我輩は自害したのである。
聖杯の強制力とやらで、そう命じられてしまったのだ。召喚してから寝てばかりいるし、ちっとも強そうではないかららしい。
その聖杯からの、一方的な知識の流入が寝ていた原因なのであるが。
「やれやれだぜ」
承太郎ならば、そう言っておったであろう。
ようやく頭痛が治まったので、せっかく我輩が自分からあいさつに来たというのに。ずいぶんとまあ、ぞんざいな扱いであるな。
まあ、気持ちはわかるが。
ガチャを回して、外れが出たら。そりゃあ処分するというものである。
「誰だってそーする。俺もそーする」
しかし、まあ。自害させられたほうとしては、思うこともあるわけである。
さいわいなことに、この体は
これは、個人としての特性と言うよりも、おそらくはゲームとしての仕様であろう。
ここは一つ、死んだフリでこの場を切り抜け、スキをうかがわせてもらうとしよう。
「てめーの敗因は……たったひとつだぜ……DIO…… たったひとつ単純な答えだ…… 『てめーは おれを怒らせた』」
歴史が変わった結果、承太郎はこのセリフを言わなかったが。かわりに我輩が今、心の中で言おう。口に出したら、死んだフリがバレるであるからな。
邪ンヌ・ダルクよ。お前はこのネコ・カオスを怒らせたっ!
うむ。ネコ・カオスである。
聖杯が、だばだばと流し込んできた知識も、そう言っている。
沙耶の○の知識やら、喫茶店でカッコつけて酒を飲む方法やら、東京のデートスポットやら、いらない情報も多々流れてきていたが。
まあ、ささいなことである。
「吾輩は、自由でいたいのさ。というか、ひきこもりたい」
寝ている間に、そんな言葉を聞いたような気がするのであるが。
あれが本来のネコ・カオスの声だったとするならば。
ひょっとして、我輩。乗っ取られての、自我喪失の危機であったのではなかろうか。
あのカオスなナマモノに、意志力で勝てる気がしない。危ないところであった。
それで、そのあとのハナシだ。
邪ンヌたちが立ち去ったあとに、こっそりと身を隠し、屋根裏へと潜んだ。
そうして聞き耳を立て、情報を集めながらスキをうかがう。
時折、あの獣耳の女の人やら、人狼やらに気付かれそうになるが、なんとかやりすごした。
今思えば、あの獣耳の人は見逃してくれていた気もする。
そうやって、ヒマな時は ねむる を使って眠り、代わりに体から獣を出して見張らせ、探らせて。
ひたすらに、じっと機会を待ち続けて。
そうやってジル・ド・レエからかすめ取った聖杯が、ここにあるじゃろ?
聖杯を見つめながら、なにやら深く考え込んでおったのを見つけ。今なら行ける。そう踏んで、天井から強襲をかけたのであるが。これが見事に成功したのだ。
そして逃げ去るために、我輩は手に入れた聖杯に、さっそく願った。少しの目くらましを、と。
うむ。察した方もおられるとは思うが。
黒い炎が、スゴイ勢いでスゴイ量出てきてしまってな?
違うのだ。こんなつもりはなかったのだ。
冬木の汚染聖杯ではあるまいし、こんなことが起きようとは、思っていなかったのだ。
待て! 無し! やっぱり今のは無し!
