それでも我輩はネコである。   作:far

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ザ・ラスト・オブ・オマケ の序章

 我輩は只人である。

 うむ。人として生まれたのであるな。それも、ごくごく普通の、一般人である。

 

 はい、そこ。疑わない。これ、本当にマジであるからして。

 

 名前も、ちゃんとある。姓は車、名は奉朝。そして字は悟空。

 

 悟空だ。

 

 うむ。一般人と言ったな? あれはウソだ。

 

 と、いうわけでもない。

 

 生まれた時は、確かに。まぎれもなく、まごうことなく。ただの農村生まれの一般人であったのだ。あったのだよ、うん。

 

 過去形である。

 

 そうであるなあ。ひとつひとつ、説明するとしよう。

 

 まず最初はだ。名前からいこうか。

 この姓と名と(あざな)という三つ。これは、中国式の名前であるな。

 その通り。我輩が此度生れ落ちたのは、中華の地であった。

 

 時代は(ずい)だったがな。

 

 日本では、遣隋使(けんずいし)で多少はなじみがあるであろうか。律令だか、平安だか、あのあたりの時代の、アレである。そうそう。小野妹子とかの、アレだ。

 実に三百年ぶりに中華統一を果たした、乱世を終わらせた王朝であるな。

 

 この王朝、二代で滅んだけどな。

 

 世界共通でたまに現れる、ダメな二代目。それが頂点に立ってしまい、ツブしてしまった流れである。

 本来は跡継ぎではない、次男坊で。権力争いを勝ち抜いたあたり。けっして無能ではないはずなのであるがなあ。

 

 父親が死んだ後に、長男を自害に追い込んで。という手口が、始皇帝の死後の秦の流れと一致しているあたりが、イヤな伝統である。

 その後、国が滅んだのも含めてな。

 秦が十五年、隋が三十七年で滅んだが。その差は初代皇帝の寿命の差が大きいのだよなあ。

 

 そして二代目が大工事を行おうと。民衆やら資材やらを、集めに集めた事も共通している。

 

 秦の方は、始皇帝の墓を造って財宝を収めるのだ。とか。一緒に生贄もね。とか。

 少しでも集合や工程に遅れが出たら、厳罰な。とか。

 まあ。色々とやらかしたらしい。

 

 一方、隋の方はだ。中華の南北を繋ぐ、大運河を造ろうとした。

 南船北馬と言われたり、主食が麦と米と違ったり。色々と分かれておった南北を近付ける、大きな一歩であるな。

 大きすぎて、人手が足らずに男だけでなく女も動員したが。

 

 高句麗などへも出兵をした。三回もした。そして大運河はできたが、こっちは全部失敗した。

 

 内政外征を両方積極的にこなしたのは、まあ、いいとしよう。

 だが、その負担はどこへかかるか、と言えばだ。

 我ら、一般人である。

 

 そうなると、待っているのは一揆である。中華名物、王朝末期の民衆の大反乱。二代目にして早くも発生。

 しかも一般人どころか、大臣あたりにとっても生活が苦しかったらしく。一揆だけでなく反乱も起きた。

 おまけに国の予算までもが苦しかったのだろう。それらを鎮圧しても、報奨が無かったりしたらしい。

 

 幼い頃から、かしずかれて育った者。

 皆が自分の言う事を聞いて当たり前。ゆえに褒める事も報いる事もしなくていいと認識していて、行為や好意、献身にも何も返せない者。

 隋の皇帝の二代目は、そういう人だったのではないだろうか。

 

 その二代目であるが。

 情勢が厳しくなってくるや、反乱勢力から逃げようと、後に長安と呼ばれる大興城から、江都へと都落ちする。

 その後は、すっかりやる気をなくして酒びたりになり。討伐の部隊が宮殿になだれ込んでくるまで、何もしなかったというが。

 

 彼としては、別に悪気があったわけでもなく。

 大運河も造り上げたし、国家運営をがんばっていたのに、なぜこうなったのか。

 そう思っていたのかもしれない。

 

 巻き込まれる側としては、ふざけんな。としか言えぬのであるがな。

 やーい。お前のかあちゃん独鈷加羅(どっこから)*1

 

 ふざけんな。というのは、アレだ。

 なにせ、こちらは一般人なのだぞ。そんな彼の思惑に付き合ってやる義理など無いのだ。

 いっそ、唐を起こす李淵に協力しようかと考えたほどである。

 

 「歴史変えちゃいますか?」

 

 その誘惑が、無かったとは言えない。

 これが日本の戦国時代だったならば。たぶん何がしかの動きをしたであろう。

 

 ただここ、中華なんだよね。

 

 ぶっちゃけ、くわしく知らないのである。

 

 歴史を変えてもね。正直、どう変わったかわからないという、悲しい事実。

 しかも変わったとしても、歴史書にそう書かれていただけで、実際は変わっていないとかそんな事がザラにありそうでなあ。

 

