ヒーローと黒猫のウィズ   作:ロック・ハーベリオン

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これは黄昏メアレスの閑話です
読み飛ばしても、特に話の流れが分からなくなるということはないのであしからず!


第10.5話:閑話メアレス

【SUNSET】

 

「私たちの出会い?」

 

「そうにゃ。2人はどうやってであったにゃ?」

 

ロストメア退治の帰り、ウィズがルリアゲハにリフィルとの出会いを聞いていた

 

「あー、あれは1年前のことなんだけど」

 

「ちょっと、ルリアゲハ」

 

「いいじゃない、リフィル。別に減るもんじゃないし」

 

「1年前?そんな最近なのか?」

 

「そうよ。私がリフィルに声をかけたのよねぇ」

 

ーーーーー

 

 

 

1年前

都市の中央に築かれた、巨大にして荘厳なる門

その上に、ひとりの少女が立っている

 

「…………」

 

時は黄昏

眼下、黄金色に照らし出された街並みでは、人々が忙しなく行き交っている

 

「そうやってばかりいるから、黄昏(サンセット)なんて呼ばれるのよ」

 

不意に後ろからかかった声に、リフィルは目線だけを振り向かせた

 

堕ち星(ガンダウナー)、ルリアゲハ……。だったかしら?」

 

「あら。覚えておいてくれた?」

 

「寸前で獲物を横取りされれば、嫌でも」

 

「まだ、ここの作法がよくわかってなかったの。悪いことしちゃったと思ってるわ」

 

両手を合わせて頭を下げる、という動作で謝辞を示してから、ルリアゲハはリフィルの隣に並んだ

 

「いつもこうしてロストメアを探してるの?」

 

「奴らはこの時間帯にしか門を潜れない。必然、黄昏時ほど妙な動きが見えやすくなる」

 

「なーる。逢魔が刻、ってわけ」

 

「……逢魔が刻?」

 

魔という言葉に、リフィルは思わず反応した

 

「大禍時……転じて逢魔が刻ってね。あたしの故郷じゃ、この時刻をそう呼ぶのよ。だんだん薄暗くなって、影が濃くなる時間。怪しの者が現れ、活動を始める時刻……。誰そ彼とも言うわ。暗さが人の見わけをつかなくさせる。魔がまぎれこんでも気づかないくらいに……」

 

「なるほど、言い得て妙ね」

 

リフィルはスッと目を細め、眼下の通りを指差した

 

「それは、ああいうモノと遭遇しても気づかない、ということを言うのね。きっと」

 

小さな何かが、家から長く伸びる影の連なりに溶け込んで、そろそろと門に向かっている

 

「ロストメア……!」

 

「『繋げ、秘儀糸(ドゥクトゥルス)』!」

 

リフィルは即座に魔法陣から人形を現し、門を飛び降りた

人形に抱かれ、鮮やかに着地

人々の驚く顔を振り切って、見つけた敵へとひた走る

ふと、横からの風が頬を叩く

見ると、ルリアゲハが真横を並走しながら、にやりと笑みを送ってきていた

 

「ねぇ、黄昏(サンセット)!手を組まない!?手を!?あたしとあなたが手を組んで、いっしょに戦う!そうしたら勝率も上がるってものでしょ?」

 

「報酬の分配は!?」

 

「あたし、魔力はいらないから! 報奨金さえもらえたら、魔力はそっくりあなたにあげる!」

 

「ふぅん、意外と悪い話じゃないわね!」

 

「おっ、好感触?」

 

「ただし、ひとつ条件があるわ!」

 

ふたりは、同時に立ち止まった

通りの向こうに影に隠れて移動していたロストメアが、ぎょっと立ちすくんでいる

 

「あなたの実力、まだ、測りきったわけじゃない」

 

「それはこちらも同じこと!」

 

ふたりは、同時に得物を構える

 

「それじゃあひとつ、見せ合いっこといきましょうか!」

 

雷撃と銃声が見果てぬ夢へと宙を馳せる…

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「そしてここからリフィルの節約生活が始まったのよねぇ」

 

「だから、余計なことを言うな、ルリアゲハ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《黄昏メアレス》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【GUNDOWNER】

 

「はっ!」

 

