ヒーローと黒猫のウィズ   作:ロック・ハーベリオン

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第12話:黄昏mareless

都市全体に、激震が走った

同時に、石畳の上に蜘蛛の巣めいた禍々しい形状の糸が無数に走り、魔力の輝きを放つ

そして、その”糸”から、ぼこり、ぼこりと悪夢の欠片が現れ始めた

 

「なんですか、これ!?どうなってんすかぁ!?」

 

「これは……魔法陣!都市全体に張り巡らされて、土地そのものから魔力を吸い上げている!」

 

「おい、この魔力の集まる先は、」

 

俺の言葉を受け、険しい瞳でリフィルは彼方を見やった

その先、中央の門に、”糸”が絡みついている

 

「都市中の魔力を……門に集めるつもりか!この魔法、やはり──!」

 

「これ、魔法だっていうの!?でも、魔法なんて、あなたたち以外に、いったいどこの誰が……!?」

 

「ロストメアと考えるしかあるまい。この悪夢の欠片どもはさしずめ足止めか」

 

「リフィル、魔法使い。君たちは門に向かえ。雑兵どもは、俺たちで引き受ける」

 

「敵が魔法を使うってんじゃ、魔道士じゃないと勝てないかもしんないですもんね!」

 

リフィルは、ちらりとコピシュを見やった

少女は父を抱えたアフリトの傍に付き添い、固く唇を結んでいる

その姿を眼に焼きつけるようにして、リフィルは、強くうなずいた

 

「わかった。アフリト翁、コピシュとゼラードを、頼む!」

 

「ラギト、ミリィ!そっちは頼んだ!行くぞ、ウィズ!」

 

「にゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪夢の欠片を他のメアレスたちに任せ、俺たちは中央の門へと急ぐ

 

「人の都市で、好き勝手してんじゃねーぜ!」

 

「夢のある連中は、とっとと逃げな! 悪夢にうなされても知らないよ!」

 

戦場と化した街を駆け、ようやく俺たちは、中央門に辿り着いた

そこに、ひとりの少女が立っていた

膨大な魔力を、その身にたたえて…

 

「あら……来てしまったのね、リフィル。まあまあ、お供まで引き連れちゃって」

 

くすくす笑う少女に、リフィルの鋭い声が飛ぶ

 

「貴様、何者だ。どうして、魔法を……我がアストルム家一門の秘儀を使える!?」

 

「にゃ!? アストルム家のって、それじゃあ、」

 

「この”糸”は『秘技糸』か!」

 

少女は、うっすらと微笑んだ

 

「どうしてか…。あなたならわかるのではなくて?」

 

「……ロストメアか。おまえは……我が一門がとうに捨て去った、見果てぬ夢の残骸なのか!!」

 

「そう」

 

リフィルの政党を讃えるように、少女はそっと胸に手を当てる

 

「『世界に再び魔道文化を花開かせる』……その夢が、私。あなたたちは諦めた。古の人形を操り、魔法の存在を残すことだけに目的を絞った……。だから、私ががんばるの!この都市から現実の世界にはばたいて、世界に魔法を復活させる!」

 

「なら、この魔力は、」

 

「ただ門をくぐって夢を叶えても、持っている魔力が少ないと、あまりいい夢にならないの。叶える夢は大きくないと……ね」

 

「外に出る夢は魔力によって大きさが変わるのか…」

 

微笑みながら、夢が空へと舞い上がる

慈愛に満ちた言葉だけを残して

 

「夢を見なさい、リフィル。あなたは何もしなくていい。私が、あなたたちの夢見た世界を叶えてあげる!」

 

夢が、ぐんぐんと空に昇っていく

門の上、魔力の集う先へと向かって

 

「……どうする、リフィル?」

 

「無論、追う」

 

「だろうな」

 

屹然と門の上を見つめながら、リフィルは言った

瞳に、固い決意の色がきらめいている

 

「奴には、確かめなければならないことがある……!」

 

「そうか。まあ、俺も奴には一言言いたいしな。同じ魔法の使い手として、あの夢を放っておくわけにはいかない」

 

そう言うと、リフィルは振り向いて、意外なほど素直にうなずいてくる

 

「そうね。ありがとう、魔借」

 

傍で聞いていたルリアゲハが、驚きの顔をした

こうも自然にお礼を言うなんて、とばかりに

 

「おそらくこの戦い……。あなたの存在が鍵になる」

 

吹っ切れたような、道を閉ざす霧を意志の炎で焼き尽くしたような確固たる面差し

 

