それでも我輩はネコである。   作:far

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思いついちゃったんで、増量して外伝に仕上げたよ!
本日二本目。


外伝 食戟のゾーマ

 誰かが言った。

 沸き立つマグマを汲み取り、極上のワインや、濃縮されたうまみを持つビーフシチューに変える個性があると。

 風を巻き取り。口の中で上品な甘みだけを残して溶ける綿菓子や、信じられないほど軽やかなパスタに変えてしまう個性があると。

 水を砂糖に、砂糖を香り高い生クリームや、コーヒーに良く合うカスタードクリームに変える個性もあるらしい。

 

 場所は魔界。血で血を洗う抗争の絶えぬはずであった、この地に。

 不毛の地であったがゆえに、そうして奪い合い、殺しあって数を減らさねば生きられぬはずであったこの地に。

 

 今。食による平和が訪れようとしていた。

 

 世はまさに、空前のグルメ時代であった。

 

 しかし、魔界であり、魔族である。

 長年、ずっと争い続けていたがゆえに、平和に暮らすという感覚がわからない。

 そこで魔王の中の魔王、大魔王ゾーマは考えた。

 

 食で戦えば、良いではないか―――!

 

 これは魔界を平和へと導くため。愛と勇気と正義を持って戦う、大魔王ゾーマの物語である。

 

 

 

 食戟のゾーマ~大魔王が魔界でグルメバトルするのは間違っているけど、愛があれば関係ないよね~

 

 

 

 まずゾーマは、食でのバトルという概念を魔界に広めるために、部下を一人呼び戻すことにした。

 

 魔界と違い、豊かな地上へと出稼ぎに出たまま、立派な家を購入して帰ってこなくなってしまったバラモスだ。

 仕送りはありがたいのだが、たまには顔が見たい。両親のゾンビさんとブロスさんが、そうグチっていたのを覚えていたせいもある。

 

 バラモスには、地上の食材を持ち帰って来い。そう命じてある。

 地上の食材は、魔界では言うまでも無く超高級食材。地上への憧れも含めて、非常に高価であり、庶民の口にはまず入らない。

 

 それを使った料理を。魔界の食材のみで凌駕したならば―――

 きっと。この魔界グルメ時代は本物である。そう言えるのではないか。

 いや、グルメ時代を名乗る以上は、超えねばならぬ。

 ゾーマは、その恐ろしげな顔をゆがめ、邪悪なオーラをまきちらしながら、こぶしを握る。

 

「クックック…… 見ておれ。我は地上を……」

 

 大魔王さまが、とうとう地上侵攻を!?

 そう反応して、先走ったキングヒドラさんの誤解を解くのに、少し時間がかかったらしい。

 

 しかし、全魔界へと向けた演説を用意する手間が省けたので、結果としてはプラスであった。キングヒドラさん、間一髪ボーナスカットをまぬがれる。

 

 そしてゾーマの演説が流された。

 

「聞け。魔界に生きる者たちよ。我らはもはや、奪い合わずとも、日々の糧には困らぬようになった。分かち合う事で、交換する事で。豊かに生きられるようになった。

 しかし、いまだに戦いの習慣は変わったとは言えぬ。何か問題があれば、戦いで決するのはもはや我らの文化だ。それは簡単には、変わらぬだろう

 そこで、余はここに、新たなる戦いのルールを決定する。これ以降。戦いは食を持って決めるべし!」

 

 曰く。大食いも良し、早食いも良し。同じ料理を競うも良し、売り上げで競うも良し。大いに作り、大いに食べるべし。

 

 楽しそうではあるが、それでは少し物足りない。

 そう反応する民衆に、わかっていたとばかりに、大魔王ゾーマは次の手を打つ。

 

「まずは余が手始めに先陣を切ろう! 余を倒せたならば、褒美は望むままがままである! さあ、かかって来いバラモスよ!!」

 

 待ちきれなかった。そう言わんばかりの勢いで、ペリカンのような、カバのような顔をした魔族が現れた。

 

「フフフ、ゾーマさま。出稼ぎといいつつ、実質単身赴任して早数年…… お会いしたかったですよ。私が勝ったら、思いっきり一発殴らせてください」

 

 どうやら、忙しくて帰りたくても帰れなかったらしい。

 積もりに積もったナニカを、是非その顔面にブチマケさせて欲しい。彼の固く握られたコブシは、そう語っていた。

 

「うむ。良かろう」

 

 しかし、そんなものに怯んでいては大魔王は勤まらぬ。ゾーマは余裕を持って、受け止める。

 

「あっ。闇の衣は当然、無しで」

「キサマ、本気か!」

 

 一瞬で剥がれ落ちたが。

 

 それでも、バラモスの要求は呑まれ。魔界で初の食での戦い、食戟が始まる。

 

 

 まず動いたのは、バラモスだ。お前たちのハラワタを食らいつくしてくれるわ、と用意した鶏たちを次々に焼き鳥とモツ煮込み、ホルモン焼きに変えていく。

なお、調理はしていない。口から出る炎に触れると、なぜか生きたままの鶏が、料理に変わっていくのだ。

 

 ゾーマもそれに応じて動く。

 なんと、その料理に凍てつく波動を打ち込み、生きた鶏に戻して見せたのだ。

 

「調理する前に、まずはシメねばなあ。わが うでのなかで いきたえるが よい」

 

 そう言って、あらためて首をはねて血抜きをして、羽をむしって内臓を取り、各種部位へと切り分ける。

 恐ろしいほどの手際だ。

 しかし、使うのはササミの部分だけらしい。

 

「余の凍てつく波動で、腐敗や雑菌の影響などは取り除かれているが、念のためだ」

 

 薄く切ったササミをワインビネガーに浸けて揉む。そしてキッチンペーパーに当てて軽くふき取ると、今度はワサビ醤油に漬けるや、なんとそのまま審査員へと差し出したのだ。

 ちなみに審査員は、通りすがりの覆面マントに海パンだけの人です。

 荒れ狂う海を生身で渡ってきたガッツを称えての、大魔王さまのイキな計らいですね。

 

「鶏のササミのサシミだ。余の個性の数々で、食中毒などの危険は無い。さあ、食べてみるが良い」

 

 なお。審査するまでも無く、出す料理の無くなったバラモスさんは失格とり、敗北扱いとなった。

 相手の食材を奪ってもよいものか? という疑問は出なかった。そのあたりは魔界クオリティ。

 そういうものを変えたいと願う大魔王だが、まだ本人も感覚が追いついていないらしい。

 

 魔族の業は、深かった。

 

 ちなみに。通りすがりの審査員さんは、いい歳をして長年迷子であったらしく。

 地上の職場へと戻るバラモスさんが、彼の家へと連れて行ってあげたのだそうな。

 長年、離れ離れであった家族の再会に、自分も両親と久々に出会ったばかりであったバラモスさんもニッコリ。

 

 さらには。それをキッカケに、魔界との平和条約を、という動きが地上の国家から出る。

 その担当がバラモスさんに回ってきてしまい、ますます帰れなくなるのだが―――

 

 それは、別の話だ。

 

 

 

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