ヒーローと黒猫のウィズ   作:ロック・ハーベリオン

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第11話:閉ざされた夢の復讐

「……いいかしら、魔法使い。訊きたいことがあるんだけど」

 

「ん?なんだ?」

 

オフの日の、穏やかな昼下がり

リフィルが、突然、俺の部屋を訪ねてきた

 

「で、何が聞きたい。話せる範囲で話してやるぞ」

 

そう、俺が言うとリフィルはわずかにためらいの顔を見せ、意を決したように、こちらをひたりと見つめ、問うてきた

 

「……魔道士でいるのって、どんな気分なの? あなたのいた世界では……」

 

「魔道士、か。まあ、俺の世界は魔道士は俺しか居ないけどな。まあ、ウィズの世界のことを話すか。ウィズの世界はクエス=アリアスって言ってな。そこでは魔道士ギルドが結成され、日夜、魔法の研究と実践を重ねて、多くの魔道士がさらなる高みを目指している。そして、魔法を扱うのに必要な叡智の扉を開き、精霊からの問いかけに答えるための精神修養と格物到知に努めている。そして、『魔法使いは人々の奉仕者たれ』の精神のもと、人々の依頼を受け、困りごとの解決に勤しんでいる。最もこれはウィズの世界だけの話じゃない。前も話したが、俺の世界は個性っていう固有魔法みたいなのが、溢れかえっている。その力は使うやつによって、正義にも悪にもなる。俺の力はウィズの世界の力と同じだ。なぜか、な。だからこそ俺は魔道士として、力を持つものとして、正しくありたい。誰かを助ける『魔法使い(ヒーロー)』でありたいんだ」

 

俺の語るクエス=アリアスの魔道士像を、そして、俺自身の魔道士像をリフィルは、じっと黙して聞いていた

俺が語り終えたところで、彼女はひとつ、重々しく吐息し、複雑な表情のまま目を伏せた

 

「……そう。それがウィズの世界の魔道士の姿と、あなたの描く魔道士の姿なのね」

 

「リフィルは、リフィルの人形は、どうして魔法を使えるんだ?」

 

 

俺はそんな彼女の姿に思わず、これまでずっと気になっていた疑問をぶつける

答えづらい質問かと思ったが、リフィルは、特に嫌がるぞぶりもなく、話し始めた

 

「私の家、アストルム一門は、古の時代から数多の魔道を修めてきた。戦うための魔法、身を守る魔法、傷を癒す魔法。呪いの類や、精神に干渉する魔法までも。でも、人々が魔力を失い、魔道が廃れ尽くした今、一門の人間でさえ、魔法を扱えなくなった……。その未来を祖先は予知していた。だから死後、己の骸を改造させて人形型の魔道書とした」

 

「まだ魔法を使えた時代の魔道士……。その骸を魔道書にしたから、魔法が使えるわけにゃ」

 

「そうよ。もっとも、魔力の補充はいるけどね」

 

「そこまでして魔法を使わなくても、この世界には便利な機械がたくさんあるにゃ」

 

「魔道は一門のすべてだったのよ。捨て去ることなどできない。けれど、もはや魔道再興は叶わない……。だからせめて魔法があるという事実を残そうとした。人形を操り魔法を使い続けることで、魔法の存在を”保存”し続ける。それが、一門の務め……」

 

「なら、リフィルも…」

 

「リフィルとは『代替物(リフィル)』……。『器を再び満たすもの』……。私は、人形に魔法を使わせる部品に過ぎない。ずっと、そういうものとして生きてきた。だから、私には、自分自身の夢がない。自ら望んだ、夢なんてものは……。別に、それで構わないのだと思っていた。でもあなたを、本物の魔道士を見ていると…なんの夢も持たずに生きることに……人としてなんの意味があるんだろう、って」

 

「リフィル…」

 

瞳に深い苦悩の色を乗せ、リフィルは静かに頭を振った

 

「私、どうして……。今さら、こんな話……。本当に今まで、気にもならなかったことなのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

快活なざわめきに満ちた雑踏が、目の前に広がっている

いつもなら気に留めないような、当たり前の風景

今はそれが、別のもののように見える

うかつに踏み込むことをためらわせる、うねり狂える荒波のように…

 