「力を……貸して。ゼラードと、コピシュのためにも!」

 

「ああ、いいぜ。誰かを助けるのは魔道士として、ヒーローとして、当たり前だからな!」

 

そう、うなずきながら俺もまた、悠然とそびえ立つ門の上へと視線を馳せた

 

「行くぞ!魔法使い!」

 

「ああ!」

 

そう言い合い、リフィルは人形を、俺は風の魔法を駆使して、門の上へと上がっていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実へと通じる巨大な門の、その上で、夢の少女は、現れた俺たちを前にして、あどけなく不思議そうに首をかしげた

 

「なぜ来たの?リフィル。私は、あなたの一門にとって、きわめて有益な存在よ?」

 

「『修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍以て振り荒べ』!」

 

少女の言葉を無視し、リフィルは詠唱を紡ぐが、

 

「……ぐっ!」

 

魔法を放とうとする瞬間、苦しげに顔を歪め、束ねた魔力を霧散させてしまった

 

「やはり……そうか!貴様……毒を!ロストメアに……仕込んでいたなッ……!!」

 

「さすがに気づいた?そう。あなたたちが倒したロストメアに、魔法の毒を呑ませておいたの。”夢を見たくなる”という毒を、ね」

 

「ロストメアを倒した者の心に”夢見る意志”を植えつける。精神干渉系の呪詛魔法……」

 

「じゃ、ゼラードがロストメアにやられたのは、この前の敵にとどめを刺していたから……!?」

 

「メアレスという障害を封じるために……。他の夢さえ利用したのか!貴様は!!」

 

「正確には、”あなたを封じるために”よ。リフィル。だから魔法しか通じないロストメアを育てた。あのメアレスを片付けたのは、ただのついで」

 

「ゼラードを襲ったのは……私に毒を盛るための、その行きがけの駄賃でしかなかったというのか!」

 

「そうよ。同じ魔法の使い手であるあなたは、私を叶えるのに、とても邪魔なのだもの。それにね……、私、あなたにも夢を見てほしかったのよ」

 

「なんだと……?」

 

「だって、夢を見るって、とてもすばらしいことなんですもの。夢を抱いて生きるのは、人にとって当然のこと。夢見ることこそ人の性。生きていることの証。夢見ることなく生きるなんて、とてもとても悲しいこと。素直に夢を願いなさい。私の毒を”2度も”受けては、もう夢を潰せないのだから」

 

「だったら……

 

毒を受けたのが”1度”までなら!まだ、戦えるはずね!

 

強い意志の光を瞳に宿し、リフィルが糸を繰る

併せて俺も隣に並び、カードを取り出した

ふたりの魔道士、ふたつの魔法

放たれた魔力を、ロストメアもまた瞬時に組み上げた術で防ぐ

 

「魔法……!?バカな!どうして……」

 

驚愕にさまよう瞳が、君の姿を映し出す

 

「どうした?ロストメア?随分と驚いているようだが?」

 

「何者だ!?もはやこの世界のどこにだって、魔法を使える者などいるはずがないのに!!」

 

「いるそうよ。よその世界にならね」

 

「異世界からの来訪者だと……!?よもや…。そうか、貴様、リフィルの代わりに夢を潰したか!」

 

「ご名答。魔法以外通じないロストメアをな」

 

「だから私が毒を受けたのも、1度だけ。そして、異界の魔法使いは、夢があろうとなかろうと、ロストメアと戦える!」

 

「馬鹿な…。そんな…でたらめな!!」

 

「でたらめでなにが悪い。無理、無茶、無謀を押し通すのが魔法だろうが!!」

 

激しく動揺するロストメアを前に、リフィルは苛烈に糸を構え、俺はカードに魔力を込める

 

「行くぞ!ルリアゲハ、魔法使い!人の心を道具にする夢など、ここで砕くッ!!」

 

リフィルのその言葉と共に俺は魔法を放つ

カードに魔力を込めるウィズ式の魔法を

 

「ちっ!」

 

それを障壁で防ぐ ロストメア

そこを、

 

「落ちなさい!」

 

ルリアゲハが銃を連射

 

「洒落臭い!」

 

しかし、それはロストメアが放った黒炎に読み込まえた

そして、黒炎はそのまま俺たちの方へと向かってきた

 

「『【光華月鏡(パルマルーキス)】』!」

 

それをリフィルが障壁で防御

次の瞬間、魔法を放った

 

「ぐっ、なぜだ、リフィル!夢を持たぬおまえが、どうしてそうもあがく!戦うッ!」

 

烈風荒ぶ門の上、鮮やかに魔法を放ちながら、リフィルは静かな口調で問いに答える

 

「夢を見ない者は、生きているとは言えない……。そうじゃないかと、私も疑った。でも……、そうであるなら、この胸にたぎる炎の説明がつかない!

