それでも我輩はネコである。   作:far

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第7話

 

 我輩たちは密談中である。お相手はアルゴくんと、茅場がプレイヤーの誰かであると、ウワサをばら撒いてしまったキリトだ。

 キリトが我輩がぽろっとこぼした話を、バラ撒かなければなあ。ここまで大きな話にはならなかったであろうになあ。

 え? あんなことを誰かに言われたら、相談するだろって?

 

「いやいやキー坊。そこは、広まらないように、相談する相手を選べヨ」

 

 アルゴくんが、我輩が言いたかったことを代弁してくれた。まったくその通りである。

 というか、誰に相談したのであるか?

 エギル? 誰であったっけ? ハゲの商人? ああ、あの。で、店で話してたら、誰かが聞いてて、そこから広がったらしい、と。

 ふうむ。アルゴくん。この少年に、情報の扱いについて、なにかひとこと。

 

「ダメダメダナ」

 

 本当にひとことであるなあ。まあ、やってしまったことは仕方が無い。

 事態の解決をはかりたいのであるが、相談に乗ってくれるかね?

 と言っても、我輩は動けぬ。相談だけではなく、実行もそちら任せになるけれども。

 黙ってうなづく二人に、まずは情報をブチ撒ける。

 

 茅場晶彦は、ヒースクリフを名乗って、騎士団の団長をやっておる。

 第九十層か、そのあたりで「今明かされる衝撃の真実! 実は私が茅場だったんだよ!」とラスボス化しようと企んでいる。

 それまで死ねないので、体力が五割を切ろうとすると、回復する仕様です。

 ラスボスになるための練習をつんでいるらしく、ソードスキルに対する対策は万全だ。

 彼だけはログアウトできる仕様で、たまに現実でリフレッシュしている。

 自分がログインしている間は、恋人っぽい人に現実での対処を任せている。

 

 こんなところであるかな。

 うん? どうした二人とも。目が死んでいるであるが。

 

「信じられるかぁっ!」

 

 お、おう。急にどうしたキリト。大声でこの情報を叫んで、拡散したくなったのであるか?

 なにやらそれっぽいことを叫ぼうとしていたらしく、キリトが慌てて自分の口をふさぐ。

 大方、騎士団長のヒースクリフが黒幕だなんて信じられるか、とでも叫ぼうとしたのであろう。

 そんなキリトを若干あきれた目で見ながら、アルゴも信じられないと口にした。

 

「攻略に熱心で、ユニークスキル持ち。大手ギルドのギルドマスター。普通に考えたラ、ありえないダロ」

 

 普通の犯人なら、もっと自重すると?

 はっはっは。何を言うかね。普通の人は、デスゲームなんて主催しないのだぞ。

 

 しばらく考え込んだアルゴくんに、証拠は? と聞かれたが、そんなものはないんだよなあ。

 

 まあ、いいや。ウワサの大本であるので、収拾に手を貸そうと思ったが、どうにもならずとも我輩は困らぬ。

 君らが放置すると言うのであれば、それはそれで仕方が無い。

 好きにすると良いのである。なに、なるようになる。

 いや、無責任なと言われても。我輩は動けぬ身であるし。ウワサをバラ撒いたのはキリトであるし。

 知っていることを全部吐いて。それを信じられないと言われたら、もうやれることは無いと思わぬか?

 

「俺たちにどうしろって言うんだよ」

 

 スネるなよ、少年。言ったであろう? 相談に乗ってくれと。そして実行してくれ。それが我輩の望みである。

 我輩だけで考えても、この天空に浮かぶ塔から落としたら、さすがに死亡判定が出ないか、とか。茅場の愛するアインクラッドそのものに、全プレイヤーで破壊活動をしかけたら、キレて戦ってくれないかとか。そんな案しか出なかったであるからなあ。

 なお塔から落とす際は、途中でログアウトせぬよう縛り上げて、ログアウトボタンを押せぬようにしておくのが望ましいな。

 

 いや、そこで引いてくれるな。確実に仕留める手段が思いつかない以上、可能性を少しでも上げるために徹底するのは、やむをえぬのだからして。

 

「でも確信を持てない状態で、そういう手段に出るのは、ちょっとなあ」

 

 しかし正体を確認してしまったら、茅場は逃げるぞ。最上階で待っている、とか言って。

 

「じゃア、両方いっぺんにやったらいいダロ。オレっちにまかせナ。正面突破ダ!」

 

 えっ。なんか思いついたであるか?

 ふんふん。えっ、ヒースクリフの前で名乗りを上げて、茅場と名指ししての一騎打ちの申し込みであるか? 色々大丈夫であるか、それ?

 いや、まあ。そちらが良いのなら、いいのであるが。あとは任せた。我輩、そろそろ眠いのだ。

 くわしく聞かないのかと? 聞いても、何もできぬのでなあ。結果だけ教えておくれ。

 いや。うまくいったら、ゲームクリア。教えてもらうまでもなく、わかるな。

 では、がんばっておくれ。健闘を祈るのである。

 

 

 

 そうして我輩は、牢獄に囚われた現実へと帰還して。

 以降、どれほど深く瞑想をしても、あの巨大な塔には行けなくなった。

 彼らがあのゲームをクリアしたのか。それともゲームオーバーになってしまったのか。

 ゲームオーバーには、プレイヤーが全滅しないといけないので、期間が短すぎる。おそらくはクリアしたのであろうと思うのだが。

 所詮、ひとときの客人であっただけの我輩には、もはや知る由も無い。

 せめてクリアして、そのあとも上手くいっていて欲しい。そう、祈るだけである。

 

 瞑想のつながる先は、次があるのかどうかすらわからぬ。

 あの世界への心残りもある。

 であるが、まあ。とりあえずは。悪い夢ではなかった。今はそれで、よしとしよう。

 この牢獄からではあるが、別れを告げよう。

 ありがとう。ごめんなさい。そして、おさらばである。

 

 

 




百話積み重ねたあとのシメと、八話のそれでは重さも何もかも違うのだなあ、と。
時は流れない。それは積み重なる。サ○トリーだったかのCMのキャッチコピーだけど、そんな感じです。
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