Re:ゼロから帰ってきた異世界人〜Parallel・The・Walking・Dead~ 作:伊吹恋
~スバルside~
突然だが、俺は死んだ事がある。別に前世の記憶があるとか変な電波を拾ったとかそういう事じゃない。俺は実際に死んで時間を戻っている。俗に言う『死に戻り』というやつだ。これは俺がレム達の世界に飛ばされた際に得た特典みたいな物らしく、俺は何度もこの力で未来を変え、運命に抗ってきた。
そして俺は自分の世界に戻り、この力が発動した。
それは今俺達が話している兵士達に兄貴が襲撃を仕掛け全滅させた所から始まった。
「スバル!向こうを押せ!」
兵士たちを奇襲攻撃で難なく全滅させた兄貴と俺たちは合流すると入口には無数の死体共がやって来た。勿論応戦できる数でもなく、俺たちはバリケード作り何とかしのいでいたが、遂に突破されてしまう。死体共を倒していくもののすぐに弾はつき、死体の群れが押し押せてきた。
「畜生!下がれ!一旦後退するぞ!」
兄貴の声と共に響き渡る銃声。地面には撃ち放たれた弾の薬莢がカラカラと地面に落ちる音が小さく響くが、それをかき消すように獣たちの声が耳に入ってくる。
無数の死体たちは俺たち餌を喰いにその鋭い歯をむき出しにやってくる。
「畜生!!」
弾が尽きたアサルトライフルを地面に落とし拳銃を持ち変える兄貴の横から死体が兄貴の腕をつかむ。
「ッ!!」
死体の歯は兄貴の二の腕に噛みつき、兄貴の腕から鮮血があふれ出す。
「がああッ!!」
死体の歯を振りほどき拳銃で噛みついた死体の頭を撃ちぬいた。
兄貴の腕から滴る鮮血は腕を伝いやがて手の指に達し、赤い雫が地面にポタポタと落ちていく。
「あ…あぁ…あに―――」
その時のことは死に戻った後でも鮮明に思い出す。腕を振り「先に行け!」と叫ぶ兄貴。俺の腕を取り先導してくれるレム。その光景はスローモーションのように時が進んでいるように思えるくらいゆっくりと動いていた。
最後に兄貴を見たのは、奴らに取り囲まれ、首から鮮血が噴き出ても銃を撃ち続ける兄貴の姿だけだった。
「あ…ああ…!」
ゆらゆらとあの死体どもの様に活力を失ったような歩き方をしながら俺はレムと二人で逃げた。そして俺たち二人も死体に囲まれ、俺たちが無残にも生きながら腹を裂かれ、内臓を食い散らかされた。
その死ぬ瞬間に俺の視界に入ったのは、感染したであろうレムの遺体が動き出し、そして群がる死体をかき分けて俺の肉を喰いに来た
兄貴の姿だった。
「ッ!!」
不意にその時のことを思い出し、俺は強烈な吐き気に襲われる。
「どうしたスバル…体調が悪いのか」
「いや…大丈夫だ」
のどまで来た胃酸を何とか押し込み俺は踏みとどまった。俺はあの時のことを思い出してしまった。元の世界でも死に戻りが発動し、俺が目を開けると再び兄貴が踏み入る瞬間まで戻っていた。だけど、あの感触は覚えている。腐った死体が俺の腹を割り、内臓をその手に取り口に運んで貪り食うあの瞬間を、レムが首元を噛まれ、血が噴き出て、俺を喰いに歩いてきたレムと兄貴の姿。その時俺はこの世界に絶望した。希望も何もないこの世界を…。今でも思い出す。あの死体どもに腹を裂かれた時の熱を…感覚がまだあるのか内臓を噛まれた瞬間のあの痛み…だからこそ、今回は失敗しない…!