腰だめに構えた拳銃から六連射

それは見事に命中し、弾丸の直撃を受けたロストメアが倒れ、溶け崩れてゆく

 

「『魔法解除(リセット)』。流石だな」

 

そう、俺はルリアゲハに声をかけた

リフィルは敵の魔力の回収に向かっている

 

「すごい銃さばきだにゃ。いったいどうやったら、あんな連射できるにゃ?」

 

「ファニング、っていう技法よ。引き金を引いたまま、左手で撃鉄を何度も叩くの」

 

「いったいどうしてそんな技を身に着けるに至ったんだ?」

 

「あたし、もともと武家の姫なの。だから、この手の武芸はたしなみみたいなものでね」

 

「はぁ!?」「お姫さまにゃ!?」

 

「あれ、言ってなかった?」

 

「初耳だ!」「言われてたら絶対に忘れないにゃ!」

 

「ああ、でも、今は違うのよ。国を出奔したから、もうお姫さまでもなんでもないの」

 

「出奔?それまた、どうして?」

 

そう聞くと、ルリアゲハは苦笑を浮かべた

 

「実は、国がピンチになっちゃって。これはもう戦うしかない、って覚悟を決めたんだけど、あたしが戦の準備をしてる一方で、妹が、平和的・政治的な解決方法を模索していたの。そうしたら家臣たちが、あたし派と妹派で割れて、その隙を敵国に突かれそうになってねぇ……。だから、あたしが国を出たのよ。内乱を未然に防ぎ、妹の交渉を成功に導くために……ってね」

 

「おいおい…。どっかのテレビ番組かよ…」

 

「ルリアゲハは、それでよかったにゃ?」

 

「そうねえ……」

 

遠くを見つめて、ルリアゲハは小さく笑った

 

「実を言うと、あたし、驚いたのよ。国を守り、民を守る。それがあたしの夢で、だからあたしはとことん武芸を磨いてきた。でも、冷静に考えたら、間違いだった。妹の考えの方が、正しかったのよ。産業が発達した今の時代、より性能のいい兵器をより多くそろえた方が勝つ……。あたしはそれに気づかず、力で乗り切ろうとしたけど……妹は理知と策とで戦いを回避しようとした。だからね。これからのことを考えれば、あの子に任せた方がいいって、そう素直に思えたのよ」

 

ウィズが、わずかに目を細めた

 

「そのまま残って妹さんに協力しても、結局、内乱が起こるように敵が手を打ってくる、と考えたにゃ?」

 

「流石、ウィズちゃん。そのとおりよ」

 

それでルリアゲハは国を出奔し、流れた果てにこの都市に来た、ということらしい……

 

「メアレスとなったのも、”国を守り民を守る”という夢を失ったからにゃ?」

 

「失った、とは思ってないわよ。夢見ざる者(メアレス)ではあってもね。あたしの夢は、預けてきたの。あの子に……あの子なら、きっとうまく叶えてくれるって信じて、ね。その分あたしはここで戦う。万が一にもロストメアが現実に出て、国に害をなさないように。だから、今の自分を悲観しちゃいないわ。夢はなくても、楽しくやれてる。頼れる相棒たちと一緒にね」

 

そう言った、ルリアゲハはぱちり、と鮮やかなウィンクを飛ばした

 

「あんたは…強いんだな…、ルリアゲハ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《黄昏メアレス》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【黄昏のエネルギー】

 

通りを歩いている最中、ふとリフィルが、道端の少年の手から紙束を受け取った

少年に硬貨を投げてから、ざっと紙束に目を通し、柳眉をひそめる

 

「『事件の真相は、ロストメアの仕業に見せかけた犯行だった』……か。世も末ね」

 

「ま、この都市ならではの事件って感じよね」

 

「この世界にも新聞はあるのか」

 

「ん?そちらにもあるの、新聞?」

 

「まあ、な。少し、疑問に思っていたんだが、この世界の基本的なエネルギーってなんだ?」

 

俺の疑問にルリアゲハが答える

 

「今は蒸気機関が主流ね。この新聞もそれを利用した印刷機を使っているんだったわね」

 

「となると中世くらいの時代か?」

 

「いや、魔法の道具とかもあるみたいだから、一概にこっちの世界が進んでいるとは言えないにゃ」

 