 

「炎だと!?」

 

「おまえがゼラードにしたことを考えろ!!どうやら、夢を持たない人間であっても、怒りを覚えはするらしい!!」

 

電撃が走り、紫電が踊る

互いに魔法を撃ち合いながら、ロストメアが愕然たる叫びを上げる

 

「怒り!?そんな…。家族でも恋人でも、仲間ですらない者を失った程度で!!」

 

「確かに仲間ではなかった。でも、それでも、この都市に生きる、同じメアレスだった!!その心を利用したおまえへの怒りがある!」

 

言い合う2人の間に俺が割り込み、ロストメアに魔法を放つ

 

「俺から言わせれば、”夢を以って生きるのが当然”なんて、そんな傲慢、反吐が出る!!」

 

「っ!?なんだと!?」

 

俺の続きの言葉をリフィルが紡ぐ

 

「夢があろうがなかろうが……!怒りもすれば、泣きもする!それを無視して、夢見ることを押しつける!そんな夢など、唾棄して潰す!!」

 

「夢ってのは見せるものじゃない!自らの意思で見るものだろうがっ!!」

 

「貴様は、貴様らは、夢のひとつも持たぬくせに、夢を持っているくせに、人の夢を折り砕くつもりか!!」

 

「「そうであって、悪いかッ!!」」

 

「くっ……!」

 

気魄とともに雷撃がほとばしる

ロストメアは後退し、防御の術を練り上げた。

 

「ウーリット・メー・アールドル・イニミーキティアエ!」

 

ロストメアの放つ魔法陣がリフィルの雷撃を防いだ

瞬間、ふたつの影が宙に踊った!

 

「させないってんですよ!!」「横槍を叩き込ませてもらう!」

 

門を駆け上ってきたミリィとラギトが、少女の浮かべた魔法陣を猛然と砕き破る!

 

「おのれッ!夢見ざる者どもがッ!!」

 

「血反吐を吐いて潰れろッ、凶夢ッ!!」

 

リフィルと人形が、共に素早く印を結んだ

 

「ムーギーテ・レオーニーネ!ディスペルガ・エト・プルウィアエ・ルトゥムクエッ!」

 

リフィルの眼前に形成された巨大な魔法陣から、膨大な量の雷の渦束が放たれ、夢を撃つ!

 

「ぬぁあぁああぁああああっ!!」

 

ロストメアは咄嗟に防御魔法を展開

すさまじい量の魔力を集積、雷を受け止めた。

なおも雷の渦束を放ち続ける少女の唇から、苛烈きわまる咆哮がほとばしる

 

「陥とせ!!魔法使いッ!!」

 

「ああ!!」

 

その声に応え、俺は走った

共に戦った日々が培った、阿吽の呼吸

彼女が”この瞬間”を狙っていると、そう悟り、待っていたのだ

 

「ウィズ!行くぞ!」

 

門を蹴り、人形の肩を踏み台に跳躍

その瞬間に、魔法を発動する

 

「『我が呼び声に答えし異界の精霊よ。その力を我が元へ!全て変える力となれ!完全憑依召喚(フルインストール)!!【叡智の賢者 ウィズ】!!』」

 

俺は完全憑依召喚(フルインストール)を発動し、ウィズと一体化する

そして、ロストメアの頭上で、数多のカードを構える

精霊の呼びかけに答え、叡智の扉を開放

解き放つ、異界の魔法を!

 

「なんだ……それは!?貴様、私の、私の知らない魔法を使うなぁっ!!」

 

「『知らないようなら、ご披露するさ!これが【四聖賢】直伝、クエス=アリアスの魔法だ!』」

 

そして、炎、氷、雷、光、闇、数多の魔法が放たれ、

 

「う、あ、ああぁぁああぁああああーーーーっ!!」

 

門の一帯は光に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が訪れた

あの騒乱が嘘のように、静かに寝静まる街

その一画の路地裏に、夢見ざる者たちが集っていた

 

「そうか。魔法使いは、去ったかい」

 

「気がついたら、消えていたわ。目が醒めた後の、夢みたいに」

 

「ひょっとしたら、本当に夢だったのかもしれないわね」

 