俺たちは現在、下の階で合流した特殊部隊員たちに身体検査などを受け、武器チェックを済まされた。だが彼らは俺たちの武器を押収するどころか弾のおまけもつけて返してくれた。
向こうも人手がいるらしい。それはそうかもしれない。今外には大量の感染者の群れが迫っている。そんな中でここでやり合ってもメリットはこちらにも向こうにもない。ならお互いが特になることを考えた方がいい。
「ホラ、弾は大事にな…」
弾が入った箱を兵士が俺の手に渡しにこやかに仲間の元に戻る。
兄貴の銃を拾い兄貴に渡そうとするがその時男はつぶやいた。
「いいか、少しでもおかしなマネしてみろ…お前をもう一度お天道様に拝めなくするからな…よく覚えとけ…」
「…手元が狂わないようにしておこう…人と組んで戦うのは後ろにいる彼女くらいなんだ…」
「…なら今のうちに俺たちの顔を覚えておけ…」
銃を受け取り兄貴の目線が男の左胸辺りに行った。目線の先にあるのは男の名札だ。名前は武田明という名前が書かれている。
「…わかった、明」
明という男はフッと笑い兄貴の肩をポンポンと手を置いた。
「その調子だ」
既に隊員の三人がある部屋に移動して何かをしている。手にはバールを持っており地面のタールに軽く擦るようにからからと音を立てている。
「…彼らは一体何をしてるんだ?」
ミツルは手に持っている拳銃に弾を装填させてホルスターに仕舞いながらアキラに問いかける。
「抜け道を探してる。ここはあと少しで腐れ野郎どもでいっぱいになる」
「抜け道?こんなどこでもあるような建物に抜け道があるのか?」
「ああ、ここは昔の大戦で空爆を逃れるために作られた防空壕だったんだ。それを俺らは使ってるってとこだ。前にここを通った時に銀髪の少女が倒れててな…あれはびっくりしたよ」
「…銀髪の少女?」
ミツルはある情報を思い出しアキラに聞いてみる。
「その少女の名前は?」
「エミリアだ…外国人っぽかったなぁ…だけど流暢な日本語も話してた。ちょいと変わった娘だったよ」
何という事か、ミツルはまるで神はまだ自分たちを見捨ててなかったと言わんばかりの笑顔をしていた。
エミリア。
スバルが渡った異世界の住人の名前。同一人物かどうか見て見ないとわからんがスバルの言っていた情報と合致する。
銀髪のハーフエルフ『エミリア』
ミツルは希望を捨てなくてよかったと安堵の涙が一雫頬を伝った。
「そうか…!そうつぁ朗報だ…!」
ミツルはさっそくこの朗報をスバルに伝えるために走り出した。
当然、スバルとレムは喜んだ。
この世界にはまだ希望がある。今日はそれが確認できた。
すぐそこに絶望が歩んできていることを忘れて。
朗報を伝え数分、バリケードを張った入り口からうなり声が大きく聞こえるようになってきた。
「不味いぞ…!」
ショットガンを持った梶原と書かれたネームプレートを胸に付けている青年が顔色を変える。
「来たぞぉぉ!!感染者だ!!」
大声を上げる梶原と同時に閉めている入り口からドン!ドン!と何かを大きくぶつける音が鳴り響く。
梶原はすぐに両手をドアに手を当てて全体重を使いドアを反対に押さえる。
だが、数体の感染者の力はあまりにも強い。よってバリケードを張っていても梶原の身体は少しずつ押されていく。
「くっ!」
「みんな手伝え!押さえろ!!」
異変に気付いた他の5人とミツル達はすぐに入り口に駆け付け、扉に身体を付けて押さえつける。しかし、悲しいかな、複数人の力を合わせてもその努力はまるでむなしいと言いたげに扉が押されていく。
「踏ん張れ!押せ!!」
扉の隙間から覗く感染者の手が梶原の服を掴む。
「なに――うわっ!!」
獲物を捕らえたことを理解し、感染者の腕が戻っていき梶原を引っ張り出す。
「ぐっ!」
咄嗟に助けに行ったミツルは梶原の襟元を掴んで持ちこたえさせる。
だが、梶原の身体が徐々に感染者に引っ張られていく。
「くっ…!」
人間の全力とは良くて8割しか出せない。100%の力を出せば人間の身体が壊れてしまう。だが感染者は違う。感染者は死んでいるからこそ100%の力…つまりは限界の力を使える。個体差があるが力は人間の力を上回っている。一匹のみなら何とか工夫して避けたり、掴まれたりしても対処はできる。だが不意に事で人間の力が瞬時に出るわけもなく、今は何とか今の体制を維持させるので精一杯。
しかも群れで行動している感染者たちの腕が何本かこちらを目指して手を伸ばしている。その前に今梶原を掴んでいる腕を引きちぎらなければならない。
「ぬあああ!!」
