我輩はラスボスであるらしい。なぜか、そういうウワサが出回っておる。はてさて。出所はどこであろうなあ。
まったく心当たりがないのである。いやはや。これは、困ったものであるなあ。
それとは関係がないが、どこぞの情報屋が犬が苦手で、本気で戦う時は全裸になるというウワサが流れておるようだ。
はっはっは。どこから流れ始めた情報であるやら。不思議な話も、あるものであるな。
まあ。ラスボス説に、裏付けのようなものを与えてしまったのは、我輩なのであるが。
「お前が茅場ってのは、本当か」と、妙に思いつめた顔で、アゴヒゲのサムライが仲間を連れてやって来たことがあった。
そして、つい悪乗りしてしまった我輩が「ならば、どうするね? プレイヤーの諸君」と返してしまった。
なんか、問答無用で斬りかかられた。
知人に死者がでたばかりで、気が立っておったらしい。
集団で、連携して。「スイッチ!」などと複数人による、高度な連続攻撃が我輩を襲った。
まあ、効かないのであるが。
「ダメージは……ゼロじゃ」
かのドワーフのように、スキルや装備でダメージを打ち消したり、軽減した結果ではなく。単に、破壊するためのデータがないという、卑怯な存在であるがゆえの無敵。
それだけに、スキルのように効果が時間切れになることも、使用可能な回数の上限がくることもない。
先に、彼らの方の限界がやってくる。
一度距離をとり、油断なく我輩を観察する彼らに、我輩はゆったりと声をかけた。
「気は済んだかね? なら、落ち着いて話をしようじゃないか」
我ながら、紅茶かブランデーでもあったら、飲んでいそうなノリであったな。何となく、そういう気分であったというだけであるが。
あるいは。現実の方で、ずっと先生のマネをしておるので、それが残っておったのかもしれぬ。
そして彼らは何も言わず。そのまま撤退していった。
うむ。今思えば、どう考えても、あれが原因であるな。
まあ、やってしまったものは仕方がない。それに、分かったこともある。
悪役を演じるのは、意外と楽しい。
そうかあ。これが先生のやっていたことかあ。これは魔王を目指しても、ムリはない。
「佐山の姓は悪役を任ずる」
あの名状しがたい、愛すべきバカな主人公もそう言っていた。
魔王になることだけが目的ではなく、魔王としてふるまうこと自体も目的なのであるな。
それゆえの、手段の制限。ボスの言うところの、しばりプレイ。
魔王らしくないふるまいなど、無粋であるし、そんなものは楽しくないのだ。
人生とは、楽しむことと見つけたり。
どうなってしまおうとも、楽しむことさえ出来れば、それで良いのだ。
我輩も、意図してはいなかったが、人生ブン投げたあとでも、こうして楽しめているわけであるし。
また来るのかなあ。来たら次はどうしようかなあ。
そうやって、ワクワクソワソワしながら、彼らを待っておったのだが。
これがまた。寝ても覚めても、やってこない。
確かに我輩はランダムで出現ポイントの変わる、ボーナスアイテムのようなものであるが。
それにしても、遅い。
どうしたのかと思っておったら、バッタリとこの世界の主人公、キリトと遭遇した。
「ああ、サチのダンナさんか。しばらくぶりであるな」
一応面識があり、黒猫団の件では恩があり。昨今では茅場と言われている。
そんな我輩に、どう反応したら良いものか。露骨に困っておったようなので、こちらから声をかけてみた。
魔王の生徒はお休みである。彼を敵に回した場合、不可能を可能にして、我輩をどうにかしてしまうご都合主義が発動しかねない。主人公補正は、原作補正さんよりもきっと強敵だ。
どこぞの素人童貞を思い出して、いや、そうでもないかも知れないという考えもよぎったが。彼とキリトでは、主人公っぽさが違うからなあ。
キリトは「アンタは茅場なのか?」と、まっすぐに聞いていた。
こちらを射るように、まっすぐ見つめる目。右手に油断なく握られた剣と、コマンドを打ち込むために空けられた左手。
うっかり「そうだと言ったら?」と答えそうになる衝動を、何とか押さえ込む。
いやはや、これは良い主人公であるな。我輩がこの世界に生まれておったら、遊んでもよかったのであるが。
残念ながら客人に過ぎぬ今は、そうするわけにもいかぬのである。
「えっ。違いますけど」
あえて敬語で言ってみた。
「いや、でもクラインは…」「他人のやっているゲームを眺めているだけじゃ…」などと言い出したので。
「彼なら、普通のプレイヤーに混ざって、ハッスルしておるぞ?」
ちょっと爆弾を投げ込んでみた。
主人公で遊ぶわけにはいかぬが、こうして少し世界を引っかき回して遊ぶくらいは、きっと許されると思うのだ。
人生とは楽しむものであるからね。仕方ないね。
ふらっと立ち寄っただけの客人でも、それくらいの楽しみは、あって良いと思うのだ。
まあ、さすがに誰が茅場かは教えてやらぬが。
そこは自分で見つけてみたまえ、主人公。
さあ。がんばれ。
●茅場
茅場晶彦。ヴァーチャルMMOソードアートオンラインの生みの親。ヴァーチャルマシン自体がこいつの発明。ヴァーチャルゲームのお約束のデスゲームを起こした犯人でもある。動機はガチのゲームだ、ガチでやれ。それでこそ、この世界は現実になる。という感じの、芸術家っぽいもの。俺のゲームは最高なんだ!と言いたいだけちゃうんか。
●「ダメージは……ゼロじゃ」
TRPGのアリアンロッド・サガのリプレイに登場するキャラクター、ゼパの決め台詞。防御主体のキャラメイクであり、最終的にはボスのダメージすら複数回こうなる。
●「佐山の姓は悪役を任ずる」
終わりのクロニクルより。佐山 御言のセリフ。誰も彼もが濃い中で、もっとも濃かったゆえに、まとめ役を担えた主人公。普通は苦労人になるはずが、逆に問題しかないメンバーらを振り回すほどマイペース。物語自体は、恐ろしいほどブ厚い。だが逆に考えてくれ。それだけたくさん楽しめる。そう考えてくれ。何より、完結はしているからこれ以上は増えないぞ。
●さあ、がんばれ
魔人探偵 脳噛ネウロより。アルファベットで書くとneuro(ニューロ)となって、神経学や神経の~を意味する英単語なのだなと、さっき発見。
週刊ジャンプ連載の、探偵ものではあるのだが、出てくるキャラや謎がどれも一味違う、推理なにそれ美味しいね。というものばかり。例「ドーピングコンソメスープだ」
作中のラスボス、シックスさんが部下に自害を命じた時のセリフ。
「正直罰なんてどうでもいいんだ ただ単純に… 君がそれで死ぬのを見たいんだよ さあ 頑張れ」
このガンバレは耳に残る。