Re:ゼロから帰ってきた異世界人〜Parallel・The・Walking・Dead~   作:伊吹恋

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7話「敵」

〜2年前〜

それはまだ春になったばかりの頃。寒い厳しい季節を乗り切り、暖かい日差しと共に作物や木々の葉が生い茂り花が咲き始めていた頃。

 

「壁の補強は滞りなく済んでる。後はゾンビ達を近づけないように罠を貼ろう」

 

屈強な男達が何人か集まりひとつの大きな円卓の前に集まり図形が書かれた紙を見ながら話し合いをしている。

何人かの男はライフルやショットガンを担いでいる。

 

「それなら木を使って槍にして地面に刺しておこう。奴らは考える頭がない。地面に刺さった槍に突き刺さったところを警備が巡回して仕留める」

 

「よし、それで行こうか」

 

男達の中から一人の男は地図に指を指す。

 

「街の東と西の入口500メートル方面で展開させよう。その後警備を拡大させて1キロ、3キロと槍の数を増やす。それを見た生存者に俺達がいるという確認も出来るだろう。作業は明朝から。それまで各々身体を休めてくれ」

 

「「「了解」」」

 

「ではこれで円卓会議を終了する」

 

男の合図と共に会議室を出ていく男達。そこに少し黒ずんだ服を身に着け、手は血で黒く染めてきたミツルがやってくる。円卓会議室から出てくる人々から肩に手を置かれたり「お帰り」と声を掛けられる。

 

「満?」

 

リーダーの男はミツルに気が付き近づいて話しかける。

 

「…親父」

 

ミツルは不安そうに父親の顔を見る。

彼は外に出ていた。目的は数年前から行方不明になっている弟を探すため。ミツルはこの世界がこうなる前から弟を探していたがその手掛かりは一向につかめず、こんな世界になっても探し続けていた。

 

「昴は?」

 

父の問いかけにミツルは首を横に振る。今回の探索もダメだったということ。情報は何一つなし、ミツルからしたら絶望的な状況。もう弟が生きているという真実を知るのも望み薄の状態だ。

 

「無事だよ。アイツはいつもそうだ…ふらっと出てきてふらっと居なくなって…いざというときに機転が利く。まあ、部屋に引きこもりすぎてたがな…」

 

父は笑いながらそういう。腰のベルトに付いているホルスターに手を置き、顎にはやしている髭を触る。

 

「お前らは俺の最高の息子達だ。いつかお前ら兄弟が助け合いこの危機を乗り越えることを願ってるよ…」

 

父はミツルの肩に手を置き微笑む。

 

「親父…」

 

「さて、そろそろ仕事の時間だ。お前も明日また昴を探すんだろ?ゆっくり休んでおけ」

 

「ああ…」

 

ミツルは自室に眠りにつく。この後の悲劇の足音に気がつかず…。

 

 

それはこの数時間後のことだ

 

 

カンカンカンカン!

 

「っ!?」

 

警報の鐘の音と共にミツルの意識は睡魔から取り戻し、寝ぼけながらも拳銃に手を伸ばし銃身を取りホルスターに収めベットから飛び起き部屋を出る。

 

辺りは暗く頼れるのは松明に付いた炎の灯と雲の隙間から覗く月の光のみ。そんな暗い暗闇の中で大声が周りに響き渡る。

 

「敵襲だああああ!!」

 

男の声と共に再び鐘の音が響き渡る。

ミツルも外に出て行き高台へと梯子を使い上ると状況確認のために周囲を見渡す。

 

「…」

 

凝らして見てみるも夜の闇が広がるばかり。そしてあるものが静かに闇月明りと共にその正体を現す。

 

「っ!」

 

そこに居たのは、数百もの歩く死体たちだった。

 

「ウソだろ…!」

 

街の壁の高台には既に大人達が武器を手に何人も集まるが、これでも勝てるかどうか見込みがない。ミツルは下唇を噛みながら武器を握りしめる。

 

「なぜ今まで近づいていることに気が付かなかったんだ!」

 

「偵察隊の連中はどうした!?」

 

