我輩たちは密談中である。お相手はアルゴくんと、茅場がプレイヤーの誰かであると、ウワサをばら撒いてしまったキリトだ。
キリトが我輩がぽろっとこぼした話を、バラ撒かなければなあ。ここまで大きな話にはならなかったであろうになあ。
え? あんなことを誰かに言われたら、相談するだろって?
「いやいやキー坊。そこは、広まらないように、相談する相手を選べヨ」
アルゴくんが、我輩が言いたかったことを代弁してくれた。まったくその通りである。
というか、誰に相談したのであるか?
エギル? 誰であったっけ? ハゲの商人? ああ、あの。で、店で話してたら、誰かが聞いてて、そこから広がったらしい、と。
ふうむ。アルゴくん。この少年に、情報の扱いについて、なにかひとこと。
「ダメダメダナ」
本当にひとことであるなあ。まあ、やってしまったことは仕方が無い。
事態の解決をはかりたいのであるが、相談に乗ってくれるかね?
と言っても、我輩は動けぬ。相談だけではなく、実行もそちら任せになるけれども。
黙ってうなづく二人に、まずは情報をブチ撒ける。
茅場晶彦は、ヒースクリフを名乗って、騎士団の団長をやっておる。
第九十層か、そのあたりで「今明かされる衝撃の真実! 実は私が茅場だったんだよ!」とラスボス化しようと企んでいる。
それまで死ねないので、体力が五割を切ろうとすると、回復する仕様です。
ラスボスになるための練習をつんでいるらしく、ソードスキルに対する対策は万全だ。
彼だけはログアウトできる仕様で、たまに現実でリフレッシュしている。
自分がログインしている間は、恋人っぽい人に現実での対処を任せている。
こんなところであるかな。
うん? どうした二人とも。目が死んでいるであるが。
「信じられるかぁっ!」
お、おう。急にどうしたキリト。大声でこの情報を叫んで、拡散したくなったのであるか?
なにやらそれっぽいことを叫ぼうとしていたらしく、キリトが慌てて自分の口をふさぐ。
大方、騎士団長のヒースクリフが黒幕だなんて信じられるか、とでも叫ぼうとしたのであろう。
そんなキリトを若干あきれた目で見ながら、アルゴも信じられないと口にした。
「攻略に熱心で、ユニークスキル持ち。大手ギルドのギルドマスター。普通に考えたラ、ありえないダロ」
普通の犯人なら、もっと自重すると?
はっはっは。何を言うかね。普通の人は、デスゲームなんて主催しないのだぞ。
しばらく考え込んだアルゴくんに、証拠は? と聞かれたが、そんなものはないんだよなあ。
まあ、いいや。ウワサの大本であるので、収拾に手を貸そうと思ったが、どうにもならずとも我輩は困らぬ。
君らが放置すると言うのであれば、それはそれで仕方が無い。
好きにすると良いのである。なに、なるようになる。
いや、無責任なと言われても。我輩は動けぬ身であるし。ウワサをバラ撒いたのはキリトであるし。
知っていることを全部吐いて。それを信じられないと言われたら、もうやれることは無いと思わぬか?
「俺たちにどうしろって言うんだよ」
スネるなよ、少年。言ったであろう? 相談に乗ってくれと。そして実行してくれ。それが我輩の望みである。
我輩だけで考えても、この天空に浮かぶ塔から落としたら、さすがに死亡判定が出ないか、とか。茅場の愛するアインクラッドそのものに、全プレイヤーで破壊活動をしかけたら、キレて戦ってくれないかとか。そんな案しか出なかったであるからなあ。
なお塔から落とす際は、途中でログアウトせぬよう縛り上げて、ログアウトボタンを押せぬようにしておくのが望ましいな。
いや、そこで引いてくれるな。確実に仕留める手段が思いつかない以上、可能性を少しでも上げるために徹底するのは、やむをえぬのだからして。
「でも確信を持てない状態で、そういう手段に出るのは、ちょっとなあ」
しかし正体を確認してしまったら、茅場は逃げるぞ。最上階で待っている、とか言って。
「じゃア、両方いっぺんにやったらいいダロ。オレっちにまかせナ。正面突破ダ!」
えっ。なんか思いついたであるか?
ふんふん。えっ、ヒースクリフの前で名乗りを上げて、茅場と名指ししての一騎打ちの申し込みであるか? 色々大丈夫であるか、それ?
いや、まあ。そちらが良いのなら、いいのであるが。あとは任せた。我輩、そろそろ眠いのだ。
くわしく聞かないのかと? 聞いても、何もできぬのでなあ。結果だけ教えておくれ。
いや。うまくいったら、ゲームクリア。教えてもらうまでもなく、わかるな。
では、がんばっておくれ。健闘を祈るのである。
そうして我輩は、牢獄に囚われた現実へと帰還して。
以降、どれほど深く瞑想をしても、あの巨大な塔には行けなくなった。
彼らがあのゲームをクリアしたのか。それともゲームオーバーになってしまったのか。
ゲームオーバーには、プレイヤーが全滅しないといけないので、期間が短すぎる。おそらくはクリアしたのであろうと思うのだが。
所詮、ひとときの客人であっただけの我輩には、もはや知る由も無い。
せめてクリアして、そのあとも上手くいっていて欲しい。そう、祈るだけである。
瞑想のつながる先は、次があるのかどうかすらわからぬ。
あの世界への心残りもある。
であるが、まあ。とりあえずは。悪い夢ではなかった。今はそれで、よしとしよう。
この牢獄からではあるが、別れを告げよう。
ありがとう。ごめんなさい。そして、おさらばである。
百話積み重ねたあとのシメと、八話のそれでは重さも何もかも違うのだなあ、と。
時は流れない。それは積み重なる。サ○トリーだったかのCMのキャッチコピーだけど、そんな感じです。