何度目の朝だろうか。視界を白く染め上げる暖かな光が注ぐ。
開いた小窓からは涼しい風が吹き、髪を揺らす。
「すぅ......すぅ......」
「やはりまだ寝てましたか。あらかじめ予定は伝えていたはずなのですが」
予定起床時間からはゆうに過ぎてるのだが、今だ小鳥のような寝音を立てる幼女の前で椛は頭を抱える。
起きていなければ美しいですね。このままにしておきたい所ですが、起こさなければこの後にも支障がでるので。
心を鬼にして幼女を包んでいる掛け布団をむしり取る。
「はぁ...全くまた裸で寝ていたのですか」
掛け布団を失い、寒そうに身体を縮こませる素っ裸の幼女は数秒後にゆっくり目を開ける。
「おはよう」
「えぇ、おはようございます。先日言いましたよね?お仕事があるので起きてくださいと」
「そうだっけ?」
「そうです!!」
アンは覚えていないが、ミニ龍の協力により城は復旧予定の一年を大きく縮め、五日で完成へと導いた。
予定より早く終わったおかげで朧花の考えていた会議も急ぎ執り行われる事になり、それにアンも参加を命じられていた。
なので早く起きて午前中からある程度話をしようとしていたのだが、生憎寝坊姫がいたのでそれも頓挫。出来ることは今はたたき起こす事のみである。
「これから会議ですよ。早く来てください」
「我着方分からない」
「分かりました。私が着せますので取り敢えず下着をつけてください」
「おっけー」
床に転がっている胸当てと純白の布地。両方をおもむろに持ち上げ装着している間に椛は丁寧に畳まれた衣類を広げる。
黒が身体の大部分を覆い、その隙間から見える白いフリフリは全体の不気味さと合間り美しく見える。帯は黒と赤の線が交差し身体を一周する。
袖は長く手をすっぽり覆うが、スカートに形を変えられた裾は膝上にされ太ももふくらはぎを大胆に魅せる。
そのため、足用に白く長い靴下が用意されていてそれを履かせる。
最後はシンプルな黒い下駄を履かせ、全ての用意が終わる。
「これでよし」
「う、終わった?」
「さぁ行きましょう。ご飯の用意が出来ています」
眠いまぶたを擦り、背中を押されながら食事へ向かう。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「ごちそうさま」
シンプルな焼き鮭に白いご飯。ワカメ豆腐の定番な味噌汁を食べ終え箸を置く。
「私もだ」
眼の前で食事を終えた朧花も手を正面で合わせてから箸を置く。
食事を終えた事で団欒する時間は終わり、急ぎ会議へ向けての準備をしなければならない。
「アン、分かっているな。これから行うのは妖怪の今後に関することだ」
「わかってる」
「ならいいが、くれぐれもふざけるなよ」
その声言葉には酒を飲んだ時のようなおちゃらけさはなく、完全な仕事モードへと切り替えている。
身だしなみも完璧に整えられていて、当主としてはここだけを見れば問題ないと太鼓判を推せる。
妖怪の今後か...俺関係ないような気もするけど仕方ないか。
自身の正体、無限の龍神である事を知ってから三日間の謎も解け安心するのと共に、もう人間ではないのだと改めて実感することになった。
それで疑問なのが龍なのに妖怪?となっていて、何処か関係ないような気がしていた。
「彼女には声をかけたか」
「昨日言ったから大丈夫。多分会場の準備をしていると思う」
「そうか、ならいい。行くぞ」
簡単に確認を終え立ち上がり、首を数回回してため息を漏らしながら城へ向かう。
黒い羽はピンと横に伸び、空を切り裂きながら空へ浮かび上がり空を進む。
アンはそれについていくのだが、空を飛べるほど魔力操作は完璧ではないので、空気を圧縮し足場を作って踏みしめながら空を走る。
地上とは違い混雑がしていないので、ほどなくして城へたどり着き、最上階天守閣へと窓から足を踏み入れる。
「お、やっと来たか。たく開催者が時間ギリギリかよ」
「すまんな巌。こやつが寝坊してな」
「へーそいつが...まぁいいや早く始めろよ」
アンの事を興味津々で見つめた男はさっさと始めるように急かし、空席の二つの席へ進み椅子に座る。
「それでは第一回会議を始めよう」
朧花の重々しい言葉と共にその場にいる八人全員に気合が入る。