横からスバルがナイフを持った手を感染者の腕に振り下ろした。ナイフが感染者の腕に刺さり黒ずんだ血がジワッと腕からあふれ出し、ナイフを抜くと血しぶきが上がる。しかし、痛覚が死んでいる感染者にとって痛みで力を緩めることはない。切り落とす以外梶原が生き延びる手段がない。
スバルは抜いたナイフをもう一度感染者の腕に振り下ろした。もう一度抜いて振り下ろす。もう一度抜いて振り下ろす。
切り口が広がり、骨も白骨化が進んでいるのか簡単に砕けた。
「今だああ!!」
スバルの声に反応したミツルは梶原の身体を思いっきり引っ張った。すると、切り刻んだ感染者の腕は限界まで伸ばされたゴムの様にプチンと切り口から切れた。
思いっきり引っ張ったことによりミツルは勢い余り梶原と一緒にしりもちを付く。梶原はすぐに「ありがとう!」とミツルに言うとすぐに再び扉を抑え込む。
「まだなのか!」
アキラの言葉にバールを持った髪の長い青年に大声を上げた。青年の胸のネームプレートには佐々木と書かれている。
「まだだよ!どこに穴があるのかわからないんだ」
もうバリケードは限界に近い。簡易的に張った木の板はメリメリときしむ音し、亀裂が入り始めもう限界だ。
「そこをどけ!」
二人の間に入ってきたのはミツルだった。彼は胸ポケットから煙草を出し、一本咥えると火をつけて口から煙を上げる。
「それをよこせ!」
咥えていたタバコを左手に持ち、佐々木からバールと取り上げるとタバコを地面に近づける。
「何を…!」
「防空壕で外に繋がってるんなら、空気が通っている。なら、煙を立てれば一か所だけ勢いよく煙が上に向く箇所がある!」
そしてその場所は見つかった。タバコの煙は勢いよく上に上がる。ミツルはバールでその場所をこすりつけるように滑らせると…
コチッ
バールの爪が床に引っかかった。その瞬間、ミツルは勢いよくてこの原理でバールを引っ張った。出てきたのは底の知れない闇。明かりが無ければ真っ暗で何も見えないほど暗かった。
「見つけたぞ!入口だ!!」
ドドドドドドド!!!!
同時に聞こえる銃声。ついにバリケードが破られ感染者が多数侵入していた。
数人の隊員は手に持っている銃を構えて感染者の頭に銃弾を放つ。
「クソ!入ってくんな!」
「はぁぁぁぁ!!!」
レムがモーニングスターで感染者を複数人すり潰し、動かないようにするが、このビルはレムにとって戦いにくい場所でもある。部屋の範囲が狭いため自由にモーニングスターを振り回せないのだ。下手をすれば周りに被害が及ぶ。
「これ以上は…!」
「みんな!入口を見つけた!入れ!」
アキラが全員に向かって叫んだ。
ミツルもすぐに前線に戻り手に持っているソードオフショットガンを一発放った。
飛び散った散弾が感染者たちの身体を貫き、後ろにいる感染者まで頭に風穴を開けた。
すぐに銃身を折り曲げてから薬莢を取り出し次弾を詰め込み、銃身を元に戻してから再び銃口を感染者たちに向ける。感染者たちはそんなことはお構いなしといった感じにミツルたちに近づいてくる。
「下がれ!」
ミツルの指揮で全員が後ろに下がり、ライフルを持った青年が一人発砲をやめ、走り出し地下に繋がった部屋に入り、迷いもなく地下の穴に身を投じた。
それを皮切りに一人、また一人と戦線を離脱していき、残るはミツル、レム、スバル、アキラの4人のみ。
「レム!先に行け!!」
「はい!」
スバルの言葉を聞きレムはすぐに返事をする。ソードオフの発砲と共にレムが走り出した。
「次はスバルだ!」
「わかった!」
スバルは弾切れになった拳銃に弾倉を入れ替えを交換させたところで銃をホルスターに仕舞いこみ走り出す。
残るは二人のみ、既に目の前まで感染者の群れが迫っている。ミツルとアキラが同時に銃を発砲し三歩ほど下がる。
「…まるでターミネーターだ!」
アキラはミツルを見ながら笑いながら言う。
「…シュワルツェネッガーか?確かターミネーター2だったか…あの映画ソードオフなんて使ってなかっただろう」
「ああ、あの映画で使ってたのはM1887だ」
ミツルは弾を入れ替えフッと笑った。
「だが、面影はそんな感じだ」
「…俺が持ってる銃がM1887だったらな。残念だ…」
二人は顔を見合い、笑い合った。そしてミツルは顎で先に行けと合図をする。アキラが銃を下げ通路を走り出す。
ミツルは感染者たちに視線を戻し、両手で持っていたソードオフを片手で持ち直し、口を開いた。
「さっさと失せろ、ベイビー」
その銃声を最後に、ビルから銃声がなることはなかった。建物の中から聞こえるのは死体どものうめき声だけとなった。