それでも我輩はネコである。   作:far

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第10話

 

 我輩は迷子になったのである。あれで帰れるかと思えば、帰れなかったのだ。

 もっと言えば、帰れるという感触はあったのだ。だというのに、横合いから思い切り殴りつけられたような、そんな衝撃が我輩たちを襲ってきたのである。

 

 気付けば、採集決戦の場であった。

 

 誤字ではない。繰り返す。これは誤字ではない。

 我輩に、数日続く、のたうつほどの痛みと引き換えに与えられた、サーヴァントとしての知識で理解できる。

 ここが、どこで。今が、どういう状況であるのか。それが、わかる。

 

 場所は、冠位時間神殿。戦うべき敵は、魔神柱。味方は、さまざまな時空から駆けつけてきた、サーヴァントたちとそのマスターたち。

 これは、時間に冠たる場所であるがゆえに、さまざまな時空からやってきてしまっているのだな。

 そしてその目的は。希少な素材を、思う存分むさぼることである。

 

 いや、人類を救えよ。

 

 我輩だけではなく、多くのサーヴァントらがそう思っておるであろう。

 しかし、誰もそれを口にはしない。なぜならば、怖いから。

 

「もっとだ! もっとよこせバルバトス!」

「心臓置いてけ!」「(ページ)もだ!」

「はよ! 復活はよ!」「まだ死ぬなよ!」

「ナグルノタノシイ! ソザイタクサン!」

「チッ、完売したか」「殺したかっただけで、死んでほしくはなかった」

 

 我輩らが今も戦っている、門番担当の溶鉱炉だったか。この魔神柱らは賢かったであるな。

 ああなるのを見越していた、というわけではなかろうが。

 一度敗れたあとは、アッサリとマスターらを先へと通して、復活しても我輩たちフランス勢と軽くたわむれておるのだ。

 こちらを倒さぬよう、向こうも倒されぬよう、お互いに気を使って戦っておる。

 

「さすがにあれは、かわいそうだと思うの」

 

 アントワネットと、ジャンヌリリィとアストルフォリリィの意見は一致した。

 それでもマジメに戦いそうな、聖人ゲオルギウスや、ヴラド三世はこの場にいない。どうやら、来るだけの縁が足らなかったらしい。

 それで代わりに、我輩が呼ばれたというわけであろうか?

 これも自業自得と言うのであろうか。

 

 会話する余裕があるので、あの時の途中退場をわびた。そして言い訳もする。

 我輩はまだ生きており、普通の手段では帰れそうに無かったので、やむをえず。説明もせずに、突然すまなかった。

 

 責められるどころか、心配してくれた。

 え、それなら今回は帰れるのか、と。

 

 正直、わからない。あらゆる時間につながるここからならば、帰れる可能性は高いとは思うが。

 平行世界もいいところであるからなあ。

 でもプリヤ時空すらも、つながっているらしいし、行ける気もするのだよなあ。

 

 しかしあの魔神柱たちよりも、絶望的ではないし、きっとなんとかなると思うのだ。

 

 ソロモン王には七十二柱の魔神が仕えるものであり、すなわちソロモン王が健在であるならば、いくらでも魔神柱は復活する。

 神殿で復活する魔力をまかなえる以上は、この時間神殿は絶対無敵の備えのはずであった。

 うむ。そのはずであったのだ。

 

 そりゃあなあ。十時間もたたぬうちに、十五万回も殺されればなあ。

 それはもう、心が折れようというものだ。

 折れたあとも、ソロモンによって強制的に復活させられておったが、それでも追加で五万回復活するのが限界。

 しかもその復活追加も、マスターたちには喜ばれてしまったというね。

 

 なんというか、もう、ね。

 

「良かった……! あっちにいなくて、本当に良かった!」

 

 魔神柱になる資格があったが、拒否して、人としての一生を終えたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。

 彼が、心底安心した顔でそうつぶやいていた。

 明るく振舞いながらも、人間は総じて汚いと断じ、生涯自分の中の何かと戦い続けた男は、今、報われていた。

 

 こんな報われ方で良いのかという思いが、心をよぎるが。まあ、いいことではあるのだ。良しとしよう。

 

 

 ソロモンなのか神殿か。どちらかが魔神柱を復活させるのに慣れてきたようで、復活の速度が上がり、討伐の速度も上がっている。

 同じ時間でも、早く起き上がってくるほうが、たくさん殴り倒せるのだな。

 

 もはや戦うフリすらしなくなったナベリウスらと、座って酒を飲みながら眺めて居るとよくわかる。

 

 うん。もうダメだな、この神殿。

 

 ゲームでは、このあとにマシュとソロモンとの悲しき別れがあった。

 しかしこれはゲームではない。このまま、数の暴力でソロモンすらも殴り殺されてしまうだろう。

 

 魔神柱が一柱、また一柱と消えるたびに、ナベリウスも小さくなっていく。

 八人の集合体であるナベリウスから、一人、また一人と抜け出しておるのだ。

 みな、無言でどこかへと去っていったが。正直、こっそりと逃げ出しているようにしか見えなかった。

 

 それを見てみぬフリをする優しさが、我輩たちにもあった。

 

 最後に残ったのは、バティンというらしい。

 国から国へと、あっという間に移動できる術を使えるので、逃げ足を評価されて殿を押し付けられてしまったのだそうな。

 こうなれば、最後まで見届けてやりますよ。ワインをかぱかぱ飲みながら、ヤケ気味で彼女はそう言った。

 

 そして、その最後はやって来た。

 

 光が。大きな熱を持った光が集まって、そして迎撃する色とりどりの光と、無数の盾に受け止められた。

 鐘が鳴り響いた。晩鐘の鐘だと、なぜかわかる。

 光も、盾も、美しかった。花火のように、輝いて消えた。

 鐘の音は、重く、しかし澄んでいた。まるで、なにかのお祭りのようだった。

 そして神殿が崩れ始めて、すべてが終わり――――――

 

 

 

 

 

 

………七英雄の伝説………

 

数多くの悪しき魔物を倒し世界を救い、その後

いずこかへ消えた……

 

クジンシー、スービエ、ダンターグ、ノエル

ボクオーン、ロックブーケ、ワグナス

 

いつの日か、彼らは戻ってきて再び世界を救うのだという…

世の中が乱れる度に、人々は伝説を語り、救いを願った。

しかし、平和が訪れると… 伝説は忘れられた…

 

人の世の興亡は繰り返す。

安定した国々による平和な時代が終わり、分裂と闘争の時代が始まった。

 

七英雄の名は再び語られ始めた

そして、彼らは来た

 

……だが

 

 そこに我輩も混じっておるのだが、これはどうしたらよいのであろうか?

 

 

 




ここでエンディングでもいい気はするな…
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