それでも我輩はネコである。   作:far

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第5話

 我輩はラスボスであるらしい。なぜか、そういうウワサが出回っておる。はてさて。出所はどこであろうなあ。

 まったく心当たりがないのである。いやはや。これは、困ったものであるなあ。

 

 それとは関係がないが、どこぞの情報屋が犬が苦手で、本気で戦う時は全裸になるというウワサが流れておるようだ。

 はっはっは。どこから流れ始めた情報であるやら。不思議な話も、あるものであるな。

 

 まあ。ラスボス説に、裏付けのようなものを与えてしまったのは、我輩なのであるが。

 

 「お前が茅場ってのは、本当か」と、妙に思いつめた顔で、アゴヒゲのサムライが仲間を連れてやって来たことがあった。

 そして、つい悪乗りしてしまった我輩が「ならば、どうするね? プレイヤーの諸君」と返してしまった。

 

 なんか、問答無用で斬りかかられた。

 

 知人に死者がでたばかりで、気が立っておったらしい。

 集団で、連携して。「スイッチ!」などと複数人による、高度な連続攻撃が我輩を襲った。

 まあ、効かないのであるが。

 

「ダメージは……ゼロじゃ」

 

 かのドワーフのように、スキルや装備でダメージを打ち消したり、軽減した結果ではなく。単に、破壊するためのデータがないという、卑怯な存在であるがゆえの無敵。

 それだけに、スキルのように効果が時間切れになることも、使用可能な回数の上限がくることもない。

 先に、彼らの方の限界がやってくる。

 一度距離をとり、油断なく我輩を観察する彼らに、我輩はゆったりと声をかけた。

 

「気は済んだかね? なら、落ち着いて話をしようじゃないか」

 

 我ながら、紅茶かブランデーでもあったら、飲んでいそうなノリであったな。何となく、そういう気分であったというだけであるが。

 あるいは。現実の方で、ずっと先生のマネをしておるので、それが残っておったのかもしれぬ。

 

 そして彼らは何も言わず。そのまま撤退していった。

 うむ。今思えば、どう考えても、あれが原因であるな。

 まあ、やってしまったものは仕方がない。それに、分かったこともある。

 

 悪役を演じるのは、意外と楽しい。

 

 そうかあ。これが先生のやっていたことかあ。これは魔王を目指しても、ムリはない。

 

「佐山の姓は悪役を任ずる」

 

 あの名状しがたい、愛すべきバカな主人公もそう言っていた。

 

 魔王になることだけが目的ではなく、魔王としてふるまうこと自体も目的なのであるな。

 それゆえの、手段の制限。ボスの言うところの、しばりプレイ。

 魔王らしくないふるまいなど、無粋であるし、そんなものは楽しくないのだ。

 

 人生とは、楽しむことと見つけたり。

 

 どうなってしまおうとも、楽しむことさえ出来れば、それで良いのだ。

 我輩も、意図してはいなかったが、人生ブン投げたあとでも、こうして楽しめているわけであるし。

 

 また来るのかなあ。来たら次はどうしようかなあ。

 そうやって、ワクワクソワソワしながら、彼らを待っておったのだが。

 

 これがまた。寝ても覚めても、やってこない。

 

 確かに我輩はランダムで出現ポイントの変わる、ボーナスアイテムのようなものであるが。

 それにしても、遅い。

 どうしたのかと思っておったら、バッタリとこの世界の主人公、キリトと遭遇した。

 

「ああ、サチのダンナさんか。しばらくぶりであるな」

 

 一応面識があり、黒猫団の件では恩があり。昨今では茅場と言われている。

 そんな我輩に、どう反応したら良いものか。露骨に困っておったようなので、こちらから声をかけてみた。

 

 魔王の生徒はお休みである。彼を敵に回した場合、不可能を可能にして、我輩をどうにかしてしまうご都合主義が発動しかねない。主人公補正は、原作補正さんよりもきっと強敵だ。

 どこぞの素人童貞を思い出して、いや、そうでもないかも知れないという考えもよぎったが。彼とキリトでは、主人公っぽさが違うからなあ。

 

 キリトは「アンタは茅場なのか?」と、まっすぐに聞いていた。

 こちらを射るように、まっすぐ見つめる目。右手に油断なく握られた剣と、コマンドを打ち込むために空けられた左手。

 うっかり「そうだと言ったら?」と答えそうになる衝動を、何とか押さえ込む。

 

 いやはや、これは良い主人公であるな。我輩がこの世界に生まれておったら、遊んでもよかったのであるが。

 残念ながら客人に過ぎぬ今は、そうするわけにもいかぬのである。

 

「えっ。違いますけど」

 

 あえて敬語で言ってみた。

 「いや、でもクラインは…」「他人のやっているゲームを眺めているだけじゃ…」などと言い出したので。

 

「彼なら、普通のプレイヤーに混ざって、ハッスルしておるぞ?」

 

 ちょっと爆弾を投げ込んでみた。

 主人公で遊ぶわけにはいかぬが、こうして少し世界を引っかき回して遊ぶくらいは、きっと許されると思うのだ。

 人生とは楽しむものであるからね。仕方ないね。

 ふらっと立ち寄っただけの客人でも、それくらいの楽しみは、あって良いと思うのだ。

 

 まあ、さすがに誰が茅場かは教えてやらぬが。

 そこは自分で見つけてみたまえ、主人公。

 

 さあ。がんばれ。

 

 

 




●茅場
茅場晶彦。ヴァーチャルMMOソードアートオンラインの生みの親。ヴァーチャルマシン自体がこいつの発明。ヴァーチャルゲームのお約束のデスゲームを起こした犯人でもある。動機はガチのゲームだ、ガチでやれ。それでこそ、この世界は現実になる。という感じの、芸術家っぽいもの。俺のゲームは最高なんだ!と言いたいだけちゃうんか。

●「ダメージは……ゼロじゃ」
TRPGのアリアンロッド・サガのリプレイに登場するキャラクター、ゼパの決め台詞。防御主体のキャラメイクであり、最終的にはボスのダメージすら複数回こうなる。

●「佐山の姓は悪役を任ずる」
終わりのクロニクルより。佐山 御言のセリフ。誰も彼もが濃い中で、もっとも濃かったゆえに、まとめ役を担えた主人公。普通は苦労人になるはずが、逆に問題しかないメンバーらを振り回すほどマイペース。物語自体は、恐ろしいほどブ厚い。だが逆に考えてくれ。それだけたくさん楽しめる。そう考えてくれ。何より、完結はしているからこれ以上は増えないぞ。

●さあ、がんばれ
魔人探偵 脳噛ネウロより。アルファベットで書くとneuro(ニューロ)となって、神経学や神経の~を意味する英単語なのだなと、さっき発見。
週刊ジャンプ連載の、探偵ものではあるのだが、出てくるキャラや謎がどれも一味違う、推理なにそれ美味しいね。というものばかり。例「ドーピングコンソメスープだ」
作中のラスボス、シックスさんが部下に自害を命じた時のセリフ。
「正直罰なんてどうでもいいんだ ただ単純に… 君がそれで死ぬのを見たいんだよ さあ 頑張れ」
このガンバレは耳に残る。
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