何時もなら回避出来た状況。しかし今回に関しては何かが違った。ミツルは唾を飲み込み考える。なぜ今回はこんなにあっさりと敵を見過ごしたのか。しかしその答えは直ぐに気づけた。前方から歩いてくる死体を見て。嫌な予感は確信に変わる。

 

「殺されてる…」

 

ミツルのボソッと声に出し、ある物を指さす。

 

そこに居たのは、彼らの偵察隊が歩く死体となっていた。しかも暗闇で見えにくいのもあったが遺体には目立った外傷がない。あるのは胸にある弾痕。

それが指す答えは、『他コミュニティの攻撃』

 

その日、集落の1つが一夜にして滅んだ。

 

 

~現在~

 

ガシャン!という音とともに男たちが慌てた様子で入ってくる。それぞれが銃に手を持ち辺りを見渡す。

 

「早く来い!」

 

男たちは手を取り合い建物の中に入っていき、男たちの人数は5人。全員入ったことを確認すると建物の入り口を固く閉じる。

 

「畜生!こんなの聞いてないぞ!ただの探索任務だと思ったら死体どもの群れに遭遇するなんて!」

 

一人の男が周囲にあった椅子を蹴り飛ばし喚き散らす。それをライフルを持った男がそれを静止させる。

 

「落ち着け!生き延びるためにも全員冷静になれ!」

 

「冷静になれ?こっちは弾も少ない!そのうえ後ろには感染者の山だ!今命が危険に晒されているのに冷静になれだと!狂ってんのか!」

 

「今までも命が危険に晒されてただろう!全員弾数の確認をしろ。5分後には感染者がやってくるぞ。その前に隠し通路を使って前線部隊と合流する」

 

拳銃からマガジンを取り出し弾数を確認をし出す男たち。

 

「なら、手伝ってやるぞ」

 

「「「ッ!!」」」

 

不意の声にその場の全員が銃を声のした方向である暗闇の通路に全員銃口を向けた。

 

「撃つな!全員撃つなよ…」

 

暗い通路からカチャッと何かを置く音が聞こえる。そして地面に金属を擦るような音とともに大きな銃が姿を現した。

更に暗闇から二丁の拳銃も出てくる。

 

「いいか!?今から三人姿を現す!だが絶対に撃つな!敵意はない!」

 

銃を構える5人の男たちは目配せをしながら隊長と思わしき顎鬚を蓄えた男を見る。顎鬚の男は首を縦に振るが銃を下ろさない。

 

「よし、姿を現せ!」

 

暗闇の通路に向かって大声で回答するとコツ…コツ…と小さく足音が鳴る。その音は三人分あり、暗闇から建物の隙間から入る太陽の光によりその三人の姿を現す。

 

「落ち着け…撃つなよ…」

 

そこから現れたのは、黒いジャケットに腰にはベルトに括りつけたマチェットを差している。オールバックのロングストレートの髪の毛、無精髭を生やした青年。

その青年と少し顔つきが似ており服装はジャージを着た少年。そしてその少年の傍らにいるあまり汚れが目立たないメイド服を身に纏った水色の髪をした小柄な少女が現れた。

 

「…感染者が来るんだって?詳しい話を聞きたい」

 

 

 

〜数分前〜

 

カシュッ

AKのコッキングレバーを引っ張り銃弾を薬室に流し込み、カチッとセーフティを指で下に降ろし銃を撃てる様にする。

 

拳銃も同様にマガジンカートリッジの中に弾がある事を確認しスライドを引いた。

 

「いいか2人とも…ここを…動くな」

 

ゆっくりと部屋の隅を指さすミツル。その瞳は橋での戦いを退けた時と同じ、狂気と殺意を孕んだ邪悪な瞳だった。

 

「あに―――」

 

伸ばした腕は本能的な物なのか、腕を引いた。

あの殺意に手を伸ばせば殺されるのでは無いか?本能がそう危機を察知してスバルの行動を静止する。

 

ここで兄を行かせれば大勢が死ぬ。もしかしたら兄が死ぬかもしれない。ここで止めるべきだ。

 

仲間をもう失うのや嫌だ。

 

「兄貴!待ってくれ!」

 

「…スバル…ここに居ろ…」

 