 それに地理的にもなあ。

 確か、唐って鮮卑系の、漢民族ではない人たちの王朝で。鮮卑って北方騎馬民族だったような覚えがある。

 それで我輩のいる村って、たぶん中華の南部なのだよなあ。だって米があるし。北に長江あるらしいし。

 うん、遠すぎるな。

 いかに空が飛べようとも、中華の南北縦断とか嫌なのである。

 

 ああ、うん。飛べるよ、空。

 

 こう、ひゅーん、と。ホウキで。

 

 うん。ホウキ。

 

 ハリポタ世界で覚えた、ホグワーツ式の魔法。久々の登場である。

 久々すぎて、少し忘れておるが。まあ、何とかなるであろう。

 

 皆には、仙術って言われておるけどな。

 

 と、いうのもだ。どうも、いるらしい。仙人さま。

 少なくとも、妖怪はおった。

 というか、村が襲われた。

 

 豚のような顔をした、二足歩行の。つまりはオークであった。

 村の、女たちがヤバい。

 そう直感した我輩は、それまで畑仕事や狩りで楽をするために、こっそりと使っていた以外で初めて魔法を使った。

 

 ウィンガーディアムレヴィオーサ

 

 魔法は間違いなく働き。浮かされて、どこへも行けなくなったオークは。

 村人たちの、よってたかっての投石や、離れたところからの棒や鍬での滅多打ちで討伐されて。そして燃やして埋められた。

 

 そんな容赦のない村人たちに、次は我輩が魔女狩りのような目にあったらどうしようかと、心底ビビっておるとだ。

 

「おう、助かったぜ!」「それ、そんなふうにも使えるんだな」「ありがとう!」

 

 などなど。

 村人らは口々に、普通にねぎらってくれるのだ。

 

 ()如何(いか)に。

 

 どういう事かと、うろたえていたのであるが。

 なんというか、うん。

 

 バレバレで、あったらしい。

 

 我輩としては。隠して使っていたつもりなのであるが。

 幼い頃。最初に仗が出た時だ。いつの間にか握っておった杖に、つい興奮して庭であれこれと魔法を使ったのが見られていたり。

 畑を耕すのが、やたらと早いので。どういうことかと影から見られていたり。

 そもそもエクスパルソと、耕す代わりに爆発で雑に処理しておったので、隠す以前の問題であったり。

 寝起きに寝ぼけていて、普通にアグアメンティで水を出して顔を洗ったりと。

 

 バレバレであったらしい。

 

 うむ。改めて聞くと、ひどいな。

 隠す気があったのか、とむしろ驚かれたわ。

 

 それでだ。

 バレてしまったのならば、と。魔法全開で、隠れ里を作って、村全部。どころか、近隣の村いくつかまとめて、ちょっと奥地へと引きこもったのだ。

 

 なおそのあたりの山の名は、花果山といった。

 水豊かな(ように創った)村、ということで、村の名が水簾洞となった。

 そして仙人ということで、仙人としての名が我輩に贈られた。それが悟空である。

 (あざな)というのは、一人前になった大人が名乗る名前でもある。そのついでで贈られた、という事なのだろう。

 

 それはいい。だが、しかしだ。

 

 今は隋の終わりの時代なのだ。

 つまりは、あの人が居るのだ。

 はるばるインドまで旅をして、帰ってきた男。

 大唐西域記を記し。般若心経など大量の経典を持ち帰って翻訳し。

 玄奘三蔵の名で現代まで名の伝わる、とあるソシャゲで女体化させられてエロ同人で活躍してしまう男が。

 

 それで悟空って、そのお供のひとりであるのだよなあ。

 

 史実だと、悟空って玄奘三蔵とは別の時にインドまで行った、他人らしいのであるが。

 西遊記だと、間違いなく行ってるのだよなあ。

 ただ行く前に、天界に仕えようとしたら、馬飼いの下っ端で採用されて。気に入らなかったんで大暴れして、ついでに反乱起こして。

 最終的にはとっつかまって、長年幽閉されてるんだよなあ。

 

 え。なに。待ってるの?

 我輩にも、そういう流れが、この後に待ってるのであるか?

 このままここで、平和な農村生活、税抜きゆっくり人生を送る気満々なのであるが。

 

 ええー。

 

 

*1
なお、マジでこの名前である。どこからー




○「歴史、変えちゃいますか?」
映画版、信長協奏曲のキャッチコピー。
桶狭間前にタイムスリップした軽い兄ちゃんが、そっくりだった信長に俺の代わりやって。と頼まれてオッケーだして始まる、桶狭間から本能寺への道。なおメインは帰蝶さんとのラブコメ。

○此は如何に
浦島太郎より。村へ帰ったら、長い年月が過ぎ去っていた浦島太郎のセリフ。
だが、あさりよしとおのワッハマンのやりとり
「帰ってみれば怖いカニ…」「此は如何にだっ!」
から取ってみた。カニに似た顔の刑事と、人形師なお爺さんの会話。
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