そして、なんとあの人外も.....
二人の怪物の決着が着いた中、最初の戦闘現場では未だに続いていた。
「ふッッ!」
「あ゛あ゛ぁぁぁぁッ」
一体何度目だろうか攻撃を当て吹き飛ばしたのは。
─異常だ。なんだあの耐久力は、まるで雲を斬ってる気分だ。
エクエスの放つ斬撃は回避の疑い一つないほどにシエルに放てている。人間であれば上半身と下半身のお別れコースだ。
なのに、いくら斬っても斬っても平然と立ち上がり、
力も人間のソレとは大きくかけ離れていて鎧の凹凸が徐々に目立ち始めている。あと、一時間以上繰り返せば粉砕は必至。
「巌こっちを手伝え!」
「無茶言うな!こちとら─あっぁうぜぇっなオラ!」
横目で見ると防御担当の十五人に攻撃を阻まれ、残る五人にちまちまとダメージを負わされているのが分かる。
そのせいでイライラしているのか、声を荒らげて突撃している。
(こっちはこっちでやるしかないのか)
さてどうしようかと考える間もなく連結した【蛇腹剣】が横薙に払らわれる。
「それは、フェイントです。本命は蛇腹剣で身体を拘束してきます!」
背後の木影から放たれた可愛らしい成長しきっていない幼女の声に反応し、剣を避けるのではなく地面へ肘落としを行う。
【蛇腹剣】にしようと関節を緩めていたので、カランっと金属音がなりバラバラに地面に横たわる。
これで、当分の間【蛇腹剣】を使うことは出来なくなった。
武器を失い攻撃手段が無くなったただの人間に、エクエスの渾身の蹴りが突き刺さる。
「がはっ─」
蹴られた衝撃は凄まじく口からは血潮が飛ぶ。
妖怪の筋力に任せた蹴りは少女の陰陽術で強めた防御を破り骨をたやすく粉砕した。
地面を数回バウンドしてから、大回転を繰り返し太い大木にぶつかる。大木は少女が当たった事によって根元から折れる。
「助かったさとり」
「よかったです。にしてもまだ片付いていなかったんですね」
桃色の服に身を包んでいるさとりはやれやれと言いたげな表情で姿を晒す。
先程の背後からのアドバイスは、心を読む事ができるさとりだからこそである。
「にしてもなぜ出てきた?戦闘は苦手だろうに」
「緊急事態なので、私がいつまでも籠っている訳にもいかなくなりました」
「何があった」
はいと一呼吸置いてから要点をまとめて説明する。
「陰陽師以外にも敵が現れました。発生原因、発生理由は一切不明で分かっているのは魔獣である事と、私達妖怪を捕食することです。
被害数はすでにかなり大きくなり、確認が取れなくなったのは百に及ぶと」
「そちら側だけで安全が取れなくなったから、私達に援軍を頼みに来たのか」
「はい全くその通りです」
エクエスはかなり脳筋の節があるがそれでも巌ほどバカではなく、ある程度頭の回転は早い。
さとりの簡潔な説明でもその危険性を理解して空から降ってきた頭をキャッチして唸る。
初めて対面した時から心を読んで正体を知っていたさとりは腰を抜かすほど驚かないが、知っていても改めて生で見ると多少は驚いてしまう。
「おい!そこイチャつくな!こっちに援護よこせよ」
二人が見つめ合いまるで時が止まったように動かなくなった事に、痺れを切らし戦闘の最中に怒鳴る。
そうかと頭を脇に抱え──ずに上空へ投擲する。
「気づかないと思ったか小娘!」
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
ひっそり気づかれないように連結させた【蛇腹剣】で突きを穿つ。
不意をついたであろう一撃も、警戒を一切怠っていなかったエクエスには不意打ちにならない。
切っ先に集中した霊力に対し、同じく剣先に妖力を集中させ衝突させようと前へ突き出す─その刹那四人に悪寒が走る。
「きしししし、素晴らしい...いい餌がこんなに転がっている」
ボロボロのいかにも貧困と言った服装の小さな少年はその場にいる、全員に向けて言葉を言い放つ。
