我輩は急いでいるのである。
ホワイトハウス襲撃部隊、参陣一名。我輩。以上。
そういうことになった。せめて下準備だけでも、やっておかねば任務が果たせぬ。
我輩一人になったのも、任務を果たさねばならなくなったのも、全部自分のせいであるがな!
仕方が無かったのだ。
武装したゾンビを引き連れて、奇襲。ホワイトハウスにいる人間を、無差別に蹂躙し混乱させよ。そんなことを言われても、困るのだ。
我輩はヴィランである。しかし、なんちゃってが頭に付くヴィランなのだ。
実は。いまだに人を殺したことが無い。
それどころか、大怪我をさせたことさえなかったはずだ。ないよな?
ちょっと政治生命をかけてもらったり、社会的に死なせかけたりしたことはあったが。そんなくらいだ。
強いてあげれば。ハリーポッターの世界で、名無しさんを仕留めようとした、殺人教唆くらいであろうか?
クラウチJr.やピーター・ペティグリューはアズカバン行きにしたと思うが、あれは犯罪者を通報しただけであるから、
そんな我輩に、ガチのテロを仕掛けて来いと言われても。その、アレだ。ムリである。
しかし断るのも怖かったので、代案を提出したのだ。
そもそもだ。ホワイトハウス襲撃ということは、だ。
今の時系列は、原作でも終盤。それもロンドン最終決戦の直前ではなかろうか?
アインクラッドも、ホグワーツも。どちらも物語の初期にたどり着いていたので、少し油断していた。
確認したいが、バカ正直に「最終決戦前ですか?」などと聞けぬので、少し工夫する。
「ホワイトハウスを襲撃するというのに、情報の奪取を一切気にせず、破壊と混乱のみということは―――
恨みか。いや、それなら自分でやる。さてはこれ、ただの時間稼ぎのイタズラであるな? それも飛び込みの、得体の知れぬ我輩にやらせる、片手間の」
ニタリと。今の今まで、目が笑っていない笑顔しかしなかった少佐が、目を歪めて笑った。
「ああ、そうさ。アメリカ? 世界の警察? 米帝? 世界最強の軍隊? 我々は、そんなものになど興味は無い。我々は、もっと。もっと、ステキな相手と遊びに行くのさ。
そういう約束だ。一方的な約束だがね。もう六十年も前からのがあるんだ」
芝居がかった、大げさな身振り。オペラでも歌い上げるような、張りのある声。見るものを引きずり込むような、狂気。
それら全部を身に着けて。それでも、明日の遠足が楽しみでならない、幼い子供のような。そんな無邪気な喜びに、彼はあふれていた。
キミのおかげで、そちらへ回すはずだった奴らも、連れて行ってやれる。ありがとう。
そう礼を言って、少佐は頭を下げた。
どうやら、最終決戦で間違いは無いらしい。
それならば、やりようはある。ただ、頭を下げて頼まれてしまったので、仕事はやらねばならない。そんな気になってしまった。
何故任されたのかは、謎のままであるが。
おそらく、大した理由は無いと思う。おそらく勘か、気まぐれだ。たぶん間違いない。人生自由型の同類としての、勘である。
「わかった。任せるのである。ただし、どうせならば、もっと任せろ。
我輩一人で、充分だ。ここは我輩に任せて、先に行け」
言ってみたいが、言ったら死ぬ上に、言うべき状況にはまず巡り合わないセリフである。
これを口にした時の我輩は、おそらくいいドヤ顔をしていたと思われる。得意満面とは、このことか。
一応、根拠も無く言ったわけではない。アテはある。
個性は発動しない。この体がおそらく可能な、瞬間移動は使える気がする。だが、試してみないことには、何とも言えぬ。
しかし。それでも、アテはあった。
では、おさらばである。せめて良い終末を。
あいさつをすませ。
我輩は何となくの感覚で、アメリカと思しき方向へと瞬間移動すべく、自分を分解した。
たどり着けるかどうかは、実は自信が無い。