友達に黒歴史が見つかった時は何してやろうかと思いました。
会議の日から数ヶ月経ち、季節は太陽の光がサンサンと降り注ぐ夏へと変わっていた。
気温は推定三十七度。あまりの猛暑に妖怪達の中でも夏バテするものが多い。冬に活躍する雪女などの冷気系統の妖怪の周りには、こぞって妖怪達が集まり冷気を味わっている。
その猛暑はもちろんオーフィスにもダメージを与えていて
「暑い」
小さく呟いた声は洞窟のような今いる空間に反響し遠くにいた白髪の少年の耳に届く。
「全くだ。最近の夏は余計酷くなった」
「異常」
「だな」
汗ばんだ前髪を掻きあげ綺麗で鮮やかな緋色の瞳は季節を恨むように地球を睨む。
羽織っている白い服以外はほぼ何も着ておらず、黒色の下着がもろ見えているのだがオーフィスの精神は男なので特に気にしない。
しかし、この空間の支配者は別でありそちらの幼女は顔を真っ赤にして声を荒らげる。
「ズボンを履いてください!うぅぅ、恥ずかしくないんですか!!」
「いや全く」
「オーフィス様やこいしに悪影響が出るのでしっかりと着てください!!」
「だったら後ろのやつどうにかしろよ」
背後を指さし指摘され振り向くと、産まれたままのあられもない姿を見せている人形のような幼女がいる。
こんな暑いのにゴスロリ服なんか着てられるかよ。流石に死ぬわ。
ゴスロリ服という事もあってカラーリングがほぼ黒。黒は太陽の光を吸い余計に暑くするので着たくないのが心情だ。
それでも外を裸で歩くほどモラルがない訳ではなく、さとり達の住む地霊殿の中では脱いでいるだけである。
心を読んでしまう彼女の能力は他の妖怪から忌み嫌われ、地上から追放されて地底のさらに奥底旧都に住み、その中でもひときわ大きい西洋の城『地霊殿』にさとりは姉妹とペット達と仲良く暮らしている。
ちなみに、ニトリと協力開発したコンタクトレンズによって覚能力は封印してある。それでもニート体質は抜けなかったみたいだ。
「裸族しかいないのですか!」
「なら服プリーズ。薄いのがいい」
「分かりました少し待っていてください」
駆け足気味に部屋を飛び出し自室へと服を取りに行く。
「なんだかんや言いながらあいつ俺らの面倒見てるよな」
「さとり良い奴。もちろん森も」
「そうかい」
二人の間にはあまり会話は無い。と言うより、ダイダラボッチの方が避けている節がある。
「我のこと嫌い?」
「いや別に...何でそんなことを」
「我友少ない。だから数少ない友を大切にしたい」
「友?俺がか?」
「もちろん」
出来うる限りの笑みを浮かべる。実際は頬がかすかに上ずり、不気味な笑みを浮かべている。
思ってもしない言葉に照れ顔を俯かせる。
軽いギャルゲーの主人公ばりの手口に驚くも、これを天然でやっているのだからオーフィスは恐ろしい。
数秒で心を落ち着かせ、頭を横に振ってから持っていた日記を差し出す。
「ならお礼だ。これでも読みな、なかなか面白いぞ」
「ありがとう」
「それと声に出して読んだ方がいいな」
「分かった」
渡されたのはピンク一色の手日記。
表紙には丸っこい字で日記と書かれている。名前は見つからず誰の物かまでは分からない。
とりあえず一ページ目を読むか。する事ないし
正体不明の表紙を開くと、中には表紙と同じ字で書かれていた数行の詩がある。世間一般で言うところのポエム?らしきものだ。
「こいしはどうしていも」
「イヤァァァァァァァアアア!!」
まだ冒頭の数文字しか読んでいないのだが、絶叫上げながら涙目でさとりが突撃してくる。
ドアは急に開かれドン!と大きな音を立て、地霊殿中に響き渡る。
「な、な、なんでそれを持ってるんですかぁ!」
「森に読めば?ってもらった」
「いつの間に!」
「こういうのは読まないと意味無いだろ?だから渡した。しかし、いい詩だったぞ。まさか妹にそんな」