「どういうこと?」

 

「俺の世界で蒸気機関が主流だったのは確か400年くらい前か。今だと殆ど電気だしな」

 

「電気?雷ってこと?どうやって使ってるのよ、それ」

 

「リフィルみたいに魔法とか?」

 

「それよりもにゃ。新聞があるってことは、ひょっとして本もあるのかにゃ?」

 

「え?ええ。大衆小説あんてものがあるくらいだし、色んな本があると思うけど?」

 

君の肩の上では、ウィズがヒゲを震わせていた

 

「おお……おおお……!まさか、異界の本が手に入るなんて…!キミ!今すぐ買ってくるにゃ!!」

 

「…落ち着けよ。異界の資料の現物が手に入るなんて滅多にないことだから興奮するのはわかるけどよ」

 

忘れてた

猫になろうが、精霊になろうが、ウィズはクエス=アリアス筆頭魔道士『四聖賢』のひとり

そのウィズが、クエス=アリアスの魔道士魂を燃やしていた

 

「……どうしちゃったの、ウィズちゃん。なんか、すんごく燃えてるっぽいけど」

 

「本を読むのが好きなのかしらね。猫なのに」

 

その後、燃えているウィズを連れ、本を買いに行ったが、常に持ち運びができず、元の世界に持って帰れる可能性が低いことが発覚し、早々にしょぼくれたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《黄昏メアレス》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【EDGEWORTH & ARSENAL】

 

「そういえば、コピシュ」

 

「はい、なんですか?」

 

すっかり馴染みとなったリフィルの働く定食屋で、俺はコピシュに話しかけた

 

「お前、ゼラードに剣を投げてるだろ。あんな重いものどうやって投げてるんだ?」

 

「あれはリフィルさんから教えてもらった念動を使ってるんですよ。ロストメアから得た魔力を利用してます」

 

「リフィルから?あいつ、教えられるの?」

 

「対価さえ、払えば教えてくれますよ」

 

そう言ってコピシュはリフィルから学んだ時のことを話した

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

それは半年前のこと、

 

「ブロードソード!カットラス!」

 

「アイアイ!」

 

コピシュが投じた剣を、ゼラードが宙で受け取る

 

「成功っと!どうよ、黄昏(サンセット)。コピシュの魔力の扱いはなかなかのもんだろ」

 

リフィルは、大きなパンをほおばりながらうなずいた

 

「ふぃっふぁい、ふぁいしふぁももめ。ふぇも、もうひょっふぉふゅうふゅうふぉー」

 

「……そのパン、授業料なんだからさぁ。授業終わってから食ってくんねえかなぁ……」

 

ゴックン「まだコントロールにムラがあるわね。糸を端から端までピンと伸ばすようなイメージを持ちなさい」

 

「何事もなかったかのように言いやがる……」

 

「でも、魔力の使い方を学んでどうするの?この子もロストメアと戦わせる気?」

 

「まだ前にゃ出せねぇよ。けど、俺に剣を飛ばしてくれるくらいなら、いいかと思ってな」

 

「お父さんは剣さえあれば無敵ですけど、剣がなかったらなんにもできないですから!」

 

「おまえも笑顔で言うよねぇ……」

 

「ねぇ、リフィルさん。練習を続けてたら、私もいつか魔法を使えるようになりますか?」

 

「無理ね。魔法は技術であると同時に学問よ。発動にあたっては相応の知識が必要となるわ。仮にその知識があったとしても、師から”コツ”を教わらない限り、使えないとも言われている」

 

「さすがに”コツ”までは教えてくれねぇってか?」

 

「私も知らないのよ。魔法の技は、とうに失われてしまっているんだから」

 

「あ、そっか。それであの人形を使ってる、って話でしたもんね。わかりました。じゃあ、単純に魔力を使うだけでどこまで便利にできるか、がんばってみます!」

 

「そうすりゃ、戦い以外にも食ってく手段ができるかもしれねえしな」

 

「あなたとは違ってね」

 

「うるせぇやい」

 

「でも実際、念動の初歩はほとんど押さえたから、ゆくゆくは湯を沸かすくらいできるかもしれない」

 