ゆっくりと冷たい瞳がスバルを見つめる。

 

「ダメだ!兄貴殺しちゃいけない!!」

 

「バカ抜かせ…あいつらは俺たちを殺すために戻ってきたんだ…今窓から確認できた…5人だ。5人なら奇襲でもすれば一瞬であの世送りにできる…」

 

「じゃあ、あれも窓から見えたのか?」

 

スバルは窓の外を指さす。ミツルはスバルの顔をじっと見ていたがスバルの指さす方向に瞳を向けた。

外の生い茂る茂みがゆっくりとだが動いた。そしてうめき声。しかもそのうめき声は一匹や二匹じゃない。何十もの数のうめき声だ。

 

「おいおいおいおい…冗談だろ」

 

死体どもだ。しかも大群でこちらの方向に向かっている。ミツルたちが見つかったという理由でこちらに向かってきているとは考えにくい。後考えられる理由はあの5人。あの5人は追われていた そう考えるのが自然だ。あの銃も流れ弾によるものなのか?ミツルの顔からは殺気ではなく、焦りのものに変わる。

 

「もし奴らならわざわざ乗り込んでくる必要がないはずだ。俺たちを感染者に囲ませてしまえばいい。彼らは敵じゃない…兄貴…話し合おう…そうすればこの危機で的状況から抜け出せる」

 

「……」

 

額にたまった汗を腕で拭い頭に手を置き壁に額を当てる。

 

考える最善の策。わざわざこの建物に避難する意味…ここを通るくらいなら迂回して逃げていけばいい。この建物は廃ビルだが建物が密室しているわけじゃない。人が2~3人ほど通れるスペースもある。じゃあなぜここなのか。

 

「何かとっておきの武器をここに隠してるんじゃないか?ロケランとか機関銃とか…」

 

「いやそれはない。隠す場所がなさすぎる。そんなものがあれば俺たちがとっくに見つけてるだろ…考えるとしたら銃じゃない…」

 

「脱出経路があるのではないでしょうか?出なければ彼らがここを通る必要がないかと…」

 

もう感染者が近くまでやってきた。長居し続けてたらそれこそ危険だ。もう一刻の猶予もない。

 

「二人とも、下に降りるぞ、だがスバル忘れんな、奴らが敵だと分かった瞬間俺は奴らを殺す!その時はお前も腹を括れ、相手が人間だろうが関係ない、皆殺しだ」

 

「…わかった」

 

ミツルはスバルから目を離すと銃の弾を空の弾倉に変えてコッキングレバーを引っ張り薬室の弾を抜いた。

 

「この銃は奴らに渡す。警戒をされないようにな。だがスバル、お前は拳銃を渡すな。もし撃たれそうになれば銃を抜け」

 

「わかった」

 

「レムもだ、いざとなればあの氷の塊を出して奴らにぶっ放せ。生き残るためだ」

 

「承知しました。ミツルさん」

 

拳銃のマガジンも取り出してスライドを引くと弾が宙に飛んだ。それを片手でキャッチした後にレムにも声をかけて再度確認を取る。二人の確認を取ると拳銃のマガジンを空弾倉に変え、ミツルはリュックを背負う。

 

「よし…交渉するか」

 

~2年前~

 

燃え盛る家に群がる死人たち。車も燃えている。血まみれの青年の近くの地面には何体かの死体が彼の周りを囲むように倒れており、その中心には青年が拳銃を握った状態で涙を流し地面に膝をついていた。

 

「……」

 

彼はただ黙って転がっている死体たちに視線を向ける。全員の頭には銃弾で撃たれた跡があり、腕などには嚙み傷があった。

 

「………………あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

その日、一つのコミュニティが崩壊し一人の青年は友人も、仲間も、親も失い生き残った。

そして彼は変わった。生き残るために泥水を飲み、地に這うネズミを喰らい、死人を殺し、生きるために生きた人間も殺した。

復讐の為に、彼の眼には闇が宿った。暗い暗い闇のような黒い眼はただ虚空を見つめていた。

 

その姿はまるで、

 

 

 

 

 

生ける屍のようだった。

 

 

 

 

 

 

 


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