いや、マジで。
我輩は命名中である。なかなかに、しっくりと来る名前が思いつかぬのだ。
事の始まり、きっかけは、年明けの時であった。
百人がついたモチを献上され。はむはむと、意外とかわいらしく食べる白面さんのおすそ分けを、我輩もはむはむとしていた時だ。
年明けと言っても、旧暦しかないので旧正月なのだよなあ。
それと、つきたてであるから、何もつけずともいけるが。やはりきな粉や砂糖醤油が欲しい。
あとは初詣とか、行くべきであろうか?
でも今、我輩たちが神様の側であるので、ひょっとしたらば来てもらう側なのでは?
初詣(される側)
この立場は、さすがに新しい。新鮮な感覚であるな。
賽銭箱でも作ったら、一儲けできるか。とも思ったが。
まだ貨幣経済の段階にまで、社会や文明が発達しておらぬのだよなあ。
物々交換やら、村などの共同体での共有やら。そこいらへんで、止まってしまっておるのだ。
いま少し、あるいはもっと。文明が進んで、分業も進んで。人口も増えて、顔見知りでない人との取り引きも増えて。
そうなっていったら、交渉の手間を省くためにも、お金か、それに類する何かが重宝されてゆくのだが。
なったらなったで、法整備やら、金貸しとか融資の制度やらの諸々も必要になるので。
まあ、良し悪しである。
そういった相談がこちらへと来ず、したがって働かなくても良い。という意味で。
閑話休題。
さて。初詣をしてもらう、としてだ。必要なものがある。
場所だ。具体的には、神社であるな。
だって、初詣と言えば、神社なのである。
初詣行くよー。と彼女と出かけて、寺へ連れて行ったら「違くない?」って言われるじゃろ?
まあ、個人的な感慨であり。
実際はどちらへ行こうとも良いらしいのだが。
我輩は、初詣と言えば神社であり。お雑煮といえば、白味噌に丸いモチで。きのこたけのこで言えば、たけのこなのだ。
だが神社と言えば、その大元締めって大和朝廷の頂点の、あのお方であるのよなあ。
今現在、我輩たち独立国家ホッカイドーとは。もの凄まじく仲が悪い。というか、戦争中なのだよなあ。
その戦争の相手国の宗教を取り入れるとか、普通はありえないだろう。
なお。
戦況としては、夏、冬と二回に渡る小田原城攻防戦を経て、太平洋側からの侵略を諦めた大和朝廷が、日本海側からの侵攻を試みているところである。
その前に、駿府から甲府あたりに北上して、そこから東へと甲州街道を通って小田原城を迂回する試みもあったらしいのだが。
この時代は。関東はド田舎と言われるような場所であった。
甲州街道が後の五街道の一つといえども、今は大人数が通れるような、そんな道ではなく。
というか。家康が整備するまで、古甲州道として、一応は道ではあったものの。
川沿いというか。ただの河原だろ、そこ。というような場所もちらほらとあるような、未整備の道であり。
途中で勝手に断念して帰った、という。そんな後世に残りそうな笑い話な結末に。
無理に進軍しようとせずに、引き時を間違えなかったと考えると。一応は名将の采配に聞こえる。
だがしかし。真の名将であるならば、計画段階で。あるいは調査の兵を出して、その時点で侵攻を取りやめにする。
ゆえに、名将というのは気のせいであり。やはり、笑い話であるのだろう。
なお。日本海側は金沢から富山へすら、街道があるか怪しいという。
そんな、やはり計画段階で止めておけという話であるのだが。
ならば陸路ではなく、船で行こう。兵糧も沢山運べるし。
そんな発想の転換により、多数の船を仕立てるという多額の予算と引き換えに、侵攻を可能にしたのだそうな。
昨日、羅刹女が芭蕉扇で仰いで、ほぼ全部転覆させたけどもな。
久々に旦那に会うのを邪魔をするんじゃないよ! というのが彼女の言葉。
大陸から、日本へとやって来て。気付けば、我輩が連れてきた百鬼夜行も、散り散りになっておった。
あるものらは土地神やら、カムイやらになって、白面さんのように拝まれ、親しまれては、何やら恩恵を与える穏やかな日々を過ごしており。