「って、剣飛ばすより湯を沸かす方が難しいのかよ」

 

「あなた、手でお湯を沸かせる?」

 

「できるわけねえだろ!」

 

「そういうことよ。念動自体は、魔力を使う技術としては最も簡単なものにあたるの」

 

「わかるようなわかんねぇような…」

 

「とにかく、今は念動の精度を高めるのに集中。そうして魔力を制御する感覚を肌で覚えなさい」

 

「はい、先生!」

 

「明日からはレッスン2に入るわ。難しさは2倍。授業料も2倍よ」

 

「はい、先生!」

 

「ちょっと先生!?おい、それレッスンいくつまであるんだ!?」

 

「………。究極的には108くらいね」

 

「嘘つけ!!それ単にパンいっぱいほしくて言ってんだろ!!」

 

「そうだとも!!」

 

「屈しねぇ女だなおめぇは!!」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「って、言う感じです」

 

「リフィルぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《黄昏メアレス》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【見果てぬ夢とは】

 

「はいよ。ロストメア退治の報奨金だ。受け取りな」

 

今日倒したロストメアの報奨金をアフリト翁からルリアゲハが受け取る

 

「ひのふの……っと。あら、まあまあね♪リフィル、今日何かおごったげよっか」

 

「だから、そういうのフェアじゃないって、」

 

「…」

 

「……おや? 黒猫の魔法使い殿は、何やら不思議そうな顔をしているようじゃないか」

 

 

「アフリト翁、なんで、あんたがロストメア退治の報奨金を払うことになっている?あんたに何のメリットがあるんだ?」

 

俺はずっと思っていた疑問をアフリト翁にぶつけた

 

「まぁな。といって、わしが私財を投じておるわけじゃあない。そもそもこの都市は”外”の各国から援助を大いに受けて成り立っておる。メアレスへの報奨金も、そこから出ておるというわけだ。わしはただの窓口よ」

 

「窓口、ねぇ…」

 

「外の国々としちゃ、ロストメアが現実に出てくるなんて願い下げなわけよね。だから、この都市を築き、ロストメア進出を防ぐ砦の役割を持たせた……とは聞いているけど」

 

「実際にロストメアが現実に出たら、いったいどうなってしまうのにゃ?」

 

「見果てぬ夢が現実化すると同時に、あるべき摂理に異変が生じると言われておる」

 

「異変?」

 

「”物がまっすぐ落ちなくなる”とか、”海が塩辛くなくなる”とか……」

 

「”雨がやまなくなる”、”魚が空を泳ぐ”、”石がしゃべりだす”なんてこともあったそうね」

 

「なんじゃそりゃ……」「むちゃくちゃにゃ……」

 

「大抵は局所的かつ一時的な現象だけど、影響が残っちゃうところもあるらしいの」

 

「『逆巻く滝』なんかが有名ね。滝の水が下から上に登るって、それだけなんだけど」

 

「…観光名所になりそうだな」

 

「観光名所ができるくらいで済めば御の字だが、実際には何が起こるやらわからんのでな。最悪の事態を防ぐためにも、各国はメアレスへの援助を惜しまぬというわけだ」

 

「世の理が乱れちゃうだけじゃなく、危険な夢が実現しちゃってもマズいしね」

 

「危険な夢? どういうのにゃ?」

 

「いちばん危なかったのだと、んー……。『志半ばで死んだ帝王の夢』かしら」

 

「あれは大変だったな。なにせ、夢が『世界征服』だ」

 

「oh......。そいつはやべぇな…」

 

「万が一にも実現させるわけにはいかないって、メアレスが総動員されたわね」

 

「おかげで、機に乗じた小さなロストメアが何体か現実に出てしまってな。それはそれで、後処理に苦労したらしい」

 

「…ちょっと待てよ。『志半ばで死んだ帝王』の『世界征服の夢』……。それが現実に出たとしても、その帝王がいない以上、夢は叶わないんじゃないのか?」

 

「ところが、そうならんのが、ロストメアの厄介なところでな。夢を抱いた者が生きていようがいるまいが、現実に出れば、その夢は叶う。先ほどの件で言うなら、ロストメアが現実に出た瞬間、」

 

