天空のジークフリート   作:三段腹肉之介

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第三話<大言壮語>

 

 

 

「――――さて、それじゃあ敗者はおとなしく退散するとしようか」

 

 アリーナの中央、刃をセシリアに突きつけたままの一夏は、そういうなり<白式>をゆっくりと下降させる。

 PICとスラスターの出力の微細な調整、全力稼働ではなく、そう言った繊細な操作を難なくこなしながら、音一つ、土埃一つ立てずに地面へと降り立つ。

 その余裕に満ちた動作は、一夏が今回ISを使っての本格戦闘を行ったとは到底思えないほどに淀みなかった。

 だが現実は、ISを初起動させた時と今回の試合という、IS学園に一般試験で入学した一般生徒と然程変わらぬ操縦経験しか持たない、正真正銘の素人なのだ。

 凄腕であり、無傷であり、伝え聞く性格とも全く合致しない、この戦いを観戦していた一夏と同じクラスで無い生徒にとっては、まさに未知の何かだ。

 その証として、周囲の観客席から一夏に注がれるのは、疑惑と困惑と恐怖。

 男性操縦者、などという言葉だけでは説明のつかない怪物に対しての視線だった。

 

「成程、コイツらも生贄が欲しかった、ってわけか」

 

 その視線は、一夏にとってどうしようもないほどに既知感に塗れている。

 自分達が安堵するため、或いは酔いしれるためのささやかな生贄。

 例え当人達にその自覚は無かろうとも、それはつまりこういうことだ。

 

 

――――自分に都合のいい存在がいてほしい。

 

 

 偶像に好意を抱くのはつまり、自分の感覚に合致していることが前提であって、不快感を催す偶像に視線を投げかける筈もない。

 親友や家族、恋人なら嫌いな所も含めて受け入れる、なんてこともあり得るだろうが、現状のように――現実という面ではなく精神的に、大きく空白を挟んでいる対象にそこまでの理解は必要ない。

 つまりこの有象無象の視線は、自分に都合のいい存在が都合のいい存在ではなくなった、少なくとも一夏にはそういう風にしか感じることはできない。

 それはかつて、国を守る高名な将軍の後を継ぐであろう息子に、そうした〝遠い〟視線を投げかける者しかいなかった前世の自分と、酷く重なって見えるのだ。

 世の中とはそうしたものだ、と割り切れればいいのかもしれない。

 

「……ハッ、くだらない。――じゃあな、セシリア・オルコット。精々クラス代表の責務を頑張って全うしてくれ」

 

 かつての一夏は、それがどうしてもできなかった。

 誰かにとって都合のいい偶像を演じ続け、精神の糸を張り詰め過ぎて、そして切れてしまった。

 心は浮つき、熱は冷め、周りが遠い存在だった筈なのに、いつしか自分が遠く離れた場所に立っているような感覚に囚われる。

 そして今もまた、異物である己が溶け込むために纏っていた愚鈍な皮を捨て去り、素の自分をさらけ出した一夏に注がれるのは、かつてと変わらぬ遠い感情。

 心中に浮かんだその合致を切り捨て、一夏は仮初の勝者へと侮蔑交じりの、或いは八つ当たり交じりの、形骸の様な声援を口にする。

 そして一夏は、それで用は済んだとばかりに踵を返し、セシリアに背中を向けてアリーナを後にする。

 セシリアは変わらず一夏に対し揺れる視線を向けるだけで、結局一夏の姿がアリーナから消えるまで、セシリアは一言も発さずにいたのだった。

 

 

                    ■■

 

 

 アリーナの進入口から管制室までの通路を歩く。

 その姿は<白式>を纏った姿ではなく、試合前に着ていたIS学園の制服姿であった。試合前との差異と言えば、その右腕にはめられた純白のガントレットだ。とはいえそれほど仰々しい物ではなく、サイズとしてはリストバンドの方が近いが。

 一夏の歩みに合わせて、機械的な白いディティールが袖口から覗いている。

 それは一夏の専用機として<白式>が自己の調整を終えた確かな証であり、機体の展開・収納を誰に指導されるわけでもなく一夏がISの機能を使いこなしている確かな証でもあった。(腕を動かす・歩行するといった基本的な動作ならともかく、そういった人体の構造や機能からかけ離れた操作というのは、一番ISへの適性や習熟度合いが現れる場所である)

