両者の間の空気は凍りついている。
殺気と殺気のぶつかり合い。それが、二人の怪物で起こされた物だと理解している者達は互いに相手を規格外だと理解する。
そんな中片膝をついて傷口を抑えている椛が申し訳なさそうに見上げる。
「オーフィス様に巌様にエクエス様...私は」
「いい。早く戻って治療」
「はい...ご武運を」
舞い上がる落ち葉の旋風に包まれ一瞬で姿を掻き消し、風は山の頂上へ向かう。
その光景をただ黙って見ていた清明に周りの陰陽師達は何故?と視線を注ぐ。それも仕方がない。シエルを除いた陰陽師達は実力差に気づけてすらいないのだから。
─どうする...どうする...アレに勝てない。勝てるはずがない。いっその事逃げ
撤退をしようかと考えついた直後、顔の横を何かが飛ぶ。耳元には金属の擦れる音が通り続ける。
「なぜ貴様が生きている!!エクエスゥゥゥゥ!!」
それは狂気に復讐鬼に染まったシエルの一撃だった。
振るう剣は関節部のような物が見え、そこを起点に生き物のようにうねり通常ではありえない軌道で命を狙う。武器の名を【蛇腹剣】とし、シエルの昔から使用している剣だ。
狙いはオーフィスでも巌でも無く、布をかぶっている謎の妖怪だ。
突如としてうねりを上げる【蛇腹剣】に反応が遅れ、後に飛び退くが剣が布を引き裂く。
「しまっ」
「ウァァォォォォォォォ!!」
追撃。二撃目の【蛇腹剣】が唸る。
布を引き裂かれ動揺し、その鈍い銀色に輝く鎧に火花を散らす。
鎧に傷をつけ続けている【蛇腹剣】を横から殴りつけ離すと、忌々しげにシエルを睨む。
だが、そこに目はない。いや、頭が本来あるべき所にない。
脇に抱えられた兜。兜の隙間から赤い二つの鋭い眼光が睨みつけている。
首があるべき所にあるのはひたすらな黒。鎧は一部銀色もあるが大体の部分が薄汚れ鈍く輝いている。
【デュラハン】それがエクエスの正体である。
首なし騎士。死を告げ執行する死神のような存在。
宣告から逃れるには【デュラハン】の馬が水の上を走れないので水に逃げるか、撃退するかの二つしかない。
エクエスは馬に跨っておらず、死の宣告から逃れるには撃退する他にない。
鎧の傷口をいたわるように撫でる。
「なぜ貴様が生きているだっか小娘...それは私も同じだ。本当に貴様はしぶといな」
「あがぁぁぁぁ゛あああ゛!!」
「理性すら飛んだか」
シエルはそれこそ獣のように無差別に剣を走らせる。言語はすでに消滅。あるのは殺意のみ。
憎悪に染まった雄叫びを上げながらエクエスに切りかかる。
地を這うように進み、突如として上へはね上げ心臓一点を狙う。
「甘いぞ。貴様の剣戟を忘れた事などない!」
頭を上空へ投げ捨て剣を両手持ちにして、頭上高く剣をあげ叩き下ろす。
真正面から衝突する寸前、シエルは腕を思いっきり引き【蛇腹剣】の関節部を連結させ無くす。
一本の硬い剣へとモードを変え刃渡り一mほどの剣を使い今度は近接戦を行う。
剣先を向けシエルの顔の横から高速で突きを繰り出す。霊力の込められたそれは、一突きで大木を大破することが出来る。
「その攻撃も見飽きた。一体いつの再現をするきだ?小娘!」
振り下ろし地面に突き刺さっている剣を離す。剣は重力に従い地面へ横たわり、その重さから多少の砂埃をあげる。
「憤ッッ!」
左手の平に妖力を集中させる。
圧縮に圧縮を重ね、第二第三の鎧を着込んだ以上の防御力を得る。高い防御力は言い換えれば高い攻撃力でもある。
突き出される剣先に左の手の平をお返しと言わんばかりに突き出す。
矛と盾。その勝敗は矛の敗北だった。
防御力に阻まれ衝撃をモロに受けてしまい後方へ吹き飛ばされる。一回転二回転......地面を何回も転がりながら清明の元まで戻る。
「シエル、ダメだ今は逃げ」
「アイツは両親の敵だ!止めるなんて出来ないィィィィ!!」
いくら静止を呼びかけても止まらない。その理由は昔に聞いていた。
両親を殺し兄を殺し日常を殺した天災の【デュラハン】ことエクエス。最後に崖まで追い込みその心臓を穿ったと。そう聞き復讐の連鎖から解き放たれていたと思っていたが違った。
今一度平然とした表情でいるエクエスに理性が吹き飛び、狂戦士のような理性の理の字もない滅茶苦茶な戦闘を繰り返している。
【デュラハン】に切りかかるシエルの後ろ姿を見た陰陽師達は口々に叫ぶ。
「私達も援護だ!!」
「ばっ」
─ダメだ。もう彼らは言うことを聞かない...戦闘を避けられない!!
まずい。まずい。まずい。今戦えば確実にあの化け物に滅ぼされてしまう。その未来しか見えない。
他の陰陽師達は【呪符】を使い攻撃を始めている。
「やっと俺の出番か!いいぜ、ぶち殺してやるよォォ!!」
確かに
二十人合わせどうにか清明の足元に届いているレベル。それでも現在だとトップクラス。
その彼らの霊力の込められた多彩な攻撃は巌の皮膚に傷をつける事は出来ない。逆にカウンターを受けピンチになっている。
「だーくそ!こそこそと、もっと大技でこいや!!」
すぐに彼らが負け戦況がひっくり返ってもおかしくないが、コンビネーションを駆使し攻撃を回避している。
圧倒的な攻撃力も当たらなければどうということはない。
二十人の陰陽師が巌を抑え、狂戦士シエルがエクエスを抑える。今はこの均衡が築かれている。
だが、一度目の前の
やるしかない。そう判断し【呪符】を二十枚取り出す。
「我が身は加速する。急急如律令」
左右に十枚ずつ分け、しゃがんで両足に添える。
すると、溶けるように【呪符】が消えていき、すべて消えると足全体に細い緑色の線が走る。
革靴が地面を蹴り抜く。
地面にはクレーターが生まれ、その速度を知覚できた物はオーフィスの他にいない。
「付き合ってもらうよ」
「分かった」
防御の構えはせず手を垂直にぶら下げる。
すまし顔の幼女に清明は体当りして一緒に一つ隣の山まで飛んでいく。