「ホントに……見たんだな?コピシュ。その……お母さん」

 

「うん……。まちがいなかった……と、思うんですけど……」

 

「いや……疑うわけじゃねぇんだが」

 

(……いるかな。あいつ。こんな都市に……。……何を考えてるんだ?え?徹剣(エッジワース)よぉ……。探して……どうするんだ?また、いっしょに、なんて……できるのか?そんなこと…)

 

 

 

 

 

 

『私……もう耐えられないの……。夫が、いつ死んで帰ってくるかもわからないなんて……!』

 

『剣は、人を斬る武器だ。それを手にして戦う以上、剣士にとって、死は覚悟すべき宿命なんだ』

 

『あの子まで剣を教えて……っ!あなたは、あの子まで……あの子まで、剣しか知らない怪物にする気なの!?』

 

『こんな時代だ。身を守れた方がいいじゃないか。コピシュだって、あんな楽しそうに、剣を……。』

 

『もう、耐えられない……。耐えられないのよ……』

 

『わからない。本当にわからないんだ。教えてくれ。何がいけなかったんだ。何がそんなに君を……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(剣以外で……、初めてできた大切なもの……。それを守る……。それが俺の夢だった……。だが消えた。だからメアレスになったんだ。なのに……どうして、俺は……今さら……)

 

「っ!お父さん……あそこ!」

 

「……!」

 

息を呑む

我知らず

そうすることしかできなかった

小さな指の示す先、雑踏の奥から、何気ない風情で現れる、ひとりの女性

立ち尽くすこちらの姿に気づいて…

彼女もまた、その眼を驚きに見開いていた

 

「コピシュ…あなた……」

 

「おまえ……。どうして…ここに……」

 

「ゼラード……。私……。私……、もう一度、あなたと…」

 

「…!!お父さん!そいつ、違うッ!!」

 

 

 

 

 

ザスッ!!

 

 

 

 

 

灼熱

腹に、炎のような熱と衝撃が爆ぜる

ゼラードは、ただ茫然と見つめている

妻の手を

紅に染まった、その指先を

 

「ロスト……メア……」

 

「まさか…おまえ…俺の……捨てた……」

 

「お父さんッ!!」

 

瞬間、ゼラードはカッと眼を見開き、喉も裂けよと叫びを上げた

 

「ファルシオン!スティレットッ!」

 

「ア、アイアイッ!」

 

条件反射

コピシュが即応

飛来する曲刀と短剣

受け取る

一閃

妻の姿をした者へ

容赦なく

 

「ハハハハハハハハハッ!」

 

異形の顕現、異形の哄笑

苛烈の刃をするりと逃れ、にたりと口を歪ませる

 

「コピシュっ……!誰でもいいっ!メアレスどもを、呼んでこいッ!!」

 

「でも…お父さん!!」

 

「いいからッ!行けェッ!」

 

父の咆哮

娘は、震えながらうなずいた

 

「わ、わかりました……。無茶しちゃだめですよ!絶対ですよ!お父さん!!」

 

急いで走り去るコピシュに、敵の目が向く

それをさえぎるべく、ゼラードは立ちふさがる

 

「恨んでんのは、俺の方だろ……。えぇ?お望みどおり、相手をしてやるよ……」

 

手にした剣が、異様なまでに重く、冷たい

湧き上がる不安、恐怖、絶望、後悔…

そのすべてを噛み殺し、ゼラードは吼えた

 

「俺には剣しかねぇ…。だがな、

 

 

 

剣なら負けねえっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リフィルさん! 魔借さんっ!!」

 

「コピシュ?」「どうした?」

 

「お父さんを…。お父さんを……助けてぇっ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあッ!!」

 

 

剣を振る

これまでどおりに、培ったすべてを出し切っていく

斬りつける

夢の絶叫

痛ましさが胸を衝く

夢を潰す痛みに身体が震える…

押し殺す

敵の反撃

異形の刃

短剣の鍔元で受け止め、曲刀で斬り返す

翻る剣光を敵の牙が噛み止めた

刃を折られる

いつもなら代わりを頼むところ

今はない

ただ独り…

それでいい

守らねば

撃ち合うたびに、心が冴える

意識という意識が揺るぎなく研ぎ澄まされてゆく

剣のごとくに…

色すらも抜け落ちたような静寂

無我なる地平

ただ剣を振るい敵と戦うためだけの極地へと、到る

踏み込む

娘の名すら、今は忘れた

そうでなければ守れない

剣に、剣にならねば

 

