我輩は迷子になったのである。あれで帰れるかと思えば、帰れなかったのだ。
もっと言えば、帰れるという感触はあったのだ。だというのに、横合いから思い切り殴りつけられたような、そんな衝撃が我輩たちを襲ってきたのである。
気付けば、採集決戦の場であった。
誤字ではない。繰り返す。これは誤字ではない。
我輩に、数日続く、のたうつほどの痛みと引き換えに与えられた、サーヴァントとしての知識で理解できる。
ここが、どこで。今が、どういう状況であるのか。それが、わかる。
場所は、冠位時間神殿。戦うべき敵は、魔神柱。味方は、さまざまな時空から駆けつけてきた、サーヴァントたちとそのマスターたち。
これは、時間に冠たる場所であるがゆえに、さまざまな時空からやってきてしまっているのだな。
そしてその目的は。希少な素材を、思う存分むさぼることである。
いや、人類を救えよ。
我輩だけではなく、多くのサーヴァントらがそう思っておるであろう。
しかし、誰もそれを口にはしない。なぜならば、怖いから。
「もっとだ! もっとよこせバルバトス!」
「心臓置いてけ!」「
「はよ! 復活はよ!」「まだ死ぬなよ!」
「ナグルノタノシイ! ソザイタクサン!」
「チッ、完売したか」「殺したかっただけで、死んでほしくはなかった」
我輩らが今も戦っている、門番担当の溶鉱炉だったか。この魔神柱らは賢かったであるな。
ああなるのを見越していた、というわけではなかろうが。
一度敗れたあとは、アッサリとマスターらを先へと通して、復活しても我輩たちフランス勢と軽くたわむれておるのだ。
こちらを倒さぬよう、向こうも倒されぬよう、お互いに気を使って戦っておる。
「さすがにあれは、かわいそうだと思うの」
アントワネットと、ジャンヌリリィとアストルフォリリィの意見は一致した。
それでもマジメに戦いそうな、聖人ゲオルギウスや、ヴラド三世はこの場にいない。どうやら、来るだけの縁が足らなかったらしい。
それで代わりに、我輩が呼ばれたというわけであろうか?
これも自業自得と言うのであろうか。
会話する余裕があるので、あの時の途中退場をわびた。そして言い訳もする。
我輩はまだ生きており、普通の手段では帰れそうに無かったので、やむをえず。説明もせずに、突然すまなかった。
責められるどころか、心配してくれた。
え、それなら今回は帰れるのか、と。
正直、わからない。あらゆる時間につながるここからならば、帰れる可能性は高いとは思うが。
平行世界もいいところであるからなあ。
でもプリヤ時空すらも、つながっているらしいし、行ける気もするのだよなあ。
しかしあの魔神柱たちよりも、絶望的ではないし、きっとなんとかなると思うのだ。
ソロモン王には七十二柱の魔神が仕えるものであり、すなわちソロモン王が健在であるならば、いくらでも魔神柱は復活する。
神殿で復活する魔力をまかなえる以上は、この時間神殿は絶対無敵の備えのはずであった。
うむ。そのはずであったのだ。
そりゃあなあ。十時間もたたぬうちに、十五万回も殺されればなあ。
それはもう、心が折れようというものだ。
折れたあとも、ソロモンによって強制的に復活させられておったが、それでも追加で五万回復活するのが限界。
しかもその復活追加も、マスターたちには喜ばれてしまったというね。
なんというか、もう、ね。
「良かった……! あっちにいなくて、本当に良かった!」
魔神柱になる資格があったが、拒否して、人としての一生を終えたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。
彼が、心底安心した顔でそうつぶやいていた。
明るく振舞いながらも、人間は総じて汚いと断じ、生涯自分の中の何かと戦い続けた男は、今、報われていた。
こんな報われ方で良いのかという思いが、心をよぎるが。まあ、いいことではあるのだ。良しとしよう。
ソロモンなのか神殿か。どちらかが魔神柱を復活させるのに慣れてきたようで、復活の速度が上がり、討伐の速度も上がっている。
同じ時間でも、早く起き上がってくるほうが、たくさん殴り倒せるのだな。
もはや戦うフリすらしなくなったナベリウスらと、座って酒を飲みながら眺めて居るとよくわかる。
うん。もうダメだな、この神殿。
ゲームでは、このあとにマシュとソロモンとの悲しき別れがあった。
しかしこれはゲームではない。このまま、数の暴力でソロモンすらも殴り殺されてしまうだろう。
魔神柱が一柱、また一柱と消えるたびに、ナベリウスも小さくなっていく。
八人の集合体であるナベリウスから、一人、また一人と抜け出しておるのだ。
みな、無言でどこかへと去っていったが。正直、こっそりと逃げ出しているようにしか見えなかった。
それを見てみぬフリをする優しさが、我輩たちにもあった。
最後に残ったのは、バティンというらしい。
国から国へと、あっという間に移動できる術を使えるので、逃げ足を評価されて殿を押し付けられてしまったのだそうな。
こうなれば、最後まで見届けてやりますよ。ワインをかぱかぱ飲みながら、ヤケ気味で彼女はそう言った。
そして、その最後はやって来た。
光が。大きな熱を持った光が集まって、そして迎撃する色とりどりの光と、無数の盾に受け止められた。
鐘が鳴り響いた。晩鐘の鐘だと、なぜかわかる。
光も、盾も、美しかった。花火のように、輝いて消えた。
鐘の音は、重く、しかし澄んでいた。まるで、なにかのお祭りのようだった。
そして神殿が崩れ始めて、すべてが終わり――――――
数多くの悪しき魔物を倒し世界を救い、その後
いずこかへ消えた……
クジンシー、スービエ、ダンターグ、ノエル
ボクオーン、ロックブーケ、ワグナス
いつの日か、彼らは戻ってきて再び世界を救うのだという…
世の中が乱れる度に、人々は伝説を語り、救いを願った。
しかし、平和が訪れると… 伝説は忘れられた…
人の世の興亡は繰り返す。
安定した国々による平和な時代が終わり、分裂と闘争の時代が始まった。
七英雄の名は再び語られ始めた
そして、彼らは来た
……だが
そこに我輩も混じっておるのだが、これはどうしたらよいのであろうか?
ここでエンディングでもいい気はするな…