「え?ロストメアだったってことですか?」

 

「そういう見果てぬ夢じゃなくて。空想とか、幻想とか……、そういう夢」

 

「ここは、夢と現実の狭間にある都市だ。そういうものが現れても、おかしくはなかろうさ」

 

「アフリト翁がいちばんそれっぽいんすけど。いつの間にかいたりいなかったりするし」

 

「今回は、その神出鬼没の働きに助けられたな」

 

「ゼラードには金を貸したままでな。死なれてしまってはわしが困るのさ」

 

「あ、まだ返してなかったんだ……」

 

リフィルが、じっとアフリトを見つめた

 

「……ふたりの様子はどう? アフリト翁……」

 

「ゼラードは魔法使いの魔法のおかげもあってか、一命を取り止めた。まだ意識は戻っておらぬが、いずれ目を覚ますだろう。コピシュはゼラードについておる。剣しかない男が、甲斐甲斐しい娘を持ったものだ」

 

「よかったぁ。一安心すね!」

 

「いや……。とも限らない。あれほどの深手だ」

 

「医者も、生きているのが不思議を通り越して、息があるのがおかしいと言っていた」

 

「果たして再び剣士として立てるかどうか……」

 

「そうなると、コピシュの身の上が心配ね」

 

「私が預かる」

 

「え?」

 

「仮にゼラードが再起できたとしても、しばらくは戦える身体じゃない。その間、私がコピシュを預かる」

 

「コピシュがメアレスとして戦うことを望んだら、どうするね?」

 

「ひとりで戦わせるわけにはいかない。いい、ルリアゲハ?」

 

ルリアゲハは、艶やかに片目をつむった

 

「あたしは賛成よ、リフィル。報奨金はあの子と折半にするわ」

 

「それだけじゃ、フェアじゃないわね。魔力も半分はコピシュに渡す」

 

「ほう。良いのかね、黄昏(サンセット)?」

 

「コピシュと共に戦えば、それだけロストメアを倒しやすくもなる。損にはならないわ」

 

「ほ、そうかそうか」

 

「……何か言いたげね」

 

「言葉には、秘めてこその価値というものもある」

 

「秘めたまま、腐らせなければの話ね」

 

つぶやくように言って、リフィルは、星の瞬く夜空を見上げた

空には、数多の星がきらめいている

だが、そのすべてが、夢を抱いているわけではあるまい

人も同じだ

夢を持たないことが、すなわちきらめきのないことを意味するわけではない

 

 

 

(夢がなくても、生きてはいける。怒りもすれば、泣きもする……。そうは思える。でも、まだ、はっきりそうだとわかっているとは言えない。知らなければならない……そんな気がする。”生きる”というのが、どういうことなのか……。私なりの……その、答えを……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…は!?」「にゃ!?」

 

俺が目覚めるとそこは見慣れた俺の部屋だった

 

「戻ってきたのか?」

 

「にゃ…。そうみたいにゃ。キミ、みるにゃ。時間が全く進んでいないにゃ」

 

「…夢、だったのか…」

 

「いや、そうでも無いみたいだにゃ」

 

そう言って、ウィズは最初に見ていた使えないカードを俺に見せてきた

 

「…【ピュアメア】のカード」

 

「これが契約状態になっているってことは」

 

「あっちでの出来事が進んでいるということか…。これはまた、巻き込まれるな」

 

「どうするにゃ?」

 

「決まってるだろ。助けに行くさ」

 

「にゃはは!それでこそ、キミにゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが6年前に起こった事だ」

 

「「「…」」」

 

出久達は俺の話を聞いて、黙ってしまった

一部、端折って話したが、無理もない

メアレス、そしてロストメア

その強大さを、強さを、力を知ってそのままでいられるわけがない

この世界にそれだけ大きな、影響を与えかねないのだから

 

「ケロ…。メアレスとロストメアについてはわかったわ。でも、黒猫ちゃん。どうして、ロストメアがこの世界に現れるようになったの?」

 

そう、蛙吹が聞いてきた

 

「にゃ。今の話はメアレスとロストメアについてだにゃ。そして、次に話す話はこの世界とメアレスの世界を繋ぐ原因になった話にゃ」

 

「つまり、今から話すことがなかったら、ロストメアはこちらに現れなかったということですか?」

 

「その通りだ、八百万。次の話しは5年前。あの出来事から1年後の話だ」

 

そして、俺は話を続けた

 

 

 

あの、大きな事件の全ての切っ掛けとなった話を…


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