あるいは、共同で創り上げた隠れ里に住み着いて、晴耕雨読の、これまた穏やかな日々をおくり。
あるいは、勝手に西へと流れて行っては、京で悪さをしたり、里で悪さをしたり、山で悪さをしていたりしておる。
おや? もしかして、大和朝廷がしつようにこちらを攻めてくるのは。
奴らの本拠地だと思われて、真面目に討伐に来てるのでは……
…………………
うむ。知らなかった事にしよう。
今更、こっちから出て行って野性化したただの妖怪です。と言っても、許してくれないであろうしなあ。
うむ。うちから出て行って、暴れている妖怪なんていなかった。
そういう事になったのである。聞かれてもすっとぼけるとしよう。百鬼夜行の面々にも、あとで忘れずに言っておこう。
さて、話を戻そう。
散り散りになっておった我輩たちであるが。
旧正月という節目に。丁度よいから、一度集まってみないか。
我輩が、思いつきでそう提案したのである。
そして婢妖のお使いによる伝言で連絡も取れ、集まることになって。
そこに船団での侵攻のお知らせが届いてしまって。
楽しみすぎて、早めに来ていた羅刹女さんがお怒りになった、と。まあ、そういう流れであるな。
なお、西に行った奴らとは、あまり連絡が取れなかった。
見つからなかった連中のおおよそは、長髪で槍を使う侍に討ち取られたらしい。
うむ。獣の槍だな。
あの時、我輩が適当に放り投げた槍は、ちゃんと日本へと届いていたらしい。
途中で海にでも落ちていれば、面倒がなかったのだが。
そんなこんなの、雑多な思いを。年始の寝ぼけた頭で考えるともなく、考えながら。
はむはむと、モチを食しておった我輩に、天啓が降りてきた。
そうだ。獣の槍も、祀ってしまおう。
白面さんも、我輩が混じったのもあるが、神様になってだいぶん落ち着いた。
獣の槍も祀ってしまえば、そうそう関東や東北までは持ってこられまい。
実際に役に立つからと、三種の神器を戦に持っていかせてください。と願い出ても却下されるようなもんである。
さいわい、妖怪退治の実績がすでにある。霊験あらたかな槍であると、持ち上げる必要もなく祀る下地ができておる。
槍の中の人であるギリョウさんも、祀られている間に荒御魂から和御魂に変わってくれることを祈ろう。
大和朝廷とも、今回の事で手打ちに出来る可能性が高い。
向こうにとって、こちらは所詮は田舎。化外の地である。
妖怪を暴れさせているのは、ホッカイドーではないと説得し、境界を定めて、そちらへは決して攻め入らないと確約すれば、和平もなせるであろう。
大量の船と兵を失って、立ち直る時間が欲しい今ならば、成せるはずだ。
槍と国と。両方が落ち着いたのならば、おそらくはそこまでだ。
今回の出張は、おそらくはそこで、お仕舞いであろう。
というか。それ以上何かしろと言われても困る。
これ以上と言うと。もはや、アイヌ民族の一部が縄文時代にシベリアからアラスカへと渡ったらしいので。
その縁を辿って、アメリカ先住民族らへも介入しての、文明育成ゲーム再始動くらいしか思いつかぬ。
あるいは、逆に南へと進み。
オーストラリア大陸を緑化しての神様ゲーム再次。というあたりであろうか。
さすがに太平洋に巨大な島を用意しての、ムー大陸実在伝説とか。
あるいは欧州へと飛び、ウワサを流した後に、婢妖を大量に使った浮遊島を作って軍と少年少女らを導く、ラピュタは本当にあったんだクエストとか。
さすがに。白面さんが付き合ってくれるとは限らないのである。
自分に名前をくれて、祈って、頼って、笑いかけて。
そんなホッカイドーの民を、白面さんが放って旅に出てくれるとは。我輩は思えぬのだ。
一、二年。遊びに出るくらいならば、付き合ってくれる気もするが。
まあ、そうなったら、そうなった時の事である。
後の事は後で考えよう。
今は、名前だ。命名を、考えねばならぬ。名前は、大事だ。
獣の槍を祀る神社の名前は、なんとしたら良いであろうかなあ。
ふうむ。
いっそ白面さんに、決めてもらおうか。
なあ、相方よ。少しばかり、相談があるのだが……