年齢は六歳そこらだろうか。まだ自意識は産まれておらず、欲望に忠実なはずだ。しかし、目の前の子供は異様だった。
二本の足で地面をしっかりと掴み背筋が曲がっていない。顔には不気味で不適な笑みがあり、笑い方がかなり特徴的だ。
その笑い方を覚えていたシエルは恐怖しながら言葉を零す。
「蘆屋...ど...う......満」
「きしししし!大正解。褒美だワシの嫁にしてやろう」
冗談を言った父親のように声のトーンを何段階も上げて声を出す。
両手を広げさぁ!と思わす行動をとる。
「誰がお前なんかに」
「そうかそれは残念だ...ワシ悲しくてこの国沈めちゃいそう」
現れたのは十mは離れていた位置のはずだ。なのに、今一歩歩いただけで背後にテレポートしたようにさも当然のようにいる。
身の毛がよだつとはこの事なのだと初めて理解した。背後に立つ負に向くことが出来ない。向けば精神が壊れるそう感じている。
それは宿敵も同じようで石のように身体全身が固まっている。
「三食昼寝付きの夜伽ていどぞ?」
「嫌だ」
「むっ、ワシ初めて振られてしもうた。清明とは熱く拳を交えたのに...ショックじゃ」
ベラベラと陽気に一方的に喋り続ける。
弱い犬ほどよく吠えるなどと言うが、絶対的な強者は会話すらも楽しむ。強い犬ほどよく喋るだろうか。
ルンルン。スキップ気味にシエルの周りを一周して顔を近くでマジマジと見つめる。
「いやーやはり好きじゃなロシア顔。もう一度告白すれば答えは変わるかのう?...手土産に清明の首でも差し出せば」
「ゲスが」
「きししししし!!その顔、ワシを軽蔑するその表情が何ともいい!もっとだ、もっとワシに」
「シエルさんから離れろクソガキ!」
遠くにいた陰陽師達はシエルの先程の呟きは聞こえておらず、体感でいうならば変態幼児がシエルさんにちょっかいをかけているように見える。
せっかくのお楽しみの時を奪われた道満は身体を動かさずに、首を九十度回転させゴミを見据える。
「ひ、ふ、み...二十か。大して腹は膨れんだろうが、まぁよい。食していいぞ可愛い可愛い我が子よ」
「なに─」
陰陽師達の言葉が続く事は未来永劫ありえなくなった。
地面から伸びる、狐の尻尾、凹凸のない長く尖った角、ゴツゴツした鬼の腕......二十に及ぶ他種族の攻撃が陰陽師達二十人に突き刺さる。
そして、刺さったその場から一瞬で水分を奪われたように干からびていく。
まるで蚊を殺すようにあっけなく、簡単に人の命が散る。
「どうじゃ、美味しかったかのぅ?」
虚空へ声をかける。その声に答えるように虚空はヒビ割れそこから、幾千もの繋ぎ目が身体に走っている化け物が現れた。
人形ではあるが全容は優に二mは超え三mはある。その上顔はグチャグチャに潰れていて一体何なのか理解が及ばない。
その正体を知る由もない三人は不気味な嫌悪感に身体を震わせる。
「おえっ...ぁぁ......うぉぇ」
ただ一人、心を読む事の出来る彼女だけはその正体を視てしまう。
繋ぎ目でくっつけられているのは生きている妖怪達であり、種族も年齢も全部バラバラ。中には隣山で見た事のある妖怪もいる。
だが、一貫して全員が同じ言葉を訴える。
⦅死にたくないよ、助けて助けて...殺してくれ早く楽に⦆
臓器は外され皮膚としてしか活用されていないのに関わらず、そこに何故か意識が宿り死んですらいない。
内蔵の方からも同じような声が聞こえ、目の前の怪物は全てが妖怪達のパーツの詰め合わせあるのだと考えつく。
と、なると何故ここにそんな物が来たのか...そんな事語られなくても分かる。自分達も同じようにパーツとして組み込むのだと。
余計に吐き気が上がってくる。
無限を見た時よりもおぞましく気持ち悪い。目すらも合わせることが出来ない。
死にたくなる。
「どうやら、本質を見抜いたようじゃな!きししししし、いいのぅお主のそのパーツ...欲しいなぁァァ」
顔を歪めてさとり物のように見た目ながら言葉を吐きかける。