「ヤメテェェェェェェェェェエエエエアエ!!」
著作さとりの日記は妹への思いをなぶり書きしたものであり、あまりの出来栄えに最初は毎晩寝る前に読んでいたのだが、ある程度成長した今では黒歴史となり完璧に封印したはずだった。
自室の机の引き出しの二段底にあるメモに書かれた暗号を解き、地霊殿でも立ち入り禁止とされる部屋に置かれた金庫を手に入れたパスワードで開け、そこから部屋に戻り本棚の赤い本を傾け隠し部屋に入り、金庫にあった魔術を起動させ取り出せる、何重にも予防線を重ね掛けし誰にも見られないようにしたもののはずなのだ。
だったのだが森は暇つぶしですべてを解除。そして、手に入れた日記(笑)を愛読していた。
とんでも事件に本日二度目の絶叫は確実に地霊殿中に響き渡り、遠くにいた妹こいしを引き寄せ慌てて弁明する事になる。
どうにか言いくるめことなきを得て安心したのだが、残念な事にその後さらに精神を痛めつける攻撃を受ける。
渡した服のサイズが胸の部分だけ狭く裂けてしまい、それを見て自身の胸を抑え「胸なんて飾り。将来的には垂れるからいらない...そう悔しくなんかない。胸はいらない」呪詛のように呟いたりしていた。
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妖怪達には楽しく安心した日々が訪れていたが、唐突にそれを終わらせるべく死神が訪れようとしていた。
「きたでおじゃるな!」
「はい。ここに参りました」
ドンと居座り、紺色の和服をはおり手には笏があり、両膝を突いて跪く青年に言葉を投げかける。
その声はどこか震えていて恐怖していた。
本来天皇に謁見できる者は少なく、十五そこらの青年ではまず無理なのだが、彼は特別で今回のみ謁見を許されている。
「妖怪共は力をつけたでおじゃる、はやくはやく殺せ!」
「しかし、我らも」
「反抗する気か?私の命令は絶対ぞよ!」
「了解しました」
青年の着ている戦闘に邪魔だとかなり改造した正装は、袖がなく足も膝までしか裾が届いていない。
この時代ではまずありえない格好だが、彼は型に囚われる人間ではない。
隣で跪いていた銀髪の少女の肩を叩いて立ち上がり、部屋を後にする。
後ろで天皇が何か言っていたようだったが、いちいち聞いていられないと急ぎ足で離れる。
「よかったのですか?」
かなり離れ近くに人影がなくなったところで言葉をかける。
少女の見た目は髪通り日本人離れしていて、髪の銀と違う金の瞳を麗せ、見上げるように顔を覗いてくる。
ピンと張った眉毛など、容姿端麗の言葉が似合う彼女に覗かれた男はどう考えても思考が停止してまうのだろうが、覗かれている張本人は何食わぬ顔で言葉を返す。
「数ヶ月前のアレを知っているだろ?どう考えても、蘆屋道満戦で疲弊した今じゃまともに戦えそうにないからね。いますぐ準備を始めなければ。なのに、いちいち小言を聞いてる場合じゃないよ」
数ヶ月前のとは、オーフィスが奇跡的に使えた魔力で山を殴った時である。力加減をしていなかったせいで、京都より遠く離れ蘆屋道満討伐作戦をしていた彼の元に余波が届き、やっとこさ討伐したと思いきや戻ってこいと言われ京都へ急ぎ帰還した。
少女もですねと呟き、大量の呪符の用意をしなければと一人先に家へ戻っていく。
後ろ姿を見守り今度は転ばなかったと安心した所で木の手すりに腰を下ろし、日が登っているのに見えている月を見上げる。
「さて、アレを引き起こしたのはどんな化け物なのかな?勝てるといいけど...」
青年は不安げに呟き、泣き言はここまでだと両頬を叩いて自分も自宅へと戻る。
彼の名は安倍晴明。この時代、後の時代でも、無限と唯一対等に戦えた人類であり人類の最高到達点とも呼べる存在。
妖怪の天敵陰陽師を指揮する最近の人間が未だ姿かたちもわからないオーフィスを標的に見据えていた。