「死んだはずの帝王が今ある世界を支配している、というふうに世界自体が変わってしまうわね」

 

「帝王が生き返るってことにゃ?」

 

「本人が生き返るわけじゃない。夢の副産物として、新たに出現するのよ。『帝王本人としか思えない人間』がね」

 

「なんじゃそりゃ……」「むちゃくちゃにゃ……」

 

2度目の言葉に、アフリトが笑う

 

「そう。むちゃくちゃよ。だから、この都市にはメアレスが必要なのだ。メアレス同様、ロストメアと戦える、おまえさんたちもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《黄昏メアレス》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【都市への疑問】

 

すっかり行きつけになった定食屋で、俺はメアレスたちと昼食を取っていた

 

「魔借さんも、すっかりこの都市に慣れたって感じすかねー?」

 

「俺たちも、猫がしゃべるってのにゃずいぶん慣れた気がするぜ」

 

「……気になってたんだけどにゃ」

 

「なんですか、ウィズさん?」

 

 

「『この都市』『この都市』って言ってるけど、名前とかないのかにゃ?」

 

「「「……」」」

 

なぜか、一瞬、沈黙が降りた

 

「えーっと……あったような、なかったような……あるともないとも言えない的な……?」

 

「そりゃ、あるに決まってんだろ。なぁ、コピシュ。なんかこう……あったよな?」

 

「おい現地人」

 

「先生!先生ー!!」

 

「ライス・プディング、お待ちどう」

 

リフィルが、ミルクで煮て甘く味つけしたライスをテーブルに並べていく

 

「で、都市の名前、なんだっけ? リフィル」

 

「『ロクス・ソルス』よ。孤高の地というような意味ね」

 

「おう、そうだそうだ、それだよそれそれ。いや、わかっちゃいたんだ。腹まで出てきたんだがな」

 

「それ、ほとんど出てきてないです、お父さん」

 

「この都市に住んでいると、なかなかよそを意識することはないからな。都市の名は忘れがちになる」

 

「4択で出されたら、たぶんわかるんですけど~」

 

「そういうもんかにゃあ……。じゃ、ひょっとして、あの門にもちゃんとした名前があったりするかにゃ?」

 

 

「「「……」」」「おい、だから現地人!」

 

再びの沈黙…

 

「あるやもしれぬ、ないやもしれぬ。それを決めるはおぬし自身の心やもしれぬ……」

 

「なんだっけなー。なんかあったんだよなー。腸のあたりまで来てんだけど。『ナンカ・アッタナ』とかなー」

 

「ティーチャー!ティーチャー!!」

 

「ベリータルト、お待ちどう」

 

「頼んでねぇぞ!?」

 

「お手つきしたでしょ。だからよ」

 

「なんですと!?何ルールですかそれ!?」

 

「この店の伝統的な遊戯だそうよ」

 

「初耳ですよ!?けっこー来てますけども!」

 

「で、門の名前は?リフィル」

 

「『デュオ・ニトル』よ。ふたつの光という意味ね」

 

「あ?そんなんだっけ?」

 

「…………」

 

「そっと料理を積んでいくなよ!!くっそ、いくらだこれ……!」

 

「ひぃいいいい、このシステム懐に厳しいぃ……!!」

 

「ふたつの光の交わる刻限、遠回しに黄昏を指しているわけだな」

 

トワイ(ふたつの)ライト()と同じってことね」

 

「お会計はこちらよ」

 

「えっ、ちょ、今ので抜けれんの!?」

 

「さあ、猫。次の問題を」

 

「4択!せめて4択でお願いします!せめてせめて!!」

 

「俺もうしゃべんねぇからな!あとぜんぶコピシュが答えるからな!!」

 

「というかリフィルさん、ウィズさんのこと、”猫”って呼んでるんですねぇ……」

 

喧噪の中、ウィズはあきれたようにつぶやいた

 

「……なんでこんなことになっちゃったにゃ?」

 

「さぁな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《黄昏メアレス》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【WARBRINGER】

 

オフの日、都市をうろついていた俺とウィズは、服屋から出てくるミリィとばったり出くわした

 

「あ、どもっす。魔借さんとウィズさん!」

 

「よう、ミリィ。ショピングか?」

 

そう聞くと、ミリィは照れたように笑った

 