 そして先の試合といい、この現状といい、一夏の脳裏には果たしてこのISという存在とやらも、あっけなくこなせてしまう路傍の石ころの様な存在なのかもしれないという、傲慢な不安が浮かんでいた。

 事実、かつての一夏――ジルグは、その世界で主力であった8メートルほどの人型兵器、ゴゥレムのパイロットを務めていた経験があり、その際、敵対国家の試作ゴゥレム、それも性能がピーキー過ぎて失敗作扱いされていた機体を、僅か一週間で乗りこなし、多大な戦果を上げた経験があった。

 無論ゴゥレムの操縦とISの操作、その二つを同一視できるわけではないが、魔力と呼ばれるその世界ならほとんどの人間が持つ力によって、石英と呼ばれるその魔力に呼応して様々な反応を引き起こす物質で作られたゴゥレムは、脳の神経系と機体を直結し、思考制御によって機体を動かすISと、操縦感覚に似通っている部分がある。

 先ほどの戦いなどはその経験を、ISという物に対して自分なりに調整していた。

 それが直接の勝因だろう。

 一夏はセシリアの技量という物を過小評価していない。

 異物をぶち込んだ精神的な奇襲、そこからくる動揺を口先三寸で切り広げて、型に嵌めて、実力を十全に発揮させなかった。

 それを卑怯だとは思わない。

 仮にも軍隊に所属していた一夏からすれば、敵の精神を揺さぶって全力を発揮させないのは、当然のことながら選択肢に入っている有り触れた手段だ。

 だから落胆し、評価を引き下げたのはその脆弱な精神。

 煽ればすぐ激昂し、揺さぶれば簡単に揺らぐ芯の脆さ。

 

 

「本当に……、こんな手合いばかりならそれこそ張り合いがなさ過ぎる。――――そこのところ、どうなんですかね織斑先生」

 

 

 抱いた不安、それを形にして一夏は通路の奥に視線を向けた。

 ヒールが硬質な通路の床を突く音が響き、そして現れたのは黒髪に黒のスーツ姿の女性、織斑千冬だ。

 姉であり、そして今は教師でもある彼女が一夏に向ける視線は――敵意だった。

 

「…………」

「あれ、だんまりですか? それって教師としてはどうかと思いますけどね」

 

 そして口は開かず、射抜く様に視線を突きさすだけの千冬に対し、一夏はつい先日までは口にしなかった実の姉に対するからかいに満ちた言葉でその敵意に牽制をかける。

 家族の会話だというには余りに不穏な空気が狭い通路に充満する。

 

「ひょっとして、織斑先生も騙されていたとか?」

「あぁ……、姉だというのにな、気付けなかったよ」

 

 無論、それは一夏が今の今までかぶっていた化けの皮。家族という一夏と一番身近にいた筈なのに気付けなかった、千冬の顔に浮かぶのはそのことに対する悔恨だろうか。

 千冬の口から歯軋りの音が漏れた。口元は何かを堪えるように歪む。

 そして千冬は今の今まで背中に向けていた右手を、一夏の方に振るった。

 その勢いのまま投げ渡されるのは、恐らくはISの整備用部材であろうシャフトだった。

 鈍い金属の地肌を見せるそれの太さと長さは、1mほどであり、両手で握って刀の様に振るうにはちょうどいいサイズだった。

 

「どういうつもりですか、これ?」

 

 投げ渡されたそれを手にし、疑問の声を口にすると同時、答えは言葉ではなく行動で返ってきた。

 

「――ふっ」

 

 硬質の床を踏み締める音、短く漏れる呼気、狭い通路の幅を占有する様に振るわれる横薙ぎの一閃。

 丸いシャフトでありながら、あらゆる物を両断してしまいそうなほどに鋭い一太刀だ。

 

――――何だ、存外似ているじゃないか。

 

 その刹那に振るわれた一撃二対し、一夏が脳裏に思い浮かべたのは、突然のことに対する疑惑や困惑ではなく、どこかの誰かに似ているその行動の選択に対する可笑しさだ。

 問答無用、明確な危険すら伴うにもかかわらず一切の躊躇なく繰り出されるその攻撃に宿るのは、自身の才能と技量に対する強固な信頼。

 