「わ…私は……」

 

前進

一閃

連なる刃

見切り、受け止め、断ち割り、前へ

 

「私は、おまえの夢だぞ!おまえが、かつて!真に夢見た未来なのだぞ!!なのに、!!」

 

前進

一閃

交わる刃

いなし、受け切り、刺し貫き、前へ

 

「結局は、剣か!剣に頼るか!夢すら持てない剣のままか!!ならば…剣に死ねぇッ!!」

 

牙が来る

無数

そんなわけがない

よく見ろ

せいぜい22

ならば凌げる

凌げ、剣で!

 

「おぉぉぉおおおおおおぁあああああああッ!!」

 

斬る裂く叩く断つ割る破る流す折る壊す貫く潰す、打つ薙ぐ刻む突く蹴る弾く躱す削ぐ崩す擲つ砕く

 

凌いだ果てに、なお前へ

 

至近距離

妻の顔をした怪物が驚愕に震える

 

これまでの人生においてまったく最高の、どんな敵をも切り伏せうる一刀を、

 

前へ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼラードッ!!」

 

戦場に辿り着いた俺たちは、見た

恐怖の表情を顔に張りつけて凍りついた、女性型のロストメアと…

その前に倒れ伏した、ひとりの男を…

動かない

ぴくりとも、その手に剣を握ったまま…

力という力を使い果たしたかのように

リフィルの瞳が、俺の瞳が、それを映して、

 

「貴様ぁっ!!」「てめぇっ!!」

 

激昂の叫びが、宙を割った

 

「『修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍以て振り荒べ』!!」

 

「『武装召喚(サモン・ウェポンズ)!【ハヅキ・ユメガタリ】!』」

 

リフィルは数多の雷を最大威力で放ち、俺は刀を呼び出し、斬りかかった

 

「ははははははぁ!!」

 

しかし、リフィルの魔法は避けられた

 

「もらった!!」

 

だが、俺はその隙をついて、居合切りをする

 

「無駄だ」「なっ!?」

 

刀はロストメアをすり抜けた

 

「死ねぇ!!」

 

「くっ!」

 

ロストメアは数多の牙を俺に差し向ける

カードを取り出して障壁を張り、ガードした

 

「『慈悲のまにまに、天よ泣け!【下天暴雷槍(フルゴル・クルエントゥス)】』!!」

 

ロストメアが俺に集中してる間に、リフィルが詠唱

しかし、魔法は刀と同じようにロストメアをすり抜けた

 

「クソっ!」

 

「リフィル!」「リフィルさん!」「魔法使い!」

 

そうこうしているうちに、メアレスが集まってきた

 

「ラギト!俺がロストメアを引きつける!その隙に、ゼラードを下げろ!」

 

「わかった!」

 

俺は再び、ロストメアに向かって接近

今度は初めから迎撃しようとしたのか、牙を俺に向けてきた

 

「させないっての!」

 

それをルリアゲハが撃ち落とす

そして、ロストメアの眼前に俺が出る

 

「ゼロ距離ならどうだっ!」

 

俺はカードを持っていた手をロストメアにぶつける

次の瞬間、俺の目の前を爆炎が包んだ

しかし、炎が晴れた瞬間、ロストメアは散った体を集め、再生した

 

「ちっ!」

 

「ゼラードは下げた!俺を参戦する!」

 

「全員で攻撃しろ!」

「ああ!」

 

「了解!」

 

「うすうす!」

 

そして、駆けつけたメアレスたちによる一斉攻撃が、ロストメアに殺到する

だが、不意にロストメアの全身が霧散し、攻撃のすべてが宙を裂くに終わった

散じたロストメアの身体は、再び集合、もとの姿を取り戻す

 

「こいつ……霧になる!?」

 

「さっきまでの攻撃は霧状態になって避けていたのか!」

 

「ふ、はは、ははははははは!そうだ!私にはこれがあったじゃないか!!あの人に授かった力!剣など、恐れる必要もなかったのだ!!」

 

