ロリコンは死してもロリコンである。
俺は光を見た。いや、光が迫ってきた。
視界全ては白へと染まり、身体には鉄の塊が当たったのか全身は強烈な痛みに苛まれ、時期に身体が動かなくなった。
「大丈夫か!」
「おい!」
「早く誰か救」
薄暗くなった視界には三人の人影がある。
一人は慌ててスマホを取り出し耳に当てどこかへ電話している。多分救急車でも呼んでいるのだろう。
しかしもう遅い。
自分でもう死期を悟ってしまう。
あぁ、短くも長い人生だったな...もっと色んな事したかったな..
早速目として機能しなくなり虚空を見つめながら心の中で呟く。
次の人生できるなら幼女になりたいな...
ロリコンの彼は死ぬ最後の最後まで情けない事を思いながら、重くなっていく瞼を閉じる。
『ならその願いを叶えよう』
幻聴...もう終わりか
意識は薄れ、魂が肉体から離れ輪廻の渦へ帰還し、新たな肉体に宿り新たな人生を繰り返す。
それが世界の理であり常識だ。
自分もそうなのだと思いながら意識を手放し、そして眩しいほどの光が目覚めることのないはずの彼を呼び覚ます。
「あれ...なんで我生きて」
口調がおかしい!!なんじゃこりゃ!
二度と目覚めることの無かったはずの彼は蘇ったことに驚き、飛び起きるのだが、勢いあまり鉄の門へ頭を突き刺す。
『なんじゃ元気じゃのう死んだのに』
「誰」
抑揚のなく感情が篭っていない声で聞き返す。
鉄の門から頭を抜き声のした方を向くとそこに居たのは一人の老人だった。
顎に携えた地面スレスレまで伸びた白髭。
人生の苦労が顔に現れ至る所に皺がある。
腰を曲げ木の杖をつきながらゆっくりと老人は近づいてくる。
『挨拶をしておこう。わしの名は∈⊆⊇∈∈⊆』
「なに?聞こえない」
『しまったのう、ワシの名は聞き取れんか。まぁ仕方ない神秘の薄れたアレでは仕方がないか。そうじゃのう...生前の名キリストとを名乗ろう』
「キリスト?あのキリスト?」
『うむ、お主が考えておる者であっとるぞ』
老人は真っ白な歯を魅せるように大きな笑みを浮かべた。
イエス・キリスト
世界で一番有名な宗教人物と言っても過言ではなく、並の神話の英雄よりも有名であるとんでも人物。
神話などに詳しくない彼でもその名を聞いたことぐらいはあった。
絵画【最後の晩餐】にて真ん中で食事をしているキリスト教の事実トップ。【神の子】であるともされ、怪我をたちまちに治したなどが有名な話だ。
そんな超有名な人物にあえて嬉しい、てか困惑してもいいはずなのに何故かそこまで嬉しくない。なんで?
『答えるのは簡単じゃ、自分の身体を見てみぃ』
「身体?はっ」
言われるがまま身体を見ると息を飲んだ。
男の手より二回り以上も小さくなっている手に、綺麗な色白の肌。等身も明らかに縮んでいて一八〇cmあった身長は、推定一三五~一四〇cmになっている事だろう。
股間には男なら誰しも持っている聖剣と言うか魔剣が存在せず、あるのは自己主張の小さい僅かに膨らんだ果実。全体的に黒で統一されながらも、黒の隙間から見え隠れする白の布地。言わずもがなゴスロリ服であった。
視界の端には黒より黒い漆黒とも呼ぶべき程真っ黒な長い髪が映っている。
「幼女?」
『なんだ随分と感情が薄いのう。死ぬ間際まで願っていた事が叶ったと言うのに』
「分からない。嬉しいけど嬉しくない?」
『ふむ、その身体の持ち主が原因のようじゃな、まぁ時期治るじゃろう』
自分からは見えないが綺麗に整い人形みたいな顔を少し傾け、深淵のような瞳で老人を見つめていた。
老人は止めていた歩みを再開し幼女の隣まで進む。
『さて、お主の願いを叶えたのだからわしの願いも叶えてもらうぞ』
「?」
『分からないだろう。だがあえて今は言わない、その時が来たら言おう。今は新たな生を堪能せよ』
わけがわからないよ。
どこぞの怪しげな宗教マスコットのような言葉を思ってしまう。
問いただそうと手を伸ばすが、突如空いた後ろの門に吸い込まれ、老人に手が届く事は無かった。
『すまんな、少年お主に全てを任せよう』
白と黒の入り交じった渦へ自念の言葉を投げかけながら開いた門を今一度閉じる。これから彼の身に起こる厄災に嘆きながら。