妖怪社会初の会議に何をしていいのか分からず、始まったものの言葉は一切交わされず口を閉じている。
それを良くないと思った司会の朧花は立ち上がる。
「初めての会議だ。知らないものも多いだろうから、自己紹介から始めよう。
私の名は朧花、種族は大天狗だ。今回はこの会議の発案者という事で、司会進行を務める。よろしく頼む」
簡潔に重要なことを詰めた自己紹介を終わらせると、先程の男の方に指を指し着席する。
俺かよと指を自分に指した男は髪を掻きむしりながら席を立つ。
「あぁ、俺の名は
海のように透き通った青の髪で、瞳を蒼眼に輝かせる。頬には大きく引き裂かれた古傷があり野蛮さを引き立たている。
服は殆どはだけていて、胸元のシックスパックをガッツリ見せ、袖は脱ぎさり腰の帯のところで髪色と同じ和服は折れ、床に袖が張り付いているように倒れている。
その巌と名乗った男はは自身の種族を八岐大蛇と語る。
八岐大蛇とは日本最古の龍にして、日本最強の妖怪兼龍である。
その強さは神すら手を焼き、悪逆の限りを尽くした彼の父親は酒で眠らされた所を須佐之男命に殺された。
神を恨んでもおかしくない所だが巌は別段恨んでおらず、ひょうひょうとしている。
適当に自己紹介を終わらせ着席し、隣の淡い赤色の髪の幼女さとりが立ち上がる。
「私の名前は古明地さとりです。種族は覚妖怪です」
深く語らなくても彼女の噂は全妖怪に行き届いているので軽く終わらせ、着席する。
すると、隣の男は面倒くさそうに立ち上がる。
「あぁ...俺の名は......
病的なまでに白い髪に白い肌。目元には白い肌のせいでより濃く見える黒い隈。
眠そうな表情の彼はどこかいやいやそうである。そうなのだが彼の種族は驚くべき事だった。
ダイダラボッチとは本来巨人であり、詳しい事は不明だが山や川などを司る自然の神が派生したとされ、草木があれば永遠に生きている存在だ。
しかし、人間は発展のために木々を草木を刈り取っていくので、永遠に死んでいるともとれる。不気味さで言えばトップクラスの妖怪である。
「どこかであった?」
「いや、初めてだよ」
どこか既視感を覚える彼にそっけない返答をされたオーフィスは首をかしげながら黙る。
溜め息を吐きながら着席すると隣の少女は慌てて立ち上がる。
「なんか、場違い感がすごいですけど...ニトリです。一応河童です、はい」
額に汗を浮かべながら自分が何故ここにいるのか理解出来ずあたふたしている。
せっせとすませ、すぐに椅子に座りガクガク震える。それを見た隣の妖怪は肩に手を乗せて落ち着かせようとする。
が、それは逆効果でだんだん顔が髪色の青よりも酷く真っ青になっていく。
「すまんな」
男の声の主は申し訳そうにあやまり立ち上がる。
「俺の名はエクエス。種族は訳あって言えない」
顔と全身を布で覆う男らしき妖怪は宣言する。
その布の隙間からは銀色の何かが見え隠れしている。先程ニトリの肩に手を当てた時に、ガチャガチャと音をしたことを考えると、鎧の可能性が高く日本妖怪ではない?と推理する。
「彼は私からその身を保証している。種族は私が知っているので疑わなくていい」
「ほんまかい?なんや怪しいな」
胸元が大胆にはだけているオーフィスより小さい幼女は聞き返す。
「納得してくれ。彼には軒並みならない事情がある」
「...まぁええよ。いつか聞かせてもらうだけやさかい」
エクエスの着席とか共におはだけ幼女は立ち上がる。
「うちの名はないねん。他の子からは酒呑童子なんて呼ばれてます。種族はもちろん鬼やさかいよろしゅう」
額から生えている空へ湾曲している角を撫でながら語る。
日本三大悪妖怪と名高く、全鬼の頭をしている戦力でいえばトップクラスの妖怪である。
服などほぼ来ておらず羽織るだけで、大事な二箇所を黒い水着もどきで隠している。
笑みにはどこか妖艶さがあり、手に持っている大きな赤い椀からは酒の匂いが漂っている。
不気味な笑みを浮かべながら座り、最後の者の番になる。
着慣れない和服に悪戦苦闘しながら立ち上がる。
「我の名はアン・オーフィス。呼び方は好きでいい。無限の龍神それが我」
全八人の自己紹介が終わる頃にはそれぞれが別々の思いを心に浮かべていた。