「いやぁ……見てただけです。あたし、私服のセンスが死ぬほどない、ってよく言われるんで……」

 

「でも、その服はいいと思うけどにゃ」

 

「これ、昔の学校の制服なんですよ。無難なもんで、ついつい着回しちゃってて……」

 

話しながら軽くぶらつき、オープンカフェに入って飲み物を頼んだ

テーブルに向かい合い、ちらりと話を振ってみる

 

「ファッションデザイナーの夢に未練はないか、ですか?」

 

「ああ」

 

あまりにもセンスがなかったから諦めた、と、以前彼女は言ったが……

 

「いや、ホントなかったんですよ。これがもうホントにマジで。あたし、孤児だったんで。昼の学校に行くのに、夜、工場で働いて学費を稼いでたんですけど……。ずっと着たきりスズメだったから、いろんな服を見てはあこがれて、いいなぁ、って思ってて……。そのうち、いつか自分で服をデザインする仕事に就きたい、ってなったんです」

 

「立派な夢にゃ」

 

「そうだな。いい夢だ」

 

「えへへ、ありがとうございます。でも、服飾をちゃんと学ぶには、ちょっとお金が足りなくって……。そしたらですね、街で服飾デザインコンテストが開かれることになったんですよ。ここで優勝したら夢を叶えられる!そう思って、空いてる時間で応募デザインを考えて……。で、出したんですけど……」

 

「だめだったにゃ?」

 

「まー、普通に落ちまして」

 

「そうか、残念だったな」

 

そう言うと、ミリィは、うーん、と複雑そうな表情になった

 

「落ちたってだけだったら、また挑戦しようかって気にもなったと思うんですけど……。ただ、その日、工場に暴漢が来ましてねぇ……。なんかいろいろ危なそうな人だったんですよ。銃とか持ってて。いろいろわめいてて」

 

「危なそうっていうか、危ない人にゃ! 大丈夫だったにゃ?」

 

「あ、はい。サクッと取り押さえましたんで」

 

「……はぁ(にゃ)?」

 

「格闘技ー、とか、武術ー、とか、やってたわけじゃなかったんですけど。どうもあたし、戦いのセンスっていうか、間の取り方みたいのが抜群にうまいらしくて。なんか、サクッとやっつけちゃえたんですよ」

 

「なら、良かったにゃ」

 

「やー、それが……。『暴漢を取り押さえた英雄少女!』って新聞に乗ったんですけど……。『これが英雄少女のデザインだ!』って、超ダメだった応募作も載せられちゃったんです」

 

「それは…なんとも…」

 

「んで、『あまりにひどい』『本当に服か?』と、新聞に載るなり街中で笑いものになる始末……」

 

「そ、それは……なんというか、不憫にゃ……」

 

「いや、もう……街中の人に『これはひどい』って言われりゃ、そりゃあきらめもつきますよ。逆にあたしの戦闘の才能に目をつけた人が現れて、しばらく修業したりなんだったりして……。いろいろやっているうちに、流れ流れてこの都市に来ちゃった、って感じですね。はい」

 

「…本当に波乱な人生を歩んでるな」

 

そう言うと、ミリィはあわてて、ぶんぶんと手を振った

 

「ああ、お気になさらず!そりゃあたしも当時はヘコみましたけど、今は平気ですんで!夢を叶えられなかったのは残念ですけど、いちおうこうして手に職あるわけで、ええ……」

 

その瞬間、路地の向こうで悲鳴が聞こえた

 

「ロストメアか?」

 

そう思って振り向くと、一台の馬車が通りを爆走してくるのが見えた

 

「ば、馬車強盗だぁーっ!!」

 

ミリィが、ぐいとコーヒーを飲み干した

杭打機を手に、勇ましく立ち上がる。

 

「行くのか?」

 

そう聞くと、彼女は、ニカッと白い歯を見せて笑った

 

「ロストメア相手じゃなくても、こういうの、あたし、ほっとけないんで!」

 

お代をテーブルに放り投げ、疾風の速度で馬車に突撃していく

 

「…まるでヒーローだな」

 

「キミ」

 

「わかってるよ、俺も行くさ!」

 

 

