我輩は前向きである。目的ができた。ならば、そこを目指して走るのみなのだ。
このヒマで退屈な生活にも、張りが出るというものだ。
ただ座っているだけの生活に飽き飽きしていたところに、このアインクラッド世界の夢は、実にありがたかった。干天の慈雨とは、まさにこのことであろう。
だがしかし。人間というものは、何事であれども、慣れてしまうもの。
初めは物が見え、自然と呼吸できるだけでも楽しかったというのに、それに飽きてきていたのだ。
「はぁ~。なんて刺激的なんだ」
そういうものが、足りないのだ。
プレイヤーたちに、無敵バリヤーとして活用されているが、所詮は傷ひとつつかぬ、お遊び。痛みもないので、刺激としては弱いのだ。
やはり、人である。
人と関わってこそ、ドラマが生まれるのだ。
さて。少し整理しよう。
現在の目的は、原作で死亡したキャラであると思われる、サチの生存である。
ただ生かすだけならば、まあ口八丁で行けなくもない気はする。
「宝箱を開ける時。ここでモンスターハウスが来たら死ぬなってところでは、開けてはならぬぞ」
すでに、そう伝えてある。
これだけでも、彼女の運や心がけが良ければ、生き残れるであろう。
ただ、記憶が定かではないのだが。彼女が死んだ時の状況がだ。
サチやキリトが止めるにも関わらず。他のメンツがいいじゃん開けようぜという、軽いノリで開けた結果。モンスターが大量に出現して襲ってくる、しかも逃げ場無しというものではなかっただろうか。
「1% 死ぬんだぞ」
悪魔の指揮官と呼ばれた男の、この言葉を聞かせてやりたいものだ。
これはゲームではあるが、遊びではない。この言葉の意味を自覚し続けるのは、ストレスになる。
そのストレスから逃れるために状況を軽く見ており。ストレスから逃れ続けるために、慎重に振舞えという忠告には耳をふさぐ。
しかも無意識にそれをやっておるから、悔い改めることも反省もなく、忠告には苛立つだけで、感謝すらない。
このデスゲームの中で、ワナとかあるだろうけど、開けてみようぜ。そんな恐ろしい行動は、そうであったとでも考えねば納得がいかぬのだ。
閑話休題。
サチの生存。そのためには、あとは黒の剣士ことキリトに何ぞ適当に、ワナのことでもささやいておけば良いだろう。
問題は、その後である。
サチが死亡し、そののちに復活アイテムのウワサが流れたことで、それを入手するためにキリトが無茶なレベル上げを行った、ということだ。
サチたちのギルドは中堅どころ。そこにトッププレイヤーのキリトは、本来いてはならない。もっと上の階層、最前線で戦っているべき人材だ。
それがそこまで下の階層に下りてきているのは、ひとことで言うならば、人生に疲れたから、であろうか。
そして人生に疲れていたキリトが、美少女のサチにコロッと引っかかって、転がり込んだ。確かそういう流れであったはずだ。うむ、だいたい合っている自信がある。
そしてコロッといった美少女を、キリトが確実に攻略していっている間にも、アインクラッドの攻略は進められているわけで。
前線のレベルと、キリトのレベルには、徐々に差が出来ていってしまっているのだ。
無茶なレベル上げは、それを埋めていた。それが無くなってしまったとして。
はたして、将来の様々な局面で、キリトのレベルは足りるのか?
やってみなければ、わからないが。やってみてダメだった場合は、キリトが死ぬ。かも知れぬ。
そうなった場合。不当に三百人ほど使って、人体実験しているアレは……
あれ? 結局のところ最終的には、なにをどうやっても実験が発覚して、捕まる未来しかないな。うん。アレはどうでもいいや。
そのあとのデスガンだったかも、まあ世界レベルでは小事だ。今は、気にしないでもいい。
だがその更にあと。なんか魂がどうのこうので、なんやかんやで、世界がヤバい。という展開があったような気がするのだ。
ゲームがメインのアニメのハナシで、世界がヤバい、というのはどうかと思うが。
ほら、ミニ四○やビーダ○ンや、ガン○ラバトルや、遊○王なんかでもしょっちゅうヤバくなっておったし。普通、普通。むしろお約束である。
そんなわけで。将来世界を救ってもらうために、キリトには生き残ってもらわねばならぬのであるが。
どうしたものであるかなあ。
我輩自身でも、何か出来ぬかと思い。せめてソードスキルでも発動したら、素早く動けないかと思い立ち。ひとつ、実験してみようとして。
そもそも剣を持っていないことが発覚した。
にゃん太なら、そこは持ってなきゃダメであろう。
そう思うのだが、持っていないものは仕方がない。通りすがりの、我輩を盾にするプレイヤーに話して、借りてみた。
発動した。
うむ。発動した! したのだ!
しかし。ダメージはゼロだった。ゼロ、だったのだ……
我輩に、動作に対するアシストはあった。当たり判定もあった。しかし、ダメージ判定までは存在しなかったのだ。
なんであろうかなあ。このガッカリ感は。
もう、今日のところは、帰って寝るのである。瞑想を使わずに寝れば、ここへは来れないはず。
せめて、スキルの成長ができれば、スキルが増えて楽しいのに。それもなかったからなあ。
ああ。人生はいつも、ままならぬ。
「だが それがいい」
うむ。きっとそれが人生の味である。
●「はぁ~。なんて刺激的なんだ」
グラップラー刃牙より。作中最高度の筋肉を持つ、アンチェインさんの言葉。愛した彼女の(かつて住んでいた町で売っていた)ハンカチのニオイをかいでのセリフ。
もちろん、その彼女さんのニオイは欠片ほども入っていないと思われる。いかん、高度なヘンタイにしか聞こえない。
●「1% 死ぬんだぞ」
アイシールド21より。チームのメンバーがそろい、特訓も乗り越えて試合を待つだけ。しかも相手は強くない。負ける確率なんて1%くらいしかない。そうはしゃぐメンバーに、ヒル魔が冷徹に放った一言。
私はこのセリフで、背筋が伸びて、冷たくなった。
●「だが それがいい」
花の慶次より。信長の甲冑で遊んでたら壊して、切腹となった男をかばって慶次が言ったセリフの一部。
「殿、若水殿の顔をみなされ!戦場で傷だらけになったきたねえツラだ。」
「だが、それがいい!その傷がいい!これこそ生涯をかけ殿を守り通した忠義の甲冑ではござらんか!」
こいつが壊した信長の甲冑より、こいつのがいい甲冑だぞ。と示して、彼の切腹を取りやめにさせた。
ただ、この言葉に先んじて、角が取れていただけの信長の甲冑を真っ二つにしていたが。そこまでする意味はあったのだろうか。
けなした後に持ち上げる形になるので、ネット上でしばしば使われた。
使い方としては「よくある話だ、つまらん」という書き込みの後などに「←だがそれがいい」というように使用する。