジリングが生まれるという流れになっていたのだろう。
「じゃあ、お風呂を焚いたり、水で念入りに流せば治るはず。ちょうど水源もあるし…、休憩しよう。」
「水源って…。これ?」
マルシルが嫌そうに小便小僧になったガーゴイルを指差した。
「他にある?」
「…仕方ないか……。」
っというわけで、休憩。
際限なく出る小便小僧になったガーゴイルの水を溜め、湯を沸かし、近くにあった樽のような金属の器に湯を溜め順番に風呂に入った。
ファリンが湯に入っていると、変化した動く鎧の剣を眺めていた。
「……すごい発見したなぁ…。兄さんに言ったら、喜んでくれかな?」
剣をジーッと眺めていたファリンは、剣をソッと隠しながら布でくるんだ。
全員風呂に入った後、食事の準備。
しかし、イヅツミが水餃子はもう飽きたと言った。
それを聞いてセンシがショックを受けた。
そこで調理方法を変えることにし、まず油で揚げた。
だが油で揚げただけかと言われ、またショックを受ける。
するとセンシは、床に転がっている板になったガーゴイルを見て思い付く。
餃子を箸で摘まみ、それを口の形の部分に入れる。
すると、ボンッと小さく音がして、取り出すと形が変わっていた。
「やはり口部分が輪の役目を果たすようだ。そして、ダンプリングは、種類が豊富……。」
「そんなもん食べて胃からキノコが生えてきたらどうすんだ?」
「ヒポグリフの肉を食べてもそうはならなかった。消化は強い。さあ、食器を並べるのを手伝ってくれ。」
そして、ダンプリング(餃子みたいなもの)を、チェンジリングのフェアリーリングで、変化させた物が完成した。
結果から言うと、実に様々な形と、中身ができあがった。
しょっぱい物から、甘い物…、実に様々だ。ただ、一部何の肉か分からないのもあったが…。とりあえず美味しく頂いた。
その後、裸になって寝袋に入り、休息。服を着て寝ると戻った際に服が破れる可能性があるので。
やがて…チルチャックが最初に起き、全員が元の姿に戻っていた。
「よかったぁ…。元に戻れて。」
「ほんと…。」
「よかった…。」
チルチャックとセンシに視線が集まる。
そして全員が旅立つための準備をしているとマルシルが気づいた。
「ファリン! 剣を見せなさい!」
「えっ、あっ…!」
布でくるまれた剣を奪われ、チェンジリングが生えた剣が露わになった。
「……どうするコイツ。みんなで輪になってボコるか?」
「…今すぐ水洗いしなさい。」
「はい…。」
ファリンは、観念して剣を洗った。
チェンジリング…、恐ろし便利。
もし放っておいたら身体からキノコが生えてたのかな?