俺もお代をテーブルに置き、ミリィを追いかけた

夢破れた少女の背中は、それでも、確かな誇りに満ちていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《黄昏メアレス》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【DIGHTMARE】

 

黄昏時、都市の中央に築かれた門から、大量の荷物を載せた馬車がぞろぞろと現れる

 

「あれは、現実の側から来た馬車なのかにゃ?」

 

「お察しの通りさ、黒猫殿」

 

小さく笑いながら、ラギトが歩み寄ってくる

 

「あの門は黄昏時だけ通行可能になる。だからこの時刻になると、外からの隊商が雁首そろえてやってくる」

 

「積荷は何なんだ?」

 

「いろいろあるが、いちばんは食糧だ。ここは、外からの供給にすべてを頼っているからな。あとは、人だな。外に居づらくなった人間が、新天地を求めてよく来る」

 

「随分詳しいじゃないか。ラギト、あんたもそうなのか?」

 

「いや。俺はこの都市の生まれだ。両親はそのたぐいだったが。ゼラードなんかとは比べ物にならないろくでなしでな。俺を金儲けの道具にしようとしていた。たまらず早々に家出して、路地裏暮らしを始めた」

 

「あんたも随分な人生を歩んでるな…」

 

「それで、『最強のメアレス』になったにゃ?」

 

「いや。その頃は、『最強のメアレスコンビ』だった」

 

「コンビ?」

 

「ああ。腕っぷしお認め合った親友がいたんだ。アフリト翁に誘われて、ふたりでメアレスになった。向かうところ敵なし、というやつさ。ロストメアをガンガン倒して、どんどん金を貯めていった。そのうち、相方が言い出したんだ。どうせなら、これを元手に外で一旗揚げようぜ、と。この都市で生まれ育った俺たちにとって、外はあこがれだった。いつか外に。そうしたらどうするか、なんて話で夜通し盛り上がったものさ」

 

しかし、語るラギトの瞳が、不意に鋭く細められ、限りない痛みの色を宿した

 

「……知らなかったんだ。それを”夢”と呼ぶのだとは」

 

「…なるほどな」

 

夢見ざる者、メアレス

夢を持たぬがゆえにこそ、ロストメアと戦える者たち

そのメアレスが、夢を抱いた

それが意味するところは、つまり……

 

ラギトは、想いを封じるように瞑目した

 

「ロストメアとの戦いで、俺たちは敗れた。なんでもないはずの相手に、手も足も出せずに。そいつはそのまま俺たちを飲み込もうとしてきた。大方、寂しがり屋の見た夢だったんだろう」

 

見果てぬ夢

その内容次第で、ロストメアが特殊な能力を持つことがある

その話は、俺もリフィルから聞いていた

 

「俺もあいつも半ば融合されかかった。このまま食われるのだと、俺は諦めた。……あいつは違った。残された力を振り絞って……俺をロストメアから引きはがし……刺し違えた。土壇場で、捨てたんだ。夢を。俺のために。最初に夢を語ったのはあいつだったのにな……」

 

「なら、あんたが身にまとう力は、」

 

「そのときの名残だ。ロストメアの一部が、身体に融合したままになった。おかげで、外には行けなくなった。こいつの夢を叶えてしまいかねない」

 

「それでもう一度、メアレスに?」

 

「ああ。幸い、この力は戦いには役立つ」

 

ラギトは笑った

若さに似合わぬ、どこか錆びついた笑いだった

 

「最初は……夢を失った以上、もはや戦う意味もないかとは思った。だが……この命は、友に救われた命だ。そう考えると、無駄にするのは忍びなくてな。この都市から出られぬ身なら、せめてこの都市の人々を守るために戦い続ける……。それでようやく、あいつに顔向けができる。そんな気がする」

 

そう言って、ラギトはきびすを返した

黄昏の門に背を向けるようにして

 

「最強なんて呼び名に意味はない。俺は、都市を守れればそれでいい。だから他のメアレスとの共闘もいとわない。あんたともよろしくやって行きたいもんだ。都市を守る力は、多いほどいい。死ぬなよ、魔法使い」

 

「…ああ」

 

去りゆく背中には、限りない悼みと、そして、同じだけの覚悟がにじんでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《黄昏メアレス》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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