それでも我輩はネコである。   作:far

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滑り込みセーフ。本日3本目。


第5話

 我輩は一服しているのである。

 サーヴァントの装備のごとく、どこからともなく取り出せるタバコをくわえて、同じように取り出したライターで火をつける。

 

 深く吸い込み、吐き出す。

 

 身体に悪いものが、染みていくのが分かるようだ。

 生前は味も分からぬうちに吸い始めて、味も分からぬままに、早々に止めてしまった。

 こうして、深くしみじみとタバコを味わうのは、実は初めてである。

 

 うむ。これは、落ち着くな。

 

「ああ……ジャンヌ……じゃぁああんんぬぅぅ~……」

 

 聞こえてきた嘆きに、右を向けば。そこにはワインのビンを抱えて涙を流す、フランス元帥の姿があった。

 この時代では、そのまま飲めるワインなどよほどの上物。香辛料やらハチミツやら、混ぜ物をしなければ飲めたものではなかったらしいが。

 さすがは大金持ち。このご時勢でも、いいワインを飲めるらしい。

 庶民は、安物のワインすら飲めずにシードル(リンゴ酒)やポワレ(ナシ酒)やビールであるのに、ぜいたくなものだ。

 

 まあ。我輩は聖杯くんと、ブランデーをちびりちびりと、やっておるのだが。

 ワインを醸造して、アルコール度数を上げ、タルで数年寝かすとブランデーができる。十六、七世紀あたりの発明なので、十五世紀の今なら地味にオーパーツであるな。

 そしてブランデーの中でも、特定の地域で生産され、なおかつ高品質なもののみがコニャックやアルマニャックを名乗ることができる。まさにブランドなのだ。

 聖杯くん。やけに美味いが、こいつは?

 

「フランスで飲むなら、ナポレオンかなって」

 

 コニャックにも等級があり、日本酒のそれとは違って、厳格に決められている。

 スリースター、VO、VSOP、ナポレオン、XOの順に等級が高く、ナポレオンは最高級一歩手前。

 なぜナポレオンと呼ばれるのかは、不明である。下町のナポレオンと同じくらいに、諸説ある。

 しかし本当に美味いな。カミュ? えっ。ポールジロー? それは珍しいものを。

 

 元帥、元帥。酔いたいなら、こっちのが強いから飲むと良い。

 本当に美味い酒は、ヤケ酒として飲んでも、心を癒してくれる。今は飲め。

 

 サーヴァントとしてのジルは、我輩が倒した。

 ここでこうして我輩と飲んだくれておるのは、生身の、まだ生きておるジル・ド・レエ。百年戦争の英雄、フランス元帥である。

 そんな彼がだ。こうして後に落ちぶれ、財産を使い果たして領地も切り売りし、借金漬けになる片鱗を見せておるのは、他でもない。

 

 白いほうのジャンヌ・ダルクが、消滅してしまったのだ。

 

 カルデアの撤退と引き換えに、一人残って敵を押さえ込んだ末の、敗退と消滅であったらしい。

 

 ジャンヌが復活した、と思えばそれは邪ンヌであり、フランスを滅ぼそうとした。

 そんな中、国と民のために戦った。かつてのジャンヌならばそうしただろう、と信じて。

 そうこうするうちに、もう一人ジャンヌが現れたという。しかも民衆を守ろうとしている。

 まさか。

 そう希望を持った矢先の、この知らせである。

 そりゃあ、元帥の心だって、折れようというものであるな。

 

 ゲームの中ほどではないが、生身でワイバーン相手に戦えておった男が、いまや見る影もない。

 場末の酒場に行けば見つかるような、ただの人生に失敗した酔っ払いである。

 

「本格的に失敗するのは、これからなんだけどネ!」

 

 聖杯くん。そのマジレスは否定できないんで、やめてさしあげろ。

 事実なんで、フォローもできないから。

 

 しかし、彼、どうしようかなあ。

 立ち直ってもらわねば、フランス軍を組織的に運営してくれる人材なんぞ、他に心当たりが無いであるし。

 中途半端に立ち直れば、ヘタをすると、もう黒いジャンヌでいい、などと言い出しかねぬ。

 だって、コレ。ジルであるからなあ。恐怖には鮮度があります。とか将来、言っちゃう人なのだよなあ。

 

 

 

 カルデア撤退。その報告を聖杯くんから聞いた我輩たちだが、それまでの方針に変更はなく。すまないさんを仲間にするためリヨンへと向かった。

 力がなければ、取れる選択肢は狭まる。今は、戦力を整えるべし。そういう結論が出たからだ。

 

 そしてすまないさんこと、ジークフリート。生で見ると、想像以上に不幸なオーラを背負っている彼を回収、治療して仲間にした。

 その過程で、ファントム・オブ・ジ・オペラがゾンビらとともに襲ってきたが、今のアントワネットの敵ではなかった。

 なにせ宝具のガラスの馬車が、聖杯くんによって改造されておるからなあ。

 どう改造したのかは、わからぬのだが。強くなったようなので、まあ、細かいことはよいのではなかろうか。

 

 ただ。踏み潰したゾンビを、燃料のように取り込んでおるような気がするのは、気のせいであろうか。

 モーツァルトに目でたずねてみたのだが。例のごとく、あきらめろと顔に書いてあるので、気のせいではないのであろう。

 だが、気のせいということにしておく。

 それが処世術というものである。

 

 ファントム・オブ・ジ・オペラもわりとアッサリと倒された。

 

「仮面で、内なる自分の狂気を封印しているんだよね? 大丈夫? その歳で中二病は治りにくいよ?」

 

 そんな聖杯くんのマジレスに、ファントム・オブ・ジ・オペラは精神汚染を発動。アサシンよりも、バーサーカーの側面が強くなり、気配遮断を使わなくなってしまったのだ。

 そうなってしまえば。あとはもう、待っているのは、ゾンビと同じ末路を辿る運命だけだ。

 すなわち。ガラスの馬車にはねられて、おさらばである。

 

 彼の最後の言葉は「クリスティへぶっ」であった。せめて最後まで言わせてさしあげろ。

 

 その後、アントワネットの考えでフランス軍と合流してみれば。心が折れたジル元帥がいたわけである。

 そしてどういうわけか、我輩にその精神の手当てを任されてしまって、こうなっている。というわけだ。

 

 なお、その間に。ドラキュラのモデルの人は、エリちゃんと清姫のケンカに巻き込まれて、滅んだらしい。

 聖杯くん情報なので、信じてよいのかどうか微妙ではある。しかし聖杯くんなので、こういうヘンな情報ならば、逆に信頼できる気がする。

 

 力は必要だが、あの二人は制御できる気がせぬので、放置しよう。

 聖杯くんに彼女たちの性格を聞いたアントワネットとモーツァルトとすまないさんも含めて、みんなの意見は一致している。

 触らぬ神に、タタリなしであるな。

 

 ひょっとしたら、聖杯くんに聞けばわかるのでは。

 そう思ったアントワネットが、邪ンヌ側の残りのサーヴァントを聞いてみると、なんと普通に答えてくれた。

 おい。我輩が聞いたら「さぁ~ねぇ~。何人だったかな~」とトボけたくせに。おい。

 

 ともあれ。聖杯くん曰く、六騎であるらしい。

 先日までは、五騎であったのだが、今朝増えたとのこと。

 

 えっ。聖杯ないのに、増やせるのであるか?

 えっ。ある? というか、居る?

 えっ。

 

 なにそれ怖い。

 

 

 

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