間話 座 1話
我輩は空間に腰掛けているのである。ホグワーツでの幽霊時代に覚えたことだが、まさか再び使う機会があろうとは、思ってもいなかった。
周りには、何も無いような。しかし、無数のナニカがいるような。
空間がゆがんでいるような、ゆっくり動いておるような。それでいて変化が読み取れない。
寒くは無いが、暖かいとも思わない。空腹も眠気も、感じない。
そんな、よくわからぬ場所に座っている。
英霊の座とは、こういうものであったろうか?
いや。きちんとした、正式の座ではないらしいのであるが。
聖杯くんは、似たようなものさ、と言っておったが。
さて。なぜ我輩がこんなところに居るのかというと、だ。
好き勝手やりすぎて、登録されてしまったかららしい。
聖杯くんによると、登録されるにはいくつか条件があるそうだ。
たとえば。運命を書き換える。死ぬべき運命にあった、誰かを助けたり。逆にまだ死なないはずだった、誰かを殺したり。
転生トラックとか、神様転生という単語が頭をよぎった人らは、魂が俗世に漬かりすぎておるので注意しよう。
なにごとも、ほどほどにな。
ハナシを戻そう。
他の条件としては、歴史や神話に名や業績を残したり。直接世界と契約して、奇跡の代償として登録されたりするらしい。
我輩の場合は、運命の書き換えであるな。
さて。原作の結末や展開なんぞは、細かいものを含めれば、いくつ変えたことやら。
英霊の座という仕組みのある世界。Fateの世界でもやらかしてしまっておるので、オルタに近い感じで登録されてしまったらしいのだ。
だがしかし。我輩はまだ生きておる存在で、しかも異世界の人間であった。
生身の肉体も、異世界であるヒロアカの世界に実在する。しかも、それは交換した他人の身体であり、本来のものはまた別に生きている。
ついでに言ってしまえば。異世界転生者の、二次創作のオリ主でもあった。
これだけそろっていて、まともに登録されるかといえば。まあ、ムリであろう。
Fateの世界で、そのあたりを担当するアラヤは、大雑把であるからな。
実は我輩。地味に、消滅の危機であったらしい。
エラーを吐いて、不適合を起こした我輩を、アラヤが削除しようとしたらしいのだ。
良さげなアプリだと思ってダウンロードしたら、ウィルスっぽかったので、アンインストール&削除しようとした。そんな感じであろうか。
たぶん、だいたい合っている。
そこをなんとかしてくれておったのが、聖杯くんである。らしい。
不適合を一時しのぎで、なんとかごまかし。不適合な部分を、なんとかつじつまが合うように書き換えて。
フランスを出て以来。ずうっとそうやって、がんばってくれていたらしいのだ。
ただし、本人談。
まあ。おそらくは、本当なのではなかろうか。
フランスで、最後に帰還を願ってからのことだ。別に手放してはおらぬので、実はずっと聖杯くんのことは持っておった。
しかし、うんともすんとも言わぬし、何の反応も無かった。
てっきり壊れたか、魔力を使い果たして、普通の使用済みの聖杯になったのかと思っておったのである。
どうしてそこまで。そう聞いてしまったところ。
「トモダチだからね!」
そんな答えが返ってきた。
一度、酒を酌み交わせば、友。
ゲーム中ではあるが、そんなことを言った戦国武将がいたであるなあ。
いやはや。これは、聞いた我輩がヤボであったか。
「ありがとう」
「どういたしまして」
久々に素直に礼が言えた。そして、裏の無い返事ももらった。
うむ。たまには、こういうこともないと、いけないな。人生、裏ばかりではやっていけないのである。
人は善悪両方を持っているから、自分の悪意に負けずに善を行いなさい、と瀬戸内寂聴さんが言っていた。
これはうがった見方をするとだ。善と悪の両方を持って、ようやく人間であるとも言っている。
人が生きるには、たぶん、その両方が必要なのだろう。
さて。ところでだ。
我輩は、ここから帰ることができるのであろうか?
●転生トラック
現代社会の人間が死亡して、過去や異世界へと生まれ変わったり、跳ばされたりする、いわゆる転生ものの小説、その批評より。
その冒頭での死因が、なぜか子供や動物がトラックに轢かれそうになったのを助けて、あるいは本人がトラックに轢かれてという展開が多かったために生まれた単語。
轢いた相手を転生させるトラックという、ある意味宝具。
なお、転生ものは日本では江戸時代あたりには、すでにあったらしい。徳川の太平の世から、源平、鎌倉時代や平安時代に転生。さすがはご先祖たち。未来に生きている。
●神様転生
転生もので、転生させる原因や理由として、神様を登場させる種類のものをこう呼ぶ。
神のミスでまだ寿命が残っていたのに殺してしまった、という展開がお約束である。そうすることで、何らかの特殊能力、いわゆるチートを転生者に渡す理由が作れるのだ。
舞台を動かす都合の良い神、という意味でデウス・エクス・マキナと言えなくも無い。
●一度酒を酌み交わせば友
戦国無双より。コーエイテクモの作ったゲームの一つ。様々な戦国武将となって、ストーリーを突き進め。何千何百の敵兵を倒し、敵武将も倒し、敵本陣を落とすのだ。
史実モード以外にも、分岐でIFルートがあり、上杉謙信で最後まで進むとラスボスが武田信玄となり、そこで勝利すると聞けるセリフ。ただし言うのは信玄である。
信玄を倒したあと、一緒に酒飲んで「さらばだ友よ」と一言残して領地へ帰る謙信。その行動を「ひとたび酒を酌み交わせば友、か」と納得して後始末を始める信玄の言葉。
なお記憶からのサルベージなので、細かい部分は覚えていない。
●我輩は、ここから帰ることができるのであろうか?
帰れません。というか、帰っても無意味です。
座のネコは、あくまで登録された情報であって、本人とはまた別の存在ですので。
それを知っても、それはそれとして、人生楽しむのは止めなさそうなので心配は要らない模様。