――――さて、どういう目的なんだか。

 

 そして、次に思い浮かべるのはこの攻撃の意図。

 それに対する思考を巡らしつつ、一夏は迫る一撃に対する対応を思考する。

 先ほど述べたように、千冬の放った横薙ぎの一撃はさほど幅広くないアリーナの通路を占有する様に放たれている。

 一応、シャフトの先端と通路の壁、その間には人一人分ぐらいなら通り抜けられる余裕があるが、仮にそうしたところで、横薙ぎの軌道を刺突に変えられてお終いだ。

 かと言って千冬の体の方に逃げようとすれば、千冬はすぐさま間合いを調節して横薙ぎで一夏の体を捉えるであろう。

 そうして左右への回避は駄目だと判断した一夏の脳裏には、既に千冬の思惑は推し量れないまでも、そこには本気が込められていると判断していた。

 故に、ある意味では遊び半分であったセシリアの時とは違い、その思考を明確に戦闘へと切り替える。――それでも、その口元には笑みが張り付いたままであったが。

 

――ISは無しだな。

 

 しかし、ISを展開しようとは考えていなかった。

 確かにISを展開すれば金属の棒切れによる打撃など何ら痛痒を齎さないだろう。

 だが、狭い通路の中でISの展開など身動きが取れなくなるのは明白であるし、腕だけと言う感じでISの部分展開も考えてはいたが、一瞬のスピードが求められる現状に対して、さしもの一夏も初挑戦の行為を選択しようとは思わなかった。

何よりも一夏の趣味ではない。

 基本的に相手が依って立つ土俵で相手を打ちのめすのが一夏の――ジルグの戦闘に対するスタンスだ。

 

――なら下だな。

 

 左右も駄目、上もそれほど余裕があるわけではない上に、飛び上がった際に隙ができてしまう。

 故に一夏は躊躇なく転がった。シャフトの下をくぐる様にして転がり、シャフトをかわすと同時に全身のばねを利用して大きく前に跳躍、千冬との間合いは一旦大きく引き離す。

 

 

「――――お前は誰だ」

 

 

 そしてようやく、今まで無言を貫いていた千冬が口を開いた。

 これまで家族であった血の繋がった実の弟に向ける誰何の言葉、矛盾した字面だが、物心ついた時から化けの皮をかぶり続けてきた一夏に対しては、当然の選択なのだろう。――少なくとも千冬にとっては。

 

「誰だと言われてもね、織斑一夏だとしか答えようがないですよ」

 

 ジルグという名前は過去の物、如何に化けの皮をかぶっていようとも、今はもう織斑一夏という人間として生きるしかない。ただ――

 

 

――――それを動かす原動力が、あの馬鹿の戯言だというのが笑えない。

 

 

 体は現在で、場所も現在、だけど心だけが未だに過去に縛られている我が身を、一夏は嗤った。

 

「そうか……、だがな、私の知る一夏はお前じゃないんだ」

「でしょうね、本性なんて、この世界のどこの誰にも見せた覚えは無い」

「馬鹿で、間抜けで、それでも筋が通ってる奴だった」

「そうすれば波風は立たないと思ったからですよ。完璧な人間なんて誰も身近に置かない。性能差はそのまま人間関係の距離になる、ってのが俺の持論でしてね」

「……なるほどな、一理あるよ。それは」

 

 そして千冬は、その瞳に悲しみを湛えていた。

 それは喪失の色であり、別離に揺れている色だ。

 先ほどの遠い視線とは違う、近いが故のものだ。

 一夏の作り上げた「織斑一夏」という人格が、織斑千冬の深い所に居場所を持っていた証だった。

 

「なぁ、もう一度聞くよ一夏。お前は誰だ」

「織斑一夏ですよ。織斑先生」

「けどな、私はお前を知らないんだ」

 

