第1話
我輩はしばらくのんびりと過ごす予定であったのである。
早く帰りたいと思ってはいた。しかし。あの終わり方は、それなりに来るものと、思うものがあったのだ。
だから、次の世界を探そうとはしておらぬ。あの世界を探そうとも、しておらぬ。
ただただ。過ぎ行く日々と、ゆっくりと流れる時間を、見送るような。そんな毎日を送っておった。
「年年歳歳花相似 歳歳年年人不同」
生前の、退職した直後や、熱が出て動けないときなどを思い出す。
何もない、何もしない。そんな時間のムダ使い。
うむ。最高のぜいたくであるな。
そういえば、ひとつだけ。ポケモン技を持ち帰ることができた。
このような時には、ある意味最適な技である。
ねむる。あっと言う間に、眠りにつくことができる。
本来は、出来うる限り短い眠りで、自分を万全の状態へと回復させる技である。
だがそのあたり、融通が利くらしい。普通に眠りに入ることも、好きなだけ眠っていることもできるのだ。
アニメやゲームで、カビゴンが橋をふさいで眠り続けていた、アレのようなものであるな。
体力は回復するが、さすがに栄養状態は回復しないようなので、普通なら食事は必要なのだろう。しかしボスは点滴生活だ。自動的に、定期的に補給されるので、眠っていても問題はない。
あれ? これってもう、我輩は残りの人生、寝ているだけでいいのでは?
そんなことを考えながら、あえて ねむる を使わず、うつらうつらと、うたたねを楽しんでおった時のことだ。
引っ張られた。
それは、突然のことであった。唐突であった。まさしく、青天のヘキレキであった。
瞑想して、向こうに向かうのではなく。向こうから引っ張られるという、初めての体験であった。
「はわわわわわ」
意識に貼り付けておる、オールフォーワンの演技も忘れて、素の反応であわてる我輩をよそに、召喚は進められた。
うむ。これは、召喚である。誰か、意思のある存在に呼ばれているのだ。
我輩が抵抗をあきらめ、流れに身を任せるようになってすぐに、召喚は本格的に発動した。
いつもとは少し違った、世界の壁を超える感覚が面白い。
いつもは壁を乗り越えるような、そんな感覚で。今は壁に一時的に穴を開けてくぐり抜ける。そういう感覚である。
それがどういう意味を持つのかなどは、わからないが。まあ、世界を超えるという結果は同じである。
そうして呼ばれて行った先には、どこかで見たような顔のお嬢さんと、一目見たら忘れられないような、インパクトの強い異形の顔をしたオッサンがいた。
「ジル。なんかヘンなのが出てきたんだけど。これも英霊なの?」
「お下がりください、私が調べてみますので」
そちらで呼んでおいて、ひどい言い草であるな。
さて。ヘンなのと言われるからには、今回はどんな姿で―――いや、待て。
あの二人の会話は、フランス語だ。我輩はなぜそれが分かっ―――――
イタタタタタタタ!! みぎゃーー…
痛い! 痛い! 頭が痛い!
いくつもの針で刺されたように痛い! ささったそれをかき回すように痛い!
キリキリと痛む! キシキシと痛む! ズキンズキンと、脈はくと同じ間隔で痛む!
知識が。膨大な知識が襲ってくる! やめろ。人の脳は、一度にそんなたくさんの情報を処理できぬのだ!
痛すぎて逆に気絶できない! ボスケテ! ボス! 先生! マスター! 承太郎!
承太郎……ポケモン技! ねむる! 何が起きようと、二日間ねむる!
そうして我輩の意識は、いったん途切れた。
なにげに、二度の人生を通して、最大の危機であったかもしれぬ。ありがとう ねむる。本当にありがとう。
目覚めても、まだ割と頭痛が残っておったので、二度寝を決め込もうとしたら、獣耳のお姉さんに怒られたりもしたが。無視をして眠る。
まだ回復しきっていないのだ。もう一度おやすみなさいである。
ねむる、発動。
◎ねむる
エスパータイプのポケモン技。HPと状態異常をすべて回復した後に、2ターンねむり状態になる。ねむる→回復ではなく、回復→ねむるの順番なのは、使い勝手の問題だと思われる。今回ここまで活躍するとは、私も思ってもみなかった。
なお、さすがにポケモンの体ではないので、傷の再生まではしない模様。
●年年歳歳花相似 歳歳年年人不同
マスターキートンより。
唐代の詩人、劉 希夷の七言絶句の一節。花は毎年同じように咲くが、それを一緒に見た人は、今はもういない。という意味の、時の流れを嘆く詩である。
しかしネコは、これを引用したキートンの父の説明、as time goes by時の過ぎ行くままに という意味さ。というところだけを覚えていて、使用しています。