徹剣(エッジワース)がやられるわけだ……!リフィル、魔法使い!何か手はないか!」

 

「俺がやつを固定する!リフィル!その隙に!」

 

「わかっている!」

 

リフィルが詠唱を始める

俺は1枚のカードを取り出し、魔力を込める

 

「『ロストタイム・フレグランス』!!」

 

「ぎゃあああああ!!??」

 

突如、現れた球の魔法陣にロストメアは囚われ、帯電した

動きや能力を封じ、ダメージを与える雷時空間魔法…

それがファム・リリーのレジェンドSSである

 

「リフィル!」

 

「言われるまでも……う!?」

 

魔法を放としたリフィルの動きが、一瞬止まる

そこへロストメアが魔法陣を抜け、猛然たる体当たりをした

 

「ぅあっ……!」

 

「リフィルッ!」

 

リフィルは軽々と吹き飛ばされ、石畳の上を激しく転がった

ぐったりと、力なく倒れ伏す少女の瞳には、しかし、絶えざる熱火が烔々と輝いている

 

「なめるな……!!」

 

血を吐くような叫びに、背後の人形が応えた

滑らかに印を結び、即座に術を成す

打たれながら練り上げていた魔法

ロストメアの足元に膨大な魔力を秘めた魔法陣が描かれる

 

「な、なんだ!これは!」

 

それはロストメアを縛り上げ、動きを完全に封じた

霧になることもできないようだ

 

「『武装解除(リリース)!』『武装召喚(サモン・ウェポンズ)【ルフ・ファルネーゼ】【アルティメットまどか】【キナリ・ミクリヤ】!』『合成(ユニゾン)!』」

 

俺はそれを見た瞬間、3つの弓を呼び出し、ひとつに掛け合わせた

 

「【エレメント・ホープ・アロー】!!」

 

「潰せぇっ!魔法使いっ!!」

 

少女の声の後押しを背に受けて、俺は弓を解き放った

 

「消え失せろ!ロストメア!!」

 

放たれた光り輝く矢はロストメアに命中し、

 

「あ、ああ、ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ロストメアは全身から光を出して、消滅した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロストメアが消滅したことを確認し、倒れたゼラードの方を振り向くと、アフリトの姿があった

 

「アフリトさん……!お父さんは、」

 

「大丈夫だ。息はある!」

 

「なんだと? その傷でか……!?」

 

ラギトは致命傷ともいえる傷を受けながらも生きているゼラードに驚いていた

 

黄昏(サンセット)、癒しの術は使えるか!」

 

「……ええ!」

 

「俺もやろう!」

 

アフリトが手早くゼラードに止血を施すなか、俺とリフィルは回復の魔法をかけ続けた

 

「お父さん……お父さん……!」

 

「傷が深すぎる…。今の俺の魔法じゃ直しきれん…」

 

「応急処置はした。病院へはわしが運ぼう」

 

「わ、私も行きます!行かせてください!」

 

アフリトがゼラードを担ぎ上げる

その様を見ながら、ラギトが頭を振った

 

「……霧に変じるロストメアとはな。徹剣(エッジワース)は運がなかった……」

 

「……違う。コピシュから聞いたわ。ゼラードは不意打ちで深手を負ったと…」

 

「馬鹿な。彼ほどの剣士なら、不意を打たれたところで、むざむざやられるはず、」

 

「夢を持つものは、ロストメアとは戦えない…」

 

リフィルの言葉に、その場の誰もが息を呑んだ

 

「兆候はあった。気づくのが遅れた。彼は……夢をもたらす”毒”に蝕まれていた」

 

「そういえば、前の戦いでも突然動きが……」

 

言いかけ、ミリィはハッとリフィルを見やった

少女は、きつく拳を握っている

 

「……”毒”って言ったわね。リフィル。それってまさか、単に夢を見たんじゃなく、」

 

「そう。何者かによって、流し込まれたということよ。彼も……。そして、私も」

 

「精神干渉魔術…か」

 

「ええ、魔法使いの言う通り。精神への直接的な干渉……。この術は……!!」

 

少女の唇から、煮えたぎるような怒りの声がこぼれた

そのとき、都市が、揺れた

 

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