 だから、織斑一夏という奴が本当はどんな奴なのか、私はそれを知りたいんだ。

 教師ではなく、肉親としての当然の疑問。

 けれど彼女は、それを暴く弁舌を持たない。

 教師というには年若く、所詮は祭り上げられた偶像である彼女には、教え導く者としての経験が欠如していた。

 これが戦うことに関することならば、言葉で十二分に伝えられただろう。

 けれど彼女は、身近な誰かの奥底を知りたいと願いながらも、その道筋を付けることができる言葉を思いつかなかった。

 少し前に篠ノ之箒が崩壊の音を聞き、嘆き悲しんだと同じように千冬も悲しみを抱き、けれど行動を選択した。

 何よりも家族としての自分が、思考停止を選択しなかった。

 言葉は浮かばず、されど自分を止められず、だからこそのこの戦端だ。

 

「成程、暴くための戦いというわけですか、これは」

「そうだ。……すまんな、口下手な姉で」

「あなたがそうだ、って言うのはずっと昔から知ってますよ」

「……不公平じゃないか、それは」

「人間観察力の差でしょうね」

「それにしても、……存外怒らないんだな、お前は。私が知る一夏なら、こういう理不尽な目に対してはしっかりと怒りを浮かべると思っていたんだが」

「怒らせたいならISぐらい持ち出しましょうよ」

「吠えるなよ――小僧!!」

 

 会話は終わり。

 奥底を暴くために千冬は再び踏み込んだ。

 次いで選択した攻撃の軌道は、何の変哲もない上段からの振り下ろし。しかし、通路の中央に陣取り、世界最強の女傑の身体能力と技量が、尋常ならざる剣速と相手の回避行動に対する追尾性を与えている。

 生半可な回避行動では、即座に軌道修正を行い、シャフトが一夏の体にめり込むだろう。

 かと言って真っ当な打ち合いに移行するわけにもいかなかった。

 一夏と手多少なりとも剣の心得がある。

 手にしているシャフトは長さ・重量ともに、かつて好んで使用していた石英製の切断用格闘兵装(イーストシミター)に酷似している。真っ当に扱ってもそれなり以上に振るえるだろう。

 だが、単純に一夏より千冬の方がこの手の獲物に対する技量が上だった。それを先ほどの一撃で見切っていた一夏は、真っ向からの剣戟勝負を放棄していた。

 そこで一夏は千冬が戦闘を再開する前に、一つの手段を講じていた。

 千冬の上段からの一撃が放たれるその直前、一夏の傍らに細長い何かが突き刺さった。

 通常の日本刀を一回り大きくしたかのような細身の物体、言うまでもなくそれは<白式>の専用武装<雪片弐型>だ。

 実態式ブレードである<雪片弐型>は当然のことながら鋭い刃を持ち、なおかつ固定するように突き立てられた形で量子展開されたそれに対し、一夏は手にしていたシャフトの中央と<雪片弐型>の刃が交差するように右手を振るった。

 結果として起こるのは、刀というよりナイフや小太刀に近い長さに切り分けられた二本のシャフト。

 千冬が今まさに振るおうとしているシャフトに対し、こうした狭い通路でのとり回しにちょうどいい長さの武器が、一夏の両手に握りしめられる。

 

「卑怯とは、――言わないでくださいよッ!!」

 

 そして一夏もまた、踏み込みを開始した。

 それは地を這う様な、通路の床に対して体を並行に近づける様な踏み込みだ。

 それによって、千冬の振り下ろしより先に一夏の体が刃圏の内側へと潜り込む。

 同時、右腕を寝かせた体と同様に水平に振るう。狙うは千冬の左足、その向う脛だ。

 

「誰が言うか馬鹿者っ」

 

 千冬はそれに対し、あえて踏み込みの勢いを殺さず、前に出ていた右足をその勢いのままに振り上げる。

 確かに間近且つ、真下に位置する一夏に対して、手にしたシャフトに対する追撃を加えるのは難しい。

 だが、それは逆に言えば近づくその頭蓋をサッカーボールの様に蹴り上げるに適した距離である。

 勿論それは、下手をすれば死に至るかもしれないと千冬は認識している。が、それでも一切の躊躇なく千冬はその右足を振り上げた。

 

――私の知る一夏ならば、ここで死んでいるな。

 

 けれど死んではいない、蹴り上げた爪先に残るのは、空気を蹴り抜く感触だけ。

 右腕を振り抜こうとした勢いを使い、一夏は千冬の左側へと体を逃がしている。

 そして、唯一床についている千冬の左足を狙い、一夏の左手に握りしめられた二本目のシャフトから二撃目の横薙ぎが放たれる。

 それを蹴りあげの勢いを利用したとんぼ返りなどという、曲芸じみた動きで回避する。

 