オルレアンの城ごと、我輩まで燃えてしまいそうであったので、あわててキャンセルをかけた。
するとなにやら不思議なことに、頭の中に声が聞こえたのだ。
「もう、仕方が無いなあ」
そして聖杯から出た黒い炎は、聖杯の中へと戻っていった。
焼け焦げた壁や床、ジルなどはそのままであるが、それ以外は元通りだ。
ただ聖杯が黒くなって、謎の液体がダバーッとあふれておるのだが。
焦げてピクピクしておるジルの横に、出刃包丁が刺してあって、今のうちに殺っちゃえよ、というメモ書きがあるのだが。
もう、これ聖杯じゃないだろ。聖杯くんだろ。
民衆を殺して回るのも、サーヴァントと戦うのも。どちらもゴメンであるから、聖杯の力でもう召喚されないように願って、それから契約破棄を願って帰ろうと思っておったのだがなあ。
うむ。今回もまた、帰れぬのだ。自力で来たのではない上に、一応はサーヴァントとして、契約に縛られておるらしい。
だがしかしだ。さすがに、この聖杯くんを使う勇気はないのである。
よし。逃げよう。
聖杯くんをかかえて、逃げ回ろう。
盗み聞きした成果の一つとして、昨日カルデアが来たらしい。きっと人理修復まで、そう長い間ではなかろう。
修復すれば、この世界は、ある意味終わる。それで帰れるであろう。
あるいは、あの邪ンヌことジャンヌダルク・オルタが倒されて、契約が解除されるだけでも帰れるかもしれない。
さて。外はワイバーンや人狼、ゾンビやスケルトンがうろつく、ゲーム染みた世界になっておるし、その上でサーヴァントというボスまでうろついておる。
聖杯を持って逃げる以上、それらすべてが、我輩を狙ってくるであろう。
上等だ。来るが良い。
我輩はきっと、どこまでだって逃げ延びてみせよう。
我輩は、捨てられるということが大嫌いなのだ。
それをしてくれた邪ンヌなどには、絶対に手を貸してやらぬのである。
「掛け値なし、言うことなしのどデカ地雷踏んだんだぜ」
残念だとも言わないし、墓にはなんて書けばいい、とも聞いてはやらぬ。
ただ見限られたので、見限って、離れるだけである。
今ここでジルにトドメを刺せば、聖杯を奪ったのが、我輩のしわざと知る者もいなくなる。
そういうわけだ。使い魔の獣くん。取り込んじゃって。
直接殺すのは主義ではないが、使い魔にやらせるなら、セーフで良いのではなかろうか。
まあ、戯言であるな。
さて、それでは逃げるとしようか。
あの獣耳の人が、追いかけるのを手加減してくれますように。
●「やれやれだぜ」
ジョジョの奇妙な冒険第三部より。空条承太郎の口癖。ネコがいなくなったあと、急に静かになった生活に若干の寂しさを覚えていそう。スタプラに話しかけたり、ご飯食べさせたりして、ノーリアクションなのにヘコんでそう。なんかゴメン。
●「誰だってそーする。俺もそーする」
ジョジョの奇妙な冒険第四部より。虹村京兆のセリフ。虹村兄弟の兄の方である。どうやっても再生する、壊れた父親を殺したかったなら、スタンド使い量産ではなく火口のマグマにでも投げ込めばよかった気はする。
●「テメーはおれを怒らせた」
同じく承太郎のセリフ。キレた時の爆発力は、初代ジョジョからの伝統。キミがっ泣くまでっ殴るのをっやめないっ!
●「残念だ 掛け値なし、言うことなしのどデカ地雷踏んだんだぜ。本当に残念だ。墓には何て書けばいい?」
ブラックラグーンより。自分の日常にコンプレックスを持ちつつ、そこから抜け出せず、方法も知らない。そんなレヴィと、暴力以外の方法を示すロックとが衝突した時のレヴィのセリフ。なおケンカの結果はレヴィの負けで、以降レヴィはロックの意志を尊重する方向に。
●ネコ・カオス
MELTY BLOODシリーズ、及びカーニバル・ファンタズムに登場。正式名称、ネコアルク・カオス。実はタバコとスカート装備で性別不詳である。女好きでナンパはするが。
アニオタだったりなかったりして、深そうで深くない言動をして、たまに正論を吐く。
ネコアルクいわく、頭の中身がマッスル。
●聖杯くん
カーニバル・ファンタズムに登場。一応願望器ではある。意思を持っており、泣きついてきたワカメや士郎の願いを叶える。ただその方向は出刃包丁を渡して、これでカタをつけな、というヤクザなものであるが。