――そしてここまで、短い得物の取り回しにも習熟していない。

 

 千冬と、かつての一夏の根底にあった術理は、篠ノ之箒の実家に伝わる古流剣術。

 特に間合いと表紙の取り方を重視した、一撃必殺を根底においた剣術であり、千冬がかつて世界最強の座を手にできたのも、その術理とISとの相性が良かったからだ。

 対して、一夏が今こうして千冬に対抗しているその動きは、恐らくはナイフを用いた室内戦闘を主眼に置いた格闘術のそれに近い。

 

――独学? それこそあり得ない。

 

 自らの考えつきにより組み上げた戦闘理論など、実戦を経験していなければ机上の空論に過ぎない。

 仮に類稀なる才能があり、天才と呼べる人種にしてもだ、下敷きになる物もなく、経験も無ければ素人同然だろう。

 故にこそ、今この時千冬は織斑一夏という存在は、尋常ならざる何かを隠していると確信した。

 それは何であるのか、千冬はそこまで思い至らなかったものの、今はこの程度で十分と決意した。

 

 

 

 

「――――なかなかいい動きだ、一夏」

 

 

 

 

 天地逆の状態で、しかも地に足がついていない不安定な状態、にもかかわらず千冬の両腕が目にも止まらぬ速さで突き出される。

 正に神速、そういうしかない速さで突き出されたシャフトの先端は、完全に死にたいとなった一夏の喉元に狙いを定めていた。

 そして、一夏の喉元の皮膚がほんの僅か削ぎ取っていく。まるで真っ赤なペンキで浸らせた筆先を走らせたかのような傷跡が、そこにはできていた。

 

「……どんな反応速度をしているんだか」

「仮にもブリュンヒルデなどという大層な名で呼ばれているんでな。これ位できねば示しがつかん」

 

 そして短くとも濃密な戦いの決着がつく。

 姿勢を整えた双方が、共にシャフトを放り投げ戦闘の継続を放棄していた。

 一瞬、けたたましい金属音が響き渡る。

 無論、負けたのは一夏だ。何せその首元には急所を射ぬけただろう赤い証があるのだから。

 

「さて、もう一度聞こう。お前は何者だ」

「織斑一夏、それ以上でも以下でもないですよ」

 

 二度目の問いかけ、しかし一夏の答えは変わらない。

 千冬とて、眼前の男がそう答えるだろうことはわかっていた。

 だからこれは再確認、本当に聞き出すべき言葉を千冬は続けて告げた。

 

 

「ならばお前は、偽りの仮面を外してまで何を望む」

 

 

                    ■■

 

 

「……望むこと、ですか」

 

 

 一夏には無い。

 やりたいことが。望むことが。目標というべきものが。

 あるのはただ、前世のような漠然とした生き方とは違う生き方をしてみたいという、望みとも言えない淡い願望。

 死の淵で夢見た、他愛のない妄想。

 しかし今までは、その妄想すら叶える道筋を見つけられなくて

 

「――世界最強」

「何?」

 

 けれど今は、違っている。

 父親を超える偉大な将軍になれと、誰かが言った。

 そして二度目の唯一の家族は、まさに偉大だった。

 世界最強。嘘でも何でもないその二つ名を戴く、個人が持つ武力の最高峰。

 

 

 

 

「――――果たせなかった約束があるんでね。馬鹿な奴の馬鹿な願いだが、アンタより強くなって世界最強にでも、成ってやるさ」

 

 

 

 

 




 よくよく考えれば<モンド・グロッソ>の時の誘拐事件はジルグの過去と色々かぶっている気がします。この話の最後でこう宣言したのは、その所為もあったりなかったり。

 そして感想の中で「ライガットを登場させるなら弾に転生でもさせればよかったんじゃないのか」、という意見を戴きましたがそれは無いと言っておきましょう。
 皆さんお忘れでしょうがブレイクブレイド序盤、結果としてライガットの所為で死んでしまったゴゥレムの搭乗士の名前……ダンなんですよね。
 ……えぇもぅ、考えなくてもトラウマ直撃コースですよね、これ。
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